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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第2章 迷宮決戦篇

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第62話 迷宮決戦②ー壌土王の日記ー


【ディン視点】


 迷宮の中で見つけた広大な図書室。

 そこで埃をかぶっていた本の中身は、ページこそ傷んでいたが、文字はなんとか読み取れた。


『¢£月<<日

 エーギル海戦から、早いものでもう一ヶ月が経過した。自国の被害は最小限に抑えられていたので、復興も順調に進みつつある。

 それもこれも、イェンのおかげだろう。戦場での活躍から、事後処理まで。

 数年前までは泣き虫だった少年が、こうも立派な青年に成長するとは誰が想像できた事だろうか。

 早く彼が即位するのを見たい。

 彼を見ていたら、私も何かせねばと思えてきたので、まずはこうして記録を残す事にした』


『〒日

 あれから二日経った。

 色々と立て込んでいたので、日記も日が空いてしまった。

 日記?……まあ日記か。魔術の事などは別の本に記すことにしたしな。

 これは正式に私の日記帳としよう』


『復興はなんとか終わった。戦争の被害を受けた建物の再建を殆ど私に丸投げしてきたのには少々驚いたが、適材適所だろうし、まあ良いとしよう。

 今度イェンに酒でも奢らせればいい』


『復興が終わってやることがなくなったので、イェンのツテを使って、王宮で魔術を教える事にした。

 なかなか筋の良い者は現れないが、人に何かを教えるのは新鮮で面白い。魔導書の作成にも役立ちそうだ』


『最近、王宮の廊下で魔族の女と頻繁にすれ違う。

 黒髪、魔族らしからぬ白い肌と、赤い瞳、そして額に小さなツノがある種族……たしか魔大陸南東部にそんな特徴を持つ民族がいた気がする。

 どうして薄汚い魔族が王宮を我が者顔で歩いているのだろうか』


 日記はそこから日が少し飛んでいた。

 

『最近王宮をうろついている魔族はどうやら、エーギル海戦でイェンに次ぐ武功を挙げたと言われていた、今代の冥助王(バアル•ゼブル)らしい。

 聞いた話では、一人で五万ほどの兵を葬り、その中には最大の敵とも言えた水煙王(リヴァイアサン)も居たとか。

 どうりで誰も彼女に文句を言えないわけだ。

 だが、そもそもどうして魔族がエーギル海戦に参戦していたのだろう。

 元々はミーミルとヘルイムの戦争じゃないか。

 イェンは私達だけでは不満だったのだろうか……』


『ヘルイム王国との和平協定は締結されたが、今度はヴェイリル王国やムスペル王国と戦争になりそうだ。

 以前から関係は良好ではなかったが、軍事大国であるヘルイム王国から圧倒的な勝利を勝ち取ったせいで、隣国も見過ごせなくなってきたのだろう。

 これは良い流れなのだろうか。イェンはどう思っているのだろうか。

 久しぶりに会って話したい』


『不味いことになった。

 英樹教の教皇が、隣国との戦争に乗じて魔大陸に侵攻しようとしているらしい。 

 あくまで王宮で立っていた噂でしかないが、もし本当ならば、この国が揺らぎかねない。

 いかに英雄扱いの私でも、所詮今の立場は宮廷魔術師に過ぎない。

 どうにかして止める手立てはないのだろうか。

 イェンの即位も近づいている。忙しい時期に邪魔をする訳にはいかない……

 私はどうすれば……』


『イェンに呼び出された。

 顔を合わせるのは久しぶりなので、なんだかとても緊張する。

 明日が楽しみだ』


『今日はイェンと会ってきた。

 久しぶりに会った彼は、以前より少しやつれて見えた。まあ、忙しいから仕方がないのだろう。

 あと改めて、イェンに魔族の女を紹介された。 

 以前から気になっていた、王宮をうろついついていた女だ。

 名前はクロユリだそうだ。

 イェンはクロユリと、ある物を作っているらしい。完成したら見せてくれるそうだ。


 クロユリと話しているイェンは何だかとても明るく、楽しそうだった。

 なんなんだ。イェンがクロユリに向けるあの眼差しは。あれじゃまるで……』


『いつもと同じように、王宮の庭で魔術の指導を行っていたら、クロユリが会いに来た。

 昨日はイェンがいたせいでわからなかったが、この女の魔力、全身を針で刺されてるような気分になる程の禍々しさがある……

 だが、なんというか、当の本人はそれとは反対に、とても明るい人物だった。

 流暢な言葉で改めて、仲良くしてほしいと言われた。

 反射的に「勿論だ」と答えてしまったが、とても複雑な気分だ。

 私は今日、恋敵である魔族と友人になった』


『今日もクロユリが会いにきた。

 私が魔術を指導している様子を一日中眺めていた。

 こんなもの見て何が楽しいのかと尋ねたら、「私も教わりたい」なんて言ってきた。

 当代の冥助王がだ。

 少し意地悪のつもりで、私に手合わせで勝ったら教えると言ったら。

 喜んでそれに賛同していた。

 どうやら勝てると思っているらしい。私も壌土王(ベヒモス)の称号持ちなのだがな。舐められたものだ』


『クロユリに負けた。

 完敗だった。

 負けてすぐ、私はその場から逃げ出してしまった。

 情けない。一旦気持ちを整理しよう』


『昨日クロユリと手合わせした時のことを、しっかりと書き残しておこう。


 勝負が始まってすぐ、私は土人形(ゴーレム)を出して手数による圧倒を試みた。しかし、通じなかった。決着は一瞬だった。

 呪詛魔法は所詮、トラップやバフ•デバフしかできない。あとは無詠唱による上級魔術だけ警戒していればいい。そう思い込んで戦術を組み立てていた時点で負けだった。

 

