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第43話 成長の兆し


「昼間だってのに、結構人いるもんですね」


「少し前に冒険者の大規模招集があったからな。みんな大金が入って浮かれてんだろーよ、暇人どもめ」


 賑やかな酒場の入り口付近のテーブル席で深いため息を漏らしながら、ロジーは杯を傾ける。


「大規模招集?」


「魔物が繁殖期に入ったから、国をあげて駆除したんだとさ」


 そう言って、ロジーは空になった杯を叩きつける様にテーブルに下ろす。

 それなりに広いテーブルを取ったつもりだったが、気づけばその三分の一の面積は、ロジーの飲み干した杯で埋め尽くされている。

 5……9……今ので10杯目だ。

 どんだけ飲むんだよ。


「へ〜、そういうのって騎士団の仕事かと思ってました」


「おーい姉ちゃーん! もう一杯頼むわー!

 ……アスガルズは魔大国連盟とバチバチだからな。下手に戦力は割けねえんだろ。

 ……ったく、何が聖戦だよ、アホ信者どもが」


 ロジーは舌打ちをしながら、新たに運ばれてきた杯をその手に取る。これで11杯目だ。


「なるほど……」


 ロジーにつられて、俺も杯を傾ける。


 思っていたよりこの世界の酒は美味い。流石に『金の麦』や『某キリンさん』までとはいかないが……

 それよりも1番驚いたのは、未成年でも普通に酒を飲めることだな。

 大抵のやつは不味いとか言って飲まないらしいが。


「しっかし、遅えな……」


「ですね……」


 二人揃って酒場の奥のカウンターに目線をやる。

 そこにいるのは、何人かの怪しい男達と楽しそうに話しているリディだ。


「結構長いですけど、リディさんは何を話してるんですか?」


「あ? 情報収集だよ。よく考えてみろ、なんで普通の酒場じゃなくて、冒険者ギルドが真上の階にある酒場に来たか。

 ……よくそんな頭で俺に勝てたな」


 ロジーの口調がどんどん荒くなっている。

 それもそうか、ジョッキ11杯もがぶ飲みしてりゃ、流石に酔いが回ってくる。

 あとお会計の方も心配だ。


「あはは……冒険者の情報網って広いんですね」


 気が短くなっているロジーを刺激しないよう、当たり障りのない返事をして笑う。

 次喧嘩にでもなったら、今度こそ俺はミンチにされるだろうからな。まあもしそうなれば、事後に匍匐として寝込みを襲うだけだが。


「冒険者の情報網は結構広いぞ。あいつら行動範囲が広いからな。どこに行ってもうじゃうじゃいやがるから、下級の魔物みてぇだよ。ハハっ!」


「なんの情報集めてるんですか? 世間話的な?」


「はぁ……追手のことだよ」


 俺の問いに、ロジーが目を細めて頭を落とす。


 そんなため息つくことはないだろ。俺だって整理することが多くて混乱してるんだから。


「追手が……もう来てるんですか?」


「それを確認してるんだよ。俺らは王女を連れて移動してるからな。王女の体調に合わせて休憩取ったり、食材補充したりで、移動効率が悪い。先回りされててもおかしくないんだよ」


「あー……そういう」


 頼むからこのまま何事もなく進んでくれ……

 ただでさえ、目の前のロジー1人にだって勝てないのに……それと同じくらい強い奴が何人も来るとか無理だ。


「おいそこのガキ二人ぃ! お前らも冒険者か?」


 ロジーと話していると、急に近くの席に座っていた酒気帯びの男達が絡んできた。少し前から俺達をジロジロと見つめていた奴らだ。

 見た目の貫禄とは反対に、かなり出来上がっているようで、顔は紅潮し、足取りはおぼつかなく、酒臭い息がこちらまで届いてきそうだ。

  

