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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第2章 王女護衛篇

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第53話 ご褒美


死神ノ糾弾(デス=バレット)


 そう口にした瞬間、俺の指先から火花が爆ぜ、重い衝撃音が平原一帯に響き渡った。


 指先で生成された弾丸は雷魔術によって着火され、それによって起きた爆発は、弾頭を黒狼の眉間へと真っ直ぐに届けた。


「ギャウッッッッ……」


 眉間に風穴の空いた黒狼は、鼓膜を破るような断末魔と共に、崩れ落ちるように倒れ、それを見た周りの黒狼達は後退りし出した。


「うぇ!?

 なんだ今のは!?」


 激しい破裂音に驚いたのか、ロジーがおかしな声を上げた。


 成功だ。

 何度かこっそり試し撃ちはしていたが、俺の最大出力の水球にも耐えた黒狼を一撃で沈められた。

 誰も巻き込んでない上、威力も申し分ない。


「凄いな……よくその距離で当てたな」


 隣で耳を塞いでいたセコウが目を細めながら、俺が仕留めた黒狼を見据えてそう言った。


「多分まぐれです……」


 仕留めた黒狼は俺のいる場所から20メートルぐらい離れている。

 次は外すかもしれないし、流石にもうちょっと近づいてから撃とう。


「余所見してていいんですか!?

 ロジーさん!」


 呆然と立ち尽くすロジーに笑いかける。


「ッ……クソ! 勝つのは俺だぁぁぁぁぁあ!」


ーーー


「いや〜おつかれ。

 ディンもロジーもいい勝負してたよ。

 1人やる気ない奴がいたけどね」


 馬車の近くで座り込む俺達を前に、リディはそう言って、セコウをジロリと見つめた。


「……」


「隊長! 

 セコウさんとエドマさんのことなんてどうでもいいっすから!

 それより勝敗は!?」


 リディの視線を無視して、ずっとそっぽを向いていたセコウを押し退けて、ロジーはリディへと迫る。


「なっ……貴様どうでもいいとはなんだ!」


「へっ! どうでもいいね!

 まさか昼間は馬に、夜は女に跨ってるとは思いもしなかったっすよ!」


「いや私は……というか、子供の前でそんな話をするな!」


「子供?……まさかディンのことっすか?

 悪いが、隊長と女の尻について四六時中語り合ってる様な奴を、子供とは思わねえ!

 ただの変態だ!」


「誰が変態だぁぁぁぁぁ!

 飲ん兵衛が人の高尚な趣味を馬鹿にするか!?」


 失礼なやつだ。人のライフワークにケチをつけるとは。語る分には何も悪くないだろうに。


「あ゛? 

 誰が飲んだくれだと? 

 図に乗りやがって、モテる癖に回りくどいんだよ!

 その顔で何人たぶらかしてきた? 

 この女たらしが!」


「お゛? 

