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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第2章 王女護衛篇

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第47話 開戦の狼煙



「おい、クロハのために早く戻るんじゃなかったのか?」


「いやその……ポーション探しで歩き回ってたらお腹空いちゃって……」


 黄昏色の空に包まれた白亜の王都。

 見下ろす限り広がっている城下街には点々と光が灯り出していて、なんとも神秘的だ

 そんな景色と共にディンを刺激したのは、街のそこら中から香ってくる夕飯の匂い。

 見慣れぬ街を歩き回って疲れた彼は、つい欲望に負けてしまったのだ。


「これ結構美味いですね。なんて言う料理ですか?」


 パンのようなものを口いっぱいに頬張りながら、ディンは屋台の店主に尋ねる。

 

「それは『キプト』というアスガルズの家庭料理だ。芋をすり潰して水と一緒にこねて焼く。

 そこらのパンより柔らかいだろ?」


「たしかに柔らかいですね、ほんのり甘いのも良きです!

 肉とか野菜を挟んでみても美味しそうですね……」


「ははっ! そんな嗜好品を挟もうなんて、あんたひょっとしていい所の出かい?」


「いえ、旅の者ですよ」


 目的の品を手に入れて気が緩んでいるディンを見て、セコウはため息混じりにディンの方を突いた。


「お前、クロハを一刻も早く楽にしたいんんじゃなかったのか?」


「ハッ! そうでした!!!」


 目的の宿は真反対の位置。日没後は城を素通りはできないので城下を大回りして帰ることとなる。

 かかる時間は通常の3倍。ディンの表情は一瞬で真っ青になった。


「いいいい急いで城に!」


 ディンは屋台の駄賃を払うのも忘れて飛び出したのだった。

 

ーーー


「全員、準備はいいな?」


 とある高級ホテルの一室を前に、武装した騎士は目背後の部下達にそう問いかけた。

 高級ホテルの廊下といえども、体格の良い男が6人近くも固まっていては流石に狭い。

 普通ならば通りかかった利用者が思わず舌を鳴らすのだろうが……今日に限ってはそう言ったことは起こらない。

 なぜならばこのホテルは騎士達によって人払いされており、屋内にいるのは騎士6人と、彼らが前にしている部屋の利用者のみであるからだ。


「前衛は隊長である俺達2人と副隊長2人の4人。

 中衛のお前たち2人は前衛の回復と後衛の守護のみに専念しろ。

 勝とうと思うな、出来るだけ時間を稼ぎ隙を作れ。あとは後衛が仕留めてくれる」


「ハッ」


 小声で作戦を復唱する隊長と、それを剣呑な面持ちで聞く部下達の顔一面には、夏の熱気さえも冷ますほどの量の冷や汗が伝っていた。

 その理由は一重に、目の前の扉の先で暗殺対象を守っている人物との戦闘を恐れてのものであった。

 彼らは今、ミーミル王国で鬼神と呼ばれ恐れられている騎士に戦いを挑もうとしているのだ。


「私の合図で突入する。テロリストであるリディアン•リニヤット及び、第二王女クロエ•ミーミルを、マルテ王子の未来のため我々の威信にかけてここで葬るのだ!」


「ハッ!」


「突入ぅぅぅぅぅぅ!」


 2人の隊長騎士がホテルのドアを蹴破り、部下達がそれに続いて部屋へと雪崩れ込む。


「やあやあどうも皆さん、今宵は月がお綺麗ですね。わざわざこんな大勢で、如何様でしょうか?

 ホームパーティにしては、少々物騒なお召し物で」


 騎士達が飛び込んだ部屋の中央には、高級そうな椅子に腰をかけた金髪の男いた。


「なっ! 貴様、王女や部下はどこだ!?

  何故貴様だけしかおらんのだ!」


 騎士達の追跡は完璧だった。  

 長年の経験から来る勘、街での情報収集、そして王族の体に刻まれている王印の魔力反応。それらを駆使することで、逃亡した王女達がこのホテルに潜伏しているのは、明らかになっていたからだ。


 だというのに、突入した部屋はもぬけのから。

 目の前の金髪を除いて、誰一人部屋にはいないのだ。


「あらら、困ったもんだね。王国を守る精鋭騎士団の皆さんは国語ができないときた。

 ミーミルの王立士官校では、疑問文には疑問文で答えろと教えているのかい?」


 背面の窓から差し込む月明かりが、悪魔のような笑みを浮かべる金髪の男の美貌を照らした。


「ふざけるな!!!

