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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第7章 机上の下剋上篇

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第177話 机上の下剋上


「ではこれより、マルス•ペレアス•ミーミルの名の下、審問会を開廷する」


 王宮の大講堂、百にも及ぶ聴講者の前で、国王は厳かに宣言した。

 北側に王と議長席、そして東西それぞれには罰を与えられる問題の当事者が立ち、それを南側に立つ聴講者が見届ける。純白に統一されたこの空間は断罪の間。

 かつて英雄王、イェン•ペレアスミーミルが、戦争特需によって腐敗した大臣を一人残らず弾劾した逸話の残る空間。

 その名残から、王家を立会人として、三権の一角である四大貴族主導の下、国の重要事案が扱われる。


「進行は我々フィノース家が務めさせていただく」


 最奥にして、最も高い位置に座す国王の手前の議長席に立つ男、トリトン•フィノース•リニヤットがガベルを叩くと同時に、東西両脇の長机に立つ者達が起立した。


「被告、古式魔術研究室には、現代魔術研究室の開発した特級魔導具『氷須』を強奪、及びその技術を不当に模倣した疑いがかけられている。これに関して、異議はあるか」


 議長トリトンの目線が、東側に立つ筋骨隆々な巨漢、古式魔術研室長兼、魔術科学長のハドラー・ル・ヴィクトンに向けられた。


 静まり返った法廷の中で、ハドラーは深いため息を漏らしながら、議長の質問に対して口を開いた。


「うぉほん! えー……被害妄想甚だしいと言いましょうか。我々の開発した魔導具は先も申し上げた通り、古式魔術である刻印魔術の体系を利用して組み上げた術式が使用されているため、現代魔術研究室のそれとは無関係。これは魔術ギルドにも保証されています」


 最早言い飽きたという様子で、ハドラーはツラツラとそう述べる。

 おそらくここに至るまでに何度も受けたであろう追及。その全てに同じ対応をしてきたのだとわかるほどに、滑らかな口上であった。


「原告、現代魔術研究室。今の返答に異議はあるか」


 議長の視線が、今度は西側に置かれた長机の最奥に立つ銀髪の少年に向く。

 

「異議あり。確かに刻印魔術には氷を生むものがありますが、そもそも刻印魔術というものは刻印を刻んだ本人しかその魔術を行使できません。論理が破堤しています」


 少年グリムは、重圧の中で冷静にそう主張する。

 詠唱魔術は詠唱を唱えた本人のみがその効果を行使出来るように、刻印魔術は文字を刻んだ本人がそれに魔力を流すことによってのみ、発動する魔術である。それは何十年も前に古式魔術研究室によって発表された、魔術のルール、大前提である。


「古式魔術研究室」


「これもまた申し上げた筈ですが、我々はその前提を覆す術式を開発し、ギルドからの承認を得ています。論理性は保たれているかと」


「ギルドからの証明書は、たしかにこの手に届いている。偽装でないことは、このトリトン•フィノース•リニヤットの名の下に保証しよう」


 その返答を受け、グリムことディンは薄っすらと笑みを浮かべた。


「では、ここでそれが真実か証明しようではありませんか」


 そう言ってディンが手を叩いて合図を送ると、南側にある部屋唯一の入り口が開き、そこから台車に乗った二つの魔導具が運び込まれて来た。


「こちらそれぞれ、我々の開発した魔導具とそちら古式研の開発した魔導具です」


 ディンはそう言って席を離れて台車の元まで歩き、魔導具の片方を手に取った。


「我々の魔導具は炎と水の混合術式で起動しています。よって、炎魔術を阻害する結界の中では魔導具は効果を発揮しません。それをこの場で互いに実践すれば、どちらも我々の術式を用いた魔導具だと、ハッキリするでしょう。構いませんよね、議長殿」


「うむ、許可しよう。ただし、公平性のため、互いの実証はこちらの者が行うが、異存ないな?」


「はい」


「古式魔術研究室もまた、異存ないな?」


「はい」


 ハドラーの受諾によって、検証はすぐさま始まり、法廷の一部には炎を魔術を封じる結界が張られる。そしてその中にはそれぞれの魔導具を持った審問官が立って、同時に魔導具を起動することとなった。