「あ゛? だったらなんだよ」


 男達の問いに、露骨に顔を顰めるロジー。

 相変わらずガラが悪い。これが不良漫画なら、ロジーの顔の横に『!?』みたいな記号が出てそうだ。

 そんなにガキと言われるのが嫌なのだろうか。ロジーは一応成人だが、17歳なら前の世界でいうと全然ガキなんだけどな。


「ロジーさん、酔っ払い相手にそんなカリカリしないでくださいよ……」


「……」


 ロジーは返事をしない。

 ただ静かに、男達を見据えるように睨んでいる。

 あるいは酔いで目が据わっているだけなのだろうか。


「見ねえ顔だな。 新入りなら俺たちの所に挨拶ぐらいこ……ぐふっ!」


 得意そうに俺達を見下ろしながら喋る男の額に、ロジーの持っていた空の杯が直撃する。 

 剣を射出した時といい、なんとも真っ直ぐで美しい軌道だ。


「おい! てめえ、うちのリーダーに何しやがる!」


 周囲が一瞬静まり返り、ざわつき出した。


「へへっ、何って挨拶だよ。お前ら酒好きだろ? 俺からのお近づきの印だよ」


 ケタケタとロジーが笑う。

 一瞬大人しかったから、男達をシカトするつもりなのかと思っていたが、どうやら違ったらしい。

 痛恨のミスだ。すぐにでも止めるべきだった。


「随分舐めたことしてくれるじゃねえか……俺達が誰だかわかってんのか?」


 取り巻きの一人が俺達を睨む。

 誰も疑問に思ってないようだが、なぜ俺まで当然のように巻き込まれているのだろうか。

 勘弁してくれ、トラブルに巻き込まれるのは、メガネの似合う小さな名探偵だけで充分だ。


「うるっっっせえな! もっと離れて喋れ。小便臭えんだよ!

 あーやだやだ、これだから冒険者は。香水の一つも使えねえのか?

 あ、それともそれが香水か? 魔物の小便でもつけてんのか? ッハハハハハ!」


 ロジーめ……完全に自分達が冒険者っていう設定なの忘れてるな。

 その口だと俺らまで臭えことになるじゃねえか。俺はフローラルの香り漂う美男子だぞ。


 ていうか、ここでトラブル起こすのはまずいよな……止めたほうがいいのだろうか。

 いや、そんなこと言っても無理だけどな。俺がぶん殴られて終わりだ。

 親父にだってぶたれたことがない俺が、ここでぶたれるわけにはいかない。


「ッ……てめぇ、言わせておけば……」


 ロジーの単調な煽りに顔の血管を隆起せた男が、一歩前へと踏み出す。

 凄まじい覇気だ。ただの一歩でさえ、地響きが起こったのではないかと思わせるほどだ。


「おっとっと、喧嘩はよそうぜ? 怪我人が出るぞ?」


「あ゛……? 誰が怪我するって……?」


「お前じゃこいつにすら敵わねえって言ってんだよ。小便パーティーがよぉ〜」


 ロジーがそう言って俺を指差す。

 それと同時に、俺の酔いは一瞬で醒め、顔からは血の気がひいた。


「は……? え、ちょっとぉ?」


 聴き間違いだろうか。

 ロジーは、俺がこの巨漢に勝てると言った気がしたが。


「はん、言うじゃねえか!

 俺がそのガキに勝てねえだ? 笑わせる!」


 ロジーに杯をぶつけられた男とその取り巻きが、俺を睨め付ける。


「そう言ってんだろ、しつけーな。そんなに自信があるなら表出ろよ……ひっく」


「いいぜ、立てよ」


 ロジーが席を立ち、男達と出口へ向かっていく。


「何してんだディン! お前も行くぞ!」


 ロジーが席まで戻ってきて、俺の手を掴む。


「え、いや、あの……」


「何座ってんだよ、早く行くぞ!」


 当然、この歳じゃ腕力で抵抗できるはずもなく、俺は店の外へと引きずり出されるのだった。


ーーー


「おいディン! 今朝隊長に習った技もちゃんと使えよ?」


 歓声の中、杯を片手にロジーが大声で俺にそう言った。


 酒場の前には、剣を構えて向かい合った俺達を中心にギャラリーが集まっており、いつの間にかお祭り騒ぎだ。


「泣いて詫びても遅いからな? 坊主」


 目の前には俺の2、3倍ほどでかい大男。

 酒場ででかい顔してただけあって、めちゃくちゃ強そうだ。

 殺し合いじゃないからまだいいが、こんな熊みたいなのと決闘しろなんて、無理もいいとこだ。


 最悪だよ。

 なんでこんなことになった? そもそも任務中だろ。

 なんでロジーはあんなになるまで酒飲んだんだよ。

 しかも決闘って正々堂々ってことだろ?