 真面目に答えろこの反逆者が!!!」


 金髪の飄々とした態度に、隊長棋士の一人は怒声をあげる。


「おい、落ち着けジズ!」


 今にも飛び出しそうな隊長ーージズを、もう1人の隊長が宥める。


「あーあ、ちょっとちょっと……

 もう夜なんだから声のボリューム下げてよ、ここのホテルそんなに壁厚くないんだから……」


 一触即発。騎士達が緊迫した空気を放つ中、場違いにも金髪はため息まじりに頭をかいた。


「放せアジラ隊長! 一刻も早く、この男に罰を下すのだ!! 覚悟しろリディアン!!!!」


 年甲斐もなく怒りの感情を曝け出すジズを前に、金髪ーーリディアンはさらに口角を上げた。


 本来、上司を貶されれば部下達も相応に激怒するはずであったが、この場においてそのような愚行に出る者はいない。

 部下達は己の実力をよく理解している。

 故に、一時の感情に任せて、単身リディアンに切りかかることなどできないのだ。

 己の寿命を1秒でも長く保たせよう。目の前の鬼神が放つ殺気に当てられた彼らには、そんな本能が働いていた。


「はぁ……言っても無駄か。仕方ない、場所を変えよう。

 もっと月がよく見えるところを知っていてね。そこでお話ししよう」


 そう言ってリディアンが立ち上がるのと同時に指を鳴らすと、部屋中が薄紫の光に包まれた。


「なんだ!?」


「トラップか!」


「天井に魔法陣があるぞ!」


「まさかリディアン貴様ッッッ! 仕込んでいたな!?」


 騎士達の目線が天井からリディアンに戻る。


「正解。今更気づいたところで遅いけどね」


 リディアンがうっすらと笑みを浮かべた次の瞬間、部屋を包む光は最高に達し、全てを白で塗りつぶした。


ーーー

【ディン視点】


「セコウさん早いですよ! もうちょっとスピード落として下さい!」


「何を言っている! このぐらい出さなければ、ホテルに着くのは深夜だぞ!」

 

 立ち並ぶ店の灯に照らされた煉瓦の道を、セコウと走る。

 既に王都は観光名所から夜の街へと雰囲気をシフトしており、そこかしこから香水の甘い匂いがする。

 なかなか良さげな雰囲気だ。もう少しオトナになったら、この夜の街を気ままに散策するとしよう。


「ハァ、ハァ……長距離走なんて、何年ぶりだろ……うぉぇ……」


 くそ、あのパンみたいなやつ、一個だけにしとけばよかった……

 何個も食ったせいで、今まさに逆流しそうだ。


 嫌だ。これじゃ稽古前に食い過ぎてゲロったアインと同じじゃあないか……俺はあんなゲロインにはなりたくない!


「我慢しろ……よし、こっちだ! こっちの路地を抜けると近道だ!」


「はい!」


 2人並んで狭い路地を駆ける。

 夜の路地は不気味だ。どこか冷たくて、馬鹿みたいに静かだ。

 あの日のことを思い出す。クロハを見つけたあの路地裏を……


「セコウさん、どうしてこんな道知ってるんですか?」


「お前がポーション買ってる間に、色々と調べて置いた」


「流石です! あ、そろそろ路地抜けますね!」


 入り組んだ部分を抜け、ようやく大通りへの一本道に辿り着いた。

 出口から差し込む街明かりは、妙な安心感をーー


「?……」


 出口には人影が二つあった。佇まいからして、まるで俺たちの前に立ち塞がっているかのようだ。


「!」

 

 一つの影が突然、俺たちに向けて不自然に構えをとった。


「セコウさん!」


 嫌な予感がして隣にいたセコウを咄嗟に風魔術で押し飛ばすと、次の瞬間ーー


 ギュンッという奇妙な音と共に、まるで光線ようなものが路地の中央を走り、セコウを押し飛ばした俺の掌を貫いた。


「ディン!?」


「ッッッ……!!!!!」


ーー土壁ーー


 遅れてやってきた激痛に悶絶しながら膝をつくも、無事だった方の手でなんとか魔術を発動し、出口に向けて何重もの岩壁を生み出して狭い路地を封鎖した。


「あっっ! ぁぁぁぁぁあっ……!!!」

 

 痛い、痛い、痛い。

 手が焼ける……

 ああ……血もいっぱい出てる。


「大丈夫かディン! 待ってろ!

