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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第4章 古式魔法都市篇

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第108話 不死鳥ルーデル


「あ、ああ……」


 下半身だけになってポツン立っているルーデルを前に、俺は尻餅をついた。


 やってしまった。殺してしまった。

 だって本気で撃ってこいって言ったじゃんか。

 これは俺が悪いのか?


「リッ……リディさ——」


「いやー!!! 凄い威力だね! 超級魔術以上はあるよ!!!」


「!?」


 慌ててリディに助けを求めようと声を絞り出しかけたところで、広間にルーデルの声が響いた。


 声の出所を探ろうと、周囲を見回す。しかし、どこにも彼女の姿はない。

 残った下半身が喋ってるわけでもあるまいし……


「ぷはー!!!」


 わけもわからず呆然と立ち尽くしていると、先程俺が放った岩砲弾の破片の山からルーデルが飛び出してきた。


「ル、ルーデルさ……ってちょっと! 下履いてください!!!!」


 広間の隅……正確に言えばリディが張った結界の隅に積もっていた瓦礫から飛び出してきた下半身丸出しのルーデルを前に、俺は咄嗟に顔を手で覆った。


「おっと失礼……これでヨシ! 目を開けていいよディン」


 そう言われて恐る恐る両手を退けると、大事なところを体から立ち昇る炎で隠したルーデルが立っていた。

 さながらファイヤービキニと言ったところか。


「……それ、熱くないんですか?」


「『再生の炎』に痛みなんかないよ」


 再生の炎……? 聞いたことないな。火炎と治癒の混合魔術か、あるいは何の特異体質、だが一番あり得るのは……


「『遺産』の力ですか」


「さあどうだろう。それより突っ立ってて良いのかい? 一発ルールは——」


「!?」


 ルーデルが言葉を途切らせたかと思うと、いつの間にか俺の前に立っていた。

 彼女がいた広間の端から俺のところまでは、少なくとも五十メートル以上ある。

 その距離を、今の一瞬にして詰めてきやがった。


「もう終わってるんだからさ!!」


 言葉の続きを叫ぶと共に大きく振り上げられた拳。

 一連の動作は恐ろしく速く、ギリギリでその軌跡を捉えることができた俺は、咄嗟に土魔術で盾を作った。


「ぐッッ———!?!?」


 世界が逆さまに……いや、俺が逆さまになったのか。


 放たれたルーデルの右ストレートに対して、俺の防御は間に合った。

 けれど、その拳を防いだ盾ごと俺は吹っ飛ばされて、俺は今宙を舞っている。


 作った鉄の盾がひしゃげる音が、遅れてやってくる。

 腕に残る衝撃、凄まじい速度で回る視界。


 このまま地面やら壁に衝突すれば、間違いなく死ぬ。

 それほどの勢いで俺は飛んでいた。


ーー風破ーー


 衝突のタイミング、目に身体強化を集中してなんとかそれを予測できた俺は、風魔術の逆噴射で少しでも減速を試みる。


「がはッッッ……」


 リディの張った結界に激突し、肺の中の空気を全て吐き出した。

 体中に走る衝撃が俺の意識を刈り取ろうとするも、なんとか踏みとどまる。


 風魔術で減速できていなければ、間違いなく気絶するか最悪死んでいただろう。

 発動させるのが遅かったせいで、効果は微々たるものだったがな。


「——うっ……おぇぇっっ!」


 膝をついてすぐにやってきた激しい眩暈に、我慢できず嘔吐する。

 朝飯を食っていなくて良かった。勿体無い事をすることになっていたからな。


「気絶しなかったんだ! 流石だね!」


 何が流石だよこのゴリラ……こっちはいまだに立ち上がれないっていうのに。


「ほら、手がこんなになっちゃったよ!」


 ルーデルがそう言って笑いながら、砕けてぐしゃぐしゃになったその拳を見せてきた。


 当然だ。厚さ2センチ程の鉄板を、持っていた俺ごと吹き飛ばす勢いで殴ったんだ。

 

「随分平然と……って……」


 あまりにも人ごとなルーデルに突っ込もうとした所で、俺はその言葉を飲み込んだ。

 

 今こうして立ち尽くしている間にも、彼女の潰れた拳が、そこから立ち昇る炎と共にみるみるうちに再生されていっているからだ。


「それが『再生の炎』ですか」


 とんでもない力だ。一瞬にして、彼女の拳を元の綺麗な状態に戻してしまったのだから。

 なるほど、この速度なら下半身もあっという間に再生できてしまうだろう。


「実践じゃ敵はそんなこと教えてくれな——」


ーー火山弾・連ーー


 ルーデルが話終えるのを待たずに、炎と岩の混合魔術を乱射する。


「うわぁっ、ちょっ!?」


 豪速で飛来する灼熱の岩石を前に、ルーデルは咄嗟にそれを腕で祓う。

 自慢のパワーでなんとか弾き返せたようだが、それを受けた腕はひしゃげて焼け焦げている。


「いきなり凄いことするなぁ〜」


 腕が焼けているというのに、涼しい顔でルーデルは感嘆の息を漏らした。


「まだ勝負は続いているんでしょう? 今度は近づかせませんよ」


 けれど、俺だってもう動じない。


「言うね! やってみな!」


 そんな俺の姿を前にして、ルーデルは嬉しそうに構えた。


 やっとだ。やっと本気で戦える。この人は俺には殺せない。だからこそ、俺は存分に出し切れるんだ。


ーーー


「ははっ!! とんでもないな君! 地形変動能力なら並の魔術師の比じゃないね!」


 地面から迫り出す大量の岩の槍をその身に受けながら、ルーデルはディンに対し賛美の言葉を贈る。


ーー竜巻×火炎流ーー


 そんなルーデルを意に返さず、ディンは更なる魔術を身動きの取れない彼女に浴びせる。


 地面をゆっくりと進む焔の竜巻が、岩の槍に差し止められていたルーデルを飲み込む。


「ははは! ほんとに死なないや!!」


 本気の出力で魔術を放ち続けるディンは災害そのもの。

 リディアンやラルド、ラーマ王といった特殊な例を除き、どれほどの強者であっても彼の猛攻に耐えられる者はいない。

 

