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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第4章 古式魔法都市篇

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第103話 おかしな槍兵


「ハァ、ハァ……くそ、城まで遠いな!」


 黄金に輝く街道に沿って立ち並ぶ建物の屋根を駆けながら、独り言を吐く。

 ここまでで追手に迫られたのは5回、戦闘になると面倒なので、その都度煙幕を張って逃れられているが、段々人数が増えてきていてそろそろ厳しそうだ。


 都市中心部にある黄金の空中城塞、あそこにさえ辿り着けば、きっとなんとかなる。リディはこの国の王と面識があると言っていたしな。


 本当ならこんな目立つルートを通らずに、下に降りて路地裏などから目的地を目指したいところだが……どうも無理がある。

 というのも、こうして屋根から見てみると、この街の通路や住宅は従来の都市に見られない配置で建てられていて、言ってしまえば街全体が迷路のようなのだ。

 ただでさえ土地勘もないのに、こんな複雑な道を通って城まで辿り着くのは不可能だからな。


「……なんか変だな」


 おかしい。先程追っ手をまいたのを最後に、ピタリと追跡が止んだ。

 なぜだ? ひょっとして罠じ——


「槍っ!?」


 浮かび上がる幾つかの可能性に思考を回しながら、次の建物へと飛び移ろうとジャンプした瞬間、建物の間から槍を突き出しながら飛び上がってきた一人の兵士がいた。


ーー風破エアバーストーー


 空中にいるタイミングで攻撃されたものだから一瞬肝を冷やしたが、咄嗟に発動させた風魔術の推力を利用してなんとか躱す。


「危ねぇ……」


 なんとか着地も成功。そして相手も俺と同じ屋根に立った。

 だがまずいな……敵が近過ぎる。


 相手の年齢は……かなり若そうだな。俺より頭一つ分くらい背が高いから成人未満九歳以上といった感じか。


 いや、年齢で敵を侮るのは良くないな。トリトンのような英才教育を受けた貴族、またはロジーのように強者に拾われその近くで育った者。

 先程の奇襲だって、明らかに素人の動きじゃない。年齢に見合わぬ力を持っていておかしくない。


「……」


 相手は攻めて来ずに直立不動。

 それもそうか、未知の特級魔術師相手に突っ込むのは得策じゃないもんな。


 相手が様子見に徹しているなら、隙を見てこのまま逃げたいが、所詮俺の魔装は大したレベルじゃない。

 いくら訓練したとはいえ、トリトンが言ったように俺の身体能力は良くて騎士見習いレベル。

 敵の力もわからないのに背を向けて逃げるのは危険。

 ならば俺が取るべき行動は……


ーー波氷アイスウェーブーー 


 速攻で相手の足元を固定する!

 本来なら全身氷漬けにしてやりたいところだが、それだけの量の氷を出して仕舞えば、屋根が氷塊の重さに耐えきれず崩落するかもしれない。

 今回の俺は、クロハを攫った時と違ってあくまで無実。

 冤罪を晴らすためには、極力この国の人に、物に危害を加えるわけにはいかない。


 足場を伝って槍兵へと向かっていた氷は奴の足元を凍らせ……ていない!?


「まじか……」


 彼は槍を屋根に突き立てて、まるでポールダンスでもするかのようにそれにしがみつくことで、氷による拘束を回避した。


 避けられぬように出力を強めにした。流石に最大出力で使うと、力み過ぎて氷を沢山出すことになってしまうので全力じゃないが……それでも氷が地面を伝う速度は決して遅くなかった。

