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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第1章 リニヤット家篇①

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第11話 到着、そして…


 故郷のヴェイリル王国を出発して二日が経過した。


「父様」


 俺隣で馬車の手綱を握るラルド、この二日間ほとんどなんの会話もないままぼーっと並んで座っていたが、俺はここにきて初めて彼に話しかけた。


「なんだ」


 合ってない焦点でどこかを見つめたまま、ラルドは口を開く。

 全く、彼はいったい何を考えているのだろうか。


「馬車ってこんなに遅いんですか」


 そして記念すべき会話第一号は俺の文句から始まる。

 だってドラマとかアニメで見た馬車ってもっと速く動くイメージがあったもん。これじゃ自転車こいだ方がマシそうなレベルだ。


「無茶言うな。牛車じゃないんだぞ」


 そう、本来なら魔物の牛が箱を引く〝牛車〟を使う予定だった。

 〝牛車〟は馬車に比べて倍以上の速度が出る上に、休憩も大して必要としない。

 ただ、とにかく乗り心地が悪いのだ。一歳の赤子であるイェンをそんなものに乗せていくわけにもいかず、泣く泣くこちらを選んだわけだ。


 そのため、ヘイラの予想では屋敷への到着まで一週間もかからないはずだったが、乗り物が変わったことで二週間に延びたのだ。


「「……」」


 そして、会話が終われば再びこの沈黙。

 気まずいとかそんなこと以前に、退屈である。

 イェンは基本寝てるので起こすわけにもいかないし、周りを見回しても視界に映るのは畑と雑木林ばかり。なんの面白みもない。


 スマホが見たい。音楽聴きたい。ソシャゲやりたい。

 これがあと二週間以上続くのだ。


 そして俺は、考えるのをやめた。


ーーー


 あれから一週間、ようやく景色がスーパーマ○オの初期ステージからドラ◯エの最初の街に変わった。


 しかし……陸続きの国だと言うのに、建築様式って結構違うもんなんだな。

 俺のいた村の家々は、前世で言うところの某積み木ゲームの〝豆腐ハウス〟が基本形だったが、こっちはヨーロッパとかにありそうなオシャレな三角屋根の家が多い。


 島国出身の人間にとっては中々のカルチャーショックだ。


「と、ととと父様ッ……あれ……」


 ああそうそう、カルチャーショックといえばもう一つある。


「おい、馬車から乗り出すな、危ないだろ」


「あ、あの褐色肌の女の人ッ! 猫耳がありますよ!」


 そう叫びながら、道路の脇の八百屋でフルーツを手に取っている女性を指差す。


「は? 獣族なんだから当たり前だろ」


 獣族! そうか! 魔術がある世界だからもしやと思っていたが、やはり異種族も存在する世界だったか!


 見よ! あのビー玉のような瞳と灰色の髪、ワンピースの下から覗かせる引き締まった太ももと、柔らかそうな尻尾!


「すみません父様、僕は死に場所を見つけました」


 俺はあの女性の膝枕の上で一生を終えたい。


「あ、何言って……って、おい待て!」


 道路に降りようと馬車から身を乗り出した瞬間、ラルドに首根っこを掴まれた。


「放してくださいッ! 今なんです! 今ならまだ!」


 ラルドにひょいとつかみ上げられた状態で、俺は精一杯体を揺らして脱出を試みる。


「はぁ、今ならなんだって言うんだ」


「この歳なら! スカートの中に顔を突っ込んで社会的に許されるッ!」


 そうだ、きっと事故として処理されるはずだ。だから俺は、あの布の先にあるダンジョンを攻略しなければならない。

 幼児である利点を活かさねばならないッ!