 ふざけんなよ、今までの闘いで俺が正々堂々と勝利したのって、社交会でラトーナにちょっかいかけた王子とやり合った時だけだぞ?

 いや、なんかそう考えたら笑えてくるな。


「殺すのは禁止! 小細工なしの一対一だ。さあ、両者剣を構えろ!!」


 いつの間にかレフェリーまでいるし。

 誰なんだよこのおっさん……


「お前の次はあの赤髪だ」

 

 剣を構えた男がニタリと笑う。

 そのセリフと体格。誰とは言わないが、グラグラヤミヤミしているおじさんの姿が俺の頭の中に浮かんだ。


「……お手柔らかにお願いします」


 魔術だけならまだしも、今回はリディに教わったことも使えとは……面倒くさいなぁ。


 あ……そういえば、俺がリディに何を習ったか話してなかったな。

 あれはそう、昨日の初めての顔合わせが終わった後のことだ……


ーーー


「よし、じゃあ打ち合わせはこれで終わり。かいさーん!」


 そう言って、リディがパンと手を叩く。


「お疲れ様っした」


「じゃあ私は寝ます」


 ロジーとセコウが部屋に戻っていき、俺も部屋に戻ろうと席を立つと。


「あー、ディン。ちょっとちょっと」


 席を立った俺に、椅子に座ったままのリディがひらひらと手招きをする。

 どかりと足を机の上に置いて……相変わらず姿勢が悪い。


「なんですか?」


「えっとね……」


 何かを言いかけて、口をつぐむリディ。

 この人が言葉に詰まってるのを見るのは、なんだか違和感がある。ベラベラと喋ってるイメージが強いからだろうか。


「なんですか?」


「……最初に会った時にさ、道中で俺が鍛えるって話したよね?」


「え、まあ。はい」


「早速明日からやるけどさ、色々先に話しておこうと思ってね」


 明日は早朝から出発。馬を休ませてる時とかの隙間時間に指導をするのだろうか。


「はい。なんですか?」


「近接は苦手?」


「はい!」


「じゃあ、どんな対策してるの?」


 どんな対策か。言われてみれば、これと言った対策はしていなかった気がする。

 近距離での戦闘に持ち込まれた時は、泥沼や流砂で対応していたが……あれは自分の足場も奪うからあまり使えないし。

 剣術も中途半端だしな。


「……やっぱりね。今日もロジーとの闘い見て思ったけどさ。ディンって半端なんだよね」


「ぐ……」


 半端……前世でもそんな生き方をしてきたせいか、かなり刺さる言葉だ。


「そもそも魔術師っていうのはディンほど前に出ない。普通は前衛を置くか、隠れて死角から攻撃する。

 前に出てる奴らもいるにはいるけど、そういうのは大体魔剣士か、近接対策をしているよ」


 思えばそうだよな。

 アインとの修行でも、剣の勝負になると勝てないから、魔術使って中途半端な距離感で戦ってた。

 ヒットアンドアウェイ的なやつだ。

 社交界の時だってそうだ。あんなギリギリのやり方でよく勝ててたもんだ。


「つまり、近接の対策を教えるってことですか?」


「そういうこと。で、聞きたかったのはその先」


「先?」


「ディンは『停進流』と『瞞着流』どっちを使いたい?」


 たしか、俺がラルドに習ってた『疾風流』と並ぶ剣術の三大流派だよな?


