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第106話 大胆な告白


「は……? なんで……?」


 ムスペル王都の中心に位置する空中城塞の一室、庶民だった俺には似つかわしくないほど豪勢な部屋の一室、そこにある大きなベッドの上で、俺は呆然と口を開けた。


 隣で白髪の女が生まれたままの姿で寝ており、窓から差し込む陽光がその美しい顔を撫でているのだ。


「ッ……!!!」


 隣ですやすや眠る美女を前に、俺は反射的に自分の掛け布団をめくった。

 良かった。ちゃんとズボン履いている。


「スゥ…………」


 しかし問題は何一つ解決していない。そんな逼迫した状況を作り出しているにも関わらず、彼女は気持ち良さそうに寝息を漏らした。


 もし、もし誰かにこの状況を見られたら、俺は文字通り終わるのだ。

 なぜなら、この人はこのムスペル王国の重役に他ならないのだから。


 何故こんなことになっている? そんな疑問に立ち返り、俺は昨日の出来事を思い出す。


ーーー


「ご、ご用件は何でしょうか」


 リディ達との再会からすぐ後、俺は再び王様の元に呼び出された。

 付き添いはルーデル。リディは何故かは分からないが、この城を自由に出歩くことができないらしい。


「愚問だな」


 声を裏返しながら玉座の前に立つ俺に、王様は目を細めた。


「先ほど告げたはずだ。城壁の破壊、兵士への危害、街での魔術無断使用。それらに対する罰則を課すとな」


「……」


 まあ、わかっていたことだ。俺がしくじった結果だしな。

 しかし、罰則と言われればやはり怖い。

 リディがいる手前、流石に命までは取らないだろうが……


「陛下、それは少し酷では? 突然理由も告げずに連れ出されては誰だって——」


「貴様とは話していない。口を挟むなと言っただろう。それとも本当に鳥頭なのか? 不死鳥と呼ばれる女は」


 ルーデルの擁護にも、王は耳を貸さずに皮肉をこぼす。

 

「それに、話は最後まで聞くものだぞ」


「え?」


 思わず顔を上げた俺に、王様はやれやれと天を仰ぎながら再び続けた。


「本来なら国家転覆容疑で死刑を免れない所業であったが……我が国の重要人物の要望もあり、貴様の刑は変更されたのだ」


 重要人物? 誰だろうか。リディ……は流石にないよな。あれはミーミルの人間だし。


「……その刑というのは?」


 俺が恐る恐るそう尋ねると、王様が扉の方に向けて『入れ!』と声を上げ、一人の女性がこの謁見の間に招き入れられた。


「……?」


 純白の長髪に真っ白な肌。細い腕やスラっとした出立ちはまさに美女という表現が似合う女性だった。

 ルーデルも顔が良いが、どちらかといえば『美人な姉気分』という感じで、今俺の目に映っている彼女のそれはまた違った魅力だ。


 女性は俺達を横切ってそのまま玉座の隣まで歩き、そこで立ち止まって俺の逹の方に振り返る。


「こやつだ」


 王様が自分の右に立つ白髪の女性を、面倒くさそうに指差す。


「はい?」


「本日より、貴様は此奴の付き人となるのだ」


「付き人って……何をするんですか?」


「本来なら身支度やら予定の管理を行うのだが……お前は何もしなくて良い。ただ此奴のそばに居るだけで良い」


 え、それだけ? それだけで良いの?


「それだけで良いの? という顔だな。言っておくが、楽な仕事ではないからな」


「え?」


ーーー


 と、そんな経緯で俺は罰せられた。

 まあ罰せられたと言っても、その日は結局(くだん)の女性と言葉を交わすこともなくお開きで、みんなの所に戻って少し話した後、貸し与えられた城の一室で眠っただけなんだがな。

 

 そう、それだけのはずなんだ。

 なのに……どうしてこの人は俺の部屋で、しかも俺と同じベッドで寝ているんだ。


「んっ……んん……」


 彼女が唸りながら寝返りを打った。

 