「あれ……大丈夫なんですの?」


 そんな様子を結界の外から眺めていたシータ姫は、隣であくびをしているリディに眉を八の字にして問いかけた。


「シータ様なら未来を視ればわかることでしょう?」


「ディンが密接に関わる事象は、私の力では予測できませんの」


「ならお答えしますよ。ルーデルなら平気です」


「でもあれ……『再生の炎』って、『遺産』による恩恵ではないのでしょう?」


「ん〜……半分ハズレですかねぇ」


「と言いますと?」


「それは——」


 ルーデルの持つ『遺産』、『化身への誘い(メタモルフォース)』の持つ権能は再生能力ではない。

 『遺産』発動時、使用者の魔力の性質を変化させることが本来の能力である。


 例えば、『雷』の属性魔術を付与した魔力を纏って殴れば相手は感電し、『鈍化の呪詛』を付与した魔力で相手を殴れば、攻撃にさらなる重みが加わることとなる。


 ならば『再生の炎』の正体は何か。

 それは、己のみに限定された高度な治癒魔術の無詠唱を、『炎』と同時使用することによってあたかもそう見せているだけなのである。


「——でもそれ、わざわざやる必要ありますの? 普通に治癒魔術だけ使えば良いのでは?」


「ありますよ。だって『再生の炎』なんて言って自分の体に纏わせているんですよ? 敵は触っても平気だと誤認します」


 ルーデルは自身が纏う魔力に炎の性質を付与しているが、それに自身が焼かれることはない。

 しかし、莫大な魔力を薪にくべることで想定以上の熱量を発するそれによって、熱された彼女の周りの大気がその身を絶えず焼き続けている。


 許容を大幅に超える身体強化によって自身の体が壊れぬよう、常に全身に治癒魔術をかけ続けているルーデルだからこそ、結果として無害の範疇ではあるが、当然相手にとっては害そのものである。


「まあ言ってしまえば、ルーデルに近づいた時点で、並大抵の奴は焼け死ぬんですよ。ほら、さっきディンが出した盾を見てください」


 そう言ってリディが指差す先には、黄金の床に転がる一つの鉄板があった。


「……ベコベコに溶けていますわね」


「そうです。仮にもさっき、ディンがルーデルの拳を直に受けていたら、今頃服が焼け焦げて素っ裸ですよ」


「それはアリ……ですわね……」


「……」


「——あ、でも平気ですの? ずっと治癒魔術も使って、炎も使って」


「問題ないですよ。シータ様だって、一日中『未来視』を使っていても、魔力切れにはならないでしょ?」


「えぇ……まぁ……」


「ていうかそもそも、『遺産』を行使する際の魔力は自腹じゃないですから」


 そう……『読心』、『未来視』、『遠隔会話』、『属性付与』といった『英雄王の遺産』は所持者の魔力によって発動するモノではない。

 そもそもこれらの法外な能力を十全に行使するには、高々人間一人の魔力量では到底足り得ない。


 よって、すべての『遺産』には固有能力の他に、一つの共通能力が備わっている。


「魔力の収集……機能……?」


「そうです。これはウチの子が出した仮説に過ぎませんが、『遺産』は周囲の大気から魔素を取り込んでいるんですよ」


「な、なるほど……でもそれが魔力切れの事と関係ありますの?」


「言ったでしょう? 魔力収集も機能の一つです。本来なら固有能力行使のために集められる魔力ですが、それをオフにして『収集』の機能だけを使用した場合は……」


「実質、魔力は無限……ということですの?」


「ご名答。治癒魔術は他のものと比べ、呪詛の次に消費魔力が多いですが、複数の『遺産』を体に宿し、それらの『収集』機能のみをフル稼働させているルーデルにとっては、その程度の消耗は何の問題もないんですよ」


ーーー

【ディン視点】


「おいおい! もう息切れかい?」


 土煙が未だに引かぬ黄金の間で、ルーデルは高らかに笑いかけてきた。


 そんな彼女の両腕は千切れかけで、体中は穴だらけ。

 

「ッ……」


 最初の頃は楽しくて仕方なかったが、今となっては恐怖しかない。

 体の欠損部位ごと再生するような治癒魔術を連続行使しているというのに、この人の魔力が尽きる気配がない。

 俺は本当に人間を相手にしているのか……?


「うーん……君の魔術を一通り受けてみたけど……技がないね」


 そんな畏怖の視線にもお構いなしに、ルーデルは話を続けた。


「技……ですか?」


「そうさ。威力は年齢の割に申し分ないんだけどね。こう……経験の問題かな。魔術の発動タイミングをずらしてみたりとか、連鎖発動とかあるじゃん!」


「あ、つまり単調ってことですか?」


「そうそれ! 魔術をどう捉えるかは人次第だけど、それが物であれ、身体能力の延長であれ、それを工夫してこそ武器になり得るんだから!」


「……なるほど」


 考えたこともなかった。いやむしろ、混合魔術とか複雑な魔術を扱うことを〝技〟だと思っていた。


「——さて、わかったなら続きをやろうか!」


「は!? まだやるんですか!?」


「何を言うのさ! むしろここからだろう!」


 有無を言わさず、ルーデルは俺の元へと駆け出した。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


『未来視の遺産』の正式名称は、『全知之選択者カレイドスコープ』です。

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