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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第6章 学園篇

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第138話 お見合い大作戦?


「では、立ち会い人はこのジャランダラが務めよう」


 学園の中では3番目の広さを誇る第六戦闘訓練場に、ジャランダラの野太い声が響き渡った。


「決闘の申し入れをお受けいただき、感謝いたすグリム殿」


 俺の前には、そう言って頭を下げる狼の獣人。

 

「???」


 わけもわからぬまま、俺は自慢の双剣を構える。

 銘は左がアキレウスで、右がヘラクレス。どちらも俺お手製の合成金属の剣だ。

 ——っていやいや、そうじゃない。

 そもそもどうしてこうなった。

 俺はただ、ジャランダラと飲み会をやるだけのはずだったのに……


ーーー


「お待たせしました」


 夕陽が差し込む廊下に、一人の超絶美少年の声が反響した。

 そう、俺の声である。

 

「うむ、こちらも今来たところだ」


 そんなバカップルのようなセリフを返したのは、廊下の隅で石像のようになって、俺を待っていたジャランダラ。

 そしてそんな彼の隣には、見覚えのある狼の獣人が立っていた。


「決勝依頼ですね、改めて私の名はギーガ。西の大集落の長の次男です」


 そう言って、獣人は丁寧に頭を下げた。

 半裸で金属のアクセサリーをジャラジャラ引っ下げたDQN筆頭の様な見た目をしているというのに、もの凄いギャップだ。


「あ、はい。どうも……」


 決勝……ああ、そうか。

 見覚えがあると思ったら、決勝のバトルロイヤルで戦った人か。


「先日の貴方の闘いぶりに感服致しまして、もっと早くに伺おうと思っていたのですが……」


「は、はぁ……それはそれは……」


 なんだ、ただの挨拶か。

 てっきり低温火傷の仕返しに来たのかと思ったよ。

 

「ふむ、挨拶も済んだであろう。さっさと本題を話すといい」


 会話が途切れかけたところで、ジャランダラは目を閉じたまま直立不動でそう言った。


「本題?」


「はい。単刀直入に言いますがグリム殿、私と決闘してはいただけませんか」


 再び頭を下げたギーガを前に、俺は事前に用意していた一言を口にした。


「あ、はい嫌です」


「ありがとうござ——えっ!?」


「うはははははは! 面白い奴だグリム•バルジーナ!!!」


 先程まで彫刻の様に固まっていたジャランダラが初めて動き出し、俺をひょいと掴み上げた。


「漢が頭を下げて決闘を挑んだのだ! 其方も戦士の心得があるならば受けてやるといい」


 嫌です、心得なんてないです。

 俺なんて、ただの卑屈なおじさんです。

 

 俺は掴み上げられた状態で暴れたが、丸太のように太いジャランダラの右腕二本にガッチリと抑えられて、抵抗は無駄に終わった。


 そしてそのまま俺は、まるでお風呂に運ばれる飼い犬の様に、戦闘訓練場まで抱っこで連れて行かれた。


 道行く生徒が、そして教員が俺を見てクスクスと笑っていた。

 俺は途中で逃げ出すのを諦めて、目的地に着くまで両手で顔を隠していた。

 めちゃくちゃ恥ずかしかった。


ーーー


 そして現在に至る。


 全く、許せん奴らだ。

 人が仕事終わりに一杯やろうってところで、問答無用で引き摺り出すとは。


「本当にやるつもりですか?」


 我ながら往生際が悪いとは思う。だが俺は痛いのも疲れるのも嫌なので、ギーガにはなんとしてでも折れてもらいたい。


「はい」


 対するギーガ、強い意志を宿した眼で俺を見据えていた。

 これはアインと同じ、一度決めたら曲げない頑固者の目だ。

 それが忍道ってやつですか、火影に成れちゃいそうですね。ドロンしたいのは俺の方だが。


「あなた方は森林とかで戦った方が強いのでしょう? なぜこんな平地で……」


「どうして、戦士が戦場など選んでいられましょうか」


 それもそうか、もっともだ。


「せめて、決闘の理由を聞かせて欲しいものですね」


「それは……その……」


 ギーガは突然、口をつぐんで俺から目を逸らした。


「なんですか、遠慮なく言ってくださいよ」


「わっ……私はッ! 貴方の伴侶となりうる方に懸想してしまったのですッ!!!」


 赤面したギーガの魂の叫びが、だだっ広い訓練場にこだました。


「……はえ?」


 俺は一瞬、こいつが何を言ってるのかわからなかった。 

 伴侶となる人?

