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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第6章 決勝•和解篇

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第157話 決戦開始

【アセリア視点】


 ディン君が出発してから15分ほどした頃、リオン君からこちらに敵が迫っていると連絡が入った。


 最早使い手の少ない精霊魔術。

 精霊を利用して風魔術で風の通路を作り、そこに声を流し込んで遠くの相手と会話する。

 素晴らしい仕組みだと思う。これを魔導具で再現できれば、誰もが手軽に遠方の人と会話ができるようになる。

 お手紙が届かないなんてミスもないし、時間経過による入れ違いなども起こらないからとても画期的だ。


「アセリア殿! 私達は前に出ます!」


「は、はひ……!」


 逞しいお顔つきの獣人の方がアインちゃんを引き連れて砦を出て行った。

 そうだ、今は戦いに集中しなければ……

 リディアンさんのお話では、この戦いでディン君が勝つかどうかは、リディアンさんの今後……そして私の将来にも大きく関わることらしい。

 戦いなんて初めてだけれど、私も頑張らなきゃ!


「迎撃砲十五機、開門!」


 広範囲の森を見渡せる砦の二階。そこに座している私は、ディン君の作った簡易城壁に配置したお人形達の操作に意識を回す。

 

 爆魔石を燃料として弾を飛ばすなんて、まだ龍族が恐れられていた千年近く前の原始的な兵器の仕組みだけれど、今回に限ってはとても頼もしい。

 作成者のディン君は「正確には爆魔石ではないんですよ。それよりもう一回『わぁ、おっきい……』って言って下さい」とわけのわからないことを言っていたけれど、その威力は本物だった。

 

「第一弾目、装填!」


 2階の天守からも、ジャランダラ王子が立てていると思しき森の奥の土煙が目に入った。

 まだ遠い。しばらくはあちらが城壁を補足することもないだろうけど……

 こうして遠目から見ているだけでも恐ろしい。二百年前の英雄様の名は、伊達ではないのだろう。


《アセリア! 射程に入ったぞ!》


 そこからさらに10分ほど、ジャランダラ王子は散々森を駆け回って城壁に辿り着いた。

 対する私は、リオンさんからの合図によって、満を辞してお人形達に指示を送った。


「撃って!!!」


 音声操作ではないが、1人でそう叫んだ直後、森の少し奥に轟音と黒煙が上がった。


 大砲は威力の割にお金がかかり過ぎることや、整備に人数がいる、動かしにくいという欠点があると記されていた。

 だけど資金面はディン君の自作だし、操作は全て私のお人形が担う。

 なにより、大砲は魔力を使わずに破壊力を出せることが良い。


「当たりましたか!?」


《うーん……半分も当たってないかな〜》


 ドキドキしながら尋ねると、リオン君はそう呑気に答えた。


「ひぇ……」


 それもそうか、私が実際目で見て狙った訳じゃない。

 ただ固定された砲台に火をつけただけ。当たるだけでも奇跡なのだ。


「ひとまず第二弾の装填を——」


《あ、1個目の壁壊されちゃったよ!》


「ひぇぇっ!?」


 まずい。

 ディン君の作戦では砲撃は最低でもあと一回当てる筈だったのに……


「急いで第二城壁の砲台に装填します!」


 砦までには五つの城壁があって、こちらに近づくにつれて砲台の数は増える。

 防衛力は増す分、装填までに時間がかかる。

 かと言ってミスがあってはいけない。焦らず、慎重にやらなくては……


「うぅ……吐いてしまいそうです……」


 極度の緊張の中、遠く離れた人形達に指示を送る。

 お人形の操作には慣れているが、それを通して細かい作業をすることは別。

 とても緊張する……


「!?」


 そんな焦りと共に作業に集中していたら、再び森の方で爆発音が聞こえた。


「なな、なんの音ですか!?」


《俺がディンに頼まれて仕掛けた罠だよ。じらい?って言ってたな》


 なんと、ディン君は私に伝えずに更なる迎撃手段を用意していたようだ。

 

《チャランポラン王子は落とし穴とじらい? に手間取ってる! 急げよ!》


 ディン君が私を助けてくれた。

 私も頑張らないと!