 それを回避するのはリディアンやラルド程の強者、もしくは俺の手札を知っていなきゃできない芸当だ……見積もりが甘かったか。


 まあ、実力がリディレべルなら最初の段階で仕留められていただろうし、なんらかの通信魔道具によって、俺の使う魔術が兵士に知れ渡っていると考えるのが妥当か。

 そのことも考慮して、せめて膝上くらいまでを凍らせる——半端な高さじゃ避けられないくらいの氷を出しておけばよかった。


 そして当然、俺が魔術を発動した直後に生まれる隙を相手は見逃さない。


「ッッッ……!?」


 敵は突き立てていた槍を踊るようにして素早く抜き、そのままその遠心力を利用してこちらに投擲してきた。


「痛ぁぁッ……!!!!」


 速く、そして正確に飛んできた槍。

 まさか敵が得物を手放すなんて思っていなかった俺は、反応に遅れてしまい右脚大腿部を負傷した。

 貫かれてはいないが、大きく抉られた。

 最悪の失態だ。

 だが今ので確信した。この緑髪の槍兵は俺より格上であることを。


 槍を受けて片膝をついた俺を見て、槍兵はすぐさまこちらに向かって走り出した。

 距離は大して無い。三秒後には俺の元にいる程度の距離。

 得物を回収するのか、はたまた暗器を隠し持っていて、それで俺にトドメを刺すつもりか……

 

 ああくそ。痛い……痛いじゃないか! 傷口が焼けるようだ。血もいっぱい出てる。この出血量はまずい気がする……

 ふざけやがって。こいつを今すぐ殺してやりたい。本気で火炎を放てばこんな奴消し炭に出来るのに。


「クソッ……!!」


 けどそんなこと出来ない。クロハが、みんなが俺のことを待っているはずだから。

 あくまで俺は冤罪でなければ。


ーー氷槍アイスランサーーー


 槍兵が到着するよりも速く足元から斜め方向にせり出した氷の柱が、俺の体を空中城塞方向に勢いよく撃ち出す。

 いつもは土魔術によるカタパルト射出だが、今回は晒した手札である氷結魔術で代用する。土を無詠唱で使用できることはまだ隠しておきたい。


「うっ! イダッ!」


 想定では建物五軒程飛び越えられるはずだったが、土に比べて発生速度が遅い氷を使ったせいで大した飛距離が出なかった。

 おかげで今こうして、発射地点から二軒先の建物の屋根に不時着してしまった。

 いや、不時着というか墜落だ。発射時に氷で足が滑って、空中で上手く着地の体勢を整えられなかったしな。


「織りなすは魂の息吹捧げるは我が英気! 汝に祝福を『治癒ヒール』!」


 ひとまず相手と距離が取れて、一呼吸おけた。この隙に初級の治癒魔術で痛みだけでも和らげておこう。


ーー発冷ーー


 あとは氷結魔術の冷却で止血っと。


「……来たか」


 止血が終わるとほぼ同時に、緑髪の槍兵が再び俺の前に立った。

 距離感は先程と同様。振り出しに戻ったな。


「……」


「……」


ーー発氷ーー


 睨み合いが続く中、とりあえず氷魔術で剣を無理やり作って構える。


 近接で戦うとなると勝ち目がないので、広範囲攻撃でなんとかカバーしたいところだが、やはり下に降りるわけにはいかない。

 強敵相手に上を取られるのは絶対にまずいし、何より街路には住民がいる。


 ここやはり、小規模で相手をスタンさせられる『閃光弾フラッシュ』を使いたいが……


 そう思い立って、魔術を発動させるため両手を重ねようとした瞬間、敵は動いた。


 『閃光弾』を使用するには、マグネシウム、そして鉱石を複数混ぜ合わせた火薬が必要だ。補助魔道具である『奇術師之腕マジックハンド』無しでは、即時発動は出来ない。

 

 容赦なく距離を詰めてくる敵に『閃光弾』発動させる時間も、近距離の揉み合いでそれを当てる技術も無い俺は、この状態を前にそれを断念せざるを得なかった。


 また見誤った。様子見のために魔術の妨害はしてこないと思っていたが……それに甘えて速射性のない魔術を使うように誘導された!


