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第61話 迷宮決戦①ー対敵ー


【リディアン視点】


 やられた……

 押し寄せた人混みの中に刺客がいるか、人混みを揺動として、外部から攻撃してくると警戒したが……

 まさか転移魔法陣で強引に分断してくるとは……

 即席で作る魔法陣は、細かい設定ができないから、ある程度転移先がランダムになる性質を利用したのか……


 しかもこの迷宮、外部との情報が遮断されている。普通の迷宮にそんなプロテクトは施されていない。

 俺の知る限りではそんな地下施設はただ一つ……

 つまりここは〝エデン〟の下層だ。通りでセリがエデンに顔を出していたわけだ、決戦場の下見とはな……


「驚いたなリディアン•リニヤット。

 死んだと聞いていたが」


 ぽつりと自分が立たずんでいた広間に通じる廊下から、ゾロゾロと人影が現れる。

 

「これはこれは、丁寧なお出迎えどーも」


「貴様にする出迎えなどないがな」


 こちらへと歩いてくる声の主が、広間の壁に掛けてあった松明の灯に照らされて、真っ黒だったその顔を露わにする。

 高貴な服装と、金髪の目立つ中年男性……


「……その顔、マリン•フィノース•リニヤットかな?

 フィノース分家の当主が如何様で?」


 後ろに控えてる連中は、廊下が暗いせいではっきりとわからないが、5……7……全部で9人といったところだろう。全員の魔力がディン並みか、それ以上……

 メンツの良さにしては随分な人数だな。

 となると待ち伏せか?……全員にこの戦力をぶつけてる訳じゃあるまい。

 でもそれだとおかしいな。俺達はランダムで転移されているはずなのに、どうやってターゲットに担当の戦力をぶつけてるんだ?……


「私を知っているのか。

 なに、次期国王からテロリストを断罪しろと、命を受けたものでな!」

  

 そう言って、当主の男ーーマリンは笑みを浮かべる。全く、これじゃ悪者はどっちだか。もう少し優しい笑顔を作れないもんかね。


「ハハッ、随分な言いようだね。

 雇われ傭兵の言いなりになってる癖にさ」


 なんにせよ、相手の頭脳はセリだ……まだ何かあるだろうな。


「その雇われ傭兵の罠にハマった奴がよく言うものだな、リッシェ家の落ちこぼれが』


『お……これは一本とられたね〜」


 とりあえず、ディン達の位置は把握できた。相手の戦力の分配は、敵の魔力の強さ的に考えて俺6割、その他4人に1割ずつ、クロハは無視、ってところかな。


「それにしても、随分とお粗末な戦力分配じゃん。

 ロジーを高々3人程度で止められると思ってるの?

 もしルーデルとか連れてきてたら、どうするつもりだったのさ」

 

「ルーデル?……ああ、〝不死鳥〟のことか。

 くだらん、机上の空論だな。

 あの化け物がいたならいたで、どうとでもしただろう」


「へえ〜」


 クロハが無視されて戦力を当てられていないのは不幸中の幸いだが、いかんせん迷宮の中だ……

 トラップに当たりでもしたら危険だし、同じ階層にいるディンと早く合流してほしいな……

 ディン自身はまぁ、大丈夫かな。万が一の時は最優先で守るけど。


 王女はセコウと同じ階だけど……合流まで時間がかかるか? 


 ん?

 でもなんか変だな……セコウの近くに何かいる……ジャミングがかかってる辺り、セリか? 

 仮にセリだとするなら、どうして俺の方にいない……

 いや、それは今考えても仕方ない。とりあえずは王女の保護だ。


  ーー遠隔結界リモートバリアーー


 王女に向けて魔術を発動した瞬間、マリンの肩がピクリと動いた。


「いいのか?

 いかに〝隔世王〟や〝最強の魔術師〟などと呼ばれていようが、片手間で私達を相手取るなど……」


「それは、今にわかるんじゃないかな」


 どういうことだ?……

 どうして魔術を使ったことがバレた?……

 無詠唱の上級魔術だぞ? いかに魔力感知が洗練されていようとも、流石にこの距離での遠隔発動は分かるはずがない……


 となると、遺産の力か?

