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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第5章 入学篇

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第120話 合格発表


「いやぁお疲れ〜出来はどうだった?」


 試験が終わり、みんな揃って学園の敷地から出ると大きめの馬車が用意されていて、その客車の中ではリディが待っていた。

 試験の結果発表は明後日とのことで、それまではリディの隊の詰め所で寝泊まりするそうだ。もちろん極秘で。


「騎士科は筆記があまりないから楽だった」


 クロハはつまらなそうにそう言った。


「魔導科は筆記と実技が五分だったなぁ」


「まあ余裕にゃ」


 リオンとレイシアもまあ余裕といった感じか。


「へぇ、ディンはどうだったの?」


「……」

 

 どうだったか、長らく冒険者をやっていて座学から離れていたせいか、歴史系の筆記が正直微妙だった。

 しかも字が汚すぎると監督官に呼び出されて、一つ一つ翻訳させられたし。

 実技は言うまでもなく、魔術学論や言語学は今までの経験が生きて満点は取れているだろうが、果たしてこれは飛び級の基準を満たしているのだろうか。


 冗談よしてくれ、俺が飛び級できないと計画全てに狂いが出る。


「まあ余裕じゃないですか!?」


 だが言えない。こんなこと決して言えない、言える空気じゃない。

 不安で今にも腹痛を起こしそうだし、逃げ出したくてたまらない。


「良かった。じゃあ詰め所までまだかかるから、楽にしてると良いよ」


 寝れるわけないだろ。ああクソ、なんでこんなことに……


ーーー


 胃が捩じ切れそうな不安を抱えていたというのに、馬車の中で爆睡してしまった。

 結んでいたはずの髪を解かれて三つ編みにされているのにも気づかないレベルでだ。

 あと良い加減髪を切らないとな。


「とうちゃーく、ここが『記憶の守り手』七番隊の詰め所でーす」


 リディに連れられて馬車から降りると、目の前には円柱型の砦が聳え立っていた。

 外壁も手入れされてるのか綺麗だし、結構新しいのだろうか。


「リディさんの隊って少人数ですよね? なんでこんな良い物件を?」


「団長の前で駄々捏ねたら貰えた」


「「「「うわっ……」」」」


 そりゃあ天下の不死鳥とリディに揃って暴れられたら大災害だからな。団長も首を縦に降らざるを得ないわ。

 ていうかひょっとしてリディの隊って問題児の寄せ集めなのでは? あ、でもセコウはまともか。


「なんだいその目は……まあいいや、さあ入って入って! 案内しよう!」


 疲れ切った俺達に構いもせず、リディは嬉々として詰め所の扉を勢いよく開いた。


「ここが一階エントランス! 奥の扉は食堂に繋がってるよ!」


 その後リディは小声で『まあうち、セコウしか料理できないから外食だけど』と付け足した。

 一階はその二部屋しかないから両方とも無駄に広いのに加えて、インテリアの一つもなく生活感がないせいでやけに小ぢんまりとしいて寂しいものだった。


「ここが二階の応接室と隊長室!」


 二階は流石に応接室というだけあっていくらか装飾がされていた。

 隊長室……リディの部屋は机が一つ置かれているだけで何もない、気味の悪い部屋だった。


 その後も部屋の紹介が続くかと思われたが、三階は隊員の部屋、四階も同様にそれと倉庫、そして地下に修練場があるということをさらっと伝えられて案内は終わった。


 そして夕食までのフリーの時間、俺は地下の修練場に向かったのだが、そこにはもう一つ部屋があることに気づいた。


「研究室が——うわぁっ!?」


 そっと扉を開けてみると、目の前には人がいた。


「って、あれ、人形……?」


 違う。暗くてわからなかったが、これは人形だ。

 顔もちゃんとあって、関節なんかも人間とそっくりに作ってある。

 そしてよく見たらこの部屋、そこかしこに変な薬品やら古い本、そして大量の人形が置かれているではないか。

 気味が悪いので早く——


「おわぁぁ!?!?」


 とっとと部屋から出ようとドアの方に振り向くと、今度こそ人が立っていた。


「え、あ、あ……」


 丸眼鏡をかけた深緑色の髪の少女。

 知らん。全く面識がない人だ。

 まさか前の城の持ち主の幽霊か?

