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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第1章 始まりの村篇

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第10話 ワカレ×ト×イイイレ


「お爺様の家ですか?」


  風が吹けば必ずと言っていいほど蜜の香りがする、そんな時期も終わりを迎え始め、新緑の季節がやってくるという頃。

 庭で魔術の練習をしながら昼飯ができるのを待っていたら、ヘイラがイェンを抱いて家の中からやってきた。


「そうよ! イェンもそろそろ落ち着いてきたし、前々から顔を出しなさいと言われてたしね……」


 いわゆる里帰り、近いうちに遠出をするとのことだ。


「あれ?  でも母様って、家を飛び出して父様と結婚したんじゃ……」


「ち、ちょっと事情があってね? 特別に行くことになったのよ!」


 慌てて身振り手振りで説明するヘイラ。何か隠し事をしているのは付き合いの長い俺でなくともわかるというもの。

 だが、あえてこれ以上首を突っ込むことはしない。

 こんな文明の遅れた世界だ。きっと貴族は昼ドラ並みにドロドロで、関わるだけでも胸焼けがしてくるに違いない。だから俺は極力そう言ったことには関わらない方針を取るのだ。

 となると、気になってくるのは移動時間だ。いじめ黙認おじさんことラルド曰く、ヘイラの実家はお隣のミーミル王国にあるそうだから……それなりに遠いのだろう。

 いやそれとも、一歳の赤ん坊連れていこうとしている様子からして、割と近いのかもな。


 考えてもしょうがないし、聞いてみるか。


「母様、ミーミルのお爺様の家まではどれぐらいで行けるのですか?」


「うーん……」


 そんな顎に手を当てて考える程なの……?

 俺嫌だよ? 長旅なんか。車酔いする方だし。


「確か馬車だと一週間掛かるか掛からないか。って感じね」


 思ったより近い。そう思ったのは、俺がこちらの世界に慣れてきた証拠だろうか。

 いや実際、馬車というものは現代人の俺が思っているほど早いものではなく、なんなら歩いたほうが早いのではといった始末。それを考慮すれば本当に大した距離ではなさそうなのだ。


「なるほど、どれくらい滞在するつもりなのですか?」


「滞在……随分難しい言葉も覚えたのね。すごいわ、ディン!」


 あ、いっけねぇ……

 こっちに来てからは出来るだけ年齢にあった喋り方をする様にしてたのに、夢中になってつい……


「え……えぇ、本で知りましたから……」


「きっとディンの将来は学者さんね!」


 家にある本にそんな単語は出てこないが、ヘイラは俺に頬擦りするのに夢中で気づいていない。


 ——っと、違う違う、そうじゃ、そうじゃなーい。


「母様、まだ僕の聞いたことに答えて貰ってません」


「あら、ごめんなさい。そうね〜多分三、四ヶ月程かしらね。向こうにいるのは……」


 三、四ヶ月!? まじかよ。顔出しってレベルじゃねーぞ。


「随分長いですね……」


「そうよね……ごめんなさい。お兄様の頼み事があるとかで、家を出る時にお世話になったから断れないのよね」


 なるほど、それは確かにもっともな理由だ。なら諦めるか。


「じゃあ、いつ頃出発の予定で?」


「うーん、1週間後ぐらいかしら……」


 うわマジか〜アインが村を出るより早いな。


「わ、わかりました。 ではその……」


「ん? なにかしら?」


「実はその、アインとのお別れに何か……」


 アインは一週間後にこの村を立つ。それは先週行った打ち合い稽古の終わりに、突然彼女の口から語られたことだ。

 なんでも、ミーミル王国の王立学園に通うことになっているそうで、十一歳になる前には王都に移ってしまうらしいのだ。なるほど通りで、勉強を教えて欲しいだの頼まれたわけだ。


「あープレゼントね! わかったわ! 明日ラルドが家にいてくれるから街に見に行きましょう!」


 照れくさいが、あいつとももう三年程の付き合いだ。電話もない世界だし、別れの挨拶くらいはちゃんとしておかないとな。


「はい! ありがとうございます!」


ーーー


 そして遂に、別れと出発の日がやってきた。


「こ、これを僕に……?」


 村の中でも一際大きい家、エルロード準男爵邸。開発途上区の責任者としてミーミル王国から派遣された貴族の家というだけあって、その外見には目を見張るものがある。 

 と言っても、驚いたのは大きさだけであって、この屋敷の外装は並どころか控えめだ。その理由はアインの父親が豪商あがりの新興貴族として、何よりもまず実用性を好む身体とのこと。


  そんな屋敷の玄関前に通してもらった俺は、出迎えてくれたアインに用意していた品を手渡した。


「ええ、良かったら貰って下さい!」


 アインが目を丸くしながら包装を解いているプレゼントの中身は、高価なもではなく手製のペンダント。

 木剣やら魔術やら、なんだかんだ男子っぽいかっこいいものを好んでいたアインにこれはどうかと思ったが、ヘイラは絶対にこれが良い譲らないので、仕方なくこれにした。もしかしたら、この世界での鉄板なのかもしれないしな。