「……そうか」


「わ、わかってくれたんですね!」


「じゃあ民宿取りに行くぞ。今日休んだら、明日で一気に目的地まで向かう」


「『じゃあ』の使い方間違ってるッ!」


 ラルドは全く俺の熱意を受け付けず、結局俺は、宿に着くまで彼に襟元を掴まれて拘束されていた。

 その道中には長耳族エルフ小人族ドワーフの美女もいた。

 先っちょだけで良いから、触ってみたかった。


 そんな思いを必死に抑えながら、俺はひっそりと宿の硬っったい枕を涙で濡らした。

 

ーーー


 さらに一週間が経ち、ようやくミーミル王国南東部のアデイユ領の中心に到着した。

 けれど、肝心の領主の屋敷であるヘイラの実家には到着できていない。


「あの父様……いつになったら着くんですか?」


「もう着いてる」


 そう言われて辺りを見回すも、左側は民家が立ち並んでいるだけだし、右側に至ってはずっと公園らしきモノしか見えていない。


 まさか、屋敷ってこの普通の民家の並びにある感じなのか? どう見ても屋敷と言えるほどの大きさじゃないけど……

 あ、それともあれか、魔術を駆使して、見た目は普通の民家だけど、家の中に入るとめちゃくちゃ広いみたい——


「ほら、着いたぞ」


 ラルドがそう言って馬車を止めた。

 釣られて俺も馬車から飛び降りたが、やはり目の前にあるのは公園の入り口の門だった。


「この公園を抜けていくんですか?」


「抜けない。ここは公園じゃない」

 

 そう言ってラルドも馬車から降りて、馬の手綱を握ったままどでかい門を開けた。


「ほら行くぞ?」


「え」


ーーー


「わー! 久しぶりねこのお庭! 相変わらず綺麗ね〜」


 馬車の中でイェンを抱きながら、ヘイラは歓喜の声を漏らした。


「これが庭……」


 そう、俺が公園だと思っていたものはどうやら屋敷の庭だったらしい。

 馬車が通るほどの屋敷へ続く一本道と、その両脇を彩る花のアーチ。奥には噴水や林、花畑も見えるし……なんかレベルが違いすぎて予想もつかなかったわ。

 てっきり奥のあのでかい建物も公民館とか市役所かとばかり……


「お久しぶりですね、ラルド殿、ヘイラ様」


 そんな一本道を一分ほど歩いて、ようやく屋敷を見上げられるほどの距離まで来た時、目の前の扉から一人の男が姿を現した。


「きゃー! 久しぶりねザモア! 全然変わっていないのね!」


 黒いスーツに身を纏い、片眼鏡をかけた五十代ほどのザモアと呼ばれる男性に、馬車からイェンを抱いて降りてきたヘイラが駆け寄った。


「——して、そちらの少年が……」


「あ、ラルド•オードとヘイラ•オードの息子、ディン•オードです」


 男の目線がヘイラと抱かれているイェンから流れるようにしてこちらに向いたので、慌てて頭を下げる。


「おや、これはご丁寧にどうも。私、ディフォーゼ家の執事長を務めております、ザモアにございます」


「あ、こちらこそよろしくお願いします」


「早速ですがぼっちゃま、この国の挨拶は男性の場合左胸に手を当て、30度程腰を傾けるのですよ」


「え、こうですか?」


「ほほほ、お話では八歳と聞いておりましたが、随分と早熟な方ですね。やはり才人お二人の子供となると当然なのですかな?」


「まあザモアったらお上手ね!」


 ヘイラが嬉しそうにザモアの肩をバシバシと叩く。


 貴族と使用人っていうともっと距離があるイメージだったが、この二人は結構仲が良いんだな。


「——さて、談笑はこれぐらいに致しまして、そろそろ滞在する間のお部屋へご案内いたします」


 ザモアに促され、屋敷の扉を潜る。


「「「ようこそお越しくださいました、ラルド様、ヘイラ様」」」


 入ってすぐのエントランスではたくさんの使用人が出迎えてくれた。獣族もいれば長耳族まで、みな美男美女揃い。壮観と言ったところだ。


 そしてエントランス奥の二階の壁には、堂々と老人の肖像画が飾ってある。おそらくこの屋敷の当主……というか俺の祖父に当たる人だな。


「ヘイラ様とイェン様は西棟なのであちらに、ラルド様とディンぼっちゃまは私がご案内いたします」


 おいやめろ、その呼び方だと語呂がびん坊ちゃまみたいだろ。


ーーー


 さっきまで俺達がいたエントランスは南棟で、今俺達がザモアに案内されて歩いているのは東棟らしい。


 ディフォーゼ家の屋敷は中庭を囲うようにして東西南北四つの三階建ての建物で構成されているそう。

 

