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第56話 束の間の休息



「よお兄ちゃん!

 久しぶりだな!」


「セリさんじゃないですか!」


 俺の肩に手を乗せた男は、以前社交会の演奏で仲良くなったセリだった。

 相変わらずデカい。2メートルくらいあるんじゃないかな。


「どうしてここに?」


 社交会の襲撃では、無関係者として逃されたと聞いていたが、何事もなかったようで本当によかった。


「ちょっと仕事でな。

 まあ立ち話もなんだしよ、少しどうだ?

 酒でも奢るぜ?」


 クイっと、親指でバーの方を指しながら、セリは笑った。


「じゃあお言葉に甘えて」


 この旅が始まってから、知らない事ばかりで心細かったが、ここに来て知り合いと再会できたのはとても嬉しい。


ーーー


「いや〜、

 兄ちゃんが無事でよかったぜ、社交会の一件はお互い大変だったな!」


 そう言って、セリは笑いながら杯を傾けた。


「全くですよ。

 相手が弱かったからどうにかなりましたけど、下手したら死んでましたね……」


「……弱かった?」


「あ、はい。

 ホールを占領していた人員はほとんど奇襲で倒せたんですけど、一人厄介な奴がいたんですよ〜」


「奇襲!?

 兄ちゃんなんかしたのか?」


 奇襲と言えば聞こえはいいが、実際はビクビク震えた少年が、ちまちまスタンガンで不意打ちしてたようなもんだがな。

 どうせならヒーローみたいに、正面から打ち破りたかった。これじゃヴィランだ。


「ええ、まあ……

 天窓から魔術で明かりを消して、暗闇から奇襲したんです」


 そう言うと、セリは何やら顎に手を当てて黙り込んでしまった。


「……」


「どうかしました?

 あ……さては信じてないですね?』


「あ、いや。そんなことはねえぜ?

 すげえな、さすがラルドの息子だ。

 というか兄ちゃん、暗闇でも目が見えるのか?」


「はは、まさか。

 ラトーナに暗視の加護をつけてもらったんですよ。僕は雷魔術で攻撃しただけです」


「ラトーナ?……っつうと……」


「はい。僕と一緒にいた金髪の美少女ですよ」


「あー!

 あの嬢ちゃんか、あの子は元気か?

 随分熱々だったみたいだがよぉ、今日は一緒じゃないのか?

 遠路遥々新婚旅行ってか?

 ハハハッ!」


「え、ええ……いや、まあ。うーん、あはは……」


「嬢ちゃんも無事だったんだろ?」


「ああ……はい。まあ……」


「……」


「……なっ、なんですか?

 そんなジロジロ見て……」


「いや、なんでもねぇよ。

 ラルドによく似てるなって思ってよ」


「褒めてるのか、貶してるのかわかりませんね」


 そんなに似てるかな。

 ラルドは仏頂面で若干強面だけど、俺はもっとソフトというか、キュートというか……

 なんか自画自賛みたいで気持ち悪いな。リディみたいだ。やめようやめよう……


「ハハハハハッ!

 褒めてんだよ。あいつ顔だけは良かったからな』


「は、はぁ……」


 不自然に空いた間の中で、乾いた喉に酒を流し込む。頭がキーンとして気持ちいい。


「そういえばよぉ〜」


 二人の間に妙な間が訪れた後、セリが再び口を開く。随分と飲んでいるのか、セリの息が酒臭くなりつつある。


「はい、なんですか?」


「兄ちゃんはどうしてこんなところにいるんだ?」


「あー……

 それはですね、なんというか……」


「ん? どうしたどうした?」


 セリが耳に手を当てながら、こちらに身を寄せる。


「たまたまアスガルズに来てたら、ちょっと魔族の子関連で面倒ごとに巻き込まれてしまいまして、そこをリディに助けてもらって……

 今こうしてここにいるわけです」


 大体合ってるよな?


「……リディ……って言ったか?」


「はい、言いましたよ。

 リディアン•リニヤット。セリさんの昔の仲間ですよね?」


「おう……そうだぜ。

 あいつはここに来てるのか?」


「はい。

 なんなら今から会いますか?

 久しぶりの再会ならリディもよろこーー」


「いや、いい……

 それより、魔族関連ってのはどういうことだ?」


「奴隷の魔族の子を助け……いや、盗んじゃって。

 向こう側と揉めかけたんです」


「その子は今一緒にいんのか?」


「……ええ、まあ」


「そうビビんなよ、別にチクリやしねーって」


「……ありがとうございます」


「なあに、別に礼を言うほどのことじゃねえだろうよ。俺もこの国はいけすかねーから嫌いなんだよ」


 良かった……一瞬やらかしたと思った。

 でもよく考えたら、こんな場所にいるんだから話しても大丈夫か。


「ていうか兄ちゃん、リディを待たせてるんじゃねえのか?」


「あ、たしかにそうですね……

 でもまあ、リディなら待ってくれますよ」


「俺は用があるからもう行くし、早く戻ってやんな」


「そう……ですか?」


 俺としてはもう少し話していたかったんだがな。

 でもセリの方に用事があるなら仕方ないか……


「おう。

 また会おうぜ、兄ちゃん。

 今度は兄ちゃんが酒奢ってくれよ?」


「あはは、僕お金持ってないですよ」


 セリと軽く握手をして席を立つ。


「あ、兄ちゃん、最後に一ついいか?」


 席を去ろうと、俺がカウンターに背を向けて歩き出した時、そう呼び止められて、振り向く。


「はい、なんですか?」


「リディはどうだ?」


 セリはカウンターに座って、俺に背を向けたまま、そう言った。


「どう……と言われても」


「普段の様子とかだよ」


「……そうですね。

 良い人ですよ。ムカつくところも結構あるけど、結構周りを見てくれているし、稽古もつけてくれて、頼りになります」


「そうか……ありがとな」


「いえいえ全然。じゃあまた」


「はい!

