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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第4章 潜入任務篇

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第110話 ズレた歯車

ムスペル王国に滞在してから一週間ほどが経ち、王宮での生活と毎日のハードな訓練にもだいぶ慣れてきた。


 だがしかし、ここにきて俺は全く新しい状況に直面している。


「出来上がりですわ!」


 鏡の前に立つ俺の横で、シータは粉まみれの両手をパンパンッと払った。

 俺が見つめる鏡の中には、銀髪の女の子が立っている。


「ギャッハッハッハ!! なんだよその格好!!!」


 部屋のドアを開けていたせいで、通りかかったロジー達に見つかってしまった。


「ふははは! 貴公に女装趣味があったとはな!!!」


「……プッ、ふふ……」


「もぉぉぉぉなんでセコウさんまで笑うんですかぁぁぁぁ!!!」


 そう……俺は今、シータによって捕えられて、自室で無理やり女装させられていた。


「なにを笑っていますの皆様。可愛いでしょう?」


 そんなロジー達の爆笑も意に返さず、シータは俺の体を強引に捻って、彼らの前に突き出す。


「ほら、よく見てくださいまし!」


 そんなシータの圧に押し負けて、ロジー達は化粧まみれの俺の顔を覗き込んだ。


「んー……まあ良いんじゃね?」

(意外といけるな……)


「ふむ……」

(あの時貴族に売っておけばよかったな)


「良いじゃないか。ついでに服も貰ったらどうだ?」


 みんな勝手な事を言う……こっちは下着まで本物をつけさせられて心底屈辱だというのに。

 あと、なんだか下半身がスースーして気持ち悪い。


「お、なかなか似合ってんじゃねえのよ」


 そんな中、突如うんざりする程聴き慣れた大声と共に部屋に入ってきた緑髪の男が、俺のドレスをめくった。


「キャッ……じゃなくて! 何やってんだあんた!!!」


「うぉっとっと、わりぃわりぃ!」


「何の用だよ。俺の部屋はレキウス出禁だぞ」


 そう、レキウス。俺はこの男が嫌いだ。

 別に初対面が戦闘だったからとかじゃなくて、単にこいつはしつこいのだ。

 俺がルーデルとの訓練で疲れているというのに、こいつときたら毎日のように、『手合わせ願う!』なんて言って押しかけてきやがって。

 歳が近いから余計に親近感感じられてるのかな……この漢気一番ってキャラがマジで鬱陶しい。


「おいおい、今日は仕方ねえだろうよ。王様の命令なんだから」


「は?」


「王様が謁見の間でお前をお呼びだよ」


「……じゃあ今から着替えて——」


「違う。必要ねぇ。そのまま来いとさ」


「は???」


ーーー


「ふははははははははッ!!! ラルドが女装しておるわ!!! あのクソガキがだぞ!? はははははははははははははは!!!!」


「……」


 謁見の間に甲高い笑い声が響く中、俺は口をへの字に結んで下を向いた。

 

 最悪だ。みんなに見られている。身内だけならまだ良かったが、周りのメイドさんや執事までもがこちらを見てクスクス笑っている。

 