「あんまり詳しくないので、どっちが良いかと言われましても……」


「うーんとね…………」


 顎に手を当てるリディ。たかが流派の説明でそんなに悩むものだろうか。


「?……」


「いや、やっぱいいや! ディンは瞞着流でいこう!」


 そう言って彼は、パチンと指を鳴らした。


「は!? なんですかそれ、真面目にやってくださいよ!」


「真面目だよ。おそらく停進流はディンに向いてない」


「?……」


「まあやってみればわかるよ。それじゃおやすみ〜」


「えぇ……」


ーーー


 という経緯で、俺は今朝から瞞着流の指導をリディから受けているのだ。


 最初は色々思うところがあったが、実際に習ってみると、リディの言葉の真意がよくわかる。


「それでは始め!」


 レフェリーの手が振り下ろされると同時に、男が俺に向かって突進してくる。

 まるで獣だ。


「うおおおおお!!」


 雄叫びを上げながら、俺目がけて勢いよく剣を振り下ろす男。

 見上げるほどの巨体から繰り出されるその一撃は、こんな小さい身体じゃ受けられないだろう。

 あくまで、マトモに受けたらの話だが。

 

「ほっ!」


 素早く身体強化を全開にし、真っ直ぐ振り下ろされた一撃にそっと剣の腹を添えて、それを斜めに傾ける。


「うおッッッ!?」


 俺の脳天を捉えていた男の剣は火花を散らしながら俺の剣の腹を滑り、そのまま煉瓦の地面に激しく打ち下ろされた。


「うわっ……すげえ威力……」


 轟音と共に煉瓦の道路にはクレーターが生じ、周囲には砂埃が舞う。


「雫葉か!?」


 剣を受け流された男が、目を見開いてそう言った。


 瞞着流でまず最初に習う型『雫葉』

 ただの受け流し技だが、極めればリディ曰くどんな攻撃からも身を守れる万能の型だそうだ。

 

 近接での防御力。

 まさに今の俺に足りていないものだ。リディがこの流派を選ぶわけだ。


 驚いたろ?

 この俺がまともに近接戦やってんだぜ?

 習得まで、約半日もかかってしまったがな。

 掌は既にマメだらけだ。


「正解です、まだ付け焼き刃ですがね。そちらは剣聖流ですか?」


 応答と共に、この砂埃に乗じて男との距離を取る。

 今の受け流しは成功したが、所詮は相手が酔っ払っていて、動きが見切れていたからにすぎない。

 次も同じようにいくとは限らない。この剣術はあくまで保険だ。

 俺は魔術師、距離感を忘れてはいけない。


「驚いたな坊主。俺が剣聖流ってわかるのか?」


 剣聖流……対魔物特化の剣術であり。主に冒険者が好んで使う。

 特筆すべきはその威力。大振りな動作や、でかい溜めがネックに見えるが、その一撃は強力無比。対人性の低さにより瞞着流が台頭するまでは、これが三大流派の一角だった。

 って、前にラルドが言ってたな。


「まあ、わかると言っても少しですが。

 ていうか今の威力、当たってたら間違いなく死んでたんですが」


「ハハハッ、悪いな坊主。酔ってて加減が難しくてよ〜」


 何が『ハハハッ』だ。絶対殺る気満々だったろ。

 ふざけんなよ、何考えてんだこいつ。人殺しだぞ?


「そっちがそうくるなら、僕も手加減しませんよ……」

 

