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「偽物の天才魔術師」はやがて最強に至る 〜第二の人生で天才に囲まれた俺は、天才の一芸に勝つために千芸を修めて生き残る〜  作者: 空楓 鈴/単細胞
第3章 エルフの森篇

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第100話 ある罪人の話


 ふかふかのベッドの上で目を覚ました。

 視界には板張りの小さな天井、ドリュアスが用意してくれた宿舎の天井だ。

 リニヤット家の屋敷のそれには遠く及ばないが、魔獣の羽毛やらおが屑が詰められているこのベッドも悪くない。


「おや、起こしてしまいましたか?」


 起きて早々、ベッドの傍らから聞こえてきた声の方に顔を向ける。


「ん……あれ?

 うわっ!? ドリュアスさん!?!?」


 慌ててベッドから飛び起きた。

 そう……寝起きで霞む視界に映ったのは、ベッドの横の小さな椅子に座るドリュアスの姿だったのだ。


「おはよう御座います。

 ……なんですか? その素っ頓狂な構えは?」


 いや構えて当前だろ、昨日俺を殺そうとしてきた奴が、朝起きたらすぐ目の前にいるとかどんなホラーだよ。


「あ、これはジャパニーズ•カラテの……」


「はい?」


「……なんでも無いです」


「そうですか。

 ところでお体の方はいかがですか?

 昨日はよく眠れましたか?」


 そう言って、彼女はズイズイとこちらに顔を近づけてきた。

 やはり近くで見れば見るほど顔つきがラトーナに似ている。流石に年齢が違い過ぎるからめちゃくちゃ似ていると言うわけではないが、やはりどこか面影がある。

 しかもこっちには……


(でッッッッッッッッッッかッッッッッ!)


 そう、エルフ族特有の衣装から溢れ出さんばかりの、おっぱいがある。

 おっぱいだ。

 大事なことなので2回言った。


「?……

 どうかしたのですか?」


「あ、いえ何も……」


 おっと、あまり胸に気を取られるのも良くないな。

 今はもっと聞くことがある。


「あの……わざわざ僕に何のご用で?」


 形式上和解したとはいえ、今でも俺を嫌っている彼女が態々早朝から部屋に来たのだ。

 何か……何か嫌な予感だ。

 闇討ちか? それとも俺の悪口をボロクソに言いにきたとか……


「ええ、大事な話です。

 本当は貴方達に謝罪した直後に話すべきでしたが、私の中でどうにも踏み出せず……

 結局、せめてもの礼儀として貴方だけに話すことに致しました」


 全然違った。

 嫌な事……ではないが、彼女の鉛を飲んだ様な表情からして、かなり重い内容なのだろう。

 

「どうか臆病な私をお許しください……」


 ドリュアスは椅子から立ち上がって深く頭を下げた。


「あ……いえいえ!!

 話してくださるだけでも充分ですよ!!

 どうか顔を上げてください!!」


 と言ったはいいものの、この人は俺に何を話そうとしてるんだ?

 『謝罪の直後に〜』とか言ってる辺り、思い当たるのは俺を殺そうとした動機ぐらいだが。


「……ご配慮痛み入ります。

 ではまず、貴方を突然襲ってしまった経緯からお話し致します」


 あ、やっぱりその事か。

 ならば俺も聞きたいことはあるな。ちょうど良かった。


「遥か昔のことです。

 そうですね……今からざっと1000年程前でしょうか。

 当時は——」


 ん?

 聞き間違いかな。今この人サラッと1000年って言った?


「ディン殿? 大丈夫ですか?」


「あ、はい。すみません続けてください。

 あと椅子に座って下さい。立ったまま話されても……」


「おや、これは失敬」


 ドリュアスがちょこんと椅子に座った。

 俺に言われてハッとした表情は少し子供っぽくて可愛いかった。これがギャップ萌えか。


「では話に戻らせていただきます。

 ——当時、妖精族はミーミル王国より北部、ちょうど今で言うヘルイム王国領の隣の大陸にて静かに暮らしていました。

 そんな中、そこに1人の人間がやって来たのです。自らをヴィヴィアンと名乗る、異様な人物です」


「異様……?」


「異様です。

 彼は龍族特有の銀髪や金色の瞳を持ちながら、妖精……長耳族の様な耳を持ち、念話が使えました」


 念話が使えて、髪が銀色で、耳が少し尖ってて……

 ん? それって——


「そう、まさに貴方の様な外見をしていたのですよ」


「え……

 つまり僕は異様ってことですか?」


「失礼ですが、そうなりますね」


「……」


 はっきり『異様』と言われたのはショックだが……まあ実際そこまでの驚きは無い。

 だってこの半年間で色々な地を訪れてきたが、銀髪の人間なんて片手で数えられる程しか見かけなかったからな。

 薄々とだが、自分は珍しい容姿なんだなとは思っていた。

 