「第二城壁の装填完了! 続けて第三、第四城壁の装填も並行して行います!」



【ディン視点】


 走り出してからしばらく立ち、リオンのナビゲートによればあと少しで洞窟まで辿り着くという所まで来た。

 川の近くの洞窟というだけあって、川さえ見つけて仕舞えばあとは楽なのだ。


 そしてそんな時、ちょうど森中に聴き慣れた爆発音が響き渡った。

 この音は俺の大砲の音。

 おっと、と言っても下ネタではない。俺の俺はあくまでエクスカリバーなのだ。大砲なんて原始的で野蛮なモノじゃない。由緒正しき未使用の聖剣だ。

 なのでこれは、アセリアの迎撃が始まった音だろう。


「砦の方はどうだ?」


《ジャランダラが第一城壁を突破した!》


 マジか、予定より早い。

 もう少し城壁で足止めする予定だったのに……

 残りの城壁は四つ、それとアインとギーガの前衛による足止めと、奥の手も合わせてあとどのくらい稼げるか?


《そこを抜けたら洞窟だ! 気をつけろそこに——》


「おわ!?」


 森を抜けた瞬間に俺の視界を炎が埋め尽くしたので、慌てて水魔術で相殺する。


「待ち構えてやがった! 先に言えよ!」


《今言おうとしたよ!》


 洞窟の前には、炎魔剣の少女が立っていた。

 美人だがラトーナほどではなく、スタイルもスレンダー。十五歳ほどの純人の少女だ。

 決勝でラトーナの不意打ちを受けて、さらに俺にトドメをさされた子だ。


 リディによる事前情報で分かったことは、この子が中級貴族の娘だというくらいで、その他に目立ったものは無い。

 だがこの前の決勝では、他の出場者にも劣らぬ動きを見せていた。弱いというわけではないらしい。


 ていうか、よく考えれば炎の魔剣なんて森じゃ使えないから、本陣で待ってるのも当然か。

 いかんな、焦りすぎてて思考力が落ちてる。常に冷静にと、シュバリエがあれだけ言っていたじゃないか。


 しかし……炎の魔剣とはまた地味に厄介だわ。

 

