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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第6章 決勝•和解篇

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第156話 孤独の攻城


 一ヶ月という少し長めの準備期間を経て、武闘会の再決勝が始まった。

 主催である運営は、決勝の二人が両方魔術師であるという話題性を活かして再び集客を行いたいようで、今回の試合はただのタイマンではない。


 ミーミル寄宿士官学校、またの名をミーミル王立学園。国王の名の下に世界各地から貴族や王族、優秀な魔術師や学者が集う箱庭。

 学校なんてどこにでもあるが、ここで作れる人脈は一味も二味も違う。故に子供を通わせようとする親は多く、総生徒数は一万を超えるとか超えないとか。

 それだけに学園は広く、維持費も馬鹿ではない。基本的には税金と学費によって経営が行われているが、昨今の共産主義の波及を筆頭にした世界情勢の不安定化により、国も金に余裕があるわけではないらしい。

 故に、こうした催しを利用して資金源の確保を行いたいのだそう。


 話を戻そう。

 攻城戦、それが今回の対戦ルール。

 王都から離れた場所に用意された広大な敷地内で、互いの本陣に設置された高さ1メートルちょっとのクリスタルオブジェを守るのだ。

 

 空を見上げれば、少し大きめの鳥が『ピロロロッ』と鳴いている。

 学園の説明によれば、あの魔物の目を通して観客達は俺達の試合を見物しているらしい。

 なんでも、今回は索敵や状況把握能力も含めての試合らしいので、実況が俺達に届かないよう離れた場所に観戦席が設けられているようだ。


 さて、今回俺達が戦闘に臨む地形の説明をしたいが……先に言っておこう、俺は『東京ドーム何個分』という説明が嫌いだ。

 何個分かと聞かれても、元々インドアでボッチだった俺は東京ドームの大きさがわからない。

 なので少し大雑把な説明になるが、敷地は長方形の森林で、校庭込みの小学校が3つ建つか建たないかと言ったところか……

 

「ぐ、グリム君、組み立て終わりましたぁ〜」


 そんなことを考えながら本陣周辺の森を彷徨いていた俺を、アセリアパイセンが呼びにきた。

 

「お、ありがとうございます」


 彼女と共に本陣へ戻ると、そこには立派な黒く輝く砦があった。

 キノコの国のお姫様が囚われてそうなお城だ。


「我ながらカッコいいのが出来ましたね」


 入場してすぐ、彼女には俺が事前に作っておいた大量の石材を人形魔術で運搬、そして俺が即興で組んだ骨組みを利用して砦を建設してもらったのだ。

 今回の攻城戦における本陣は、マジで戦国時代のそれと同レベル。四方を布で囲ったところに護衛対象のオブジェを設置する無防備極まりないものなのだ。

 それも仕方ない、本陣は入場が始まってすぐに俺達自身で決めなきゃいけないからな。簡易的な組み立て式になるのも頷ける。


 だからこうして、無防備な本陣をすっぽりと覆うように砦を建設したのだ。

 無いとは思うが、もし仮に砲撃なんかがあっても防げるようにな。


「城壁の方は大丈夫ですか?」


「バッチリです、弓兵を配置できるくらいの奥行きにしました」


 そして、先程の俺もただ森を彷徨いていたわけではない。

 5メートルほどのシンプルな外壁を砦を中心に建設し、さらなる防衛力増強を計っていたのだ。


「戻ったぞディン〜」


「ここではグリムと呼べよ」


 森の中から呑気な声と共に現れたリオンの額を小突く。

 

「——で、どうだった?」


 彼は広範囲に及ぶ魔力感知や精霊魔術、風を読むなどとにかく索敵能力に優れているので、相手の本陣を見つけるために偵察に出てもらっていた。


「あいつら洞窟を本陣にしてたぜ、ここから北上した……川の近くのドーンとおっきいやつ」


「なるほど、面倒だなぁ……」


 俺達はどこから攻められても平気な布陣を引いたが、ラトーナは相手に攻めさせる方向を一つに限定する策をとったようだ。

 いや、俺だってそれくらい思いつくし? たまたまそっちに洞窟があっただけで、逆に無かったらどうするつもりだったのって感じよ。


「どうするんだ?」


「何もしない。作戦は変えずにこのまま行く。砂時計から見るに開始の鐘はもうすぐ鳴る。配置につけ」


「りょーかい!」


 リオンは嬉々とした表情でスキップしながら森に戻っていった。

 なんか緊張感がないなアイツ……


「あわわわ、私も人形を配置しますぅ!!」


 でもまあ、ガチガチに緊張してるアセリアノよりは良いか。これじゃあ見てるこっちまで息が詰まるというものだ。

 アインもさっき会った時めちゃくちゃ肩肘張ってたからなぁ……先が思いやられる。

 