「——はぁ……よし。それでは本題に入る」


 突然電池が切れたかのように真顔になった王様が、肘掛けに頬杖をついて足を組み、いつものポーズになった。


ーーー


 特産品であるガラス細工を十全に活かしたステンドグラスに、絢爛豪華なドレスを纏った人々が照らされている。


「うぇ〜紳士服なんて来たことねぇのによぉ……」


 そんな中で先程から襟元をずっと弄っているレキウスが、そう言って眉間に皺を寄せた。


「怪しまれないようにしっかりやれ……やりなさいよ!」


「痛ぇっ!」


 そんなだらしない態度でホールに立つその男の足を、俺は思い切りヒールで踏みつけた。

 本当なら尻を蹴り上げてやりたかったが、ドレスだとそれも上手くいかない。


「ッ……そっちこそ怪しまれることすんじゃねえよ!」


「怪しまれない……わよ」


 そう、誰も俺たちのやり取りを目に留めない。

 流れてくる優雅な背景音楽や、談笑の音がそれを掻き消してくれるからだ。


 俺達は今、ムスペル王国の社交パーティーに出席している。


 ことの発端は二日前、王様に呼び出された時だ。

 なんでも、このパーティーには国の未来を揺るがす危険因子が混ざり込んでいるらしく、それを駆除してこいとの依頼だった。


 当然、俺は断った。人を殺すとか殺さないとかそれ以前に、なぜか俺だけ女装したまま任務に臨めと言われたからだ。

 男女ペアによる参加が条件なのはわかるが……なぜ俺なのだ。

 もっと組み合わせあったろ。


 まあ抗議は虚しく、俺の罪を帳消しにしたことを帳消しにすると脅されて、已む無くここにいるわけだがな。


「えっと……こういうとこって何するんだ? ガキの頃にしか来たことねぇから忘れちまったわ」


 緊張感も何もなしに、レキウスはせっかくワックスで整えた髪をワシワシとかいて、いつものオールバックに戻してしまった。


「はぁ……とりあえず周りに合わせて踊ってみては? 男役のあなたがリードして下さいよ」


「お、おう……こほん、良ければ俺と踊っていただけませんか?」


 一瞬同様を見せるも、すぐさま彼は声音を低く、そして腰を少し引いた姿勢で俺に手を差し出した。


 この天然のスケコマシめ。なにが社交辞令は忘れちまっただよ。ラトーナの屋敷にいた講師なら満点を与えるレベルの出来栄えだ。


「……はい、喜んで」


 なんだか少し負けた気分になりつつ、俺は彼の手を取り、ホールの中央へと移動した。


「おいっ……俺ダンス出来ねぇぞ」


 曲が変わり、それと同時にダンスの輪に入ったところで、レキウスは小声でそう言った。


「ぼ……私に合わせて下さい」


 ラトーナの屋敷でダンスを習っていて良かったと、今更ながら思った。


 やれやれ、先が思いやられるな……


ーーー


 ダンスを終えてからは何事もなく時間が流れ、パーティーは終盤に差し掛かっていた。


 最初は面倒で仕方なかったが、このパーティーも案外悪くない。ミーミルと違ってムスペル王国には貴族制がないので、出席者は皆商人か議員。

 腹黒い貴族なんかよりも謙虚で人当たりが良いので、話していてもあまり不快にらないからかな。


「——しっかし……何も起きねぇな」


「ええ、確かに」


 だが問題もある。先ほども言ったように、何事もなかったのだ。

 シータの予測ではもうとっくに——


「キャァァァァッ!!!」


 そんな時、突然場内に響き渡った悲鳴。

 声の出所はホールの中心。既に人の輪が出来ている。

 

 急いで俺達も、その野次馬の輪に駆け込む。


「全員動くな! 私の指示に従わないのならば、この場で自爆し皆死んでもらう!!」


 輪の中心に立っていたのは、体中に変わった色の宝石をくくりつけた一人の男だった。

 紳士服に合わないようなボロい縄を体に纏っていて、かなり不格好だ。


「おいおい……おいおいおいおい……!」


 レキウスは男を目視するのと同時に、顔中に汗を浮かべて舌を鳴らした。


「え、なんですかあの紫の石ころ」

 

「知らねえのか? 爆魔石だよ……魔力を流し込んだだけで大爆発するやつだ。それをあんな数……」


「!?」


 レキウスにそう言われて、改めて男の方を凝視する。

 一つ、二つ……少なくとも九つ以上の爆魔石が、その男の体には括り付けられていた。


「仮に、あの量が爆発したら?」


 男が何やら指示を出し始めたところで、俺はヒソヒソとレキウスに問いかける。


「俺ら以外助からねぇだろうなぁ……」


「……」


 おかしい。

 シータの予測では、このパーティは自爆テロではなく、単なる襲撃に遭うはずだった。で、それを俺達が迎撃すると。

 何かが、そして何処かで歯車がズレたんだ。

 これは、彼女が見た未来ではない。


「どうします? 氷結で止めましょうか?」


 ボーッとしているわけにもいかない。何か行動を起こさねば。


「バカ言うなよ、あれは魔力注いだだけでドカンだぞ」


 じゃあどうしろって言うんだ。即死させようにも、周りに人がいるせいで高威力の魔術は放てない。


「……とりあえず、相手の出方を疑うか」

 

 そして、自爆魔の説明が始まった。

 内容は至極簡単、このホールにいる役二百人ほどの人間を利用して、ビリヘイル王国の軍を直接こちらに召喚するそうだ。


 悪いニュースはそれだけに留まらず、会話の内容からして敵は目の前の自爆野郎だけではなく、あと数人ばかりの仲間がこのホールの中に潜んでいるということ。


「ふざけやがって……そんなことされたらこの国は……」


 当然だ。

 多数の政治家が犠牲になる上に、こんな国の中心部にいきなり軍が出てきたら、大混乱だ。


 ……しかし、気になるの『政治家を使う』という言葉。生贄という意味か?

 そもそも、国一つを跨ぐレベルの転移魔術を、ここにいる奴らだけで担えるのか?