ーー氷層アイスコートーー


 ひとまずは相手の足を奪おうと、地面から氷を這わせる。


「チッ」


 結果は失敗。距離を取られてたし、警戒されていたのかギリギリで避けられてしまった。

 しかし、ここでは終わらない。氷を避けようとバックステップを踏んだ彼女の元へ、リオンの放った矢が迫る。


 眼前の矢を打ち払おうと剣を振る少女だが、もう遅い。

 直前で矢尻から魔法陣が発生し、リオンの放った魔力製の矢は軌道を変えて急加速。

 彼女は剣を空振りし、リオンの矢は彼女の腹部にクリーンヒットだ。


「あぐっ……」


 着弾時に弾ける様に脆く作ったとはいえ、リオンの矢をノーガードで受けたんだ。

 未だ妖精という神秘が残るエルフの大集落の中でさえ、神童と呼ばれた少年の豪弓。メリケンサックで無防備な腹を殴られたのとダメージはそう変わらないだろう。


「ごめんね!」


 腹を抱えて前傾姿勢になった少女の側頭部に、間髪入れず俺は回し蹴りを叩き込んだ。

 ダラダラ殴っていては文字通り火傷するからな。一撃で意識を刈り取らなければならない。

 俺はどこかのクズニートに習い、男女関係なく必要とあらば容赦なくドロップキックをかますのだ。


「ナイスアシストだ、リオン」


 少女が倒れるのを確認して、リオンのいる方向にグッドサインを送る。

 見えてはいないだろうが、なんとなくだ。


《へへっ、どんなもんよ!》


 リオンが見張をやっている森の中間地点あたりからここまでは、少なくとも100メートル以上は離れている。

 だというのに、魔力感知や精霊を利用してここまで精密な援護狙撃が出来るとは……普段のすかんぽんたんなアイツからは想像できん絶技だ。

 俺の中でのリオンの評価が、少しだけ上がった。


「城壁の方はどうだ?」


《今三つ目で守ってるよ》


 第二城壁は突破されたか。ペースが速すぎる。

 まあ、大きい分強度は高く無いから仕方ないのかなぁ。

 あとはもうアインとギーガに頼るしかない。


「俺は今から洞窟に入る。アセリア達の援護に移ってくれ」


《おう!》


「渡しておいた炸裂矢、使えるな?」


《もちろん! 任せとけ!》


 ここからは洞窟に入るのでリオンの射線が通らない。

 リオンの感知ではこの先にいるのはラトーナとランドルフ。

 二対一の構図になってしまうが、やれるだろうか。


《そっちも頑張れよ!》


「……おう!」


 そうだよな、やるしか無いよな。

 人間2人がなんだってんだ。俺はもっとやばい化け物を相手にしたことあるんだよ。


ーーー


 時間もないので、さっさと洞窟に入った。

 入り口は広く、その先にも広目の道が続いている。


「持って来てよかったわ……」


 入り口から少し進んだ所で、俺は腰のポーチから人瓶の粉を取り出し、地面に巻いた。

 冒険者時代によく使っていた光魔剤。その名の通り潜伏している魔法陣などに粉が触れると発光するのだ。


ーー発風ーー


 そんな粉を山盛りに足元に巻いて、風魔術で少しずつ進行方向に広げていく。


「うわっ……」


 見える限りのところまで粉を広げてみれば、反応がそこらじゅうに現れた。

 最早罠魔法陣が置かれていない面積の方が少ないってレベルで、それが壁や地面に敷き詰められている。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 洞窟の奥に本陣を置いたのはやはり、罠による防衛をやりやすくするためか。対策できる俺1人で来てよかったわ。


 罠を避けながら洞窟を進み、足場がない時には刻印魔術で罠を解除して強引に通る。

 罠に丸ごと新たな足場を覆い被せてしまおうかとも考えたが、罠の魔法陣は魔力の込めようによっては普通に障害物も貫通してくるので、やめておく。

 それに、城壁の作成に割いてしまった分の魔力は温存せねば。


 侵入から1分ほど歩いて、ようやく広い空洞に出た。

 そしてそこには、両手斧を構える白髪のダークエルフと、高そうな杖を持ったローブ姿の金髪の美少女が待ち構えていた。


「遅かったね、グリム•バルジーナ!」


 空洞の最奥には破壊対象のクリスタルオブジェ。

 そしてそれを守るように前衛のランドルフ、後衛のラトーナという布陣か。


「お久しぶりですね、ランドルフ王子」


「なんだい敬語など今更気持ち悪い。お前の本性などもうバレているのだよ」


 武闘会の時は念話でボロクソ言ってやったからな。

 今思い出してもスカッとする。


「なんのことだかわかりませんね」


「ふん、そうやってとぼけてるがいいとも! この僕にはお見通しだがねっ!」


 ランドルフとそんな会話を交わしていたら、後ろのラトーナと目線が合った。

 だが、彼女は口を開く様子がない。

 なんでそんなに嫌われちゃったかなぁ……


「おいどこを見ている、お前が話してるのはこの僕だろう!」


「あ、はい。すみません」


「以前は油断したが、今回はお前を徹底的に叩き潰させて貰うよ。『鎧砕き』の名に賭けてね」


 彼は胸を張って高らかにそう言い切ると、ラトーナの方に振り返った。


「というわけで、悪いがここからは僕と彼の真剣勝負をさせてもら——」


「ダメよ」


「え、あれ?」


「ここは観客の目が届いていないわ。氷以外の魔術の使用制限が無くなったディ……グリムを1人で倒せると思わないことね」


 悦に浸ってタイマン宣言をしようとしたランドルフに、ラトーナがそう釘を刺した。


「ブフッ……」


 早速赤っ恥を晒してキョトンとしているランドルフを見て、俺は思わず吹いてしまった。


「おまっ、貴様何が面白いんだ! もういい! 今までの不敬は僕の懐の広さで見逃してやっていたが、もう許さんからな!!!」


《いや〜 なにが『懐が広い』だよ。魔術師連れて来て二対一でデカい面しちゃってさ。

 しかもラトーナに頭が上がらないときた。鎧砕く前にプライド砕かれちゃってんじゃん》


 なんだか上から目線でイラっときたので、恒例の念話煽りをまたやってやった。


「……その発言、撤回したまえ。今なら処刑を取り止めてやろう!」


 今回の彼は前のようにブチ切れず、目を細めながら低い声でそう言って来た。

 少しは成長したのか、なんとか平常を保っているようだ。

 とは言っても、堪え切れずに額に青筋が浮かんでいるがね。

 

「念話なんて情け無いことするのね。男らしく口で言ってはどうかしら」


 と、今度はまさかのラトーナからの口撃。

 そうか、彼女の母さんはハーフエルフだから、彼女にも念話は届くのか。


 ひとまず、気を取り直してランドルフに向き直る。


「……こほん、処刑? 弱っちいお前のことだから、それもラトーナにやって貰うんだろう?

