表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

125/235

第124話 龍精の企み


 朝、アインの悲鳴と共に目を覚まし、その直後に強烈なビンタをくらい気絶して、意図せず二度寝することになった俺は久しぶりに夢を見た。

 冒険者時代に起きた出来事の夢だ。


 冒険者になってから半年ほど経って、迷宮や洞窟探索にも慣れてきた頃、適当なメンバーを集めてとある迷宮の深層にまで足を運び、そこで奇妙な木の根っこを見つけたんだ。


 俺が住んでいた村の近くの森にもあった、エメラルド色に発光しているぶっといペンライトの様な根だ。

 もっと言えば、緑色の小人とか髭の似合うイケおじが剣として振り回してそうなアレだ。


 懐かしく思ったのか、それとも何か本能的に吸い寄せられたのか、はたまたフォースを感じたのか、俺は再びその根っこに触れた。


 以前は触れた際に走った電撃の様なものに驚いて手を離してしまったが、今回はそれに耐えて触れ続ける。


「!?」


 すると突然視界が切り替わり、俺は真っ暗な空間に移動した。

 妙な浮遊感がある。


「ここは……」


 俺はここを知っている。

 馬鹿みたいな経緯でトラックに撥ねられたそのすぐ後、俺はこの暗闇の中で意識を取り戻したんだ。


〔やあ久しぶり、ムスペルの大渓谷以来だね〕


 そんな暗闇の中に、合成音声みたいなモヤのかかった気持ちの悪い声が響いた。


 その声が、ムスペルに向かう際に通った異常気象地帯『太陽が落ちた場所(ラーヤ カーマ)』で、俺の体を乗っ取って呪詛弓師から守った奴のものだということはすぐに気づいた。


「あんた、ヴィヴィアンか……?」


 以前この声の主は『ヴィヴィアン』と名乗った。

 そう、ソロモン魔剣の制作者である龍族と妖精のハーフの、あとヴィヴィアンだ。


〔おや、名前まで覚えてくれたんだね。嬉しいよ〕


 抑揚のない声で奴は笑った。

 合成の様な音声も相まって、さながらデスゲームのゲームマスターと話している気分だ。


「何の用だ」


 俺はこいつを警戒している。

 ドリュアスの語った残酷な所業もそうだが、千年も前の人間だというのに、顔も明かさずにどこからともなく接触してくるという点にだ。


〔うーん……そうさね、強いていうならパス繋ぎかなぁ〕


「パス……前に言ってた橋がどうとかっていうやつか?」


〔そうだとも、僕はユグドラシルにいるからねえ、こうして君の方からユグドラシルの根に触れてもらわないと接触できないからさ〕


「ユグドラシルにいる? あれって巨大樹だろ? ティン◯ーベルの真似事か?」


〔あははー、まあそんな感じー〕


「詳しく話すつもりはないと」


〔今の君には不要だからね。パスを繋ぐ理由なら話しても良いけど〕


「じゃあ話せよ」


〔君が心配だからだよ〕


「それだけか」


〔うん。君という完全な乱数そんざいがこの世界にいるだけで、ユグドラシルによる世界演算は機能停止する〕


「せかいえんざん?」


〔でもそうしちゃうとさ、僕も世界を観測できないわけだから、君に何かあった時助けられない〕


「……だから俺にパスを繋ぐのか?」


〔そうそう。こうして君と接触することでマーキングを施せるから、僕は君を介して世界を観測できる。この前は不安定だからちょっとの干渉で途切れたけど〕


「観測してどうする、お前の目的は何だ?」


〔目的? それは勿論世界平和、ラブアンドピースさ〕


「引っ叩くぞコラ」


〔きゃーこわーい。本当のことなのにー〕


「もういいよ。じゃあ最後に聞くけどさ」


〔なになに?〕


「お前の魔剣、本当に生きた妖精族の成れの果てなのか?」


〔そうさ、素晴らしいだろう? あれのおかげで君という存在を産み出せたのだから〕


「は? おい待て何の話——」


 そう尋ねかけたところで、俺は崖から突き落とされたかの様な感覚と共に、洞窟の中で目を覚ました。


 そんな夢を、今になってまた見たのだ。


「はぁ……二度寝しちゃったか」

 

 そして俺は今、ようやくベッドから体を起こした。

 隣にアインの姿はもうない。

 残っているのは頬の痛みだけだ。


 今までずっと目を逸らしてきたが、俺はどうして、どうやってこの世界に来たのだろうか。

 ヴィヴィアンは何か知ってる様だったが、この一年間何の接触もないから、聞き出すのは無理そうだ。


「あ、そうだ」


 今日は授業がない日だった。

 二度寝したのが今日でよかった。

 ウジウジ考えていても仕方ないし、アセリアパイセンの研究室に行って、魔道具の研究でもしよう。


ーーー


 アセリアの研究室に向かって寮の廊下を歩いていたら、クロハの部屋の前を通ったタイミングで突然ドアから手が飛び出してきて、問答無用で部屋の中まで引き摺り込まれた。


「痛たた……って、あれ皆んなどうしたの?」


 片膝を突いた体勢から顔を上げると、部屋にはクロハだけではなく、リオンやレイシアがいることにまで気づいた。

 