 勝負が始まってすぐ、私は作った土人形(ゴーレム)を前衛として陣形を組み、彼女に攻撃を仕掛けようとした。

 しかし彼女は〝結界魔術〟を詠唱短縮で発動し、土人形(ゴーレム)をすっぽりと閉じ込めた。

 ただの結界なら、私の土人形(ゴーレム)は容易に破れたが、驚くことに、結界内の土人形(ゴーレム)はみるみる内に自由を奪われ、最後はカチコチに凍ってしまった。

 氷の魔術? 

 意味がわからない。彼女は呪詛魔法使いではないのか?

 考えても頭が混乱するだけだ。こんなこと書いてないで、早く飲みにいこう』


『二日酔いから解放されたので、彼女に謝罪しに行った。

「こちらこそ、無理を言ってごめんなさい」と返された。

 つくづく自分の器の小ささが恥ずかしくなる。イェンもこの人を選ぶわけだ。

 どうせ私なんかダメなんだ』


『今日は罪滅ぼしの意味も込めて、クロユリと魔術の教え合いをした。

 私は彼女に上級魔術や土人形(ゴーレム)の仕組みを教えた。


 あと、先日使っていた氷の魔術のことを彼女に聞いた。

 驚いたことに、先日使っていた氷の魔術は、結界と呪詛の混合魔術らしい。 

 その仕組みは複雑で、結界に三つの呪詛魔法を付与するというものだった。


1、結界を張る

2、鈍化の呪詛を結界内に範囲指定して付与する。

3、耐火の加護を結界自体に付与する。

4、強化の加護を、2.3に付与する。


 これは私も知らなかったのだが、強化の加護は人だけではなく、〝魔法自体〟にも付与できるらしい。

 例えば、火の初級魔術に強化の付与を施せば、威力は跳ね上がる。というものだ。

 凄いことだ、実力以上の威力を出せてしまうのだから。

 

 話を戻そう、鈍化を結界に付与すれば、結界内の対象の動きが鈍るのは分かる。

 だが、強化した耐火の加護を結界に付与するというのが、イマイチ理解できなかった。


 一応書いておくが彼女曰く、耐火の加護は対象の周囲から熱を奪う加護なので、それを極限まで強化して、結界内の熱を全て奪うことによって、対象を凍らせているらしい。

 生物なら確実に殺せるとのことだ。


 彼女は上級魔術が使えないが、結界魔術と合わせることで、広範囲への干渉を可能としている。

 緻密な操作と、長々しい詠唱が必要な結界魔術も、〝閉じ込める〟性能を排除する事によって、詠唱を短縮しているらしい。

 まあ、鈍化の呪詛が付与された結界を出ることなんて、まず不可能だしな。

 もはや工夫の域を逸脱している。彼女は天才だ。

 呪詛魔法は〝この世界に直接干渉出来る魔術〟と言えよう』


 最後の一文は、筆跡の新しさ的に、後から書き足されたものだとわかった。


『クロユリから、イェンと一緒に作っているもののことを聞いた。

 どうやら、新しい加護魔法を作っているらしい、詳細は長かったので、また後日書くとしよう』


『大事件だ。

 国会でイェンが魔大陸との和平、国教の経典の改訂を訴えた。

 理由は明確だ。

 しかし、問題はそこではない、教皇との衝突だ。隣国との関係が悪化しているこの状況で、国内で戦争でも起きてみろ、それこそ破滅だ。

 先の大戦の英雄であり、国王でもあるイェンと、国王と並んで大きな力を持つ教皇がぶつかれば……

 民衆の批判も大きいだろうな。


 私はクロユリと実際に関わっているから、魔族は経典に書かれているような恐ろしい民族ではないのを知っている。

 だが、魔族と接する機会を持たない民衆達を、イェンはどう説得するつもりなのだろうか。

 幼少期から刷り込まれた先入観というものは、容易に取り払えるものではなかろう』


『クロユリから、イェンが憔悴してしまっていると聞いた。

 あれだけ動き回っていれば無理もないだろう。

 心配なのもそうだが、どうしてイェンは私には話してくれなかったのだろう。

 クロユリは知っているのに……』


『教皇派の者に呼び出された。

 国王が歪んだのはクロユリのせいであるから、その元凶を断てって欲しいと頼まれた。

 そうすれば、近々起こるであろう教皇派とイェン派の衝突が早期に決着し、王の調子も戻るだろうと。

 その場ではお茶を濁したが、私はどうすれば……いや、何を迷う。

 クロユリは友達だ。殺すなんてあり得ない。そもそも、私なんかじゃ敵わない』


『中々寝付けなかったので、王宮の庭を散歩していたら、イェンとクロユリを見つけた。

 薄暗い庭で二人は……


 もう嫌だ。

 書きたくもない』


 日記はここからしばらく途切れていた。

 次に書き込みがあるところまで、ペラペラとページをめくった。


『戦争が始まった。私はクロユリと共に出陣する事になった』


前回のおまけ小説、好評だったらまたやりたいです

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