それよりも範囲の狭いエルフの里でさえ、アクセス用の転移魔法陣に使う魔力が足りず、置換の原理を……


「あ」


 俺は閃き、そして走り出した。


ーー氷結波アイスウェーブーー


 野次馬の間を通り抜けて自爆野郎の目の前に飛び出し、すぐさま奴を氷漬けにする。


「おい! 何やって——」


ーー土壁ーー


 レキウスが叫び終えるのよりも早く、氷塊となった自爆野郎の周囲を岩の壁で多い、パーティー参加者と分断する。これなら万が一爆発されても、被害は出ない。


「おい! 勝手に行動してんじゃねぇ!」


 あまりの怒涛の展開に周囲が静まり返る中、遅れてやってきたレキウスが、俺の胸ぐらを掴む。


「人質がいたのに何のつもりだ!」


 怒るのも無理はない。だが、これは最善だ。


「相手は我々に危害を加えられません」


「はぁ?」


 レキウスの額に青筋が浮かび、掴み上げられた俺の体も浮き出した。


「そもそも、おかしいんですよ……国を跨いだ軍の召喚なんて……」


「何が言いてぇんだよ!」


 レキウスが俺の胸ぐらから手を離し、俺は尻餅をつきながら話を続ける。

 時間がない手短に、簡潔に説明しなければ。


「置換です。転移魔術の応用である置換の原理を使うんです」


 双方向からの転移を行う場合、魔法陣内の環境が似ていれば似ているほど消費魔力が少なくなる。というものだったはず……


「いや、俺は古式専門だから近代魔術のこたぁよくわかんねえよ」


「簡単に言えば、このホールの人達と敵国の軍をすっぽり入れ替えるんです。つまり召喚される軍は二百人程度」


「……少ねぇな」


「はい。だから相手からすると、極力は入れ替え元となる人間を減らしたくないんですよ!」


「おお! じゃあこのままやれば——」


 レキウスがそう言って懐に忍ばせていたナイフ型の魔剣を取り出したその時、ホールの四方が紫色の光に覆われた。


「!?」


「今度は何だよ!」


 爆魔石と似たその光が周囲に満ちたことで、混乱と悲鳴の嵐に見舞われた。


「爆発じゃない! おそらくは結界、僕達を閉じ込めてこのまま転送する気かも!」


 すぐさま結界の縁があるはずの、ホールの端へとレキウスを引っぱる。


「……あった」


 予想通り、結界の外のホールの隅には魔法陣が展開されていた。

 結界が正方形であることを考えると、これを維持している魔法陣は目の前にあるのを含めホールの四隅にあると考えられる。


「魔法陣を破壊するためには、まずこの結界かだな」


 レキウスが持っていたナイフを槍に変形させ、思い切り結界に向けて突き立てる。

 

 しかし、結界は傷がつくどころか槍だけを通してしまった。


「んだよこれ……武器がすり抜ける……」


 不自然に思い、そっと障壁に触れてみる。


「あれ?」


 すると、俺の手はその障壁をすり抜けた。

 そしてそのまま進んでみると、俺は結界の外に出てしまった。


「なんか出れました!」


「は?」


 俺に続いて、レキウスも結界を通ろうとするが、当然のように障壁に阻まれた。


「クソ! 俺はいいから魔法陣を壊せ!!」


 慌てて俺はそれに従い、魔法陣に向けて適当な魔術をぶつける。


「ッ……!」


 しかし壊れない。いやそもそも、俺は魔法陣の壊し方など知らないのだ。

 

「じゃあ術者を探して殺せ! ホールの入り口が開いてるだろ! あいつら魔術を起動するだけして逃げやがったんだ!」


 レキウスの指差す方に目をやると、確かに扉が乱暴に開かれた跡があった。


「時間がない! 転送が始まる前にやれ!」


「……皆さんを頼みます!」


 俺はレキウスに促されるまま、ホールの外へと駆け出した。

「どうだ、予知の方は?」


 空中城塞黄金の間にて、王は玉座の上で数多の書類を眺めながら、眼前の女性に問いかける。


「いえ……以前見えませんわ……やはりディンが介入した時点で……」


「だが逆に言ってしまえば、確定した未来が予測不能となった。レキウスとその他では死亡の予測しか出なかったのであろう?」


「はい……ですが何も、そのような危険な任務にディンを連れて行くなんて……」


 俯いたままの女性を前に、王はため息を漏らす。


「何を言うか、国の未来がかかっているのだぞ? 他国の人間とはいえ、貸しがあるのだから使わぬ手は無かろう」


「しかし……」


「問題ない、こちらも備えておく」


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