「……」


 なぜかみんな怖い顔をしている。


「あの? レイシア……?」


 そんな沈黙の中、ベッドに腰掛けていたレイシアが近づいてきて、俺はの首筋をスンスンと嗅いだ。


「やっぱり……ディンからあの乳八重歯の匂いがするにゃ!!!」


「うわっ……マジか」


「最低」


 レイシアの一言で、皆んなの俺に対する視線が懐疑から侮蔑のそれへと変化した。

 まさに汚物を見る目だ。


「え、なになに?」


「ディンお前……抜け駆けはずるいぞ……」


 リオンが目をウルウルとさせながら、俺肩に手をかけた。


「は? なんのこと?」


「聞いてないのかにゃ? レコードーホルダーがアイン•エルロードを襲ったって話」


「は!?」


 襲った? そんなわけないだろ……あ、いやでも同じベッドで寝たり、泥酔させて部屋に連れ込んだのは本当か。  


 誰かに見られていたか、それともアイン本人が言いふらしてるのか……


「既にレコードホルダーじゃなくて、『純潔狩りのグリム』とか言われてるにゃ」


「マジかぁ……」


「否定はしないのかにゃ?」


 レイシアの問いには少し怒りの感情がこもっている様に感じた。

 

「いや違うんだよ、俺は襲ったりなんかしてないんだよ!」


「「「へぇ……」」」


「いや本当だって! アインに正体がバレたから、白かどうか調べるために酒で尋問したんだよ!」


「で、部屋に連れ込んだまま出てこなかったのかにゃ? こんなにあいつの匂いをつけて」


「ッ……そもそもこれ、どこ情報なんだよ!」


「あーしとリオンはディンの監視をしてたクロハからにゃ、学園に広まってる噂は多分、夜トイレとかで起きてきたやつが目撃したんだと思うにゃ」


「え、クロハお前……ずっと俺のこと見てたのか?」


「うん」


 クロハは何食わぬ顔で頷いた。


「なんで跡を尾けたんだ?」


「ディンがおめかししてあの乳八重歯を連れ出したから」


「せめて皆んなアインって呼んでやれよ……」


「あと、私以外にも二人を尾けてる人がいたから殺した」


 クロハがそう言うと、これが本題だったとばかりに部屋の雰囲気が重苦しいものに変わった。


「……は?」


「学園の人じゃないし、結構強そうだったから、透明になって刺すしかなかった」


 クロハ淡々とそう語る。

 彼女は殺しに対してはさほど抵抗がないようだ。


「狙いはアイン……だよな?」


 俺は素性を伏せている以上、狙われる理由がない。

 だがターゲットがアインとなると、黒幕は誰だ?


 アインを煙たく思ってる奴はこの学園に多くいる。

 そして個人で刺客を差し向けられるとなると、それはさらに絞れて、一人の有力候補が浮かぶ。


「マルテ王子がやったのかもな」


 俺は三人に考えの根拠となるアインと王子の関係を話す。


 リオンは腕を組みながら難しい顔で天井を見上げているが、多分ちゃんと理解してない。


 それに反して、やはりクロハとレイシアは物分かりが良かった。


「にゃるほど、確かにリディの言ってたように、マルテがプライドの塊で冷酷な奴ならありそうだにゃ」


「でも、スピーチの時は良い人そうだった」


「人柄なんていくらでも取り繕えるにゃ。そこの筋肉エルフだって、黙ってれば逞しく見えるしにゃ」


「たしかに」


「ひでぇよ二人とも……」


 しょぼくれているリオンを無視して会話を続ける。


「王子関連の情報を得たいなら、このままアインと接触していくのはアリじゃないか?」


 そう提案すると、クロハとレイシアは難しい顔をして首を傾けた。


「別に……武道会で優勝すれば良いだけにゃ」


「わざわざディンが乳八重歯と絡むことない」


 二人は消極的だ。

 よっぽどアインのことが気に食わないらしい。

 

「じゃあとにかく今は様子見で、それぞれ武道会の準備ということでいいだろう。俺もあまり結局的にアインに接触はしないからさ」


「「「わかった」」」


 アインお持ち帰り事件を咎めていたはずの空間は、いつの間にか作戦会議の場に変わっていたが、誰も異論を出さずにそういう結論に至った。


ーーー


 さて、気を取り直して今度こそアセリアの研究室に向かっていたのだが、その道中でアインの背中を見かけた。

 

 よく見ると、彼女の前には誰かが立ち塞がっていて何か言い合いをしている様だった。


 とりあえず近づいてみる。


「出ないというのかい!? この僕という最高の好敵手がありながらッ!」


「ご期待に沿えず申し訳ありませんが、私はもうあの大会に興味はありません」


 必死に何かを訴えている人族の金髪青少年と、やけに仰々しい口調で首を横に振り続けるアイン。

 大会と言っていたし、察するに武道会のことか?


