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第42話 前夜



「はい、チーズ!」


 右手で土魔術、左手で火魔術発動しながら、目を閉じてそう叫ぶと次の瞬間、凄まじい破裂音が周囲に響いた。


「ア゛ア゛ア゛アアァァッッッ!!」


 破裂音が聞こえてから数秒後、酷い耳鳴りと暗闇の中から、ぼんやりと叫び声が聞こえた。

 ロジーの声だ。

 どうやら魔術は成功したらしい。


 そっと目を開く。

 そこには、目と耳を押さえながら千鳥足でふらついているロジーの姿があった。


「そこまで!」


 リディが手を挙げて叫びながら、こちらに走ってきた。


「いや〜凄い光だったね。壁に阻まれてよく見えなかったけど、何したの?」


「はえ!?」


 耳に手を当てて、大声でリディに聞き返す。

 耳鳴りのせいで、彼が何を言ったのかうまく聞き取れなかった。


「何を! したの!?」


 リディが深く息を吸い込んで、大きく口を開ける。

 側から見たら、まるでボケ老人の会話だ。


「ああ! ちょっと! 強い光を浴びせただけです!」


 金属マグネシウムに火をつけると、強い光を放ちながら燃焼する。日本人なら誰しもが中学の理科で習うであろう現象だ。


「光!?」


「ロジーさんは挑発のつもりで! 僕が攻撃を放つのを見てから、攻撃を避けようとしていたんですよ!

 だから! それを逆手に取りました!」


 土魔術で出した大量のマグネシウム粉と、大量の火薬、そして火魔術による着火。

 日中とはいえ、光源を直視したのだ。

 失明とまでは行かずとも、しばらく相手の視界を奪う事はできるはずだ。

 

 とりあえず、インスタント閃光弾と名付けよう。


「へえー! じゃあ! さっき出した土の壁は! 後ろにいた俺らに! 光を当てないため?!」


「ご名答です! リディさん! あ、あと耳鳴り治ったので普通の音量で良いです」


「え、あ、うん……」


 なんでちょっとがっかりしたような顔をしているのだろうか。


「……しかし面白い事するね。光の魔術なんて見た事ないよ」


「あはは……」


「うぅぅ……誰か……目が……ぁ」


 地面に膝をついてよろめていたムスカ……じゃなくてロジーが、情けない声を漏らす。


「あ! そうでしたすいません!!!」


 俺は急いでロジーのもとに駆け寄り、治癒魔術の詠唱を始めた。


ーーー


「すいません……しばらく安静にしていて下さい」


 治療を無事に終え、土魔術で椅子を作り、ロジーをそこに座らせる。


「あ、ああ……悪いな……」


「いえ……僕がやったことですから」


 閃光弾による目のダメージは予想以上に大きかった。

 どうやら身体強化で視力含めた五感を高めていたのが、ダメージ増加の原因らしい。

 思わぬ収穫だ。この技は、身体強化の精度が高い奴にほど、良く効くということなのだから。


「よし! じゃあ決闘も終わった事だし。宿に戻って〝ディンを加えた〟メンツで作戦会議するけど。いいよね?」


 静寂を切るようにして、リディが手を叩く。


「……約束でしたからね」


「全く素直じゃないなー! そんなに負けたのが悔しかった???」


 そう言って、笑いながらロジーの背中をバンバンと叩くリディ。

 彼にはデリカシーというものがないのだろうか。

 

「じゃ、ホテル戻ろっか。そろそろセッちゃんがピリピリしてるだろうしね」


 セッちゃんって、セコウさんのことだよな……あの茶髪の眼鏡の人。



ーーー


「よし、みんな揃ったことだし、始めるよ」


 先程も入ったホテルの部屋。

 高級感に慣れてないというのもあるが、リディが真剣な声音のせいか、さっきよりも緊張する。

 今部屋にいるのは、俺、リディ、セコウ、ロジーの戦闘員だけだ。

 