 たとえ、古式研があらかじめ魔導具に刻印魔術を仕込んでいようと、文字を刻んだ人間以外が魔導具を起動するのだから、仕込みは発動しない。

 よって、魔導具から氷を生成することは出来ず、古式研の魔導具は現代魔術研の物と同じということになる。それが、ディンとアセリアが導き出した、証明法である。


「嘘だろ!?」


 しかし、逃れようがないと思っていた策は呆気なく破られ、ディンは思わず驚きの声を漏らした。

 結界の中では、古式研の魔導具だけが正常に起動したのである。


 すぐさま口を手で塞ぎ、平常心に戻ろうと全力で頭を回すディン。おそらく、審問官が古式研に買収されていたのだろうと結論付けた。

 実際は全く違う方法で、ハドラーが結界内に刻印魔術を起動したわけだが、それをディンが知る術は無いので、この場合は仮定であろうと思考に整理をつけるのが最善手なのである。


「これでハッキリしましたな。我々古式研の魔導具が複製品でないことが。お集まりの皆々様! どうぞ潔白が証明された我々の魔導具を商店にてお取り下さい!!」


「ま、まだです!!!」


 満足げな笑みを顔に貼り付けて、場を締めようとするどころか、宣伝を始めたハドラーの言葉を、ディンは慌てて遮った。


「おや、何が『まだ』なのですか?」


「審問官を交代させて、もう一度魔導具を起動させます」


 起動者が買収されているのならば、取り替えるまで。

 これには流石のハドラーも焦るかと考えたディンだったが、彼はすぐにそれを承諾した。


「は? なんで……」


 若干の余裕を取り戻していたディンの顔は、再び真っ青になった。

 審問官を入れ替えて、再度結界の中で魔導具を起動させても同じ結果となったのだ。


 ディンの中に走る緊張。ここで古式研を有罪にできなければ、カウンターを受けて更にこちらが不利益を被る可能性が高い。安くて多額の借金、最悪はラトーナの身になにか不幸が起きることだ。

 それだけはあってはいけない。そう思ったディンは、再び心を奮い立たせた。

 まだ策はある。一つ目が潰れただけの話。どこかの少年風に言うならば、たかだかメインカメラをやられただけなのだ。


「ははははは! 何を疑ったのか知りませんが、これ以上恥を晒す前に手を引くことをお勧めしますよ?」


「いいえ! 現代魔術研究室に所属していたカルロス氏が盗んだ我々の魔導具は、あなた方の元に渡っている疑いがあります!!!」


 誰が見ても苦し紛れだとわかるディンの追求に、ハドラーは鼻で笑いながら応えた。


「はて、カルロス……? 一体どなたのことですかな?」


 カルロスはあくまで音信不通となっており、書類上は現在も現代魔術研究室の所属となっている。よってハドラーはシラを切ることが出来る。

 それは当然、ディンも理解している。その上で、手を打っておいたのだ。


「カルロスをご存知ない筈がありません。そうですよね? 議長殿」


 古式研は既に罠に嵌っている。しかし、決して焦らず、勤めて冷静に話を運ぶ。

 ここからは、自分の表情や声の抑揚一つでさえ、勝敗に直結するのだ。


「うむ。フィノース家による調査によって、カルロス•マクガケットが古式研に出入りしていたとの目撃情報が15件集まっている」


「ご冗談を。たかが目撃談程度を証拠になさるおつもりで?」


「では、その本人の署名を見せれば納得するか?」


「なんですと……?」


「入室を許可する!」


 ハドラーが顔を色を変えるのも待たずに議長が声を上げると、南の入り口から一人の青年が衛兵二人に挟まれながら、広間の中央へとやってきた。


「ばっ!?」


 思わず目を見開いて長机から乗り出すハドラー。

 細身で猫背、覇気の無い顔つきと、サラリとした金髪の、どこか女々しい雰囲気の青年。そう、彼の目に映っているのは他でもない、現代魔術研の裏切り者、カルロス•マクガケットなのだ。


