表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第2章 逃亡篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/240

第33話 遭遇


「よかったの? 買ってもらっちゃって……」


 店を出て大通りを歩きながらラトーナの表情を伺う。


「ええ、あのコートは私からのプレゼントよ」

  

 さっき服の値段をチラッと見たが、俺の大学の入学費と桁数が同じだったんだよな。

 それをホイホイと買えるなんて流石ラトーナさん! 俺に出来ないことを平然とやってのける! そこに痺れる! 憧れるぅ!


「じゃあ、お言葉に甘えて早速着させて貰うよ」


「え、今夏よ……?」


 確かに夏だが、体の表面の空気を風魔術で常に循環させれば、着れないことはない。


「!……」


 袖を通した時、フワリと頭がクラつくような香水の匂いがした。

 しばらくこの匂いは取れないだろうなぁ。


「ふぅ……なかなかお似合いです、ぼっちゃま」

 チューバでも入れるんじゃないかというほどの大きなケースを担いだザモアが、顔中に汗を浮かべながら笑いかけてくれた。


「本当に大丈夫ですか?」


「大丈夫よ! 私が強化の加護をつけてるんだから!」


 あ、そうなんだ……さすが無詠唱。気づかなかったぜ。


「お嬢様の加護がなければ、これほどのものは持てなかったでしょうな」


 成人男性が持てない重さって、どんだけだよ。


「結局何着ぐらい買ったの?」


「15着くらい? あと香水も何個か……」


「随分多い……ネ」


「なっ、ディンが可愛いって言うから……!」


「あはは……ラトーナはなんでも似合うからねぇ」


 だからと言って全部買うか? まあ、俺の金じゃないから知ったこっちゃないがな。


 それにしても……改めて周囲を見回すと、結構魔族を連れている貴族が多いな。


「ディン?」


 こう見ると、魔族に転生しなくて良かったなぁ……下手したら、俺があっち側になってた可能性だってあるんだもんな。

 転生早々奴隷確定とか、考えただけで恐ろしい……


「ディン!」


「うわっと……! はい何でしょう!?」


「次はどこにいく?」


「え、あー……ラトーナの行きたいところでいいよ」


 どこかと言われれば、俺は少しトイレに行きたいな。まぁ、そこまで急を要すわけじゃないから後回しでいいけど。


「本当? じゃあ……アレ!」


ーーー


「へぇ〜、ガラス細工ですか」


 ラトーナに連れられて入ったのは、ガラス細工などを扱っている小物店だった。

 この世界にしては、かなり精巧に作られているものが多くて中々に驚いた。


「お、分かるのか兄ちゃん。こいつはムスペル王国産のガラス細工だぜ?」


 俺の言葉を聞いた店主が、気さくに声をかけてきた。

 俺のいた世界じゃ、定員はここまでフランクじゃないから新鮮だ。


「ムスペル王国はガラス細工に造形が深いんですか?」


「おう、あそこの砂は質が良いからな! 世界中のステンドグラスやらガラスは、ほとんどあそこの砂と技術によるもんだぜ!!」


「へぇ〜」


「ディン! これどう?」


 店主の話に感心していたら、ラトーナがガラス細工の施された蝋燭立てを見せてきた。


「ふ、ラトーナの方が綺麗だよ」


「!?」


 あまりに無邪気な顔で駆け寄ってくるものだから、少し揶揄おうとそんなことを言ってみると、彼女は顔を真っ赤にしてモジモジと身を捩りしだした。

 俺の横では、店主が『ヒュー』と口笛を鳴らしている。

 どうやらラトーナは、こういう歯の浮くような言葉に弱いらしい。理知的に見えるが、案外ロマンチストなのだろうか。官能小説とか恋愛モノの本を好んで読んでたしな。

 だがそのギャップもいいな。積極的に使っていくとしよう。


「でもたしかに、この装飾も綺麗だね……」


「でしょ!? これ買うわ!!」


 そう言って、彼女は店の奥へとまた戻っていった。

 値札に原付バイクが買えそうな数字が書かれていた気がするが、見間違いだろうか。うん、きっとそうに違いない。


「あ……」


 そう思いながら、店内を見回していると、ふと、あるものが目に留まった。


「……ザモアさん」

 