 ラトーナ……なわけないか。寧ろ彼女とは今不仲だし。

 となるとクロハ……でもないな。学園内だと俺とクロハに接点はない設定だ。


「あ、あー……」


 なるほど、消去法でアインか。

 たしかに、あいつ見た目だけは良いもんな。

 それとも、同じ堅物クソ真面目キャラの波動を感じ取ったのだろうか。

 そんなキャラはズラとセコウで十分なのだがな。


「決闘で俺を倒したら、自分のモノにするってことですか?」


「いや違う! 私は貴方より強いという証を持って、あの人に告白するのです!」


「奪うわけではないと」


「奪う……? どのオスに付くかを選ぶのはメスの方でしょう?」


 はーん、獣族にはそういう習慣があるのか。

 アインは確かに単細胞でゴリラだが、獣人じゃないからそのルールは無意味だと思うのだが……


「うーん……」


 さて、どうしよう。

 要点をまとめるに、彼は『俺に勝ったらアインに告白する許可をくれ』と言っているようなものだ。


 うん、どうでも良い。

 自分で言うのもこそばゆいが、別に俺が負けたって、アインは俺を好きなままだろうし。

 というか、告白しようにもアイツは今所在不明だしな。


「どうか、お願いします! グリム殿!」


 何より、ここまで頭を下げれちゃ、俺も無碍には出来ない。

 ここは一つ貸しということにしてやろう。


「わかりました」


 ギーガは口をキュッと結んで、再び頭を下げた。

 なんとも礼儀正しい奴だ。

 後でモフってやろう。


「では両者構えて!」


 ジャランダラの声が響くのと同時に、俺達は距離をとって構えた。


 ギーガの鋭い眼光が俺を刺す。

 帯びているのは殺気に近いもの。

 彼は真剣そのものだ。


 くそ。それを相手にして、手を抜こうなんてのもなんだか申し訳なくなってきたな……


「では始め!」

 

 よし、本気でやろう。


ーーー


 結果から言おう。

 圧勝だった。

 勿論それなりに手傷は負ったものの、ほぼ完封に近い形だった。


「はぁ……はぁ……ありがとう、ございました……」


 血だらけになって地面に大の字に倒れているギーガが、息を切らしながら笑った。


 彼も弱いというわけではないのだが、これは……相性が良かったんだな。


 それもそうか。

 こっちは武闘会以来、同じ獣王流のレイシアと毎日組み手して、どうやったら格上の獣人に勝てるかシュミレーションして、それを何度も検証してきたんだ。


「ふむ、ギーガの動きが途中から鈍ったな」


 勝負を終始見届けていたジャランダラが、目を見開きながら顎を撫でた。


「鼻を潰しましたからね」


 レイシアとの組み手で気づいたが、獣人は戦闘において嗅覚に依存している部分が非常に大きい。

 どうやら人が放つ魔力の機微すらも嗅ぎ取っているらしく、それで攻撃を予測したりもするそうだ。

 だから鼻を潰されると、本能的にそれに頼っている獣人は感覚にズレが出て動きが悪くなるのだ。


「ほう鼻を……どうやったのだ?」


「コート上の空気を急激に冷やして急速に温めるというのを繰り返すんです」


 するとどうでしょう、獣人は鼻水がドバドバ。ついでに俺もドバドバ。

 寒暖差アレルギーというやつか、鼻なぞろくに機能しない。


 当然、そうなるまでに時間はかかるから、俺はひたすら妨害やら地形操作で逃げ回るのだ。

 途中何度かギーガの攻撃をかわしきれなかったが、相手も俺のゼロ距離冷凍を遅れて攻めきれないようなので、良いバランスを保っていた。

 あとはまあ、最近お馴染みの刻印魔術によるドーピングのおかげでもあるな。

 あれのおかげで、身体能力に差はあるが逃げに徹すればなんとか……ぐらいまでの状況に持ってこれた。


「力任せの魔術師かと思っていたが、かなりの策士だな」


 まあ確かに、彼の言う通りいちいちそんなことしなくても、氷魔術縛りをやめて殺す気でぶっ放しまくれば、もっと楽に勝てると思うけどね。

 