 失礼だな、純愛だよ!」


 ふざけるな、俺はモテないし、ラトーナ一筋だ。

 それに、ロジーだって顔面偏差値は高いだろ。モテないのは明らかに中身の問題だ。


「ゴホン!!!」


 激しい言い合いの中、リディの咳払いが場の空気を白紙に戻す。

 相変わらず凄い覇気だ。一瞬漏らしたかと思った。


「ロジー、いちいちセコウに突っかかるな。

 それに、なにもセコウが跨ってるんじゃなくてエドマさんが上になってる可能せーー」


「ああぁぁぁぁぁあ! 隊長、それより勝敗は!?」


 リディの言葉を慌ててセコウが遮った。

 これは、この反応は確実に黒だ。

 こいつがユダ……いや、ラ○ナーとベ○トルトだ。

 壁を突き破ったと言う点で特にだ。

 エドマの『ウォールエドマ』をセコウの硬質化が破ったのだ。

 俺がラトーナロスで凹んでいるというのに……

 この世界は残酷だ。


「ああ、勝敗ね。ロジーの勝ちだったよ」


「よっしゃぁぁぁぁぁッッッ!!!」


 ロジーが奇声をあげて飛び跳ねる。

 その大人気なさと言ったらなんたるか。


「ちっ……」


 まあ仕方ないか……

 まだ未完成だから、発射から再装填まで毎回10秒近くかかるし。

 何発かは普通に外したし、後半は音にビビった黒狼達が逃げ出しちゃったし……


「あ、でもディンの方が面白かったから、ご褒美はディンにあげようかな」


「え……」


 にっこりと笑うリディを前に、ロジーが膝から崩れ落ちる。先程のテンションが嘘のようだ。


「まあ、1人ぐらいならおまけで連れて行ってもいいけど」


 リディの言葉を聞いて、枯れ葉のようになっていたロジーが飛び起きる。忙しい奴だな……


「その1人は誰にするんですか?」


「ディンが決めていいよ〜」


 俺の問いにリディがそう返した瞬間、隣から妙に熱い視線を感じた。


「ディン君。

 おまーーいや君……よく見たら良い顔してるね。魔術も学問も達者で、君は将来有望だよ!」


 俺の目線を向けた先には、歪な笑みを浮かべて足元に擦り寄ってくるロジーが映っていた。


 ああ、人間プライドを捨てたらこんなふうになってしまうのか。

 俺も腰が低い人間だから、気をつけよう。


「ところでディン君。

 良かったらそれに俺を連れて行ってくれねぇかな? 

 なんでもするからよぉ〜

 だから……な?……」


 ダメだ。 

 欲に目が眩んで完全にキャラが崩壊している。こいつは危険だ。下手くそなホモビ男優みたいだ。


「で、ディンは誰を連れてくことにしたの?」


 リディが笑顔で俺に尋ねる。

 大変不本意だが、どうしてもこういう時、俺とリディの思考はシンクロする。

 かのダチョウさん達が押すなと言われれば押すように、俺もリディも、誘えと懇願されれば誘わない。


 それに、俺は今回別に誘いたい人がいる。


「じゃあ……」


「じゃあ?……」


 俺の言葉にロジーが続く。


「誘うのは……」


「誘うのは!?……」


「クロハにします!」


 悪いなロジー。

 〝今回は〟別に嫌がらせってわけじゃあないんだ。

 ただ単に、クロハの方が優先度が高いだけ。


「りょーかーい。じゃあ誘うのはクロハね。

 ディンから伝えな」


 リディが満面の笑みで、静かになったロジーの肩をポンと叩くと、ロジーは空気が抜けたかのように、どんどん萎んでいった。


「誘うって、え!?

 僕がですか!?……」


 横で抜け殻の様になったロジーをよそに、リディに問う。


「なに、嫌なの?」


 リディは不思議そうに、俺の顔を覗き込んだ。


「いや……別に」


 リディに返す言葉が、うまく浮かばない。


 クロハと向き合うことは決めたが、正直まだ色々とうまくいってないことが多い。

 魔神語は日常会話程度には話せるようになってきたが、言葉がわかるようになった分、余計クロハに距離を置かれていることがわかってくる。


 いや、別に嫌われてるだけならいいんだ。

リディ曰く、クロハは俺のせいで母親が死んだわけじゃないってことはわかってる。

 わかっているけど、あの歳だ。

 やり場のない怒りと悲しみを鎮める方法を彼女は知らない。

 だから自然と、彼女の母親を助けられなかった俺に当たってしまうのだそうだ。

 

 もちろん、俺に当たって気が済むならそうしてくれて構わない。実際俺のせいだしな。

 だが、母親に代わって彼女を守ると決めた以上、あまり距離を取られても困る。

 あくまで俺は、彼女のサンドバッグではなく、彼女の支えになりたいのだ。


 だが、そういう相手になるにはまず信頼関係がいる。

 彼女を誘ったのも、これを機に少しでも親睦を深められればと思ってのことだ。

 リディがいる分、フォローもしてくれるだろうしな。


「僕が今話しかけても、無視されるじゃないですかね……」


 そう言って、ため息混じりに笑った。


「君は一回無視されてぐらいで引き下がるのかい?」


「……いえ、行ってきます」


「うん。良い目だ」


 ニッコリと笑うリディと、地面にべったりと張り付いているロジーから離れ、馬車の方へと歩く。


 ああ……やばい。なんかドキドキする。


「クロハ……いるか?」


 馬車の客車をコンコンと叩く。


「……なに」


 ゆっくりと客車の扉を開けながら、クロハが顔出す。

 ここ最近顰めっ面なのは、昨日の夜の見張り当番だったからだろうか。

 俺が話しかけたからでないことを祈りたい。


「あー、えっと……ね?