 

「?」


 尻餅をついて震えていた俺だが、数秒して違和感に気づいた。


「あの……」


 ドアの前に立ち尽くする少女に呼びかけるも、返答どころかぴくりとも動かない。


「もしもーし」


 立ち上がってゆっくりと彼女に近づき、直立不動となっているその体の肩をつつく。


 やはり動かない。目を覗き込んでみてもどこか遠くを見つめたまま。

 

 そこでようやく俺は安堵のため息を吐いた。

 ビビって損した。ただの美少女眼鏡っ子人形だ。


「こんなのを隠してたなんてリディもスケベだなぁ〜」


 奴の弱みを見つけたぞとばかりに、人形の胸を揉む。

 感触がリアルだ。これはすごい。リディはとんでもないスケベ野郎だ。


「おーいディン〜、そろそろ飯行くからクロハの変身魔術を——」


 ちょうどタイミングよくリディが降りてきて、部屋の入り口でその足を止めた。

 ぽかんと口を開けたまま立ち尽くしている。

 しめた、これで俺はリディに優位に立つことができる。なんか飯奢ってもらおう。


「あれ、アセリアじゃん。帰ってきてたの?」


 リディは俺が人形を発見したという状況に眉一つ動かさず、欠伸をしながらそう言った。

 

「アセリア? 人形にそんな名前をつけてるんですかぁ?」


 精一杯のニヤケ顔を作りながら、リディ相手に目を細める。

 惚けても無駄だ。もう俺の勝利は揺らがない。


「アセリアは人間のことだよ?」


「え」


 リディのその一言で俺の体は石となった。

 ゆっくりと、ゆっくりと石像のように重くなった首を回して、もう一度この少女の顔を見てみる。


「あ、はわわわ……」


 人形の顔はいつの間にか、ゆでだこのように真っ赤になって湯気を吹いていた。


ーーー


「大変申し訳ありませんでした」


 アセリアと呼ばれる女性に向かって、俺は地面に頭を擦り付けながら謝罪した。


「そっ、そんなやめてくださひぃぃ!」


 大袈裟な身振りをしながら、彼女はリディの背に逃げ込んだ。


「あははは!! そういえば紹介してなかったね! 彼女はアセリア、君より三つ歳が上の新団員だ」


 リディは大笑いしながら背中のアセリアを引き摺り出して、俺の前にずずいと押し出した。


「あ、あわわわわ……」


 ピンボールの様な激しさで泳ぐ目と、滝の様に流れ出る汗。

 めちゃくちゃ嫌われたな、俺。


「彼女人見知りだから、根気よく付き合ってあげてね、君にとって重要な先輩なんだから」


「重要……なんですか?」


 眉を八の字にしてそう漏らすと、リディは俺の背後に広がる研究室を指差した。


「アセリアは君と同じ特級魔術師で、人形を操ることが出来るんだ」


「ゴーレムマスターってことですか」


「いや、ゴーレムは自分の魔力で生成した人形を操作するものだから根本が違うし、彼女のそれには明確な違いがある」


「操作の精度ですね!」


「ハズレ〜……と言いたいけどそれも少し正解。アセリアのそれとゴーレム魔術の明確な違いはその数だ。一般的なゴーレム魔術だとせいぜい同時に三〜四体程度の操作が限界だけど、彼女のそれは百体までなら同時にイケる」


「!?」


 それヤバくないか? 決戦の時の迷宮で見つけた壌土王の日記でさえも、本人は十体が限界と記していたのに……その十倍?