 で、肝心のペンダントの意匠だが、中心に俺が土魔術で作った白金をはめ込んである。金を入れるか迷ったが、アインの青髪には白金の方が似合うからな。

 いやまあ、こいつがこれを素直につけるとは思わないけど。


「わぁ! 凄い綺麗、な……ペンダント!?」


 随分と驚いているな。なるほど、アインもこれの凄さがわかるのか。

 いや、大変だったんだよ? 土魔術の術式をいじって、本来の魔力岩ではなく、貴金属やら宝石類を出せるようにしたのだから。

 『金属をどういう単語で表せば詠唱として機能するのか』という疑問が中々解決しなかったし、魔力操作も独特な感じがして、習得まで丸一週間も要してしまった。


「こ、こんなっ……これを僕に!?」


 やけに取り乱しながら、アインは目をかっ開いて俺の顔を覗き込んできた。


「気に入りませんでしたか……?」


「い、いや、そんな……ことは……」


 目をキョロキョロと泳がせて、ボソボソと下を向くアイン。

 随分と動揺している。やはりペンダントはお気に召さなかったのだろうか。

 それともあれか、自前で作った宝石だというのが法に触れているのか? ヘイラもこの魔術は外で使わない方が良いと忠告してきたし……うん、真面目なアインならきっとそういう理由で受け取れないんだろう。俺も捕まって魔女裁判とか嫌だし、心苦しいが証拠隠滅といこう。


「要らないようなら、こちらで即刻処分しちゃいますね」


 そう言ってペンダントを懐にしまおうとすると、アインが慌てて俺の手を掴んで止めてきた。


「い、いや貰うよ! 処分なんてそんな!」


「あ、そうですか。ではどうぞ」


 アインにペンダントを渡す。

 どうやら違法ではないらしいな。良かった。苦労して作ったものだったし。


「でも……本当に僕で良いのか?」


 アインは顔を真っ赤にしたまま、恐る恐る俺に尋ねてきた。

 よっぽど嬉しかったのかな。こいつ、俺しか友達いないもんな……


「どうぞどうぞ」


「うん……じゃあ、貰う」


 いよいよこいつともお別れか。振り返るとマイナスな記憶の方が多い気もするが、それでもやはり寂しいものだな。


「また、会いましょうね」


 痙攣しそうになる瞼を抑えながら、彼女に握手を求めようと手を差し出す。

 なんだろう……こんなつもりじゃなかった。こいつは俺にとって、わりとどうでも良い部類の人間のはずだ。なのに、なんだか泣いてしまいそうだ。


「ああ! 次はもっと強くなっておくよ! 君の卑怯な手にも負けないくらいにね!」


 アインはそう言って笑いながら、俺の手を強く握った。

 ここに、漢と漢の……じゃなかった。まあとにかく、熱く固い握手が交わされたのだ。


「それじゃあ!」


 これ以上この場にいると、彼女の前で泣き顔を晒す羽目になりそうだったので、俺は急いでラルド達が待機している村の出口の馬車へと走るのだった。

 

ーーー


 その後、慌てて去ってしまったディンを見送ったフィンは、そっとペンダントを首にかけるのだった。


ーーー


 出発から早いものでもう2日。

 馬車で実家を目指す道中、俺は今日も手綱を引くラルドの隣にぼけ〜っと座っていた。


「…………」


「…………」


 目に映るのは豊かな田畑と農民の方々。

 聞こえてくるのは農民達の会話と、カラカラと鳴る馬車の車輪の音だけ。

 ラルドと俺の間にも一切会話がない。だって話すことがない。ていうか気まずい。

 というのも以前、ラルドに尋ねたのだ。道場で起きていたアインに対するいじめについて、思い切って話してみたのだ。


 まあ、それに対する回答は予想通りなもので、『個人の問題に入る気はない』だそうだ。

 全くそれは教育者として問題が——


「そういえばお前……」


 静寂の中、突然ラルドが口を開いた。


「は、はい」


 相変わらずの仏頂面で考えが読めない。一体何を話し出すつもりだ……?


「渡したのか、求婚のペンダント」


「は?」


 普段から口数は少なく、こちらから話しかけてようやく会話になるような男。そんな彼が突然放った頓珍漢な問いに、俺は思わず間抜けな声を出してしまった。


「いやだから凄いなって。しかもあんなよく出来てるやつを」


「いや、そうじゃなくって!!!」


「あ?」


「だから『求婚』って……つまり、どういうことだってばよ」


「ダッテバヨ……?  どういうも何も、求婚の時はペンダント渡すのが習わしだろ」


「指輪じゃなくて?」


「指輪が婚姻に関係あるのか?」


「いえ、なんでもありません……」


 へぇ〜、そうなんだ……初耳だよ。

 ——って!


 俺は咄嗟に、後の荷台で弟に飯をやってる女に目をやる。


 せっせと赤ん坊に飯をやっている彼女が、俺の視線に気づき、こちらを向いて『フッ……』と笑う。俺の目にはハッキリと、某裁きを下す高校生のような『計画通り』の文字が、彼女の顔の横に浮かんでいる様に見えた。


 嵌められましたわ、完全に。

 だって、そんな風習があるなんて一言も言ってなかったじゃん……

 まあ言い出したのは俺だけどさぁ、先に教えてくれたっていいじゃん……


「お前に限って、まさか知らなかったなんてことはないだろ」


「え……あ、はい勿論!  あは、あははは……」


 いや知らねえよ! 俺に限ってってなんだよ!!


「……まさかお前」


 咄嗟に取り繕ったせいか乾いた笑い声しか出せず、流石のラルドでも違和感を覚えたように目を細めていた。


「あー! そんなことよりアデイユ領の城壁が見えてきましたよ父様!」


「あ、ああ……」


 なんとか勢いで誤魔化すことには成功。

 しかし、肝心なことは何一つ解決できていない、

 なんだよ婚約って……これじゃ『また会いましょう!』の意味が変わってくるじゃねーか。


「城壁が見えてきたぞ。ディン、先に行って門番に紹介状見せて来てくれ」


 ラルドの指差す方に視線をやると、確かに城壁と門が見えてきた。

 まあ、時間はたっぷりあるわけだし、後で考えるとするか……


こうして俺は故郷から離れるのと同時に、婚約者を得たのだった。


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