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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
間章 追憶〜冒険者篇〜

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第150話 乱入


『インビジブル・マンティスじゃ!!!』


 不意打ちを受けて尻餅をついた俺を狙う、茶色の巨大カマキリ。三メートルほどはあるだろうか。

 そんな魔物を前にドルムルが叫び、全員が構えた。

 

 当然俺も構え——


『えっ!? はやっ!!』


 すぐさま至近距離で魔術をぶっ放してやろうとカマキリに手を向けた瞬間、そいつはそれを素早く察知して、物凄い速度で俺の目の前まで距離を詰めてきた。


ーー氷礫アイスボールーー


 慌ててチャージを中断して、作りかけの氷塊を目の前のカマキリに放つ。

 想像より敵が速くて充分な魔力は込められなかったが、どのみち地下じゃ崩落の危険があって全力は出せないんだ。ほぼ限界ギリギリの威力でぶつけることができたと思う。


「!?」


 だというのに、カマキリは多少怯んだだけだった。

 外骨格が想像以上に硬い。氷をぶつけた程度じゃダメージにならないようだ。

 でも土魔術ならいけるか……?


 そんなことを考えながらすぐさま立ち上がり、魔術を警戒して構えているカマキリと睨み合っていると、遅れてパーティの皆んなが俺を庇うように前に立った。


『ごめんなさい、感知できなかったわ!』


 俺の前で弓を番えているリリスはそう謝罪してきたが、責任を追及するつもりはない。

 そもそも、魔力感知は長耳族や妖精族の方が得意なんだから、純人族の彼女のそれに大した精度は望んじゃいない。

 なんなら、半妖精の俺ですら感知できなかったんだ。多分感知無効の特性持ちなんだろう。

 ご丁寧に体の保護色も迷宮の天井と同じ柄になっているし、そう考えるとステルス能力高いなこいつ。

 

『悪いなグリム! 咄嗟だったから蹴飛ばしちまってよ!』


 バーバリアンが俺を蹴飛ばしてくれなければ、俺は今頃このカマキリにぐちゃぐちゃにされていただろう。


『いえ! 助かりました!』


『さあみんなやるわよ!』


 ボールの掛け声で俺は二、三歩下がり、パーティの陣形が完成した。

 ここからは連携で闘うのだ。


氷層アイスコート


 地面に手を突き、そう叫ぶ。

 俺の手の内をあらかじめ知らせておいた仲間たちは、その声に合わせて左右に散り、俺とカマキリとの射線を確保してくれる。

 まずは一手目、拘束だ。


 地面を舐めながら高速で迫る氷の柱を、カマキリは余裕を持ってサイドステップにて回避した。


『すみません!! 今のが最大速度です!!』


 氷は決して遅くない。

 だが、それが到達するよりもあのカマキリの方が速い。

 こうなればお構いなしだ。範囲など絞らずに視界一面……この部屋の半分を巻き込んでカマキリを凍らせるのが最善だろう。精密操作を取り払えば、発生速度は段違いに上がるのだからな。