 次の街行った時、リディがご飯奢ってくれるって言うから、一緒に行か、ないか?」


 魔神語で日常会話ができるようになったとはいえ、所詮は中学で習う英語と似たようなレベルのもの。

 緊張も相まって、中々上手く喋れない。ちゃんと伝わっているのだろうか。


「……」


 クロハは目を逸らしたまま答えない。

 なんだかバツの悪そうな顔だ。


「い、嫌なら断ってくれていいんだよ……?」


 まあ断られたら後でこっそり泣くけどな、俺。

 ラトーナにぶたれたときも半泣きだったし。

 いや、あれは先に手を出した俺が悪いな。


「ディン殿、良ければ私も同行させてくださいませんか?」


 クロハとの間に流れていた沈黙を破るようにして、王女が話しかけてきた。


「王女様もですか?……」


「歳は一つしか変わらないのですから、気軽にクロエと呼んでください」


「はは……ご冗談を」


 そんなことして、普段からそう呼ぶ癖がついたらどうするんだよ。

 国に戻ってからうっかりクロエなんて呼んでみろ。俺は不敬罪で死刑だろうな。


 不敬で思い出したが、俺はラトーナとあんなに軽く接してて良かったのだろうか。

 分家の連中は留守だったらしいから、態度については特に何も言われなかったけど……よく考えればえらい身分差があった。


「え、クロエ王女って僕の一つ上なんですか?」


「はい」


「マルテ王子も僕の一つ上ですが?」


「双子ですから」


「ああ……なるほど」


 そういや双子なんてこの世界じゃあまり見ないな。

 まあ、そんなこと言えるほど周ってきたわけでもないけど。

 ていうか双子なんてそうそうお目にかかれないか。


「クロハ、私も行きたいのですが、一緒にどうですか?」


 王女は流暢な魔神語で話しながら、クロハの顔を覗く。

 子供とはいえ、美人同士が見つめ合っているのは中々絵になる。

 ていうかマジで魔神語うまいな……ミーミル王家は全員習うらしいが、俺も王宮の講師に習いたい。

 この言語、フランス語みたいに独特の音があって喋りにくいんだよな。鼻母音的な?


「……」


 クロハが困ったような顔で空を仰ぐ。


 王女はクロハ関連になると、妙に手厚いサポートをしてくる。 

 ありがたいのだが、一体どういう意図なのだろうか。


「あの、嫌なら無理に誘わーー」


「クロハ、今決めなさい。

 ディン殿は勇気を出して誘ってくれたのですよ?

 嫌なら嫌と、行くなら行くと言いなさい」


 うお……

 圧がすげえな……逆らえないお姉様キャラか? なかなかに萌える。


「……いく」


 キョロキョロと目を泳がせながら、クロハはそう呟いた。


「だ、そうですよ。ディン殿」


「あ、はい……ありがとうございます」


「何のお礼かは知りませんが、リディも行くのですよね?」


「はい」


「そうですか、それが分かれば充分です」


 え、何が?

 何が充分なの?……


「では、要件は以上ですか?」


「あ、あとクロハが鍛錬の時間なので……」


 なんだかこの人に会話の流れを操られている気がする。

 今回は助けられたが、なんだか怖いな……


「……いってくる」


 そう言ってクロハが馬車を降り、リディの元へと歩いていった。


「頑張って下さいディンさん。

 あの子も変わりつつありますよ」


「へ?」


 彼女はそう言って微笑むと、馬車の中へと戻っていった。


 魔術の同時発動と重ねがけの違い


 同時発動=混合魔術、よって混合魔術使用中は他の魔法が使えない。(魔術の同時使用は基本的に2種が限界なので)


 重ねがけを説明するには、まず魔法発動の過程ですね。

 ①魔術を決める

 ②魔力を込める

 ③魔術の発生(発火などの初級魔術)

 ④構築開始(発生した魔術の形を整える)

 ⑤発射

 ざっくり言うとこの五つの過程で一つの魔術が発動します。

 重ねがけは④から⑤に移らず、踏ん張ったままその二つの間にさらに別の魔法式をぶち込みます。

 例えるなら数学の代入ですね。


 ディンの魔術だとわかりにくいですが、まあ簡単に言えば〝混合魔術のさらに上に位置する技術〟だと思っててください。

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