「まずルートの確認だね。今俺達がいるのは、アスガルズ王国リニヅィオ領の最南端。ここからスタートして、最短でムスペル王国の王都を目指す」


 リディが机に広げられた大きな地図を指しながらそう言った。

 地図の縮尺がわからないからはっきりとしたことはわからないが、見た限りではかなりの長旅になりそうだ。


「移動は全て馬車、見張りは二人ずつ交代で行う。日が出ているうちはとにかく移動。

 宿はその場に〝良いの〟があればね」

  

 『宿が有れば』ということは、やはり野宿もあるってことか。

 

「大体はこんな感じ。で、1番重要なのは追手の襲撃だね」


「え、追手が来てるんですか!?」


「遅かれ早かれ来ると思うよ。影武者用意する時間なかったしね」


 護衛って、マジの護衛!?

 ジッパー能力で覚悟をキメたり、スーツを着て鎖を具現化するやつだろ!?

 てっきり、道中でのトラブルを防ぐお世話係的なのを想像していたのに……


「……そう、ですか」


「うんうん、そんで問題は追手の連中だね」


「……つまり?」


「恐らく、王子側についている〝守り手〟の隊長はいるね」


「守り手の隊長ってどれくらい強いんですか?」

 

「うーん……ロジーより少し強い感じかな。人にもよるけど」


 あ、そんなもん……じゃないわ。

 いや強いよ。

 さっきはロジーに勝ってたけど、あんなの実戦だったら初手で瞬殺されてた。

 そのロジーと似たようなやつが来るのか……


「ほ、他には?……」


「フィノース家の連中が出てくる可能性があるかな」


 フィノース•リニヤット。ミーミル四大貴族の一角かなんかで、たしか社交会襲撃の黒幕だ。


「フィノースって貴族ですよね? 傭兵でも雇ってるんですか?」


 貴族が追ってくるより、騎士団の隊長クラスが何人か追ってくるって言われる方が怖いかな。


「傭兵じゃないよ。フィノース系の分家の連中とかさ」


「そんなに警戒する必要あるんですか?」


「ある。言っておくけど、四大貴族連中はかなり強いよ。なんなら分家や本家の当主は〝守り手〟の隊長より強いしね」


「え……」


 本人が追ってくるの……?

 もっとこう、貴族らしくさ?

 ねちっこい手で人を使って追ってくるのかと……


「知ってるかもしれないが、リニヤットは魔術の名門だ。それぞれが四つの属性を得意属性として、代々研鑽し、その技術や戦闘法を後世に残してきたからね。

 舐めてかかると痛い目みるよ。まあ俺は余裕だけど」


 四大貴族がそれぞれの属性を研鑽してきたなら、ディフォーゼはかなりまずい状況なんじゃないか?

 アーベスは魔法使えないし、ラトーナも呪詛魔法極振りだし……誰もディフォーゼの技術を受け継げないじゃないか。分家はともかく、本家がそれでいいのか?

 弱体化してるってそう言う意味もあったのかな……?


「そんなのに勝てるんですか?」


「問題ないよ。 ロジーとセっちゃんも1番信頼できるかつ、1番勝てそうだからつれてきたんだ」


「なるほど……」


「そのセッちゃんってのやめてください」


 ヘラヘラと笑うリディの傍で、セコウが溜め息をつく。


「勿論ディン、君もだよ」


 そしてリディは、その溜め息をよそに続ける。


「僕もですか?」


「うん。例えばフィノース家が敵になったとして、彼らの強みは貴族ゆえの膨大な魔力量と、彼ら独自の魔術式だ」

  

 独自のってどんなのだろう。

 門外不出的な特殊技術だろうか?

 こう……奥義! とか言いそうなやつかな?

