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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第2章 王女護衛篇

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第44話 不穏


「何故ですか父様!!」


 夕暮れの穏やかな風が吹き込む書斎に、机を叩く破裂音と、1人の男の怒声が響いた。


「はぁ……アーベス、お前はやはり当主には向いていない」


 ディフォーゼ・リニヤット家当主室、その最奥の机腰掛けている初老の男は深いため息を吐きながら、額に手を当てた。

 

「復興ではダメなのだ。四大貴族の一角たるもの、我々は常に先を行く者でなくてはならない。故にお前の考えは甘すぎる」


「それはわかっています。だからこうして準備を整えて……ラトーナの能力だってーー」


「準備……何のことだ? まさか、死神ーー私の大嫌いなあの小僧を呼び寄せたことか?

 それとも、死神のガキを手名付けたことか? はたまた、ヴェイリルの〝エインスター商会〟とパイプを作ったことか?」


「その全てでーー」


「ふざけるな! どれもマイナスに働いてるではないか!

 死神との関係を公にしたのは後々厄介なことになるぞ。お前はあの小僧のことを何もわかってない……

 形式上植民地であるヴェイリルともコソコソやりおって。王都では悪い噂が立っていた。そして何よりの問題は、あの死神のガキだ。

 全属性で無詠唱だかなんだか知らないが、ヴェイリル第四王子と揉め事を起こした上に、私の可愛い孫娘までたぶらかした。果てはアスガルズ王国で指名手配、このままでは我々の立場も危ういではないか!」

 

「……ですが、ラトーナの呪詛魔術の才能を開花させたのは彼です。ラトーナの能力と我々を繋いだのも彼ですし、社交会でフィノースの尻尾を掴むのだって、彼がいなければできなかったことです」


「そうだな。だが結果はどうだ? 最終的には不利益を被っているではないか」


「ッ……ですがーー」


「これ以上の問答は無意味だ。話を戻すぞ」


「……」


「お前の言い分はわからなくもない。身内を使った交渉は制約も多い上、得られる利益は少ない」


「……」


「だが、制約が多いのは相手も同じだ。口約束なぞとは違い、面子が絡むこととなれば誰しも容易に裏切る事はできない。〝遺産〟を失っていた我々はこの手を使うほかないのだ」


「……遺産の力は戻ったではありませんか」


「随分と楽観的だな。誰のせいで遺産を失っていたことが他家にバレたと思ってる?

 お前が下手な口約束をして、次期当主であった兄を死なせたからだろう!」


「……」


「遺産の力は確かに戻った。ならばそれも利用して、さらに上へ行くのみだ」


「ッ……だからと言って、ラトーナに結婚を押し付けるのは……!」


「あの子の力を使えば、内部から相手をコントロールできる。ここで動かずしてどうする!?」


「……ですが」


「狙うべきはヴェイリル第四王子か、我が国のマルテ王子だな」


「!……それはっーー」


「早急に準備を始めるぞ」


 男の返事も聞かずに老人は席を立ち、部屋をあとにした。

 机の前に立ち尽くす男はその拳を強く握りしめたまま、静かに首を落とした。


「ディン、間合いの詰め過ぎだよ。剣の腕を過信するな」


「ッッ……はい!」


 朝方、背中を押すような心地よい風が吹く草原の上で、今日も俺は剣を振るう。


「剣術はあくまで保険だ。立ち回り方を覚えよう!」


 そう言って、リディは俺との距離を一瞬で詰めてくる。いくら引き剥がしても、一向に余裕が生まれない。

 詰められては受けて、引き剥がしての繰り返し。単純だが、これが中々にキツい。


「常に剣は構えておけ!」

  

 リディがまたもや目の前まで迫ってきて、その剣を振りかぶる。

 それを俺は、ギリギリのところで受け止める。


「うお!」


 なんとか受け止められた……あとは流し——


「受けとめ……っるなッッッ!」


「ぐふッッ……」


 剣を受け止められたリディが、体勢を変えずに俺の腹目がけて蹴りをぶち込む。


「ガハッ……おえ……」


 ボールのように蹴り飛ばされ、芝生の上に打ち付けられる。

 目眩がする。息ができない。

 地面が砂利とかじゃなくて良かった。

 危なく、巨人化した内臓ポロリオジサンみたいな顔になるところだった。


「うぅ……なんですか、今の技……?」


 なんだよ今の回し蹴り……木の葉旋風の強化版か?


