表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第2章 王女護衛篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/240

第52話 羽化



「足運びが大分良くなってるよ、ディン」


「ハァ、ハァ……本当ですか……?」


「だからといって、すぐ気を抜くのはダメだね」


「はい……」


 どうも、先日戦闘中に、自分で自分の墓穴を掘ったディンです。

 陸で溺れそうになった男、ディンです。

 今日も今日とて、剣の稽古に勤しんでおります。


 ホテルでの決心から早いものでもう1週間、ひたすら稽古や魔法研究に専念した。

 リディが今言ったように、その成果が少し出ているようだ。


「はぁぁぁぁぁッッッ!!!」


 剣を構え直した俺がリディに飛びかかると、なぜか彼はピタリと動きを止めて、剣を鞘に収めた。


「稽古終わり!」


「うぐっ!? 痛ってぇ……急に何するんですか!」


 急に直立不動になったかと思えば、斬りかかった俺の頭に手刀の一撃を入れてきた。

 頭がジーンとする。明らかに稽古の時に出す力じゃない。


「剣術が上達したからって、不用意に接近しないの」


「だからって稽古自体をやめなくても……」


「稽古終わりにしたのはそれが理由じゃないよ」


「はい?」


 頭を抑えて座り込む俺に構わず、リディは近くに停めていた馬車に向かって声を上げる。


「ロジー! セコウ!」


「さっきからどうしたっていうんですか……」


「んー……簡単に言うと、数百メートル先から魔物の群れが来てる」


「それって今朝ギルドで話題になってたあれですか?」


 いや、それ以前になんでそんなことわかるんだ?

 魔力感知が得意とは言ってたけど……さすがに感知範囲広すぎだろ……恐ろしい子!!


「そうだね、例の大規模掃討で漏らした〝黒狼〟の群れだ」


 現在、俺達は王都を離れ、ムスペル王国に向けて南下中、次の街へは今いる平原と、その先の森林を抜ける必要がある。

 で、その黒狼の群れは森林の手前辺りに出没しているらしい。  

 そう、あの〝黒狼〟だ。

 

「黒狼を単独で狩れるのはS級冒険者ぐらいだからね。しかもそれが群れ単位となるとかなり危険だ」


 S級冒険者ってのが、どれほどのものかは知らないが、ラルドとリディが口を揃えて『危険』と言うのだから、相当危険な魔物なのだろう。


「なんでそんなのがこっちに来てるんですかね?」


「黒狼は魔力の高い生き物を狙う習性がある。普通ならこんな長距離で反応してくることはないんだけど、ディンやロジー、セコウにクロハ、そして王女がいるからね。 ここら一帯の魔素濃度は魔大陸のそれと近いんじゃないかな」


 黒狼は魔素濃度の高い場所……

 なるほど、だからあの時の黒狼も俺の近くに来たのかな。

 曲がりなりにも俺は四大貴族本家の血を引いているわけだし、子供にしては魔力量はかなり高いはず。まさに黒狼ホイホイだ。


「例の黒狼ですか? 隊長」


「眠いな畜生……」


 ロジーとセコウが剣を持って客車から降りてきた。2人は昨日夜の見張り番だったので、目の下にクマができている。

 そのおかげで珍しくロジーが静かだ。

 

「おつかれ二人共。悪いけどもう一仕事してもらえる?」


「勿論です」


 そう言って、セコウが眼鏡をクイッとあげる。

 前から思っていたが、この人眼鏡のサイズが合ってないんじゃなかろうか。


「……国に帰ったら高い飯奢ってくださいよ?」


 対するロジーは眠そうな顔とだらしない姿勢で、死亡フラグじみたセリフを吐いた。

 迫ってくるのがオオカミじゃなくてゾンビだったら、即アウトだ。


「あ、僕も手伝います。試したいことがあるんで」


「わかった、いいよ。 じゃあ撃破数が1番多かったやつに飯奢るね」


「いや、私は別にーー」


「面白え! ディン、勝負といこうじゃねえか?」


「ロジーさんには悪いけど、高級飯は諦めてもらいます」


「へっ、やってみろ。お前に生き物殺す覚悟があればの話だがな」

 