「ぼっちゃま、先程も申し上げましたが、荷物ならわたくしが——」


「いえ、そうじゃなくてですね。アレを買おうと思っているのですが……」


 俺ザモアに耳打ちしながらガラス細工の髪飾りを指さした。


「ほう、あちらのお品をお嬢様に?」


 察しのいい人だ。いや、どう見ても女物だからわかるか。


「ええ、お金は渡すので良ければこっそり買っといてくれませんか?」


「勿論ですとも。しかしまた、何故私が?」


「彼女を驚かせたいっていうのと……」


「いうのと……?」


「僕ちょっと、もよおしてまして……」


「なるほど、それは火急ですか?」


「ええ、緊急事態です」


 もう少し我慢できると思っていたのだが、読み違えてしまったようだ。


「承知しました。厠は向かいの並びにある路地裏を抜けた先の宿屋です」


 いや遠いな。


「ありがとうございます」


 ザモアに軽く礼をして、俺は早々に店を出た。


ーーー


 リニヅィオ領の路地裏はとにかく暗い。

大通りとは対照的に、入り組んでいて、道幅も狭く、気味が悪いほど静かだ。


 靴の音が不規則に反響し、まるで誰かに跡をつけられている気分になる。


「思った以上に遠い……」


 これだけ入り組んでいると、ザモアの言った通りの道を通れているのか不安になる。

 全然路地を抜ける気配がないし——


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 突如、天を焦がすような絶叫が路地裏に響いた。

 いや、もしかしたら大通りまで響いていたかもしれない。

 声音は女児のそれ。

 しかし、女児が出したとは思えないほどに、大きな声だった。


「……なんだ?」


 俺は慌てて、声のする方へと走り出した。

 何故向かおうと思ったかはわからない。

 普段なら驚いて、その場から逃げ出していたことだろう。

 怖いもの見たさというやつなのだろうか。


「おい! 誰かこのガキを黙らせろ!!」


 狭い路地を夢中になって駆ける。

 男の怒声が聴こえると同時に叫び声は泣き声へと変わった。声の出どころが近い。


 入り組んだ路地を抜けた先には、公園とはまた別の空間が広がっていた。

 勢いよくそこに飛び出しそうになるのをなんとか抑え、俺は物陰に隠れる。

 

 路地裏にこんな開けた場所があったとは……


 俺はゆっくりと物陰から顔を出し、声のする方に視線をやる。


 心臓がキュッとなった。


 地面に蹲っている黒髪の子供、それに覆い被さる母らしき人物。

 そして、二人を取り囲む屈強な男達。その手には剣やら鞭、棍棒が握られている。

 奥の方には馬車や檻も見えるな。

 これは……人攫いの現場だ。


「あれ……?」


 しかし、人攫いと言い切るには少し引っかかる部分があった。

 なぜなら、彼女らを囲む男達の中には、幾人か騎士らしき人物も混ざっているのだ。

 どういうことなのだろう……


「やあ゛あ゛あ゛ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 少女の泣き叫ぶ声が、俺の脳を揺さぶる。


「おい! 母親なら黙らせろって言ってるんだよ!」


 耳に刺さるような絶叫を前に、男は地面を鞭で叩きながら、母親に怒鳴りつけた。


「ー••ー•ー••ー•ーーー•••ー•ー•ーー!!」


 それに対し、母親は娘に覆い被さったまま何かを叫んだ。

 言語は俺が聞いたことのないものだ。

 何語なのだろう……魔人語か?


「あ!? なにいってやがるん……だっ!!」


「•ーー••ー!!!」


 一向に泣き止まない少女を前に、男の怒りは沸点に達したのか、娘に被さる母親の訴えを無視して力一杯彼女を腹から蹴り上げた。


「!……」


 蹴り飛ばされた母親は血を吐きながら、苦しそうに娘の元へと這いずっている。


 この状況、二人を助けるべきだろうか……

 しかし、こうなった経緯を知らない以上、安易に手を出すのは良くないだろうか……


「うっへ〜きったねぇ……この靴はもう使えねえな」


 母親の吐いた血が付着した靴を見て、男は心底不快そうに、その靴を脱ぎ捨てた。


「あの子……」


 母親が離れたことで、子供の姿が初めて俺の視界に入った。


 思わず声を漏らしそうになった。

 この子には見覚えがある。

 黒髪で露出が多めの服、そして小さな赤い角。

 そうだよ、この子は以前、祭りで迷子になっていた子だ。

 母親のところまで連れて行ってたら、お礼に木の実をくれた……あの魔族の女の子だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