 かの者を癒せ、ヒール!」


 腕を抱え込んで蹲っていた俺にセコウが駆け寄り、治癒魔術を施してくれた。


「……っハァ、ハァ……ありがとう、ございます……」


 治癒魔術が生んだ薄緑の光が激痛をゆっくりと和らげ、掌の風穴を綺麗に塞いでくれた。


「すまない、大丈夫か……?」


「はい、それよりも……」


 セコウの詠唱短縮による治癒魔術のおかげで、素早く体制を立てなおせた。

 彼がいなければ、今頃俺はパニックになっていただろう。


「敵襲だな」


「はい……」


 封鎖した出口の方に顔を向ける。

 と言っても、視界一面には岩の壁しか映っていないがな。

 焦って壁を少々デカくし過ぎたようだ。


「少しはやるな! まぐれとはいえ〝神槍〟を回避するとは侮れん。

 だがしかし、2度はない!」


 路地の出口から、何重もの土壁を跨いで声が響いた。

 随分と偉そうな声だ。


「セコウさん、こいつら……」


「十中八九、例の追手だろうな。今の魔法は恐らく、フィノース家の相伝魔術である〝神槍〟だ」


「神槍? さっきのレーザーみたいなやつですよね? 

 話に聞いてはいましたが、一瞬だったのによく分かりましたね……」


「……ああ、訳あってフィノースには詳しくてな」


 目を細めながらそう答えるセコウ。 

 どうしてミーミル四大貴族の極秘事項に覚えがあるのかは非常に気になるが、ひとまず今は戦闘中なので詮索は後回しだ。


「とぼけてやり過ごすことって、できますかね?」


「無理だろうな、躊躇いなく私達を狙ってきたんだ。まず間違いなく素性がバレている」


「でも、どうやって素性バレたんですか?」


 おかしい。アスガルズの連中が追ってくるならまだしも、俺が護衛隊に入っていることを王子側は知らないはずだ。

 となると、セコウを追ってきたってことか?


「わからない。髪も染めている上、常に追跡されていないかも見ていた。

 内通者がいるのはありえない……考えうるのは遺産か魔剣、または特級魔術によるものだろう」


「フィノース家の遺産の力とかですかね?」

 

「……可能性としては、有り得なくはないな」


「とにかく、ここを抜けましょう。僕の霧で撹乱します。屋根伝いに逃げましょう」


「ああ、わかっーー」


 セコウがそう言いかけた時、ガリガリと不吉な男が狭い通路に響き出した。


「伏せろ!」


 セコウに促されて急いで身を屈めると次の瞬間、先ほどのレーザーが何重もの土壁を貫通して俺達の頭上を抜けていった。


 少しでも伏せるのが遅れていたら、俺の頭に風穴が開いていただろうな。はは……


「思ったより硬い壁だったな!」


 出口の方から、再び男の声が響いた。

 語気が弾んでいて、随分とこの状況を楽しんでいらっしゃるようだ。


ーー濃霧ーー


 すぐさま通路一帯を霧で包み、セコウと自分を土壁のカタパルト射出で飛ばして、路地を挟む建物の屋根へと降り立った。


「どうします!? あの魔法やばいですよ!?」

 

 屋根の上を駆けながら、セコウに指示を仰ぐ。

 最大出力じゃないとはいえ、数重の俺の土壁を平気で貫通してきた。

 撃つ時間に空き時間があったから連射できないとは思うが、先ほどの間隔からしてもせいぜい10秒程度のインターバルだ。

 それに加えてあの攻撃力と速度。危険すぎる……


「……このまま逃げーー」


「どこへ行く貴様ら!」


 背後から響いた声に振り向くと、既に男2人は屋根から屋根へ飛び移りながら、俺達を追ってきていた。


「なんでもう登ってきてるんですか!?

 フィノースって水魔術師ですよね!?」


「何も根っからの魔術師ではない!

 身体強化ぐらいはやってくる!」

 

 普段から冷静なセコウも、珍しく焦りの表情を浮かべている。


「逃げ切れますか!?」


「無理だ! ホテルに連れて行くわけにも行かん!

 ここで対処する! いけるか!?」


「勝てるかは分かりませんが……そうするしかないんでしょう!?」


 初めての真っ向からの殺し合い。

 自信はないが、生き残るためにはここで勝たねばならない。

 俺は震える手を握りしめながら足を止め、追手の方に向き直った。


「あ私が前衛をやる。援護を頼むぞ!」


「はい!!」


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