「ラルド様はこちらのお部屋となります。応接室への道は覚えていらっしゃいますか?」


 長い長い廊下の最奥に位置するドアの前で、ザモアは足を止め、その戸を開けた。


「前襲撃した時と同じだろ?」


「ほほ、そうですとも。それでは私はぼっちゃまの案内だけで大丈夫そうですな」


「問題ない。すぐ向かって良いんだろ?」


「はい。既にエルズ様やアーベス様がお待ちです」


「わかった」


 なんだか物騒な会話が終わると、ラルドはスタスタと元きた道を戻って行ってしまった。


「それでは、ぼっちゃまの部屋は三階ですのでご案内しますね」


「あ、はい」


ーーー


 階を一つ登って、再び長い廊下をザモアと並んで歩く。


「ザモアさん」


「ザモアとお呼び下さいぼっちゃま」


「あ、じゃあザモア……」


「はい、如何されましたか?」


「この家って、何人くらいの使用人がいるんですか?」


「ふむ……時期にもよりますが、百人いるかどうかと言ったところでしょうな」


 マジか。でもまあ、これだけ広い屋敷となるとそれぐらい必要か。


「へぇ〜 ありがとうございます!」


「いえいえ、何なりとお聞きください」


「あ、じゃあついでに、あとどのくらいで着き——うわっ!?」


 ザモアと会話をしながら、ちょうど廊下のT字路に差し掛かったところで、曲がり角から飛び出してきた金色の何かと衝突し、俺は尻餅をついた。


「大丈夫ですか、ぼっちゃま、お嬢様」


「痛てて……はい、なんとか……」


 ジンジンと痛む額をさすりながら顔を上げると、そこにはヘイラとそっくりな少女が俺と同じような体勢でおでこを抑えていた。


「痛ったいわね! どこ見てるのよ!」


 ヘイラそっくりな少女はスクッと立ち上がって、俺を見下ろしながら声を上げた。


 めちゃくちゃそっくりで一瞬クローン説を疑ったが、よく見たら垂れ目な所とか耳が少し尖ってる所とか、ちょくちょく彼女との差異が見受けられる。しっかり別人だ。


「いや……ぶつかってきたのはそっちでしょ」


 随分めちゃくちゃな言い掛かりだ。ボンボンタイプのわがままお嬢様と言ったとこ——


「誰がボンボンよ!!! もう良いわ!」


「あ、ちょっ!」


 突然血相を変えて怒鳴った彼女は、またすぐにどこかへと走り去ってしまった。


「さあ、お手をぼっちゃま」


「あ、どうも」


 ザモアが差し伸べてくれた手に捕まって、起き上がる。


「なんだったんですか……さっきのアレ」


「ラトーナお嬢様にございます。血縁上はぼっちゃまの従姉弟ですな」


「へぇ〜」


 とんだじゃじゃ馬娘もいたもんだな。沸点低そうだし、できるだけ関わらないようにしておこっと。


 その後数分歩いた所に、俺に与えられた部屋はあった。

 何畳とか具体的なのはよく分からないが、とにかく広くて、日当たりがよく、ベッドもフカフカだった。


「では案内も済んだことですし、顔合わせの場へ向かいましょうか」


「はい!」


 しばらくこんな豪華な部屋で過ごせると思うと、いやでも笑みが浮かんできてしまう。


 そんな期待に包まれながら、俺は部屋を後にした。

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