 属国の王子だけあって、腰巾着面が板についてまちゅね〜!!!」


「良いかしらランドルフ、あんな易い挑発に乗ってはいけな——」


「殺すッ!!!」


「あっ、ちょっと!」


 いきりたつランドルフを静止させようとしたラトーナを無視して、彼は俺に向かって飛び出した。


 最初の挑発があまり効かないので焦ったが、乗ってくれて良かったよ。

 これで少しやりやすくなる。


「おおおおおお!!!!」


 血眼になって斧を振り上げながら迫り来るランドルフ君。そんな彼の進行上の天井には、黄昏色の魔法陣が待ち構えている。

 会話をしている間に、こっそり設置させていただきました。


ーー土槍ーー


 ランドルフが予定の位置まで来た所で魔術を発動。

 天井から岩の柱を伸ばして、ランドルフの元へ急降下させる。

 本気の出力ならハエ叩きみたいに彼を潰せるが、流石にそれはまずいから挟んで押さえつける程度だ。


「——うわぁっ!?」


 もう少しで岩の柱と地面のサンドイッチになろうかという所で、ランドルフは間抜けな声を上げながら真後ろに吹っ飛んでそれを回避した。

 いや、吹っ飛んだというか、吹っ飛ばされたが正しいな。直前でラトーナが『反射の呪詛』の魔法陣をランドルフの前に展開して、それによって強引な回避をさせたのだ。


「ちぇ……」


「罠を仕掛けていたのか! 相変わらず姑息な奴だ!」


「はは、それオタクらにも刺さりますけど良いんですか〜?」

 

「ッ……!」


「落ち着きなさいランドルフ。今ので分かったでしょう? 2人で協力しないと彼には勝てないわ。ほら立って」


「悔しいが仕方ない……援護を頼むよ」


 あっという間にランドルフを諌めてしまったラトーナ。

 いつの間に人心掌握まで身につけたのだろうか。


「覚悟しろ、グリム•バルジーナ!」


 今度はラトーナを覆い隠すようにしてどっしりと構えるランドルフ。

 せっかく俺のペースだったのに台無しだ。


 さて、ここからは第二ラウンド。

 アイン達も心配だし、とにかく早く決着をつけなければならない。

 気張れよ俺……

 

 

「よくもディンを奪ってくれたね」


 薄笑いを崩さぬまま、アーベスはリディアンにそう言った。

 対するリディアンは、眉一つ動かさずに首を傾げた。


「ん、なんの話?」


「ははは、あくまで惚けるのかい」


「惚けるも何も、ディンを奪った覚えなどないけどね。彼は望んで俺の元にいる」


「やましいことがないのなら、どうして態々彼に偽名を与えて、しかも魔術まで制限させているんだい?

 どれも、私達にディンの存在を悟らせない意図があるようにしか考えられない」


「憶測でモノを語るのはやめろよ。君は買い物する時、ベラベラ喋りながら商品を選ぶのか?」


「私達貴族は欲しいものがあれば選ばずに、職人に直接注文して作らせるものだが……なるほど、それが庶民の買い物なんだね」


「知見が広がって良かったな。お貴族様なら少し高めに授業料をいただこう」


「授業料というものは年単位で払うものだが……そうか、君は学校に行ったことがないのだものね。失礼したよ」


 アーベスのそんな言葉を最後に、応接室は静まり返った。

 リディアンは眉を落としてアーベスを見つめ、対するアーベスは屈託のない笑みを浮かべて紅茶を啜っている。


 そこからしばらくの静寂を切り裂いたのは、アーベスだった。


「なーんて戯れはさておき、本題に戻ろうか」


「……」


「なに、私は別にディンのことで文句を言いにきたわけじゃない」


「あ?」


 ようやく自分の話に興味を示したリディアンに、アーベスは内心笑みを堪えながら続ける。


「私と組んで、リニヤットを滅ぼさないか?」

 


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