「何してるんですかアイン」


「ぴゃっ、ディ……ディン!?」


 声を裏返しながら、もの凄い速度でバックステップを踏み俺から距離を取るアイン。

 やりやがった。

 こいつテンパって俺の本名を口に出しやがった。


「ん? お前はたしか……」


 アインという壁が消えて、俺と向かい合う形になった少年が眉を顰めてこちらを指差す。

 褐色の肌に長い耳、種族はダークエルフといったところか?


「あ、初めまして。俺はグリ——」


「グリム•バルジーナッッ!」


 突然俺の言葉を遮って彼がそう叫ぶ。


「はい?」


「思い出したぞ? 今年の推薦入学者で特級魔術師、入学早々そこのアイン•エルロードと引き分けたという……」


「あ、はぁ……」


 艶のある前髪を整えながら、彼は捲し立てた。

 随分とクセの強い奴だ。

 あと、俺はアインと引き分けてないしな。面倒なので口を挟む気はないが。


「おっと、僕としたことが自己紹介を忘れていたね。僕はランドルフ•ガル•ヴェイリル! ヴェイリル王国第四王子、〝鎧砕き〟のランドルフだッ!」


 第四王子……!?

 社交会の時ラトーナにちょっかいかけやがった奴の弟か! 

 随分と顔つきが違うが……腹違いだろうか。


「お前と同じく推薦でッ! 飛び級のッ! 特級魔術師だッ!!!」


「それは凄いですね。俺としてもそんな方と同期なんて鼻が高いです」


「……随分上からの物言いじゃないかね? 僕が王族と本当に理解しているのか?」


「勿論です、当然敬意は払っています……がしかし、失礼ながら俺の王はムスペル国王ラーマ陛下ただ一人ですので」


 適当にそれっぽいことを言って、片膝を突いて頭を下げる。


「気に入ったぞグリムッ! 僕はお前が欲しいッ!」


「それは恐悦至極。ですが、俺の様な愚か者は貴方の部下に相応しく——」


「構わんとも! 僕と共に力を蓄え、故郷で再起を計るのだッ! 待遇は約束しよう、なんなら美人の妻でも見繕おうか?」


「い、いやそれは……」


 困ったな、どう断ろう。

 あまり敵に回したくないし……


「おっ、お待ちをランドルフ様ッ!!」


 突然アインが俺とランドルフの前に割って入った。


「なんだね、僕はもう君に興味がないのだ。速やかに去りたまえ」


「私も武道会に出ます!」


「ふん、だから何かい?」


「私が勝ったら、グリムを仲間にするのを諦めていただきたく!」


「馬鹿かね君は? その要求を受ける義理がこの僕の、どこにあるっていうんだ。不敬だぞ?」


 たしかに馬鹿だな。

 だが、アインが俺を助けようとしてくれたことはわかる。


「……わかりました。ランドルフ王子、不敬は承知でお願いさせていただきますが、あなたの下に付くか否かは、武道会の勝敗にて決めさせていただけませんか?」


「……ふむ」

 

「自分で申し上げるのも少々歯痒いものですが、俺はそれなりに知名度があります。そんな俺を決闘にて下したとあれば、王子にも更なる箔がつくかと」


「この僕に、箔がないと?」


「そうは申し上げていません。ですか、王子はうちに秘めた迫力より、その外見の美しさが目立ってしまいます」


「なるほど、アピールチャンスというやつか」


「ご明察でございます」


「全く世辞の上手い奴だなグリム! 気に入ったッ! では僕は決闘にて正式に君を打ち破ろうぞッ!」


 ランドルフ王子は上機嫌になって、軽やかな足取りでどこへ消えてしまった。

 

 嵐が去って静かになった廊下で、俺とアインは目を合わせてほっとため息を吐いた。

学園潜入チーム お互いへの印象(クロハ編)


クロハ→ディン

私の恩人。常に私の心配をしてくれる人。好き。兄弟って感じの好きじゃなくて、家族の好きでもない。よく分からないけど、ディンは好き。

もっと自分を大事にするべきだと思う。


クロハ→レイシア

レイシアの方が一歳年上だけど、私を立ててくれてる気がする。

私より刻印魔術の才能があるって王様が言ってた。悔しい。

話しててイライラするし、時々喧嘩するけど、自然と仲直りしてることが多い気がする。ちょっと楽しい。

あとディンにベタベタ触りすぎ。死ね。


クロハ→リオン

メンバーはみんな私より歳上だけど、この人は私より頭が悪い。

一緒に旅してた時もあんまり関わりがなかったからよくわからないけど、ディンが楽しそうにしてるから多分良い人なんだと思う。

あと筋肉ムキムキで羨ましい。私もあーなりたい。


おまけ

クロハ→アイン

昔私の足についてた鉄球みたいな胸でディンを誘惑してる。早めに切り落とさないと。

あとうるさい。トリトンとロジーくらいうるさい。


リオン→アイン

良い胸と尻だなぁ。あんなの嫁に連れたかったら爺ちゃん飛んで喜ぶだろうなぁ。


レイシア→アイン

ルールは大事だけど、堅物は嫌いだにゃ。

頭もあの胸くらい柔らかければいいのにゃ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