「毎度最大出力を出すわけには行きませんからね」


「見事だ。では治癒魔法陣を起動するぞ」


 ジャランダラがぶつぶつとその場で短文詠唱を行うと、コート全体が光を帯び出して、その中にいた俺とギーガの傷をみるみるうちに治していった。

 

「便利ですね」


 訓練場に治癒魔法陣が組み込まれてるというのは良いものだ。

 ムスペル王国の修練場には無かったからな、ルーデルが俺を半殺しにして、その都度回復するという嫌なサイクルがあった。

 『私が殺し私が生かす』そんなどこぞの詠唱を完全再現したわけだ。

 ああ……我が魂に憐れみを(キリエ・エレイソン)


「では用事も済んだことであるし、三人でパッと飲もうではないか!!」


 正直、もう疲れたので帰りたかったが、相手は獣族長の息子と魔王の息子だ。

 これもコネ作り、仕事の一環だと思って、俺は快く承諾した。


ーーー


 訪れたのは、学園付近の歓楽街にあるそこそこの酒場だ。

 板張りの床と、冒険者ギルドをテーマにした装飾品。フランクな雰囲気が売りの店で、中々に繁盛しているそう。

 しかも夕飯時というだけあって、結構賑わっている。


 客層は一般人が多いかな。


「ぷはーっ! いや相変わらずグリム殿は強い!!!」


 そんな中で、ギーガは顔を真っ赤にしながら、杯を机に叩きつけて高笑いした。

 恋人(?)を賭けた決闘に負けたというのに、彼は思ったよりスッキリしているようだ。


「うむ見事だ! 英雄カーマにも似たその破壊力と胆力。武闘会のように邪魔が入らぬのなら是非とも手合わせしたい!」


 ジャランダラはまだ完全に酔ってはいないようだが、かなり口数が増えてきた。


 そして今、どうにも引っかかる事を言った。


「武闘会で何かあったんですか?」


 あくまで軽く、その場のノリで聞いてみる。


「ん? ああ、試合の時何者かに大量の呪詛をかけられてな」


「マジですか」


 なるほど、アインをランドルフにぶつけるために、マルテが手を回してジャランダラを弱らせたのか。


「いかに王子でも、それじゃあ勝てないですよね……」


「いや、そんなものなくとも吾輩は負けていた」


「そうですか?」


 いかにアインいえども、相手は運百年生きている魔族の英雄だぞ?

 今思えば、あんなに簡単に勝てるわけがないんだよな。


「二度目の大会には、吾輩は武人として挑んだのだ。血の力に任せて暴れるわけにもいくまい」


「なる……ほど?」


 要するに、殺し合いなら勝てるが、自分がしたかったのはあくまで武術の試合だということか。


「アイン•エルロードの剣技は素晴らしかった。あの若さにしてあそこまで叩き上げるとはな。吾輩の拙い剣術では到底及ばん」


「拙いって……」


 あの巨体から繰り出される技の連撃は、充分脅威だと思うがな。


「恥ずかしい話、数百年生きておきながら、剣術に興味を持ったのはここ数年なのだ」


「それなら仕方ないのでは……」


「何を言うか、年月など関係ない。アイン•エルロードや其方を見ていたら、自分がどれだけ怠けているかが良くわかったわ」


「そうですか」


「やはり純人族は恐ろしい。七十年程度の短い時しか生きられぬというのに、その中で途轍もない物を生み出していく」


 ジャランダラは遠い目をしながら、腕を組んだ。

 この人はひょっとして、酔っ払うと昔話を始める人なのだろうか。だとすると、こいつと飲むのは今後控えたいな。


「本当ですよぉ〜我々獣人なんて五十年も生きられぬというのに、森に篭って狩りばかり……進歩なぞ皆無です!」


 酒臭い息を撒き散らしながら、ギーガは卓をドンと叩いた。

 