「ディ……グリム!」


 ——と噂をすれば、やってきたのはアインとギーガ。

 アインは相変わらずロボットみたいな動きをしているが、意外にもカタブツ仲間のギーガはそれほど緊張しているようには見えない。

 

「どうかしましたか? 俺に会えなくなるのが寂しいんですか?」


 緊張をほぐそうと冗談めかしにそう尋ねると。アインは無言でグッと拳を突き出してきた。


「?……」


「勝とうね!」


 彼女はただ一言、そう言ってはにかんだ。


 この一ヶ月、彼女との関係に特に変化はない……なんてことはない。彼女は俺の前でお洒落をするようになった。女として振る舞うような仕草を見せるようになったのだ。

 アインの中で俺に対する意識が強まり、それに引っ張られるように俺も彼女を意識してしまっている。


 だが肝心の答えは俺の中で出ずに、またズルズルと今日まで過ごしてきてしまった。

 だって、ただ中学生がなんとなく付き合うようなものではない。婚約、そう婚約なのだ。この不安定な世界で、一生に及ぶ影響のある選択だ。

 昔読んでいたラノベの主人公とかなら、後先考えずに受け入れてハーレムを作るのだろうが……俺みたいな小物にはそんな芸当出来ない。

 こっちは将来のことを考えるだけで頭痛がしてくるのだ。


「勿論な!」


 ひとまずそれは置いておいて、俺は彼女に拳を合わせた。


「ギーガさんもよろしくお願いします」


「無論です。貴方には借りがありますから」


 俺がレイシアとのお見合いの機会を作り、そしてフラれた彼だが、獣人の間では女が男を選ぶという常識があるらしく、特に引きずってはいないようだ。

 こちらとしても後腐れがなくて助かる。


 そんなことを話していたら、ちょうど開戦の鐘が鳴った。


「勝つぞー!」


「「「おー!」」」


 そう叫びながら、その場をみんなに任せて俺は一人、砦を飛び出した。


ーーー


 迷彩柄のフード付きローブを身に纏いながら、広大な森林をひたすらに駆ける。


 俺達の作戦はシンプルだ。

 俺以外が守り、俺が一人で突撃する。

 少々無茶にも思えるが、諸々を考慮すればこれが最善なのだ。


 俺達とラトーナ陣営の間には戦力差がありすぎるのだ。

 こっちには非戦闘員と近接苦手の狙撃手を抱えているのに対し、向こうはほぼ全員武闘派。ラトーナでさえ俺でなければ相手できない。

 そして何よりやばいのがカイリキー……じゃなくてジャランダラ王子だ。

 武闘会では大した脅威に見えなかったが、それはあくまで武術だけで闘おうとしたことに加え、マルテ王子の策略で大量の呪詛を受けて弱っていたからだ。

 二百年ほど前の戦争で大暴れしてヨトヘイム王国に大損害を与えたと言われている彼が、この試合でどう出てくるかわからない。

 そのせいでアインとギーガを下手に動かせないのだ。


 だから俺だけ攻める。

 アセリアが俺と同じ背丈の人形に同じローブを着せて、俺とは別のルートで目的に走らせているから揺動もバッチリ。

 このまま直行だ……


《ディン! そっちに誰かいるぞ!》


 と思っていたのに、リオンから精霊魔術による連絡が入った。

 どうやら俺はくじ運が悪いらしい。なんで数十体いる囮の中で俺とかち合うんだよ。


「!!!」


 早速ペースを崩されて溜め息を吐こうとしたのも束の間、右斜め前方の木々の間から、こちらに真っ直ぐ向かってくる人影を捕捉した。


「お覚悟を!」


 そんな雄叫びと共に俺の前に飛び出してきたのは、以前の決勝戦でラトーナに瞬殺されていた長耳族の剣士さんだ。