 あり得るな。フィノースは遺産の所持者を明かしていない。分家の当主が持ってる可能性だってあるか……

 いや、それ以前にどんな能力の遺産なんだ?……


「ハッ、そこまで言うならば、試してみようじゃないか」


 マリンが手を上げると、後ろに控えていた者達が広間の四方に散開する。


 一瞬にして取り囲まれた。

 

「随分とお上品な陣形だね。

 お紅茶でも飲みながら練習したのかい?」


「……」


 返事なし……どうやら俺はみんなジョークは嫌いらしい。

 ディンならすぐノってくれるというのに……


「寂しいな、誰も返事してくれないの?」


 そう言い終えた瞬間、俺を取り囲んでいた全員が、なんの前振りもなく戦闘の構えを取る。


「最後に言い残すことはあるか?

 リディアン•リニヤット」


 沈黙の中、ガラガラと剣を抜きながら当主の男ーーマリンが、突然口を開く。


「そうだなぁ……

 今日の晩飯はディンのカレーかな」


 戦いは静かに始まった。


ーーー

【セコウ視点】


 馬車に乗っていたはずが、突然どこかもわからない薄暗い空間に飛ばされた。

 景色が変わる少し前、外が少し騒がしかったが、それと何か関係があるのだろうか。


 しばらく辺りを歩いてみた感じ、ここは迷宮の廊下によく似ている。

 ますます状況がわからない……敵の攻撃によるものだろうか。だとするならば、近くに誰かーー


「!!!」


 背後に気配を感じ、咄嗟に距離を取る。


「おっとっと、さすがに気づかれちまったか」


 声のする方に顔を向けて目を凝らすと、そこには抜き身の剣を持ったガタイのいい中年の男がいた。

 服装は冒険者に近い、実用性重視の質素な雰囲気の装備だ。


「……あなたでしたか」


「お? 

 面識は無かったはずだが、俺のこと知ってんのか?」


「ええ……

 隊長から聞きましたよ。

 ここ数週間、ずっと……ずっとあなたに会いたかった」


「そうかい!

 まあ、アンタみたいな男前眼鏡にそんなこと言われても嬉しかぁねぇがな!」


 頭をボリボリとかきながら、男は大声で笑う。


 茶髪、ホリの深い顔、無駄に大きな声、無精髭、そして鍛え抜かれた巨体……


「あなただけは、私の手で斬りたかった」


「へぇ、言うじゃねえのよ。

 〝元〟フィノース家の落ちこぼれが」


 セリ……

 若き日の隊長や、あの〝死神〟に剣術を教えたとされる、伝説の傭兵団きっての古株。

 私が勝てるかどうか……

 

「まあよ、俺だってあんなことしたくなかったさ」


 少しの沈黙が私達を包んだあと、突然セリは、頬をポリポリとかきながらそう言った。


「リディのガードがあまりにも硬いからよ?

 こうするしかなかったんだよ」


「……内通者として使うために、彼女に奴隷紋を刻んで、昼夜拷問し続けるしかなかったと?」


 自分でも抑えているつもりなのに、無意識に拳に力がこもる。


「中々折れなかったもんでな。

 最後は目の前で親族やら友人を何人か殺してみせたら、ようやくさ」


「……よくもまあ、淡々と語れるな。

 人の心がないのか?」


 誰かに明確な敵意を抱いたことはない。

 でも今は、自分でも驚くほどに、こいつを殺したくてしょうがない。

 「恋は人を変える」なんて、どこかの詩人が臭いことを言っていたが、どうやら本当だったようだ。


「こっちは仕事なんでな。

 目的の為にも、依頼人の期待には応えねぇとよ」


「ッ……もう、いい」


「……そうか。じゃあ、やるしかねえな」


 セリはため息を吐きながら、よっこらせとでも言わんばかりに剣を肩に担いだ。


「!……

 その剣は……」


 見覚えのある剣だった。

 先端がフックのように曲がった、赤い刀身を持つ片刃の剣。

 それは数ヶ月前、王宮の宝物庫に搬入されていたものだ……

 長年紛失していた筈の宝剣が国の管理下に入り、巷では大きな話題となった……


「……気づくのが早え〜な」


「なっ、どうしてっ……

 国宝がそんなっ!」


 72柱魔剣の一振り、宝剣鸛之鉤爪(シャックス)……本来ならここにあるはずが無いものだ。


「企業秘密だ。それより、俺も中々予定が詰まってるもんでな。

 とっと始めさせてもらう……ぜっーー

おまけ小説『ある日のラトーナ』


(注意 微エロ•時系列は社交会よりほんの少し前です)


