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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第1章 リニヤット家篇①

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第19話 ラトーナ•ディフォーゼ•リニヤット


 自分で言うのも変だけど、私は賢い人間だと思う。

 お母様の話だと、私は他の子よりも早くに喋り出したらしいし、四歳の頃には自分で本が読める様になっていた。


 召使たちが、お母様が、分家の人が、みんなが私を褒めてくれる。

 心地が良かった。けれど私は増長せず謙虚に大人しく振る舞っていた。

 だって、調子に乗った才人が行き着く先が破滅なのは、どの本の物語でも同じだったから。


 私には従兄弟がいない。本家の子供は私だけ。だから必然的に、お父様の次の当主は私になる。

 来るべき日に備えて、屋敷の人間との関係を良好に保てるように上手く立ち回ってきた方だと思う。


 けれど、それでも私の道には陰が差した。

 

 いつからだろうか。記憶の奥底にしまったので思い出せないが、私はある日を境に突然人の心が読めるようになった。

 と言っても、相手が何か喋った際に、その発言の裏に隠れた思考を読み取る程度のものだったけれど。


 それでも不快だった。

 誰かと話すたびに、嫉妬や恨みつらみの感情に晒されるのだから。 

 立場上仕方のないことだから。そう心では思っていてもやっぱり辛かった。


 私は次第に人嫌いになって、なんとかしてこの呪いを解くために図書室に籠るようになった。


 お母様の体には長耳族の血が濃く流れている。

 念話を使用できる長耳族の血が変異して、読心という形で私の体に現れたのだと思い、呪詛魔術と種族の歴史を中心に、色々と調べていった。


 そこでも悲劇は起きた。


 調査に行き詰まった私は、ふと好奇心から呪詛魔術に手を出した。

 家の決まりでは、魔術の教育は八歳からとされていたが、一年程度なら誤差だと思って私は単独で魔術を行使した。


 結果的に、魔術は成功した。『反射の呪詛』という、それが付与された対象に触れた物を弾き飛ばすという初級の呪詛魔術だ。

 まあ、本を見ながら詠唱しただけだから失敗などするはずないけれど。


 けれど問題はここからだった。

 他の五属性魔術などもやってみようと思い手を出してみたが、出来ないのだ。

 なんの魔術をやっても失敗する。ただ詠唱するだけで使えるはずの初級すらままならない。

 私は魔術を失ったのだ。


 ディフォーゼ•リニヤット。ミーミル王国四大貴族の一角であり、代々風の魔術を研鑽してきた格式高き一族。


 そんな家の長女である私は魔術を使えないのだ。

 周囲から迫る期待と、刻々と近づいてくる魔術教育が始まる時期に押し潰されそうになりながら、私は危機を脱する方法を模索した。


 でも結局解決策は見つからず、誰にも悩みを打ち明けることができなかった私は、自分に嘘をついて逃げることしか出来なかった。


 思春期真っ只中で家に反発する不安定な少女を演じて、私は逃げることだけに全神経を注いだ。


 先も見えずに走り続けるのは辛くて恐ろしかった。


 そんな時だ、私の歩く道に一筋の光が差したのだ。

 その少年はディンという名前だった。銀髪の髪と金色の瞳を宿した、女の子の様な顔をした少年だった。


 そんな彼を、父様は私の魔術の教師だと言った。

 私と同い年で頭が良く、魔術もできて容姿が整っている。

 私はそんな彼に激しい嫌悪感を抱いた。まごう事なき嫉妬だ。

 彼と私には二つの決定的な違いがあった。彼には貴族のしがらみがないし、何より魔術を使うことができる。


 そんな嫉妬に飲まれて、私はなんの苦労もしていなさそうなこの少年とは絶対に相入れないと思った。


ーーー


 そんな少年が私の元に訪ねてきた。

 運悪く、私は馬小屋の掃除をしている時で、彼に下着を見られてしまった。


 最悪だった。たかが布切れ一枚だったけど、それでも嫌いな奴に見られたという事実に耐えられなかった。


 翌日も訪ねてきたので、思い切り拒絶してやった。

 こういう顔のいいやつは今まで女に困ったことはないだろうから、全力で意地悪した。

 

 けれど大して効果はなく。『昔の上司よりマシだ』なんて意味のわからないことを内心で言っていた。


 結局、少年はどれだけ突き放しても私から離れなかった。


 いい加減我慢の限界で、だから一段と大きい声で彼を拒絶した。


 そしたらなんということか、彼は私に反発してきた。

 理由も話さず逃げてばかり、なんの捻りもない暴言を吐き続ける私を餓鬼だと言った。


 私は何も言い返せなかった。

 私と彼は同じじゃない。それどころか、私は知能の面で彼に遥かに劣っていた。


 悔しくて、色々なストレスも合わさって、溢れて、私はついに泣いてしまった。


 そんな情けない私に、彼は手を差し伸べてくれた。


 でもやはり私にもプライドがあって、本当のことを告げずに、嘘をついた。

 父に反発しているという嘘をついて、自分を少しでも良く見せようとした。


 彼はそんな私の力になると言ってくれた。

 ひどい罪悪感だった。

 虚勢と見栄のために嘘を吐く、私の嫌いな奴らと同じだ。

 吐き気がする。


 だからせめて、真面目に魔術と向き合おうと思った。

 そう、これは償いではない。あくまで自分自身のためだ。


ーーー


 彼は教えるのが上手かった。

 そして、何をやっても失敗する私に根気強く寄り添ってくれた。


 望んだ結果には至れなかったが、彼のおかげで私は魔術を取り戻すことが出来た。

 胸の中のモヤが少しだけ晴れた。

 今思えば、私はすでにこの時から彼……いやディンに惚れていたのかもしれない。


ーーー


 ディンに興味を持ち始めて、彼の普段の行動を観察するようになった。


 朝は剣士でもないのに剣を振って体を鍛え、昼間は私に魔術を教え、夜は勉強を欠かさない。

 彼は勤勉だった。なんの苦労もしていないだろうなんて予測していた私は、自分の浅はかさを恥じた。


ーーー


 屋敷の一日の中でディンと過ごす時間は次第に増えていき、私の世界には色彩が戻りつつあった。

 

 ディンとの会話は大人と話しているみたいでスムーズだし、何より気が合う。趣味も合う。

 対等な人間とちょっとしたことで心から笑い合う。私の求めていたものがそこにはあった。


ーーー

 

 ディンは社交会で他の女と性交渉しようとしていた。

 なんだか腹が立ったので、全力で妨害しようと思った。

 私は社交会に出る理由ができた。


ーーー


 社交会ではダンスの催し物がある。

 歴史ばかりを重んじて先を見ない貴族達のくだらない慣わしだ。

 

 どうせ結婚相手は親が決めるのに、ダンスで通じ合ったなんて建前を作るための、くだらない催し物。

 絶対に参加したくはないが、どうやらディンは私がそれに参加するよう促すことを父様から命令されたようだった。


 ディンの将来がかかった仕事だというのに、彼は私が得をするように、そして出来るだけ苦しまなくて済むような作戦を練っていた。

 

 ここだと思った。助けてもらって、貰ってばかりの私が彼に恩を返せる場所は。


 私は、一歩踏み出すことを決意したのだ。

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