 彼女の眠りが浅くなっていることを察知して、急いでベッドから飛び出し部屋の出口へと向かう。

 状況が全く読めない。とにかく逃げよう。


「あら……? どこへ行かれるの?」

 

 しかし脱出は失敗。

 俺がドアノブに手をかけた時、彼女は目を覚ましてこちらに声をかけてきた。


「お、おはようございます……」


 ドアノブに手をかけたまま、彼女に背を向けて会話する。

 体中から嫌な汗が出てきた。

 この人は一体どいういう行動をとるのだろうか。それ次第で、俺はとんでもないことになる気がする……


「どうして私の部屋にあなたがいらっしゃって?」


 それはこっちのセリフだよ。

 ——しかし、声音はやけに落ち着いている。怒るとか騒ぐとかはなさそうだな。

 

「こ、ここは僕が王様に貸してもらった部屋ですが……」


「……え!? あ、本当ですわ!」


 ベッドから布が勢い良く擦れる音がした。慌てて飛び起きたのだろう。


「ごめんなさい、それとってくださる?」


「はい?」


「あなたが今踏んでいる、私の下着ですわ」


 そう言われて足元に目をやると、確かに俺の足元には黒色の洒落た下着があった。


「ッッッ——」


 遠のきかける意識を抑えて、俺は彼女に服を投げた。


ーーー


「ふぅ、先程は失礼致しましたわ」


 小さな机で俺と向かい合う彼女は、紅茶をズズッと啜りながらそう言った。


「い、いえ……」


「それにしても、ディンはお茶の淹れ方が上手ですわね! どこかで習っていらして?」


「え、あぁ……お屋敷にいたことがあったのでその時に」


 嘘である。本当はY○uTubeで『意識の高い紅茶の淹れ方』なんてのを見て齧っただけだ。


「へぇ……万能なのね!」


 彼女はまるで自分の事のように喜びながら、再度カップにそのツヤとハリのある唇をつけた。


 ていうか、この人はどうしてさも自宅のように俺の部屋でくつろいでるんだ?

 しかも下着姿のまま。


「あの……」


「はい、どうかしまして?」


「服を……着てください」


「あら、ごめんなさいね。ディンにはまだ刺激的過ぎたかしら」


 彼女はわざとらしくそう言って笑うと、指をパチンとならした。

 すると、彼女は目の前から消えた。そう、跡形もなく。パッと……まるで元からそこに何もなかったように。


「お待たせしましたわ!」


「うわっ!?」


 二分ほど呆然としていると、彼女は再び自分が座っていた椅子に現れた。


 服装は結局露出の多いドレスだった。なんなら上半身に至ってはアクセサリーが増えただけで、下着姿の時とたいして変わっていない。


「何してたんですか今まで!?」


「私の部屋で着替えておりましたの!」


「部屋!? 転移魔術か何かですか!?」


「ええ、私はこの王宮内のどこにでも飛べますの!」


 なんだそのチート能力。魔法陣も長ったらしい詠唱も無しに、しかも双方向の転移?

 そんなの……


「……『遺産』を持っているんですか?」


「……違いますわ。これは兄によって私にだけ許された魔術ですわ」


「兄?」


「これは失敬、私まだ名乗っておりませんでしたわ!」


「あ、はい」


「私、第三十二代ムスペル王『ラーマ』の妹、シータと申しますわ!」


「!」


 この人、国王の妹だったのか! 特に気に留めてなかったが、それならミーミル語を話せているのにも説明がつくな。

 あれでも……ムスペル国王って、もっと褐色系の人だっけど、この人は白いよな?


「まあ、兄と言っても血は繋がっておりませんが、全て些事ですわ!」


「な、なるほど。たしかに血は関係ないですね」


 そう答えると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


 しかし、そうなると一つの……いや、そうならなくても疑問が残る。


「あの、どうして僕の刑を緩めてくれたんですか?」


 思い切って尋ねると、彼女は少し考える素振りを見せて、口を開いた。


「私は……ディン、あなたに一目惚れしてしまいましたの」


「……はえ?」

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