◇ ◆ ◇


「ねぇ、その……ディンって、どんなのが好みなの?」


 ディフォーゼ邸のディンの部屋にて、いつものように遊びに来ていたラトーナは、先程彼に紹介してもらった本をペラペラとめくりながら、そう尋ねた。


「『どんなの』……ですか?……」


 突然の問いに一瞬、女の好みを聞かれたのかと戸惑うディンだが、ラトーナの手元を見て我に変える。

 そうだ、先程ラトーナに魔物の本を紹介したのだったと。危なく女の趣味を口にして、ラトーナから辛辣な言葉の槍を受けるところだったと。


 最近の2人の仲は、祭りを通して以降とても良好なものであり、出会った頃のような棘のある態度を、ラトーナがディンに対してとることは無くなっていた。


 しかし、彼女は自身が持つ読心能力の影響もあってか、いわゆる「オブラートに包む」ことが出来ず、思ったことをすぐ口に出してしまう。

 ディンもそれは分かっているのだが、最近は彼のラトーナに対する思いが変化しつつあり、出来るだけ彼女に嫌われるようなことは避けているのだ。

 まあ砕いて言うならば〝気になるあの子に嫌われたくない〟と言うやつである。


「(魔物の)好みですか……」


「(女性の好み)うん……」


「やっぱ、大きいのが(かっこ)良いですかね〜」


「ッ……」


「どうしました?」


「……いえ!? な、なんでも!?……」


 ディンの予測は確かに正しかった。

 しかし、それはあくまで以前のラトーナを考察材料としたもの。


 たしかに、以前の彼女なら恋愛関連の話はしなかった。

 しかし!

 今のラトーナは違う。

 彼女は今、目の前のベッドに座っている少年、ディンに恋をしている。

 本来なら恥ずかしからと決してしない恋バナを、手元の本で顔を隠してまでしているのだ。

 

 当然、先ほどの質問は、ディンに女性の好みを尋ねたものなのだ。


「ッ……

 他にはどんなのが良いの?……」

(大きいのが好み……巨乳好きってこと!?)


 ここ最近、ラトーナがディンに対して行ったアピールは全て不発に終わっていたため、彼女はその反省を活かして、一度を相手を分析してみようと考えたのだ。

 ディンが何をすれば喜ぶか、どんな女性が好みかを、それがわかれば、より彼に近づけるのだと。


 しかし、返ってきた答えは〝巨乳〟。

 9歳のラトーナにとってそれは、自分に取り入れることができない要素だったのだ。


「うーん、他にですか……」

(随分熱心だな……そんなに魔物好きなのか?)


「な、なんでもいいのよ!?」


「やっぱ(力が)強い方が良いですよね」


「強いーーえ!?

 (性欲が)強い方!?」


 幼い頃から過激さを問わず恋愛小説を読み漁り、中身が二十代後半である少年の心を少し前まで毎日のように除いてた彼女の思考は、若干汚れていた。


「?……

 ええ、ラトーナもそうでしょ?」


「うぇっ……あっ、そ、その……」


「あっ、でも(動きが)活発なのは怖いから苦手ですね」


「(性格が)活発なのは苦手?……」


「はい、僕一度(魔物に)襲われてるんで、どうしてもそれと重なって……」


「(女性に)襲われたの!?!?!?」


「え、はい……

 言ってませんでしたっけ?」


「その、そいつは(襲ってきた女)はどうしたの!?」


「父様が一刀両断ですよ!」


「え……」


「流石ですよね」


「え……あ、うん……」

(え、殺したの?……確かに襲うのはダメだけどそこまで?? いや、ていうかディンの初めてが……)


「あ、でもガチガチよりはモフモフのほうが良いですね!」

(どっかの聖獣様みたいなのもいいな。

 いわゆるパト○ッシュ系?)


「ガチガチよりモフモフ!?」

(毛深い方がいいの!? 獣族ってこと!?)


「はい!

 ……ざっとまあ、こんなものですかね!

 どうですか?」


「……」

(巨乳で、性欲強くて、活発じゃない獣族……)


「あっ、でもドラゴンとかも好きですね」


「……え?」


「え?」


 その後、お互いの会話にすれ違いがあったことを知ったラトーナは、顔を真っ赤にしてしばらく黙り込んでしまったそうな……




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