 なに、この先の道を塞ぐことにはなるが、ゆっくり削れば問題ない。


『ッッッ!!!』


 俺の氷をサイドステップで避けたその弾みにこちらに突進してきたカマキリを、前衛のボールが左手のショートシールドで受け止めた。

 いや、正確に言えば受け止めきれずにニメートルほど後ろに押し出されたか。


『あら!?』


 体当たりを受け止められたカマキリはなんと驚くことに、まるで武術のような流麗な動きで進路を変え、近くで構えていたカールへと標的を変えた。


 相変わらず速い。

 龍族の眼のお陰で動きは追えるし、魔術を当てることも出来なくは無い。

 だが、あそこまでチョロチョロ動きながら味方に肉薄されると、巻き込みを危惧して援護射撃なんて出来たものじゃない。


『ちくちょうめ!』


 踊りかかってきたカマキリに、負けじと連撃を叩き込むカール。

 互いに一歩譲らぬ攻防が始まり、俺達がそれを見守る形となっていたのだが、30秒ほどするとそこに異変が現れた。


『押されているわね……』


『どういことじゃ……』


 疾風流上級の腕前を持つカール。一撃が軽いこの流派だが、上級剣士ともなればその一撃一撃は、いかに硬い骨格に覆われたカマキリでも無視できるものじゃない。

 そんなわけで、カマキリもできるだけ攻撃を避けるようにしながら攻撃を行なっていたのだが……


『カマキリが……疾風流みたいな動きしてません?』


 カマキリはカールの放つ連撃の合間に、まるで合いの手を打つかのようにカウンターを入れだしたのだ。

 今の所は、そのどれもが有効打に至らないものだが、次第にキレが増して行っている。

 あろうことか、魔物が『技』を使おうとしているのだ。


『まずいわね!!!』


 慌ててボールが二人の間に割り込み、二対一の構図に、そこにバーバリアンが加わり、三人の前衛による連携が始まった。


[ギィィィィィィッッッ]


 三人の猛攻を受けるカマキリの奇声が、広間に響き渡った。

 強引に割り込んだせいで連携はあまり出来の良いものではないが、数の有利でなんとかカマキリと渡り合っているようだ。

 しかし、これでは決定打になり得ない。

 理想は、俺の氷結で一気に凍らせて動きを止めることだ。流れ弾や崩落の心配もない氷が一番いい。


『こりゃまずい、援護ができんのぉ……せめて回復魔術の準備でも——』


ーー自己強化×魔術強化ーー


 俺は指先に大気中の魔力を集めて、それをインク代わりに腕に文字を刻んだ。


『おいグリム! 何をするつもりじゃ!!』


 そんなドルムルの声も無視して、俺は激しい剣戟を繰り広げている三人の元へ走る。

 かなりの魔力を注ぎ込んだ身体強化。身体は軽く、力が漲ってくる。風を切るのが心地よい。


 大丈夫、やれる。

 いきなり剣術で戦うってわけじゃないんだ。

 ムスペル王国の任務でも似たようなことはやったじゃないか……


『お、おいグリム!?』

『何のつもりグリムちゃん!?』


 駆け寄ってくる俺に気づいた三人。

 それに構わずに俺は……


ーー土槍アースランサーーー

ーー風破ウィンドバーストーー


 地面から飛び出す土の柱に足をかけ、それを踏み台に足から圧縮した空気を放ち、カマキリと三人の真上に躍り出た。


『退がれ!!!』


 空中でただ一言そう叫ぶと、三人が素早くカマキリからバックステップを踏んで距離を取った。 

 俺はそれを確認するとほぼ同時に、右手に待機させていた魔術を全開で放出する。


ーー氷結ーー


 3メートルばかりの巨大カマキリが、一瞬にして凍りついた。


『よし!』


 着地も無事に成功し、グッと手を握る。


『グリムちゃん!!!』


 そんな中、広間に響いたボールの怒声に、俺は肩を震わせた。


『は、はい!?』


『どうして、あんなことをしたの?』


 ボールは腕を組みながら俺を睨んでいた。

 やばい、なんかめちゃくちゃ怒ってる。

 

『な、なんでって……あのまま戦ってたらジリ貧だったから——』


『いいかしらグリムちゃん!!!』


『は、はい!?』


『仮にも魔術師である貴方が前に出てはいけないのよ!