「精霊の気配を辿ってみればなるほど、こうなりましたか」


 通信用で俺に纒わせておいた精霊が仇になってしまった……

 ラトーナとジャランダラ対策に夢中で、この人の存在を忘れてたよ。


《どうする? 俺が援護しよっか?》


「いや要らない。正々堂々一対一で倒す」


「甘く見られては困ります。僕は二対一でも構いませんよ」


 エルフはそう言って体を俺に向けたまま、目線をあちこちに泳がせた。


「それは失礼。けどこっちは人手不足なもんで、どうか俺1人で我慢して下さい」


 停進流は盾と剣を扱う流派。疾風流のような勢いはないし、剣聖流のような力強さもない。

 だが、停進流の強みはそこにある。その堅実な戦い方、全ての攻撃を丁寧に防ぎ、そこに生まれた相手の隙を攻める。多人数戦闘もこなせるバランス型だ。 

 俺の瞞着流とは相性がめちゃくちゃ悪い。


「そうですか、とは言え貴方も決勝に立ったお方です。不足はありません」


 エルフが構えた。

 しかし、重心をどっかりとその場に置いているわけではない。踵を浮かせていつでも回避行動を取れるような体重の置き方だ。

 さては、俺の広範囲魔術を警戒しているな?


 こちらも太腿の双剣を抜き放ち、ジリジリとエルフとの間合いを測り合う。

 俺が剣を抜いたことを警戒して、相手は攻めてこない。

 ので、俺からいくことにした。


ーー氷柱弾アイシクルバレットーー


 飛び出しながら牽制として剣先から二、三発氷を発射。

 魔術の速度はワザと下げたので避けられるが、気にせずそのままエルフに斬り掛かる。


「ッ……!」


 十字を描くように振った斬撃を、相手は半歩下がりながら器用に盾だけで防いだ。

 そして振り抜き直後で無防備になった俺に、相手は間髪入れずに空いていた右手の剣によるカウンターを打ち込んでくる構え。


 問題ない。

 最初の十字斬りはカウンターされること前提で軽めに振った。体格差的にも相手は成人くらいだし、そもそも力勝負は無謀なのだ。

 そして軽めに振った分、俺は素早く受け流しの動作に移れる。


ーー雫葉ーー


 横振りの相手の剣に双剣を素早く添え、衝撃を殺さぬように押し返して、俺はバックステップを踏む。


 向こうは俺が受け流すのを読んでいたのか、間を空けずにそのまま俺との間に開いた距離を埋めようと踏み込んできた。

 魔術を警戒してあくまで至近距離での戦闘を維持したいわけだな。


 再び近接戦に持ち込まれた。

 このまま斬り合いになれば俺が負ける。


 目の前ではエルフが剣を振り上げ、対する俺は受けの構えを取る。


 剣は振り下ろされ、俺はそれをなんとか受け流す。


「あがっ……な!?」


 そしてその直後、剣を振り下ろしたエルフの背中に氷の礫が直撃した。

 

 慌てて後ろに振り向くエルフ、しかしそこには誰もいない。

 彼の背後にあるのは、空中に浮かぶエメラルド色の魔法陣だけだ。


 一瞬とはいえ俺から視線を外したエルフ。

 そうだよな、一対一だと思っていたよな。だから急に死角から攻撃が来たらビビるよな。

 その氷は俺が最初に撃って外したやつを上級風魔術で跳ね返しただけなんだよ。


ーー氷層アイスコートーー


「ッ!」


 俺の足から躍り出た氷が、よそ見エルフの足を膝下まで飲み込んで自由を奪った。


 お前が近づいてきてくれた分、至近距離で魔術を発動出来るからな。よそ見も相まって回避は困難だろう。


「ほっ!」


「あがっ!?」


 あとは盾を構えられない背後に回り、後頭部に氷の弾丸を撃ち込んで終了だ。

 