 それじゃあ」


 背を向けたままのセリに、軽く頭を下げてから歩き出す。


「……気をつけな、兄ちゃん」


 数歩歩き出したところで、セリがポツリと何か言った気がしたので振り向いたが、俺達が座っていた席にはもう誰もいなかった。


 あまりの不自然さに一瞬、今の出来事は幻だったのではと思ったが、鼻に残るわずかな酒の匂いがそれを否定した。


「気のせいか……

 また会えるといいな」


 さて、早くリディ達の元に戻らなくてはな。


ーーー


「随分遅かったね。そんなに溜まってたの?」


「ハァ……ハァ……違いますよ。

 セリさんがいたもんだから、少し話してたんですよ」


 リディ達はすぐ下の階にいると言っていたのに、いつのまにか、そのさらに一つ下の博物館みたいなフロアにいた。


「……セリがいたの?」


 セリという単語を聞いて、リディはピクリと眉を動かした。


「はい、今はどうか知りませんがね」


「……セリは何か言ってた?」


「いえ、特には何も……

 なんでですか?」


「…………単に気になっただけさ」


「はぁ、なるほど……

 で、3人揃って何見てるんですか?」


「あれさ」


 リディの指さす先を目で追うと、そこには高級そうな台に乗せられた奇妙な展示物があった。

 他の展示物の宝石やら剣、杖とは少し違った雰囲気を放っている。


「なんですかあれ。

 腕輪?……

 随分古そうですけど」


「このフロアの四つ下で発掘された魔導具だってさ」


「フロアの下?」


「ここの施設は元々迷宮を改造したものだと話しただろう?

 下層はまだ整備されてないから、結構魔道具とか出土してるんだって」


「へぇ〜……

 魔道具なら他にも置いてあるのに、なんでそんなに注目されてるんですか?」


「知らん」


「え」


「なんであれが注目を集めてるのかなんてしらないよ。

 俺はただ、人が集まってたから見に来ただけ」


「え……」


『まあ彼らが言うには、籠手のサイズに魔法式を刻み込むのは当時の技術では凄いことだから、かなり歴史的価値のあるものらしいよ」


「あー、オーパーツ的な?」


「は?

 おパンツ?

 それともおっぱーー」


「わっ、わーわー!!

 なんでもないですよ!!」


 こいつ、女子二人の前で何言おうとしてんだ……


「ていうか、あーいう魔導具って誰が使うんですか?」


「一般的には詠唱を知らない人とか、魔術下手くそな人が補助に使うとか、戦闘中に騎士が不意打ちで使うぐらいだけど。

 威力も自由度も低いから、ディンにはお勧めしないかな。

 ディンは元々無詠唱だし」


 魔術の補助……

 携帯できる……


「どうした?」


「あ、なんでもないです。

 それより、この後はどこに行くんですか?」


「そーだね……

 君たちがあと行っても良さそうなのはギャンブルフロアくらいだから。 

 最後に行っとく?」


 あー、その口だと、えっちなフロアもあるんだね。

 そうだろう? 

 いや、そうに違いない。成人したら絶対来てやる。


 ていうか、前世ならギャンブルもアウトなんだけどね。


「僕は構いませんよ」


「私も少し気になっていましたし」


 心なしか、王女の声音は弾んでいて、少しウキウキしてるように見える。

 清楚に見えて、意外とギャンブルとか好きなのだろうか。


「クロハはどうする?

 ディンとクロエは行くってさ」


「……いく」


「よし、じゃあ行くか。

 奢った分の損失はディンから巻き上げるとしよう!」


「は!?」


ーーー


 大規模娯楽施設〝エデン〟のレストランフロア、そこのとある席には二つの人影あった。

 一人は長身でガッチリとした男の影。そしてもう一つの影は……


「ご苦労だったな、わざわざこんなところまで」


 長身の男は料理を口に頬張りながら、向かい合う人影にそう言った。


「……」


「それより、最後の情報確認だ。

 ちゃんと調べてきただろ?」


「……他は以前と変わらず、新たに加わったディンとクロハという子供。

 ディンは銀髪の少年ーー」


「それは知ってる、戦闘面の話だ」


「……クロハの方はまだ実戦で戦えない。

 ディンの戦闘は魔術が中心。

 強い光を出す魔術、爆発やら霧も出せると。

 基本的に5属性全て無詠唱……」


「なるほどな……よし、わかった。

 早く戻れ。

 あんまり遅いとリディ達に気づかれちまうからな。引き続き動向を探れ」


「……」


 男がそう言って話を切ると、向かいに座る人影は席を立ち、早々に立ち去っていった。


「やれやれ、願わくば戦いたくないもんだな、兄ちゃんよ……」


 男ーーセリは、静かにため息を吐いた。


 護衛メンバーの方々の入浴事情ですが、基本的に街の宿などに泊まるときは浴場を利用しています。

 アスガルズとミーミルは混浴が多いのですが、セコウが頑なにリディとディンを行かせようとしないので、普通浴の方を使ってます。


 野営の場合はディンが魔術で作った露天風呂を使っています。

 浴槽は細部までこだわっていて、ハーブなどもちらしたり、お湯に硫黄を混ぜたりとかなり豪華なので、実はこっちの方が人気です。

 でも、頑張って作ったマーライオンみたいな飾りはかなり不評なので、本人はちょっとしょんぼりしています。

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