「どど、ど同時ではありませんっ……! あらかじめ人形に指令を打ち込んで自立させるのが殆どですっ……!」


「!!」


「ようやくわかったようだねディン」


 リディが笑った。


 そう、彼女は今ゴーレムに指令を打ち込むと言った。そしてそれは、前世で言うところのいわゆるプログラミング。


「俺の魔道具と似てる……」


 『奇術師之腕』は俺の魔術を補助する魔道具だが、ある程度術式を自立させて魔術の細かい制御もやらせている。

 分野が非常に似ているのだ。


「ディンの魔道具研究はなかなか面白いからね。君と別れてミーミルに戻ってた時、ちょうどこの子を見つけたからスカウトしたの」


「なるほど、それは是非とも仲良くした——」


 そう言いかけたところで、誰かの腹が落雷のような音を立てて鳴った。

 出所は考えるまでもない。なぜなら目の前で顔を真っ赤にして腹部を押さえている少女がいるのだから。


「はわわわ、すみませんすみませんすみません!」


「とりあえず、先に飯行こうか」


「そうですね」


ーーー


 そして、合格発表の日がやってきた。

 俺達は再び、学園の門の前に立っている。今回は早めに来たので長蛇の列の前方だ。


「目元のクマが凄いことになってるけど、大丈夫か?」


 リオンがそう言って俺の顔を覗く。


 大丈夫なものか、こちとら不安で碌に眠れていないんだ。


「入場始まったにゃ」


「やっぱみんなで見てきてよ。俺ここで待ってるか——あっ、ちょっと!」


 180度振り向いて駆け出そうとしたところでレイシアとクロハに腕を掴まれ、引っ張られる。


「ふざけてないで早く行こうにゃ」


「嫌だぁぁぁぁぁ」


ーーー


「えーっと飛び級、飛び……あったにゃ!」


 レイシアとリオンに引き摺られて、どデカい掲示板の元までやってきた。

 心臓が口から出てきそうだ。

 胃が痛い

 震えが止まらない。


「あーしと、筋肉エルフと……」


「誰が筋肉エルフだ!」


「あ、ディっ——じゃなくてグリムの名前もあるにゃ!!」


「マジ!? 良かった……」


 嬉しさで叫ぶよりもほっと肩の荷が降りて、深いため息と共に全身から力が抜けた。


「ていうかよく字が読めたな、レイシア」


 彼女はまだミーミル語を習って二年経つか経たないか、だというのに読み書きまでバッチリとは恐ろしい。


「覚えたのはじゅーよーなのだけ。読むのも書くのもまだまだにゃ」


「それでも凄いよ。リオンはもっと頑張ったほうがいい」


「なんで俺!?」


「ありがとにゃ。でもこっちの説明は読めないから頼むにゃ」


 そう言ってレイシアは掲示板の端を指差した。


「えーっとなになに……」


ーーー


 掲示板の説明は簡単なもので、飛び級入学者四名は二年生の始業式的なものがこのあとあるので、それに出席しろと言う旨のものだった。


 なので俺たちは、案内に従って学園の講堂へと赴いた。

 

「ラーマ王の城みたいだにゃ」


「集落よりも多いんじゃないか? この数は」


 緊張した面持ちで大人しく椅子に座っている二人が簡単の息を漏らした。


 流石というべきか王立学園、聞いた話では二千人近く収容できてしまうとされるこの大講堂は圧巻だ。

 堅苦しい装飾も相待って、オーケストラホールに印象が近いな。


 そして長ったらしい学長の話を終えたのち、生徒代表のスピーチがあった。


「代表、マルテ•ミーミル。壇上へ」


 司会の言葉で、最前列に座っていた金髪の好青年が椅子から立ち上がり登壇した。

 随分とイケメンだなちくしょう、俺もあんな顔が良かった。


 スピーチの内容は結構ユーモラスで、彼自身もかなり爽やかで聴きやすい喋り方だった。

 仮にもこいつが闇市と繋がって王権を独占しようとしてる輩には見えない。


 ひょっとして、リディが悪で王子が善……なんてことはないよな?

 いやまあ、それは今後接触するにあたって調べれば良いことだな。


 とりあえず入学にも成功したわけだし、今日は帰ってぐっすり寝よう。


「——以上もちまして、式を終了とさせていただきます。このあとは履修登録やシステムの説明を行いますので、引き続きご着席を願います」


「あばばばばっ」


「集落に帰りたい……」


「おいグリム! リオン! 気をしっかり保つにゃ!!」


 この後もしばらく地獄が続いた。

ゴーレム魔術は古式魔法の一つですが、属性が土に絞られる上消費魔力も多く、扱いが難しいので廃れてしまいました。

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