「もう、この前までの僕じゃないですよ」


ーーー


「隊長ー! まだですかー?」


 馬車の前に3人揃って立ち並んでいると、ロジーが振り返って審判役のリディにそう尋ねた。

 まだ黒狼を待ち始めてから2分と立っていないのに、先程から彼の貧乏揺すりが激しい。


「もう、すぐそこまで来てるよ。 あ、そろそろよさそう。じゃあ位置について!」


 リディアンの声に合わせて、3人揃って前のめりになる。


「3!」


「セコウさんノリノリじゃないですか」


 そう言って俺は、隣で剣を構えているセコウの腕をつつく。


「そうだよな!? さっきは『私はいい。エドマを見つめていたんだ』なんて言ってた癖によぉ!」


 ロジーがセコウの眼鏡を直す動作と、声を真似る。

 結構似てるのが面白い。


「2!」


「おい! エドマさんは関係ないだろ! ていうかそんなことを言った覚えはない!」


「ありゃ? そうでしたっけ? 言ってたよな? ディン」


「そういえばセコウさん、結局エドマさんとはどうなんですか?

 昨日の夜、ホテルでセコウさんの部屋からガサゴソ物音が聴こえたんですけど」


 カマをかけたつもりだが、一瞬セコウが肩をビクンと震わせた。

 え、うそまじなの?


「1!」


「うぇ!? なんだそれ初耳だぞ! どういうことだよセコウさん! まさか任務中にしっぽーー」


「おい集中しろ! 勝負とはいえ、これも仕事だぞ! それと、ディンはなんでそんな時間まで起きてる! 子供は早く寝ないとダメだろ!」


「はじめ!」


 リディアンが腕を振り下ろすと同時に、三人揃って走り出す。

 向かう先は勿論黒狼の群れ。先程までは豆粒のようだったが、次第にその一体一体の輪郭がはっきりとしてきた。距離はもう100メートルとない。


「悪いなディン、そんな程度のスピードじゃ俺の勝ちだな」


 そう言い残して、ロジーが凄まじい速さで黒狼の群れへと突っ込んでいく。  

 相変わらず魔術の使い方が上手い。俺もあの魔術コピーできないかな……

 特級魔術って基本的に詠唱がないから真似しようにも、わからないんだよな。


「オラオラオラオラぁぁぁぁぁ!」


 一匹、また一匹と黒狼が斬り伏せられていく。

 この調子では、俺が群れと衝突するまでに全滅してしまいそうだ。


「ロジーのやつめ、こういう時だけやる気をだして……」


 凄まじい速さで暴れ回るロジーを見て、セコウがため息を漏らす。


「セコウさんは急がなくていいんですか? 取られちゃいますよ?」


「私はあいつが討ち漏らしたのを処理するだけでいい。競争するつもりはないからな」


「そんなこと言ってぇ〜 エドマさんにカッコいいところ見せたい癖ーーあ痛っ!」


 本日2度目、頭に手刀をくらった。


「随分とおしゃべりが過ぎるな。お前こそ、このままじゃ全てロジーに取られるんじゃあないか?」


「それならご心配なく」


 セコウにそう言って笑い、足を止める。


「おい、 黒狼はまだ先だぞ? まさか魔術を使う気か? ロジーも巻き込むぞ?」


「いえ、魔術は使いますが巻き込む心配はないですよ。 僕は群れの左側を全匹仕留めるので、討ち漏らしがあったらお願いします!」


「お、おう?」


「近くにいるつもりなら、念のため耳は塞いでおくことをお勧めします」


「あ、ああ。わかった」


 怪訝そうな顔で俺を見つめながら、セコウは頷いた。


「じゃあ、始めます」


 一度深呼吸し、人差し指を黒狼の群れに向け、そこに魔力を集中させる。


 先日の戦いで浮き彫りになった俺の弱点。

 それは、本来チート主人公がぶち当たるべき壁と似たようなものだ。

 いや、俺はチートでも主人公でもないがな?


