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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第10章 魔大陸紀行〜黒き騎士の誕生〜

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第219話 背負う者達


 巨大樹からの急降下を阻むオオイタチ2体の対処によって浪費したほんの数秒、それがたった数秒にも関わらず、俺は自分の行動を激しく悔いた。

 たとえ2体の攻撃を受けてでもアセリアを襲う奴への対象を優先していれば……と、今更考えても仕方がないことばかりがつらつらと脳裏に浮かんでくる。


「くそおおおおおッッ!!!」


 最早アセリアを巻き込むかも、なんて考えもなく俺は、ただ目の前で起きようとしている惨劇を拒もうと上空から全力の魔術をぶつけようとした。


 そんな時だった。


「!」


 俺が構えるよりも早く、視界の端、森の奥から飛来してきた人影が、今まさにアセリアに踊りかかっていたオオイタチの首を飛ばした。

 

「先輩!!!!!!」


 そこから少しして俺は着地し、オオイタチの首から吹き出した鮮血をその身に浴びながら呆けているアセリアの元へ駆け寄った。


「先輩怪我は!?」


「ふぇ? あ、だっ、大丈夫……です……」


 ようやく現実に戻ってきたのか、彼女はよろよろと膝をついて声を震わせながら頷いた。

 良かった、見たところ確かに外傷はない。


 となれば、あとは……


 突然現れてアセリアの危機を救った人物に視線を向ける。

 エメラルドのような光沢を帯びた緑髪と、猛禽を思わせる鋭い目つきの青年。

 そして何より目を引くのは、その身の丈ほどの大剣……否、それは剣というにはあまりにも——って、違う! 今はそうじゃなくて!


『危ないところを助けていただき、感謝します』


 脳内に流れ出した定番のナレーションをなんとか振り払い、久しぶりの魔人語で彼に頭を下げると、淡々とした様子で大剣の血を払っていた青年が目を見開いた。


『! ライラル語を喋れるのか』


『むしろライラル語以外は点でダメですが……それよりも貴方の名前を教えていただけませんか?』


 緊張は表に出さず、努めて朗らかな態度を装う。

 出来るなら早急にここでこの男の所属を知っておきたい。

 単独なのか、仲間がいるのか、余所者に対する認識がどのようなものか次第では状況がさらに悪くなる可能性もある。

 見たところ、タイミングこそ良かったものの実力自体はそこまでのように思える。

 最悪を想定してアセリアを連れて逃げるシミュレーションをするべきだな。


『俺はアルク、旅人のアルクだ』


 ヒュンヒュンと大剣を回しながら背中にマウントしたついでとばかりに、ぶっきらぼうに青年は名乗る。

 なにそれ俺もやりたい。


『! そ、そうですか。私はディン、こちらはアセリアです』


 挨拶はともかく、あまりにも都合の良い展開に一瞬固まりつつも手を差し出して握手を交わす。

 無所属で単独とは、しかも言葉が通じるとはこれまた運がいい。毎朝寝ぼけたクロハに殴られていた分の幸運が巡ってきたな。


『ディンにアセリアか、こんな森で何をしていたんだ』


『中央都市を観光したかったのですが、この通り迷子になってしまいまして……そちらは何を?』


『……俺も中央都市を目指している最中だった』


 そして叫び声が聞こえたのでここに来たと、アルクはボソリと付け足した。

 

『そういうことでしたか、その節は本当にありがとうございました。お礼は近いうちに必ずさせていただきます』


『……気にするな』


 急に目線を逸らして言葉を詰まらせたアルク。

 あからさまにテンパった様子は感謝され慣れていないからなのか?

