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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第2章 逃亡篇

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第36話 突然



 空き小屋を見つけた。

 近くに人気もない。

 体もボロボロでこれ以上逃げ切れそうにないので、そこに隠れることにした。


「ハァ……ハァ……」


 なんとか振り切ったとは思う。

 騎士達が見えなくなるぐらい離れてからは魔族の子も意識を取り戻りしたし、またっ喚き散らかす様な雰囲気でもないのでしばらくは隠れていても平気そうだ。


「痛え……」


 身体中の骨が軋むように痛い。慣れない身体強化を全開でやったからだろうか。

 

 ひとまずは治癒魔術で体を癒そう。

 治癒の光に照らされ、傷が癒やされていく中、ふと俺は今までのことを振り返る。


 なんだろうな。

 魔物に襲われた時、ラトーナの社交会の時、そして今回と、この世界に来てからは死にかける様な場面に遭ってばかりな気がする。

 この世界は前いた場所ほど治安がいいわけではないが、流石に高難度も危険な目に遭うのは俺の運が悪いのだろうか。


 そんなことを考えていたら治癒魔術が終わったので、俺は続けて土魔術を行使する。


 ーー土塞(アースフォートレス)ーー


 逃げ込んだ小屋の中を、内側からさらに土の防壁で覆う。

 防壁には空洞を作って二重構造にした、いわゆる防音壁だ。

 所詮は素人の俺が作ったそれだが、これで万が一少女が騒いでも、ダイレクトに音が漏れることはないだろう。


「さて、後は……」


 小屋の隅っこで蹲っている少女の方へと歩み寄る。

 まだ震えている。先程から何も喋らない。


「どこか、怪我とかしてないか?」


 しゃがんで少女に目線を合わせながら問う。


「•ー••ー•ー••ー•ーー••……」


 少女が口を開いたはいいものの、ぶつぶつと声が小さくて何を言っているのかは分からない。


 そもそも彼女が使っているのはおそらく魔人語なので声の大きさ以前に聞き取ることはできないがな。

 しかし服をひん剥いて傷を確かめるわけにもいかないので、念のため治癒魔術をかけておく。

 後で怪我が見つかったりでもして、手遅れなんてのは嫌だからな。


 蹲ったままの彼女に掌を向け、詠唱を始める。


「——これで終わりっと」

 

 詠唱を終えても彼女はぴくりとも動かない。

 そりゃそうか、目の前で母親が殺されたんだ。

 しばらくそっとしておいてあげ——


「あれ? 治癒魔術は無詠唱じゃないの?」


 突然背後から聞こえてきた男の声に、俺の背筋は一瞬で凍りついた。


「ッ!!!」


 咄嗟にその場から飛び去り、それと同時に土魔法で作った岩の砲弾を声のした方向に放つ。


「うお! びっくりしたぁ〜」


 しかし、勢いよく放たれた岩の砲弾は男を前にして不自然に砕け散る。

 まるで、何か見えない壁にぶつかったように。先程俺を殺そうとした騎士の剣が砕けた時のように。


「……誰、ですか?」


 小屋の入口が、岩の防壁ごとくり抜かれている。

 防音機能重視とはいえ、それなりに頑丈だったから破壊しようとすれば少しくらい物音がするはずなのに、話しかけられるまで気づかなかった……

 いや、それ以前に俺の岩砲弾が弾かれた?

 威力を抑えたとはいえ、当たれば木だって粉々にする程の威力なのに……

 これじゃまるでさっきの——


「あーごめん、驚かせちゃった? 治癒魔術を使い終わってから話しかけた方がいいと思って」


 身長は180くらいか……高いな。

 歳はわからないけど、結構若そうだ。

 特に変わった外見的特徴がないから純人族かな。


「どなたかと聞いているんです……」


「君、そんなんでいいの〜?」


 飄々とした態度で、男はピシッと俺を指さす。

 明らかに警戒の意を示している俺にも構わず、独特なプレッシャーを放つ男だ。


「……何がですか?」


 俺の問いに、男は少女を指さして答えた。


「真っ先に敵を狙うのも良いけどさ、もし複数とかで来られてたら1人を攻撃してるその隙に、その子人質に取られちゃってたよ?」


「!」


「土魔術を使ったまでは正しいけど、それは俺への攻撃じゃなくてその子を守るなり、隠すなりする為に使うべきじゃなかった? 初手がもう違うよ」


 さっきまでの飄々とした態度とは打って変わり、男の声は冷たかった。


「まあ、俺に気づいてなかったみたいだし、その時点で君は死んでるんだけどね」


「……」


「——って、ごめんごめん! そんな話じゃなかったね。なんだっけ?」


「……あなたが誰かと聞いてるんです」


 こいつ……さっき追ってきた奴らの中にはいなかった。

 新手か?


「俺? 俺はリディアン•リニヤット。さっき君を助けたナイスガイだよ」


「リニヤット……なんですか?」


「そうそう、元々はリッシェ•リニヤットの出なんだけどね。訳あってその名は捨てたの」


 俺の遠い親戚か。

  

「じゃあ、助けたってのは?」


「君も見てたでしょ? あの騎士の剣を防いだのは俺の結界魔術だよ」


 なるほど、あの見えない壁は結界魔術か。

 さっきの岩礫を弾いていたあたり、結界魔法を使ったっていうのは信用して良さそうだな。

 まあ、どのみちこんな状況じゃ信じるしかないがな。


「なるほど、ありがとうございます」


 いやでも、こいつはどこから俺のことを見てたんだ?

 それになんで助けた……?


「それよりさ」


「……なんですか?」


「そんな身構えてないで座ろうよ。立ち話もなんだしさ」


 そう言って、男は小屋にあった椅子を二つ並べてまるでソファにでも座るかのようにどかりと腰を下ろした。


「……」


「何? まだ警戒してんの?」


 あっけに取られて棒立ちだった俺を見て、男は眉を顰めた。


「……なんで僕を助けたんですか?」


「だ、か、ら! そう言う話含めて長くなるから、座ろうって言ったの。それに、そんな警戒されてても喋りにくいよ」


 男は目の前にあった机をバンバンと叩きながらそう言った。

 見た目に反して、とても子供染みた態度だ。


「君程度の子供を攻撃する隙なんていくらでもあったんだ。俺が何もしてない時点で危害を加える気がないのはわかるだろ? 早くこっちきてよ」


 こんな態度であるにも関わらず、彼には一切隙がない。

 そして気配の消し方のうまさ。

 こいつは強いのだろう、俺より遥かに……なら逆らっても無駄か。


「……わかりました」


 俺は着ていたコートを少女に被せ、男の前に椅子を持ってきてそれに座った。


「……まだなんかあるの?」


 小屋をの内装をキョロキョロと見回していた俺に対し、男は呆れたような声で尋ねる。


「いや、ここも安全じゃないから」


「そこは大丈夫。俺が外に結界張ったし、仮に見つかっても入ってこれないよ」


「そうですか」


 確かにさっきの結界は強力だった。

 魔力も残り少ないし、その言葉に甘えるとしよう。


「それじゃあ、落ち着いたみたいだし話そうか」


「はい……」


 一体この男の目的はなんなのだろうか。


 俺はゴクリと唾を飲んで、会話に臨んだ。


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