 陣形が崩れて混乱するのは勿論、回復役も兼ねている貴方が欠けてはパーティが危険に晒されるの!』


『じゃ、じゃああの場で三人ともやられても良かったんですか!!!』


『そうよ。いいかしらグリムちゃん、貴方の役目は私達がやられた時に撤退して、このモンスターの危険性を報告することよ!』


『それは、死んでもいいってことですか!』


『そうなる覚悟をして、みんなこの職に就いているの』


 ふざけるな、なにが死んでもいいだ。

 俺はそういうスカした命の軽視は大嫌いだ。

 勝手に諦めて死ぬな。残されたやつ……俺の気持ちを考えろ。

 もう……仲間にしなれたりするのは嫌なんだ。

 そうなるぐらいなら、人殺しでも何でもしてやろうって思ってる。


『死にそうならそれこそ逃げるべきでしょ!!!』


 俺がキレたのが予想外だったのか、ボールが面食らっていると、カールが割って入ってきた。


『ま、まぁまぁ二人とも、迷宮なんだしそういう話は後で——』


 カールがそう言いかけ時、俺たちの真横の氷の彫刻とかしたカマキリ、その氷の衣が音を立てて砕け散ったのだ。


『「『!?』』』


『グリム!!!』


 氷から解き放たれたカマキリがすぐさま俺を標的に定め、こちらに迫ってきた。

 突然の出来事に面食らっていたし、刻印の強化を解いていたので、俺はそれに対応できなかった。

 そんな時、カールに襟を掴まれて後ろに投げ飛ばされた。


『カール!?』


 ボールの叫び声を聞いて慌てて起き上がると、そこにはカマキリの斬撃を正面からもろに受けたカールの背中があった。


『あ……』

 

 かなり昔のようで、最近の出来事を思い出した。

 レキウスとの任務で、奴が俺を庇って致命傷を負った時のことだ。


『!!!……』


 息が荒くなっていくのを感じる。

 自分でも克服したはずの、あの時の出来事が俺の体を縛る。


『グリムちゃん……ドルムル! 治癒を!!!』


 ボールがカマキリに攻撃して、それに続くようにバーバリアンが大楯でタックルをきめている。

 今なら、カールを治療できる。


 震える足を殴って立ち上がり、カールの元に駆け寄って詠唱を始めた。

 ひどい傷だ。肩から腰にかけてを深々と抉られている。

 出血量からして、内臓にダメージはなさそう……大丈夫、中級の治癒で治る範囲だ。カールは助かる。いざとなれば刻印の強引な治癒もある。

 きっと大丈夫……


『くっ……!!』

 

 カールの治癒をしながら、ボール達とカマキリの攻防を見守る。

 カールというアタッカー兼妨害役が減ったことで、明らかにボール達が劣勢だった。

 リリスによる弓の援護がちょくちょく入っているが、カマキリの外骨格が硬すぎて全く効いていない。そうだ、きっとあの分厚い甲羅のせいで芯まで凍らなかったんだ。


 なんなんだ。少なくとも、停進流上級とベテラン冒険者の連携を上回るって……迷宮の3階に居て良い強さじゃないだろ。


『……よし』


 ひとまず治癒は終わった。

 カールは気絶してるから、そのうち目覚めるだろう。

 しかしまずい、このまま彼が欠けた状況じゃ、前衛は押し負ける。

 だがボールが言うには、俺は動くべきではないらしい……


 じゃあ見捨てろって言うのか? このままアイツらを? 