 主張のない態度は俺達を警戒している故かと思っていたが、コミュニケーションそのものが苦手ないタイプなのかもしれない。


 こういうタイプは押しに弱いので、俺はついでとばかりに中央都市までの同行を願い出てみると、あっさりと受け入れられた。

 全力自己PRの準備をしていたのが、余りにもすんなり過ぎて拍子抜けというか、逆に罠を疑う。


 とはいえ、現地ガイド兼戦力の確保は大きな成果だ。

 警戒は解かず、しばらくは様子見で行こうと思う。


『ではナビゲートとお願いします、アルク大先生!』


『だいせん……なんだ?』


『気にしなくて良いですよ。ディン君なりの信頼の表れです』


 アセリアの補足にアルクは首を傾げながら歩き出し、俺達もそれに続いた。


ーーー


 一時間後、俺達は樹海を抜けて平野を進んでいた。

 魔大陸という名に似合わぬほど済んだ青空と、青や白の花で溢れた美しい草原だ……

 なんて最初は思ったが、アルク曰くこの点在する花畑の一つ一つが魔物の一部だそうで、人が踏み入ると地面が口のように裂けて獲物を丸ごと飲み込んでしまうらしい。

 さっきのえらく強いイタチといい、油断も隙もあったものではないな。


「そういえば先輩、魔神語喋れたんですね。俺のとは違うやつみたいですけど……」


「クルシュ語という最もメジャーな魔人語です。子爵家以上は幼少期に教育されることがほとんどなので」


「はえー、すごいっすね……」


「表現がいくつか異なるくらいなので、ディン君のそれも似たようなものですよ」


「じゃあ俺も凄いということで」


「ふふ、そうですね。自慢の後輩です」


 現在、俺達は魔大国南東部から中央都市に向け移動している。

 俺の扱うライラル語はこの付近で使われているもので、いわゆる方言みたいなもののようだ。

 こっち風に見れば、外人がいきなり関西弁で流暢に話してくるくらいの違和感があったのだろう。どうりでみんな最初に面食らうわけだ。


『そういえば、アルクはどこの出身なんですか?』

 

 アセリアとばかり話していても良くないので、ここにきてアルクに話をふる。彼の情報がもっと欲しいというのもあるが、しばらく旅をする中なのだから親交を深めておいて損はない。


『俺は移動民族出身だ。どこで生まれたのかも、親の顔も知らない』


 おーっとさすが俺、くじ運の良さはばっちりだ。いきなり相手の地雷を踏み抜いちゃったよー???


『失礼、少々無遠慮でした』


『気にしてない。家族に興味は……いや、なんでもない』


 地雷を踏み抜いた上、そんな淡白なアルクの返しで会話は一瞬にして途切れてしまった。

 別に社交性に自信があったわけじゃないが、ここまで絡みづらい相手は初めてかも知れない。

 ここ最近はシーザーのやかましさに慣れていただけに、沈黙への違和感が半端なくて辛い。


 そこからしばらく微妙な空気のまま進み、急斜面に差し掛かった時だ。

 

『止まれ』


 低地を見下ろしたまま足を止め、浅く腰を落として背負った大剣に手をかけるアルク。

 何事かと思いそっと淵から顔を覗かせればなるほど……納得だ、数は10ほどか……ちょうど目下には低地を進む武装した集団の姿があったのだ。

 危なく、このまま崖を降れば鉢合わせる可能性があったというわけだ。


 見たところは爬虫類顔がほとんど、冒険者時代に世話になったバーバリアンと同じ小竜族リザードマンだろう。

 バーバリアンの話を思い出すに、彼らの一族はアスガルズだけでなくヨトヘイムとのいざこざも抱えていたはずだから、余所者……特に純人族には強い敵対心がある可能性が高い。


 幸い、こちらの存在はバレていないようだからこのまま大人しくやり過ご——


『てやああああああああッッッ!!!!』


「はあ!?」


 抜き足でその場を立ち去ろうとした直後、あろうことか大剣を大上段に構えたアルクが雄叫びをあげて目下の集団めがけて飛び降りたのだ。


『なっ! 敵襲や——ぐあぁッ!?』


 頭上からの奇襲で集団後方の一人を着地と同時に切り伏せ、集団の視線が自身に集まるのを待たずして近くの兵士に切り掛かっていくアルク。


 とはいえ相手も武装兵の集団。

 二人の兵士が斬られるうちに体制を整えて素早く包囲陣形を築いてアルクの動きを止めてみせた。


「ッ、助けなきゃ!」


「待って先輩!」


 たちまちピンチに陥ったアルクを助けようと早るアセリアを片手で有無を言わせず静止する。

 なぜアルクが奇襲を仕掛けたのか、改め彼らの関係性を把握できていないこの状況で介入するのは非常に迂闊だ。


『いきなりカチコミたあ、スジを弁えてないのぅおどれ。一体全体なんのつもりや』


 包囲を形成する内の一人、おそらくリーダーであろう一際大柄な槍兵が前に出た。

 ぱっと見でわかる体型もそうだが、纏う覇気は並の強者のそれではない。記憶に新しいのは、ヴェイリル王国で矛を交えた格軍のトップ達……あのレベルの猛者だ。


 迂闊に飛び出さなくて良かったと内心改めて自分の判断を褒めていると、何やらアルク達の方で興味深い会話が始まった。


『この時期に攻撃となれば決まっているだろう、〝ルエラーク〟の代表戦士。〝トンガス〟の名にかけ、お前を中央へは行かせない』


 包囲を全く意に返さず改めて大剣を構えるアルクに、リーダーの槍兵は片眉を吊り上げた。


『お前が〝トンガス〟の戦士ぃ? パーティーどころか馬も連れずにそないパチこいて……めくれんとでも思ったんか? 奇襲したんならせめてそのスジくらい通さんかい!』


 浅からぬ因縁があるように思えたが、どうやらアルクからの一方的な認知のようだ。

 そしてルエラーク、トンガス、代表戦士と続く単語に、「この時期の攻撃」が持つ意味……

 くそ、これじゃ情報が足りな過ぎる。ラトーナならこれだけでも何か掴めるのだろうが俺には無理だ。

 