「瞞着流の近接格闘術だよ。この流派は剣術というより、体術に剣を取り入れた武術だからね。中級以降はこういった技が増える」


「へえ゛……」


 合気道とか柔道みたいなもんか……

 というか、痛みがおさまらねぇ……


「……じゃあ、僕に瞞着流をやらせる理由って」


「うん。この流派の体術を極めれば、剣がなくても、ある程度の攻撃に対応できる。常に両手を開けて戦うタイプの魔術師である、君に非常に合ってる」


 確かにインファイトができれば強いもんな。

 俺なら剣の出し入れとかも自由だし。

 昨日の受け流しの技も凄かったが……ますます俺に合っているようだ。


「わかったらさっさと立つ! 時間ないんだから!」


 元々リディは、ラルドに比べてスパルタ色強めの指導をするのだが、昨日一件のせいで、今日はやたらと当たりが強い。

 

 あの後は大変だった。

 俺(?)がぶっ壊した店の修理費は、ロジーが賭けで勝った金から払うことになって、それでなぜか俺がロジーにゲンコツくらったし。逃亡の身なのに騒ぎを起こしたってんで、リディにゲンコツくらうし。王女に嫌味を言われたし。

 助けた魔族の子は俺のことが嫌いなのか、露骨に避けられてるし……もう最悪だ。


 俺、なんか悪いことしたか? いや、前世でたくさんしたけども。


「まだやれるだろ? 死神の息子なんだし」


 とはいえ、文句ばかりも言ってられない。 

 この先死なないためにも、頑張っていくしかないのだから。


「はい! お願いします!」


ーーー


「今日はここまでかな」


 打ち合いの中、リディが突然剣を下ろしてそう言った。

 彼の指導はいつも唐突に終わる。なにか彼の中にそういう基準があるのだろうか。


「ハァ、ハァ……ありがとう、ございました……」


「うん、飲み込みが早くて良いね」


「本当……ですか……?」


「センスはないけど、形にはなってるよ。イメージ力があるのかな、それともラルドにでも習ってた?」


「いえ、習ってないです」


 そういえば、ラルドは剣術一筋って感じで、あんまり体術は好んで教えようとしてなかった気がする。

 夜のヘイラに対しては体術を使っていたがな。

 ていうかセンスないって酷いな。


「ふーん、まあいいや。じゃあクロハ呼んできて」


「クロハって誰ですか?」


「ん? あの子だよ。君が助けた魔族の子」


「……いつの間に名前なんか聞いたんですか?」


「昨日だよ。ディンが王女様に説教くらってた時かな。ようやくまともに口を聞いてくれてね」


 そうか。少しは話すようになったのか……

 良かった。


「でも呼べって言われたって、僕まだ魔人語喋れないです」


「あー……じゃあ『ーー••ー•ーー•••ー』って言って」


「『ーー••ー•ーー•••ー』……ですか?」


「そうそう上手い上手い。じゃあよろしく〜」


 適当な物言いのリディは、伸びをしながら草むらに仰向けでバタリと倒れた。

 そしてそれに驚いた虫達が、草むらから勢いよく空へと飛び出していった。最悪だ、虫はダメだ。


 稽古の後だと改めて思うが、相変わらずこの人はオンオフのスイッチが激しい。

 この人がスパルタ教育するなんて、普段のチャラけた様子から誰が想像できようか。

 昨日なんか、酒場にいた女の子のスリーサイズ全部ドンピシャで当てたたんだぞ?

 もはや才能だ。


「わかりました。じゃあ呼んできます」


 リディに軽く一礼して、王女達がいる馬車の方へと歩く。

 運動の後だからか、湖から吹き付けるそよ風がやけに心地いい。こんなに自然を堪能したのは村でアインと過ごしてた時以来だ。

 主席入学なんて言っていたが、彼女は今頃うまくやっているだろうか。

 いや無理だろうな、あの性格だし。うん。


「クロハ〜! 『ーー••ー•ーー•••ー!!!』」


 馬車に向かってそう呼びかけると、客車からひょっこりと彼女が顔を出した。

 一昨日と比べて、だいぶ表情が柔らかくなった気がする。

 目の下のクマも、いくらか薄くなっている。


「リディアンが! 呼んでるよ!」


 体を大きく使って、リディのいる方を示す。これでなんとかわかってもらえるだろうか。

 言葉の壁というのはどうにも厄介だ。早く魔人語をマスターせねば。

 いや、その前にムスペル王国の言語も覚えないとか……


「あ、ちょ……」


 ようやく目を合わせてくれたかと思えば、彼女はすぐにそっぽを向いて、スタスタとリディの方へ歩いて行ってしまった。

 まあ、言いたいことが伝わっただけ良しとしよう。


「お疲れ、ディン」


 クロハに続いて客車から降りてきたセコウが、俺に向けてヒョイっと水筒を投げる。

 竹のような植物をくり抜いたものに、漆が塗られてあるお洒落な水筒だ。


「あっ、ありがとうございます!」


「遠慮するな。今から朝飯の支度するから、休んでるといい」


 セコウとはあまり喋る仲ではないのだが、ただ一つだけわかっていることがある。

 この人、めっちゃ気が効くし、優しい。

 いや、もう本当に優しい。普段はロジーやリディと話すことが多いせいか、余計にこの人の性格が良いものに見える。どうしてこの二人とつるんでいるというのに、これほどマトモなのだろう。


 あの二人だぞ? デリカシーを母親の腹に忘れてきた男と、レトロヤンキーだぞ?

 第一印象でねちっこいインテリ眼鏡をイメージしていた俺を殴りたい。


「朝食の用意なら僕も手伝いますよ!」


「そうか? じゃあお言葉に甘えるよ」


 よっしゃ。

 ディフォーゼの厨房でこっそり鍛えた俺の料理スキルを見せてやる。

 


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