 まあいい、話を戻そう。

 俺はおそらく、この世界の人々よりも魔術の仕組みを詳細に把握している。

 それゆえに、魔術に用する魔力のコストのコントロールや出力設定に一風変わった調節を施せる。


 魔術とは基本的に、それを発動する際に消費する魔力は固定されていて、威力を高めたりする際はどうやら別の枠とでも言えばいいだろうか……とにかく魔術を発動するのとはまた別の感覚で魔力を込めていくわけだ。これは技量によって込められる量も変わってくるし、使う魔力の割にあんまり威力の上昇効率が高くない。

 そんでもって、無詠唱魔術はどうやら、完全詠唱をした際よりも魔力の消費が十分の一レベルで減少する。

 そこで俺は、魔術の発動用に用意されていた魔力を込める枠に『空き』ができているのではと仮定し、その空いた枠にわざと魔力を流し込んだ。

  するとびっくり、まるでバグ技のように、魔術の威力が10倍近くに跳ね上がったのだ。しかも燃費が良い。


 そう、『比較的少ない消耗で、常人の10倍近くの威力の魔術を放てる』。これが俺の強みだ。


 もちろん、無詠唱による発動の速さもあるだろうが、ロジーやセコウ、リディアンがいるように、この世界では無詠唱魔術師が多数存在しているため、他との差別化は図りにくい。

 そして彼らもまた、無詠唱であること自体とは別の強みを持っている。


 ならばやはり、俺の強みは前者となる。


 ロジーは言った。先日の戦いでは、俺が最大出力でドカドカ魔術を放っていれば楽に勝てたと。

 たしかにそうかもしれない。だがしかし、駄菓子、俺が最大出力で魔術を放つということは、周りの被害を無視するということになる。どうも魔術というのは威力を上げると必然的に、破壊規模も広がってしまう仕様らしくてな。

 目的のためにはある程度の殺生は必要だと覚悟したが、やはり民間人を巻き込むのは違う。

 これが俺の持つ線引き。当然だ。


 まあはっきり言おう。戦闘において、俺の強みを活かせる場面はほとんどない。

 なにせ、民間人どころか、今セコウが言ったように味方も巻き込みかねないからな。


 だから、俺は一度立ち止まって考えた。

 俺の持つ強みは他にないか。

 丸一日考えた。そして見つけた。いや、思い出した。

 

 俺には前世の知識がある。

 フィノースの魔術に影響されてか、特級魔術に興味を持ったからか、こちらの世界に馴染んできたからか、剣術と純粋な魔術ばかり磨こうとして、すっかり頭から抜けていた。

 俺は元々アイデアと工夫で勝負していた。

 俺の魔術は努力ではなく、アイデアだ。


「今後はこの技も使うので、連携の際は分かりやすくこう叫びますね」


 俺は、以前にやろうとしていたことに再び焦点を当てた。


 威力が高い上に、魔力コストも大して消費しない、『銃に使われている弾丸をその場で生成して撃つ』という魔術だ。


 薬莢を作り、火薬をつめ、弾頭を生成、着火する。

 今まではこれを同時にやろうとしていたせいで、作業が複雑化して発動が遅くなり、結果として実用化には及ばなかった。


 だが今は違う。 

 原点回帰だ。

 解釈は広く、閃光での経験を活かす。


 フィノース家があれほど複雑な魔術を高速で使用できたんだ。

 あの仕組みを真似て改造すれば良い。


 一つの魔術をベースとし、そこに別の魔術を重ねがけることで、新たな効果や複数の効果を一つの魔術に収束する。


 よく思い出してみれば、あの敵は無詠唱で水魔術を発動できていたのに、わざわざ詠唱をしていた。

 詠唱短縮ではない。先に水魔術を用意した上で、さらに詠唱をしたんだ。

 一つの魔術に二つの効果を持たせていた。

 そうだよな、馬鹿だよ俺。

 自分で言ってたじゃないか。魔術はプログラム。プログラムってのは簡単な動作を組み合わせることで、アプリやゲームのように高度な動作を生み出す。


 同時に全てやるのではなく、複雑な工程を分解して順に処理する。いわば音ゲーの運指を捌くようなものだ。

 それならば再現できる。俺の新しい必殺技を。


 大きく息を吸い込んで、狙いを定めて、広い草原の上で叫ぶ。


死神ノ糾弾(バレット)!!」

 

 

余談


 魔物の定義に関してですが、外見による判断はされていません。

 基本的に魔大陸に生息している生き物全体を指す言葉ですが、最近では密輸などで他国から連れてこられた生き物が、何らかの理由で野に放たれ、そこの生態系を壊している時にも使われます。いわゆる外来種的な?

 魔大陸生息の魔物の特徴としては、魔素濃度の高い場所で生息可能かつ、繁殖力が異常に高い。

 あと個体によっては魔力を利用した攻撃をしたりと、そんな感じです。


 次回の後書きでは、魔術の重ねがけと同時発動の違いについてくわしく触れようかと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