 脳震盪を起こして立ったままぐったりと前方に傾くエルフ。

 足を固定されているのもあって、なんか昔の彫刻アートみたいだ。


 そんな彼から武器を剥ぎ取って地中に埋め、腕には石の手枷をつけておく。


《あっという間に倒しちゃったなー!》


「お前がいたから倒せたんだよ」


《ええ? 照れるな〜!》


 俺は停進流との戦闘経験が殆ど無いし、そもそも絡め手ばかり使う俺のスタイルとは相性が悪い。

 居場所がバレたくないのもあって、あまり大きな魔術も使えない。さらには魔力温存のために刻印の身体強化は半分くらいの出力でしか使えない。

 相手の心理をついた不意打ちなんて、伏兵の重要性をルセウス爺に説かれてなきゃ思いつきもしない作戦だったよ。

 

「予定通り俺はこのまま本陣に突っ込む。敵の様子は?」


《ん〜……あ! やばい、なんか木が倒れて! 土煙が凄くて! 森の中を誰かが走ってるぞ!》


「ジャランダラか……?」


 障害物を全部薙ぎ倒しながら進撃とはなんとも恐ろしい。

 ひょっとしたら、俺の用意した城壁はあまり役に立たないかもしれない。


「敵は1人か?」


《分かる範囲だと……そうだな!》


 なるほど、なら砦が見つかるにはまだかかるだろう。

 森なんて射線が通らなくて面倒だと思っていたが、案外役に立つ。


「炎の魔剣士……もしくはランドルフの姿が見えないのが気になる。そっちを探してくれ」


《わかった! 俺は砦守らなくて良いのか?》


「お前じゃ役に立たない」


《ひでぇーよ……》


 事実、リオンじゃジャランダラへの有効打がないし、こいつには索敵と俺の援護という重要な任務がある。

 それに、俺と同じく森に潜伏してるリオンを退かせるのも時間が勿体無い。


「あんまり時間はなさそうだな……急ぐか」


 ひとまず再びフードを被って、俺は走り出した。

 ミーミル王国王都のとある屋敷、その応接室では一人の中年男性がソファにかけて紅茶を啜っていた。


「だーいじな部下の晴れ舞台だってのに、なんだってこんな日にお呼び出しですかねぇ〜」


 そんな一室に、顔を顰めながら金髪の青年が扉を乱暴に開けて入ってきた。

 否、彼は見た目こそ青年に見えるが、既に30を過ぎた歴とした大人である。


「初めましてかな? リディアン•リニヤット卿。本日は急な呼び出しに応じてもらい、感謝しているよ」


 欠伸をしながら向いに座ったリディアンを前に、男は丁寧にこうべを垂れた。

 本来ならばただの近衛騎士団隊長が、大貴族に値する男にこのような尊大な態度は取れない。

 今回が密会の場で、彼の態度を咎める従者がいないというのもあるが、やはり1番の理由は彼が『リディア』であるからだ。

 

 彼が騎士団内において指揮をとっている遊撃隊は、十人にも満たない少数でありながら、その戦力は他の九隊全てを合わせた者よりも勝る。

 鬼神リディアン、不死鳥ルーデル。特にこの二人は、単独で国家を相手取る実力を持つと評されており、そんな戦力の強大さから隊長であるリディアンは王国内で四大貴族にも及ぶかという発言力を持っているのだ。

 

 故に、そんなリディアンの態度を男を咎めないのだ。


「アーベス•ディフォーゼ•リニヤット……はてさて本日は如何なる御用かな? 忙しいこの俺をわざわざ呼び出したんだ、それも密会としてね。それなりの話がなきゃ困る」


 鋭い眼光を向けるリディアン。

 しかし、対するアーベスは眉一つ動かさない。凄まじい殺気を放つ義理の弟と共にしばらく屋敷で過ごしているので、慣れているのだ。


「勿論話ならあるとも、その前にどうだい? お茶でも一杯……」


「誰が野郎と仲良くお茶でも飲むか。あ、でもクッキーは貰うね」


「そうかい、残念だ」


「わかったらとっとと本題を話したらどうだ」


「グリム•バルジーナ」


「!」


「おや、目の色が変わったね。なに、話はまだ続くんだ、クッキーを食べる手まで止めなくていいよ」


「……俺は本題を話せと言ったんだ」


 リディアンはクッキーを皿に戻して、初めてアーベスの目を見た。


「ならば単刀直入に言おう、よくもうちのディンを奪ってくれたね。と」

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