「ギーガさんは……」


「さん付けなど入りません! 貴方は勝者として堂々としていてください!」


 そうは言ってもなぁ、3つ近く歳が離れた相手にタメ口は世間的にも難しいわ。


「……ギーガは、どうしてこの学園に来たんですか?」


「私は次期族長の座を賭けた兄上との決闘に敗れ、次期戦士長となりました」


「お、おぉ……」


 まずい、地雷だったかな。

 

「それで、私は元々外の世界に興味があったので、この機会に色々勉強してこいと兄上に提案をいただき、ここに参った次第です」


 と思ったら、そうでもなかっようだ。


「お兄さんと仲が良いんですね」


「はい、私よりも強く、優しく、真面目で賢い。尊敬に値する人間です」


 優しくて、強くて、真面目……という点は、アインと被っているな。


「それじゃあアインを好きになったのも、兄に似た部分があったからですか?」


 そう尋ねると、ギーガは耳をツンと立てて目を見開いた。

 なんかおかしいことを言っただろうか。


「なんの話でしょうか?」


 ギーガは首を傾げ、隣のジャランダラも首を傾げていた。

 え、なに。決闘が終わればそういう話は記憶から消えるシステム?


「え、アイン•エルロードに惚れたって言ったじゃないですか」


「言ってませんが?」


 あれぇー?

 そうだっけ?

 それとも、マジでとぼけられてる?

 俺も合わせるべきなの?


「私が惚れたのはアイン殿ではなく、貴方とよく一緒にいる獣人の女生徒(レイシア)ですよ?」


「はえ?」


「え?」


 喧騒に包まれた酒場の中で、俺達の卓だけに沈黙が訪れた。


ーーー


 状況を整理しよう。

 ギーガの話では、彼は武闘会から数日経った頃、俺の部屋を訪ねようと考えていたらしい。


 だが、彼もブロック優勝者。

 授業や周囲とのコミュニケーションに忙しくて、時間が中々取れなかったそう。

 

 そんな中、たまたま訪れた魔導科で、レイシアと二人で廊下歩いている俺を見つけた。

 でも、真っ先に視線に入ったのは俺ではなく、レイシアの方だったそうだ。

 いわゆる一目惚れってやつだな。


 うん、わかるとも。

 レイシア可愛いもんな。

 にゃーにゃーふざけた語尾で話してるけど、実際は結構知的だし。

 なにより見た目だ。

 十歳に似つかわぬワガママボディと、あの顔面だ。


 どこかのマタギ風に言うならば、ボ◯キが止まらねぇ……だ。

 だがそんな素晴らしい目をお持ちのギーガにも、一つだけ間違いがある。


「え、違うのですか……」


「はい。俺とレイシアは恋人でもなんでもないですよ……って、うわぁ!?」


 ギーガが突然席を立ったかと思えば、ゴンと鈍い音が立つほどの勢いで酒場の床に五体投地し始めた。


「ちょっ、やめてください!!」


「まことに申し訳ない! 私の早とちりだったとは! 純人流の謝罪はこれであっているでしょうか!!!」


 酒場が静まり返り、周囲の視線が集まる中、慌てて俺は彼を起き上がらせた。


「別に良いですから! 怒ってないですから落ち着いて!!!」


 そしてしばらくして落ち着いたギーガに、俺はある提案をした。


「お見合いですか?」


「ええ、俺が仲介しますよ」


 なんと言ってもこれは好奇だ。

 レイシアがギーガとくっつけば、学園でも話題になるだろう。

 そしてそれがラトーナの耳に届き、俺に対する誤解が解けるやもしれん。


 情けは人の為ならず。

 恋のキューピット作戦だ。

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