「なにを驚いているハドラーよ。其方はこの人物を知らないのであろう? まあ、それも今から本人に聞けばわかることだがな」


「え、ええ。そうですな。どうぞ続けてください」


 脂汗を顔に浮かべながらも、なんとか平常を取り繕って腰を下ろすハドラー。

 おかしい。そもそもカルロスは学園外の場所で匿っている。それをここ数日で見つけることはほぼ不可能のはず。そんな疑問がハドラーの思考を埋め尽くしていた。

 しかし、彼はひとまず現実を受け入れる。重要なのはなぜ見つかったを考えることではなく、この先どう動くかであると。

 諦める勇気。今の状況だけで可能な最高点を叩き出そうとする思考があるからこそ、彼は権謀術数渦巻く学園内の権力闘争を勝ち抜いてこれたのである。


「では問おう、其方はそこのハドラー氏と面識があるか」


 静まり返った広間で青年の回答を待つ中、ハドラーは必死に自分を鼓舞する。

 問題はない。カルロスには現代魔術研と敵対する理由があり、情報提供料として破格の待遇を施した。

 青年が自分を裏切る理由は、どこにも存在しないのだ。

 

 加えて、現代魔術研の頭脳であるラトーナ•ディフォーゼ•リニヤットと、ジョージ•カリソン•マクギリスをギルドと協力して拘束。

 さらにはリッシェ家とも共謀して圧力をかけ、今回の裁判で審問官を務めるフィノース家も事前に買収した。

 決して安くない出費であったが、見込まれる利益はそれを裕に上回と考えて、周到に積み上げた努力。


「なんだと!?」


 その努力は、たった一人の青年の首肯によって打ち砕かれた。

 カルロスの姿をしたその青年は、ハドラーと自分の間に面識があることを認めたのだ。


「カルロス貴様ぁッッッ!!!」


 机が倒れる程の勢いで立ち上がり、その怒声を響き渡らせるハドラーを前に、議長トリトンは冷血な声で決着を告げる。


「これでハッキリしたな、貴様が現代魔術研の魔導具術式を強奪したことが。さらにあろうことか、国王の御前にて虚偽まで述べていたか」


「いえ……いいえ! 違いますとも! 私がその青年との繋がりを認めたところで、術式の盗用の証明にはならない!」


「往生際が悪いですよハドラー学長」


「黙っていろ若造が! 良いですかな議長殿、現代魔術研究室が開発した魔導具は、正しい手順で分解しなければ、誤作動によって内部が爆発する仕様になっています! カルロス氏に聞けば、正式な手順を知るのはそこのグリム少年と、ラトーナ嬢のみではないですか! どうして我々がそれを模倣出来ましょうか!?」


「ッ……」


 思わず舌を鳴らしかけるディン。

 あと一歩。あともう少しだけ追い詰めていれば、パニックで自爆していたはずであった。

 だと言うのに、崖っぷちでうまい口実……いやむしろ、こちら側の弱点を突かれてしまったのだ。

 内部術式の流出防止としてつけた自爆機能が、今や自分の首を絞めている。

 自爆機能を突破した手段の解明、それがディン達に欠けた最後のピースであった。


「まだ惚けるつもりですか! どう考えてもあなた方の反抗でしょ!!」


「手足の無い人間が、どうやって他者を殺すのですかな?」


 形勢は逆転したとばかりに、取り乱すディンを嘲るようにいなすハドラー。

 一時は肝を冷やしたが、もはやこちらの勝利は堅いと確信している。


「正式な手順以外での魔導具の分解方法が示されない限り、古式魔術研の潔白は揺らがないとのことだ」

  

 そんな状況を、トリトン議長は機械的な声でディンに告げる。

 そしてそれを受けて、先ほどまで親に口答えをする子供のような追及を行っていたディンの顔が、悪魔的なものに染まる。


「でしたら、その方法とやらを証明いたしましょう。入ってきてください!」


 ディンの招きによって、一人の審問官が新たに入場。

 それと同時に、ディンは人が変わったように淡々と最後の反撃を開始した。


「魔導具の正式な分解方法? そんなものは必要ありません。なぜならそんなことをせずとも、古式魔術研は魔導具を爆発させずに分解する手段があるからです」


 ディンはそう言うと、入場してきた審問官を魔導具が置いてある机に誘導し、会話を再開した。


「我々の魔導具は、蓄魔石を動力源としており、分解時の爆発はこのエネルギーの暴発によって起こります。つまり、魔石を破壊するか取り除くなりすれば、正規の手順を踏まずとも爆発を避けて分解できるんです」