 ある程度近づいてきたところで、相手が槍を振り下ろしてきた。

 昔、歴史モノのテレビ番組で見た。槍は刺すのではなく叩きつけるものであると。そして、その破壊力が絶大だ。


「速い……!」


 流星の如く落ちてきた槍の穂先は俺の体を逸れて、すぐ隣の足場にクレーターを作った。


 わかりやすい縦振りの一撃。リディから習った瞞着流の型、『雫葉』のおかげでなんとか受け流すことはできた。

 しかし、足の怪我や技の熟練度が低いことに加えて、今回俺が握っていたのは即席で作った氷の剣。敵の力を殺しきれずに、剣は砕けてしまった。


 だが幸い、相手が振ったのは長物である槍。受け流されたことも加味して、すぐに二撃目を放つことは——


「ッ!?」


 待て、なんで奴は剣を持っているんだ……?

 俺が瞬きする前まで、その両手には槍が握られていたはずだ。

 槍はどこに行った? 

 幻……いや違う。俺の足元には、確かに槍の一撃の跡が残っている。

 ——となると、魔術……武器を入れ替えたから転移魔術か何かか? 

 

 違う! 今気にすべきは、油断して剣士を目と鼻の先まで近づけてしまったことだ!

 こっちの剣はもう無い。あったところで、流派を晒した以上対応されて終わり……


「『風破ウィンドバースト』ぉぉぉッ!!!」


 焦って咄嗟に放った全力の『風破ウィンドバースト』。

 しかし、相手を十分に吹き飛ばすことはできなかった。せいぜい、二、三メートル後退させただけ。

 剣技を使った直後で体勢を崩していた俺には、敵を落ち着いて狙う余裕がなかった。

 風を拡散的に放つ『発風ウィンド』なら、相手を吹き飛ばせたかもしれない。


ーー氷槍ーー


 相手を引き剥がすと同時に、再び氷のカタパルト射出で自分も一つ後ろの建物に跳ぶ。

 

「おっとっと……」


 着地の瞬間に少しよろけてしまった。

 いくら前向いたまま後ろに跳んだとはいえ、高低差もあるわけじゃ無いのにグラつくなんて……


 そう思って脚に目をやると、ズボンが真っ赤に染まっていることに気づいた。

 治癒で痛みを少し誤魔化していたせいで、止血した傷口が開いたことに気づいていなかった。痙攣し出しているし……


ーー発火フレアーー


「あ゛あ゛あ゛ッッッ!!」


 傷口を焼いた。ひどい痛みと寒気だ。


 とりあえずもう出血の心配はないが……くそ、『風』も『火』も相手に見せてしまった。

 いや、もうこの際だ!


ーー火炎放射ランニングフレイムーー


 人一人すっぽりと覆うほどの円柱状の束となって走る炎が、緑髪を飲み込んだ。

 『発火』を見られた流れで、間髪入れずそのまま相手にぶつけてやったのだ。


 奴め、炎を見て一瞬こちらに迫るのを躊躇っていた。  

 まあ、その一瞬のおかげで、こちらは魔術を当てることができたわけだ——


「っっっ!?!?」


 吹っ飛ばされた。

 空が見える。俺は今、屋根の上から押し出されて落ちているんだ。


 盾だ。炎の中から盾が突進してきて、出血で疲労していた俺はそれを避けられずに落ちたんだ。

 あいつ、今度は盾を出してきやがった。

 

「あがッッッ!!!」


 バキバキと木製の屋根を突き破りながら、街路沿いの店に落ちる。

 散った砂埃と共に、リンゴが転がって来た。そうか、八百屋に落ちたわけか。

 果物の上に落ちたおかげで、大した怪我をせずに済んだ。服は果汁でグジョグジョだがな。


「・-・ ・-・-・ !?」


 店主が騒いでいる。

 あー、やばい。住民巻き込んじゃうから、追い払わないと。


 まだくらつく視界で、空に向かって『火炎放射』を放つ。


 大通りを歩いていた人々が悲鳴をあげて逃げてゆく。

 人がはけた。これでひとまず魔術が使えるな。


 緑の槍兵も大通りに降りてきた。


 よし、今度はこちらがやり返す番だ。どうせ逃げられないなら、この際本気を出してやる。

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