 嫌だ。大して親しくもなかったレキウスを死なせただけで、俺はあれだけダメージを受けたんだ。

 それなりに仲の良いこいつらに死なれたら、俺は立ち直れる自信がない。ここには俺に鞭を打ってくれるリディも、俺を奮い立たせてくれるクロハもいないんだ。


 くそ、くそ……

 また怒られても良い。もう一度俺が、今度こそ完全に凍らせ——


『ありゃりゃ〜 こりゃまた面白いことになってますねぇ〜』


『!?』


 いつの間にか、俺の隣に見知らぬ男が立っていた。

 三十代くらいの長耳族、軽装の鎧と背中に中国の青龍刀に似たものをさしている男だ。


『だ、誰じゃお前は!』


 後方でリリスの護衛に徹していたドルムルがこちらに駆け寄ってきた。


『おっとっと〜、こりゃあ失礼。驚かせてしまいやしたねぇ』


 警戒の意を表すドルムルに男は、両手を上げて交戦の意がないことを示そうとばかりに、ニタニタと胡散臭い顔で笑いかけた。


『……どなたですか?』


『あいやしばらく! あっしの名はシュバリエ•ロッゾ=アールヴィ! 旅を愛し、美人を愛し、冒険を愛する剣士にございやす!』


 男はそう言って大袈裟なポーズを取った。


『う、うむなるほど……敵じゃないことぐらいわかったわい。

 で、何しに出てきたんじゃ? 死体狩りか?』


『いやいやとんでもない〜 あっしはこう見えて金にゃ困っとらんのでさ。

 なあに、あんたらが少し危ない状況なもんで、一つ助太刀いたそうかと〜』


 男はそう言って、背中の青龍刀をゆっくりと抜き放った。

 薄辛い迷宮の中でも青白く光る、美しい刀だ。

 でも何だろう、この剣を見ていると少し胸がざわつく。頭にノイズのような音が流れてくる。


『それ、魔剣ですね……ソロモンの……』


 そう呟くと、男は声もあげぬままその糸目を見開いた。


『おや、そこのお若い旦那は……同族か。まあ隠しているわけじゃあねぇんで答えやすが、その通り』


『……』


『長耳族でありながらこれを持つあっしに思うところがあるのはわかりやす——』


『いや、何も思いませんよ。カッコいいとすら思ってます。

 そんなの良いんで、早く彼らを助けてください』


『あらまあそれはどうも。そこの小人族の旦那、彼はこう言ってやすが、横槍入れて構いやせんね?』


『……構わん。アイツらを頼む』


 ドルムルがそう言うと、男は頰を吊り上げて、その場から消えた。


『!』


 いや、消えてなんかいない。

 いつの間にか男はカマキリとの戦いに加わっていた。


 さっきも似たようなことがあったが、アイツは気配コントロールが上手い。そのせいでまるでお化けみたいに感じる。

 おそらく、かなり階級の高い剣士だ。それこそ、リディやラルドに近い印象を受ける。


『あっはっは!! こりゃまたオツムの出来がいい虫さんで!!』


 広間に男の声が響き渡った。

 

『すごい……』


 男はたった今加わったにも関わらず、ボール達とスムーズに連携して、カマキリの攻撃を全て捌いている。

 速すぎてよくわからないが、きっとあれは瞞着流だ……


ーーー


 それから程なくして、カマキリは倒された。

 三人の連携で体の装甲を削られまくったカマキリに、男の指示で俺が氷結魔術を打ち込んだ形だ。


『いやいや〜 中々の強敵でやしたねぇ〜』


 凍死したカマキリを指で突きながら、男は飄々と笑っていた。

 そんな男に、ボールは頭を下げていた。


『シュバリエと言ったかしら、今回は貴方のおかげで命拾いしたわ』


『いんやぁ、あっしが助けんどもあんたらは生きながらえやしたよ?』


『?』


『そこの銀髪の若旦那が、あんたにドヤされるのも覚悟でこの虫を殺したでしょうよ〜』


『!?』


 みんなが驚いたような顔をして、俺を見ていた。

 そんな俺も驚いていた。


『卑怯モンの瞞着流なんて今こそ言われてやすが、あっしはそういう漢気ぃが大好きなんですわ』


 男はそう言って立ち上がると、剣を背中に差し戻した。


『そんなわけで、若旦那がドヤされんように、あっしが助太刀したわけです。

 な〜に、礼ならこの後、町で酒でも奢ってくだせぇ』


『え、ええわかったわ。それじゃあ、3層も攻略したことですし、一度地上に戻りましょ——』


『おいおい見ろよお前ら! ありゃボールじゃねえか!!!』


 ボールが退散の音頭を取ろうとしたところで、突然広間に響いた男の野太いの声。

 見ればそいつらは、三つの分かれ道の一つに立っていた。

 対するボールは、異様に引き攣った顔をしていた。

 一波乱の予感とは、このことだろうか。

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