 先程までとはガラリと変わった少年の雰囲気を前に、ハドラーの頬には汗が伝う。

 分解方法があるのならば罪を認める。そう言った趣旨の発言をしたのが、今になって失敗だったと理解した。

 自分は、追い詰められたような態度を取る少年の芝居に、まんまと乗ってしまったのだ。

 

「その方法とはなんだ。グリム少年よ」


「ずばり、刻印魔術です。そう、彼らの研究分野に答えが隠されていたわけです」


 そんなハドラーの焦りもお構いなしに、ディンは淡々と捲し立てるように、トリトン議長とのやり取りを進めていく。

 あまりにスムーズなそれは、まるで事前に打ち合わせでもしていたかのようだった。


「詳しく説明しましょう」


 それは以前、ディン自身がランドルフの振動魔術を相殺するために行使した、音波刻印の応用。

 刻印魔術による音波の高周波を、魔石だけが砕ける程度に調整し、それを魔導具に当てて内部の魔石のみを破壊。

 それが、古式研が爆破を避けて魔導具を分解したカラクリだということ。


「僕は以前、特級魔術の殆どは既存の応用によって再現できることを、研究室の皆んなの前で話しました。なんならその時も、音波の刻印でランドルフ殿下の魔術を再現をしましたね。だからその情報をカルロス氏が横流ししたのでしょう」


 そんなディンの言葉に、広間の中心に立っているカルロスの姿をした人物が頷く。


「そんな……」


 ハドラーがそう漏らした時には、既に勝敗が決していた。


「ハドラー・ル・ヴィクトン」


「はっ、はい!」


 議長の声に、肩を震わせながら答えるハドラー。

 彼の顔は、間も無く告げられるであろう『終わり』への恐怖を抑えられるずに、まるでどこぞの魔族のように真っ青になっている。


「今のグリム……いや、現代魔術研の主張に異論はあるか」


「……ありません」


 言えるはずがない。

 ディンの示した刻印魔術の使い方を惚けることは、己の専門分野において素人よりも知識がないことを、認めるようなものであったからだ。


「断罪の間において、国王に虚偽を述べた不敬罪、そして術式技術の奪取。最早申し開きの余地はない。ハドラー・ル・ヴィクトン及び、カルロス・マクガケットには、罰金の支払いと学園からの追放を言い渡す」


 静寂に鞭を打つようなトリトン議長の宣告。

 そして同時に、ハドラーは衝撃の光景を目にした。


「なっ……カルロス……!?」


 広間の中央に立って、議長達の審問に答えていた青年の像がモヤに包まれたように歪みだし、そこから一人の、黒髪の魔族の少女が姿を現したのだ。


「だ、誰だ貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!!!!!!!!」


 目の前の珍事にざわつく会場の空気を引き裂くように、ハドラーの怒声が響き渡る。


「クロハですよ? 貴方は一度、この子を研究室に勧誘していたはずですが?」


 額に青筋を浮かべて激昂するハドラーに、向かいの長机に座っていたディンが、冷笑と共にそう告げた。


「どういうことだ!? 嵌めたのか!? 本物のカルロスはどこだぁ!!!」


 ディンに詰め寄ろうとして、審問官に取り押さえられたハドラー。

 散々権力を濫用するプライドの塊でありながらも、平気で人の魔導具をパクって、我が物顔で嘘を吐いていた男には、実にふさわしい姿だと、ディンはあまりの愉悦にその美貌を歪ませた。