『お前がどう取るかは俺の気にするところじゃない。特に、これから死ぬやつ奴はな』


『鉄砲玉風情がフかすやないか。二言はなさそうやのぉ……お前ら、下がっとき』


 しかし更なる情報を求める俺の意に反して、アルクと槍兵の戦いが始まってしまう。

 

『やあぁぁぁぁぁッ!!!』


 大剣を引きずりながら槍兵との距離を詰め、突進の勢いを剣に乗せたアルクのフルスイング。

 スピードはそれなり、なんなら俺以上かも知れないが……予備動作が見え見えで精細さを欠いた力任せな印象だ。

 

『スジが甘いわ!!!』


『ぐっ……!』


 当然ながら歴戦を思わせる相手の槍兵は危なげなくその一撃を見切ってかわし、カウンターとしてアルクの腹部に蹴りをぶち込んで吹っ飛ばした。


『口ほどにもないのう……今なら見逃したるわ、尻尾巻いてとっととワイの前から消えんかい!』


『ッ、せやあッッ!!!』


 余裕綽々といった態度の槍兵を前に奥歯を噛み締め、蛮勇にも再び挑みかかるアルク。

 上段に掲げた大剣を振り下ろし、対する槍兵はどっしりと構えた状態でその一撃を受け止めるが……

 

『ッ!? なんちゅう威力じゃ……!』


 大剣を受け止めた彼の足元が陥没したことで、思わず俺も槍兵も揃って目を見開いた。

 技術に全く釣り合わないずば抜けた身体能力……彼の種族、血筋に何か理由があるのだろうか。


『戦士というより獣や——なッ!!!』


『おッ!?』


 力の押し合いは不毛と判断したのか、槍兵は大剣をぬるりと真横に流しつつ背後に回り込む。

 構えを保ったままの槍兵に無防備な背中を晒してしまったアルク。

 まずいと思ったその時には、槍兵はすでに突きを放っていた。


『……ほう、反応するんかえ』


 あたりに鳴り響いた金属音と、派手に飛び散る火花。

 ギリギリのところでアルクは大剣を背面に回して盾がわりにその一刺しを防いだのだ。

 正直今の一瞬でアルクのことは諦めたのだが……存外まだやれるのかも——


『ま、そんでもおどれの負けや』


 そう思いかけた矢先だった。

 槍が大剣を貫いて、アルクの右肩甲骨あたりに深く突き刺さった。


『ッ!?!?!?』


 慌てて前方に飛び退いて距離を取ったアルクは、なぜか混乱した様子で槍兵と自分の大剣を交互に見つめている。

 無理もない、あれだけ分厚い鉄塊を貫かれたとあれば誰でも目を疑う。


「……っと、先輩?」


 肩に手をかけられて振り向けば、今にも泣きそうな表情のアセリアの顔があった。


「助けましょう、これ以上は彼が……」


「ダメ……いや、無理です」


 アセリアの気持ちはわかるが、ここで無闇に戦闘に割って入るのはデメリットが多過ぎる。

 俺達が加勢したところでこっちは三人に対し相手は八人だ。

 まともな戦闘はまず無理で、仮に撤退目的だとしても俺があのリーダーにかかりきりになるだろうから、残りの七人を二人が相手できるのか不安だ。

 さっきアセリアを失いかけたばかりだというのに、そんな危険なことできるわけがない。


「ッ、でもアルク君は恩人です……!」


「……」


「ディン君が行かないなら、私一人だけでも行きます……」


 説得虚しく、アセリアは俺の手を引き剥がして立ち上がる。

 おかしい、いつもの彼女ならもっと聞き分けが良いはず……

 そう、思えば蘇生したあたりからずっと様子がおかしいんだ。


 意味がわかんねえよ。

 手ぇ震えてんじゃねえか。

 お前が出てって何になるってんだよ……


「あーもう!」


「きゃっ!?」


 崖を降ろうとするアセリアの手を再び掴んで茂みに引き戻してそのまま押し倒す。


「あっ、あの……?」


「良いですか、俺が一人で出るんで大人しくしてて下さい」


「うぇ? あ、あの——」


「頼みますよ!」

 

 目を白黒させるアセリアの返事も待たずに、俺は彼女に念を押しつつ茂みを飛び出して急斜面を飛び越すように大ジャンプしてからのダイブ。


『退がれアルク!!!』


『ぬおぁッ! なんや!?』


 そのまま空中で槍兵目掛けてマシンガンをぶっ放しつつ、二人の間に割って入るように着地した。


『何もんやおどれェッ!』


『お控ぇなすってッ! あっしはしがない男前魔術師にござんす!』


 さて、勢いでノリを合わせてしまったのはともかく……どうやってこの場を切り抜けようか。


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