 この調子で勝負が続くと流石に危険だ。

 強引に終わらせてやる。


「言うじゃねか坊主。ならおめえをさっさとぶちのめして、あいつが悔しがる顔を見たーー」


ーー土壁ーー


 男が喋り終えぬ内に魔術を発動。

 彼の足元が激しく隆起し、その勢いで男の巨体がほんの少しだけ宙に浮く。


「うお! 魔術だと!?……いつの間に!?」


 ギャラリーの足元を経由して、男の足元にこっそりと魔術起動の配線を伸ばす。

 これなら速度を意識せずに、じっくりと魔法の発動用意ができる。


 全くバカだな。

 お前がベラベラと話してる間に、死角から魔力回路を伸ばしてたんだよ。

 酔ってなきゃ、こんなのすぐ避けられただろうに。


 流石にその巨体で踏ん張られたら、ある程度本気の風魔法で吹き飛ばす必要があるからな。

 それは危ないし、怪我じゃ済まないので避けたかった。

 誤算としては、こいつが重すぎて、俺の土魔術でも大したに打ち上げられなかったことぐらいだ。


ーー旋風弾(ウィンドブラスト)!ーー


 宙に浮いた男に、すかさず手をかざす。


 掌から放たれた暴風が、男の巨大を巻き込んでギャラリーの間を通り抜けていく。


「おぉぉぉぉぉーーーーーーーッ!?」


「リーダぁぁぁぁぁ!!」


 酒場の壁をぶち破りながら店奥に吹っ飛んでいった男に、取り巻き達が駆け寄る。


「うぅ……痛え……」


「あ! リーダーしっかり!!!」


 取り巻きの男達は聞き迫る表情だ。

 全く、いい仲間を持ってるじゃねえか。


「……じっ、場外! 少年の勝利ぃぃぃい!!!」


 一瞬呆気に取られていたレフェリーが我にかえり、俺の元へと駆け寄ってきて手を持ち上げると数秒後、どっと歓声が湧いた。


「すげぇぇぇえぇぇえ!」


「ウぉぉぉぉぉ!

 お前に賭けて良かったァァ!」


「A級冒険者にガキが勝ったぞォォォ!」


「いいぞガキ!」


 おい、誰だ今賭けたって言ってたやつ。バッチリ聴こえてんぞ。

 

「よくやった! ディン!」


 歓声の中、大量の銅貨を抱えながら、満面の笑みでロジーがこちらに駆け寄ってきた。


「その銅貨……」


 なるほど。どうやら賭けを始めたのはロジーのようだ。

 こいつ、一稼ぎするために俺を利用しやがった……


「僕にも分け前ありますよね?」


「あ? あるわけねえだろぶっ飛ばすぞ!! こりゃ全部俺のだ!!!」


「はあ!? なんですかケチ臭いですね!

 いい大人が子供を小遣い稼ぎの出汁にした癖に!」


「へっ、騙されたやつが悪いんだよ! さーて、この金で何しよっかなぁ〜」


「あ……」


 気づくと、嫌味たらしくニマニマと笑うロジーの背後に人影があった。

 ここ最近見慣れた長身の人影だ。


「やあ、随分楽しそうだね」


 その人影は、ロジーの肩にポンと手を乗せながら、抑揚ない不気味な声でそう言った。


「へへ、そうなんすよ〜。大金が手に入ったもんでね? これからパーっと使おうと!」


「ロジーさん、後ろ後ろ!」


 彼は大量の銅貨に夢中で、背後の存在に気づいてないようだ。


「あ? 誰がそんな簡単な罠に乗るかよ!」


 違う。

 騙しじゃない、忠告してるんだ。


「その金を……どうするの?」


 人影また口を開く。


「例えば酒場で女の子にばら撒いたりとか〜」


「ロジーさん!」


「んだよしつけえぞッッッ!

 後ろがどうだ……って…………あぁ……」


 ようやく振り向いたロジーの顔が、一瞬にして青ざめた。

 さっきまでは酔いで顔は真っ赤だったのに……まるで信号機みたいだ。


「隊長……でしたか……」


 そう、ロジーの後ろに立っていたのはリディだ。


「そうだね、俺だね。ところでディン」


「ひっ……はい!」


 無機質な声から打って変わって、今度は明るい声でリディが俺の名を呼ぶ。

 怖い怖い。声音に反して目が笑ってない……


「この騒ぎ、何?」


「ぜっ、全部ロジーさんに無理やりやらされました!!」


「え……おいお前っ!」


 あばよ、ロジー。お前はここで終わりだ。

 せめて分前をくれれば庇ってやったのに。


「ロジー」


「はい! なんでしょうか隊長!」


 リディの遮りで、ロジーがピシリと姿勢を正す。

 まるで背中に棒でも入れてるのかってほどの、真っ直ぐな姿勢だ。


「とりあえず、二人とも後でゆっくり話そうか」


「うっす……」


「え、僕も……?」

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