「嵌めた? 貴方が自分で罪を認めただけでしょう? そもそも議長の言葉を思い出してください、彼は一度もあの青年のことをカルロスだなんて呼んでません」


「なっ……貴様議長と共謀——」


「おっと、憶測でモノを言うのはやめた方がいいですよ? フィノース家の名誉を穢すような発言をすれば、トリトン議長殿は容赦ありませんからね」


「ッ……」


「人に良いように奪われる気分はどうですか?  案外気持ちいいものですね」


 力無く項垂れて連行されていくハドラーを前に、ディンは愉悦にその美貌を歪めて高笑いするのだった。


ーーー

【ディン視点】


 裁判は終わり、結果としては無事に筋肉髭ダルマことハドラーを豚箱にぶち込むことに成功。ついでに、魔術ギルド長や、それに加担したリッシェ家にかなりのペナルティが課された。

 まあそんなわけで、俺達現代魔術研は勝利。黒幕が全滅したことで、ラトーナやジョージ室長の拘束もすぐに解かれる運びとなった。


 そして俺は今、ラトーナ組長の出所を、ギルド本部の留置所前で、今か今かと待ち侘びているのだ。


「! ラトーナ!」


 30分ほどだろうか、建物の前で吹き荒ぶ冬の風に身を震わせていると、ようやくラトーナと室長が姿を現した。


「室長も無事で……おっと!」


 衛兵によって俺達を隔てていた格子状の門が開かれるやいなや、ラトーナがものすごい勢いで抱きついてきた。

 

「!」


 彼女と密着して最初に感じたのは、服越しにでもわかる体温の低さだった。


「酷いことされなかった?」


 ラトーナが勾留されてから、かれこれ3日近く経っている。

 その間彼女は、寒い独房で過ごしていたのだろう。三権の関係でギルドの権力は四大貴族と並んでいるだけに、ある程度ラトーナを雑に扱っても、大義の元ならお咎めは無い。

 おまけに、ギルドには優秀な治癒魔術師がいるから、拷問にも容赦がないと聞く。


「大丈夫、あくまで私達に身動きをさせたくないだけだったみたいだから、閉じ込められるだけで終わったわ」


「良かった……」


 改めて、彼女を強く抱きしめた。

 少し体が震えている。読心能力で危害を加えられないと知っていても、彼女はまだ十代。言葉にはしないが、怖いものは怖かったのだろう。

 当たり前だな、精神だけならアラサーの俺だって怖いもん。


「ごめん、助けるのが遅くなった」


「いいえ、びっくりするほど早かったわ。どうやったの?」


「君と再開するまでに出来た仲間達に、助けてもらったよ」


 リオンの索敵と、リディの未来視のおかげでカルロスの隠れ場所を見つけることができた。

 王子のおかげで、議長をフィノース家にすることができた。

 トリトンが俺達の作戦に合わせて裁判を進めてくれた。

 そして、クロハがカルロスに変身してくれたことで、上手くハドラーを騙して自白させることが出来た。

 誰か一人でも欠けていれば、この結果は実現出来なかったと考えると、なんとも恐ろしい。


「うぉほん!!!」


 ラトーナと抱き合ったまま、二人のだけの時間が流れていたところだったが、室長の咳払いによって現実に引き戻された。

 ラトーナさんや、そんなに赤面してたらこっちまで恥ずかしくなってしまうよ。


「グリム君、君にはなんとお礼を言ったら良いか……」


「お礼は結構です。僕だけの力じゃないんで」

 

 今回は特に目立った出費も無かったしな。

 トリトンなんて、ギルドとリッシェ家を弱らせるチャンスだって話したら、ノリノリで協力してくれたしな。

 おかげで、上級魔術の件でかけられていた圧力のことも、しばらくは考えないで済みそうだ。


「しかしだねぇ……」


「あ、じゃあ今度みんなにご馳走様してください」


 どうせなら、クロハやリオンも呼んでやろう。アイツらにも世話になったからな。


「はは、構わないよ。それでも返しきれない恩だ」


「じゃあ決まりですね。そんで、あとは残された案件を処理するだけです」


「何かあるのかい?」


「カルロスですよ。僕の方で捕らえていているので、会いに行ってやろうじゃありませんか」


 そんなわけで、俺達は一度学園へと戻るのだった。

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