 

「なるほど」


「ロジーとセコウも魔力は高い方なんだけどね、流石に楽には勝てないから、真っ向勝負で有利なのは俺しかいなかった。でもディンなら、正面からやり合って勝てるだけの魔力量がある」


「そうなんですか?」


「気づいてないの? 君の魔力量、歳の割にかなり多いよ?」


 初耳なんだが。あれだろうか、転生特典のチートスキルが今更発言したのだろうか。


「そういうって、わかるんですか?」


「まあね。わざわざ調べずとも、君にはミーミル四大貴族の血と、死神の血が入ってる。魔力が多くてもおかしいことは何もない」


「え、そうなんすか!?」


 ロジーが突然声を上げて席を立つ。


「そうだよ。ディンの血は優秀だ。俺よりね」


「へぇ〜……そうなんすか」


 意外そうに俺の顔を見つめるロジー。

 社交会の時も思ったが、そんなに俺は庶民顔だろうか。

 ヘイラは明らかにお嬢様感あるし、ラルドだって見た目こそ若いが風格はある。

 そんな二人の息子なんだから、俺にもそういう、只者じゃないオーラがあるはずなんだけどな……


「とまあ、そんなわけで、まずはお互いに自分の能力を教え合おうか。その方が今後の連携とか組みやすいしね」


「わかりました」


「じゃあ俺から言うね。俺は結界魔術を無詠唱で使う。防音とか、対魔力用とかの結界も出せる。あと剣術もいける」


「無詠唱なんですか!?」


「えへへ、驚いたかい?まあ、無詠唱魔術を使う人間なんて、探せば結構いるけどね」


「へぇ……」


 そういえば魔術使ってる時詠唱してるの見なかったな……って、あ! 前にラルドが、結界魔術を無詠唱で扱える奴が一人いるっていってたな……あれはリディのことだったのか。


「じゃあ次はディンね」


「あ、はい。もうご存知かと思いますが、僕は5大属性全てを無詠唱で扱えます。基本的には土魔術と風魔術、混合魔術で戦うようにしてます。魔力まかせの大規模攻撃もできなくはないですが、巻き込んじゃったりするのであんまり使わないです。剣術は一応疾風流中級ですが、こんな体格だし正直近接は苦手です」

 

「混合魔術と言っても色々あるが、どんなのが使えるんだ?」


 セコウが眼鏡の位置を直しながらそう尋ねる。

 リディとは顔立ちが少し似ているのに、知的で真面目そうな人だ。

 眼鏡か? 眼鏡のせいなのか?


「えっと、濃い霧をだせるのと、足を奪う泥沼をだせるのと、砂嵐とか、目眩しに使う強い光を出せます。あとは軽い爆発を起こせたりします」


「光と爆発か。面白いな」


「ありがとうございます……でもまだ慣れてないんで実用性は低いです」


「ケッ……よく言うぜ、それで俺に勝ったくせに」


 少し拗ねたようにロジーが言った。

 良かった。

 皮肉をいう程度には、さっきのことは根に持ってないようだ。

 口は悪いけど、そんなに悪い人じゃないっぽいな。


「たしかに強力ですけど、発動に少しかかりますし、日中は効果が弱まりますし、対象との間に障害物があるとダメですし、発動者も少しダメージを受けます

 あとそもそも、相手がこっちを見ていてくれないと意味ないですしね。とにかく、使い勝手が悪いんですよ」


 ロジーがもろにフラッシュをくらったのは、攻撃をジャストのタイミングで避けようと俺を凝視していたからだ。

 あんな真剣白刃取りみたいな事やらずにガン逃げされたり、木の影に隠れられたりしてたらもう詰みだった。

 火薬とマグネシウムと、複数の物質を生成する分、発動も少し遅いしな。

 改善点は多い。


「と、僕はこんなもんです」


「なるほどね」


 リディがにこやかに相槌を打つ。


「興味深いな、後でまた詳しく聞かせてくれ」


 セコウは興味を持ってくれたようだ。

 なんだか少し嬉しい。


「はい! 喜んで!」


「……じゃあ次は俺だな」


 ロジーがそう言って、一枚の銅貨を取り出しながら席を立った。


 ようやくだ。

 ようやくあの訳の分からない能力の種明かしだ。


「俺の能力はーー」

 

四大貴族が研鑽してきた魔法。

フィノース•リニヤット →水属性

シビル•リニヤット   →土属性

リッシェ•リニヤット  →火属性

ディフォーゼ•リニヤット→風属性

ちなみに、雷属性がないのは、もともと雷は特級魔法で、それを魔法式として形に出来る者が現れたことによって普及しました。なので少し前までは基礎四大属性魔法でした。


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