「やっぱり、僕みたいな容姿は珍しいんですかね?」


「珍しいというか、有り得ないのですよ。

 本来、妖精の血を引く者と龍族の血を引く者の間に子供は産まれないのですから」


「えっ……?」


「産まれない、と言ったら少し語弊がありますが、仮に産まれたとしても何かしらの障害を持っていたり、魂が不安定で早死にしてしまう子が多いのですよ」


「……」


 魂云々の話はよく分からないからさておき、その話に基けば俺は何かしらの障害を持っているか、早死にする可能性があるということになる。

 とんでもなく不安だ。


「本来はそうなるはずなのです……

 しかしディン殿——そしてヴィヴィアンは例外です」


 ほっと胸を撫で下ろす。

 どうやら俺は例外の側らしい。


「相反する性質を持つ血をその身に流していながら、貴方達の魂は非常に安定しています。

 それどころか、ディン殿に至っては魂が限りなく精霊に近いです。年齢に見合わない知能の高さもそこに理由があるのかもしれませんね」


「は、はぁ……」


 残念ながら、年齢の割にませているのは中身がアラサーだからであって、精霊やら妖精は一切関係ない。

 童貞歴=年齢の俺を仮に妖精と呼ぶなら、正しい表現になるがな。


「まあ、そこは然程重要ではありません。

 話を戻します。ヴィヴィアンは突然私達の元に現れて、とある話を持ちかけてきました」


「とある話ですか」


「ええ、彼女は『南の大陸に国を築くから、力を貸して欲しい』と言ったのです」


「それで協力は?」


「勿論しました。

 なにせ彼女が謳った王国は、異種族による共存と発展という、種族間での対立が激しかった当時では考えられない体型から成るものでしたから」


 たしかに画期的だ。

 しかし、共存やら発展やらとここまで都合の良い言葉を並べられると、なにか裏があるとしか考えられないん——


「そしてそれは妖精族、長耳族、龍族、純人族の連合によって果たされ、ミーミル王国の前前前身となるソロモンの国が成立しました」


 あれ、果たされちゃった。

 裏切りとか衝突とか分裂とか、何もないのかよ。どう考えても今のそういう流れだったじゃん。


「聞いた限りだと、何も問題がない様に思えますが……」


「いえ、問題はその過程です。

 国が成立するまでに、実に80人以上の妖精族が命を落としました」


 そりゃあやってる事は侵略となんら変わらないんだから、先住民と争いが起きて犠牲が出るのは当然じゃないか?


「犠牲はその妖精族だけなのです」


「……だけ?」


「ええ、それも戦死では無く、不自然な失踪によって死亡扱いとなった者達のみです。

 ——ところでディン殿、ソロモンの魔剣はご存知ですか?」


「え、あ、はい……?」


「かのソロモン王が作り出したと言わ——」


「あ、いや知ってます。

 なんなら父親と仲間の1人が持ってます」


 急に話題が変わったな。さっきの話はもう終わりって事なのか……?


「……おや、そうでしたか。

 では、その魔剣を長耳族の誰かに見せましたか?」


「え、あっ、あぁ……リオンが見てましたね」


 会話の意図が読めない。この人は何がしたいんだ? 下手に地雷を踏めばまた殺されるやもしれないと思うと、言葉に詰まる。


「彼はその魔剣を見て何か言ってましたか?」


「ん〜……と……

 ——あ、『気持ち悪い』って言ってましたね」


 そう、たしかセリの魔剣を見た時にそう言っていた。それも、酷く顔を顰めながらな。


「何故だと思いますか?」


「え……」


 何故? と問われても困る。人の好き嫌いっていうのは大概感覚的なものだ。


「うーん……長耳族は鉄が嫌いだから?」


「ふふふ、それは詩人や作家の創り上げた迷信というやつですよ」


「あ、そうなんですか……失礼しました」


「いえいえ、構いませんよ。

 ——では勿体ぶらずにお答えしますと、血の濃い長耳族、また妖精族はあの剣から声を拾うのです」


「声……ですか」


「『痛い、痛い……

 きつい、辛い、狭い……』という声が、絶えず魔剣から聞こえてくるのです」


「え……」


 何だその呪いのアイテム……

 あいつらそんなもんブン回してたのか?


「ソロモンの魔剣は最初の持ち主によって自我と固有の魔術を宿し、それ以降の使い手を自ら選びます。

 まるで意思のある生き物の様ですね。そんな魔剣が世に72本あるのです」


 彼女は意味ありげに『72』という数を強調した。

 自我を持つ……

 固有の魔術……

 妖精の血縁にしか聞こえない声……

 生き物……

 72……


 消えた80人の妖精族。


「あっ! え、え!? まさか……」


 喉のところまで出かけた言葉を飲みこむ。

 だってあり得ない。今の話の流れだと魔剣の正体は妖精ぞ——


「平和の為とはいえ、我々はヴィヴィアンの所業を許すことは出来ませんでした……

 ——これが、ディン殿を突然攻撃してしまった理由です。貴方はあまりにも彼に似ていた……

 そして恐らく、村の長耳族の人々も精霊達の揺らぎを感じ取って、無意識に貴方を嫌悪しているはずです。心当たりはありませんか?」


「あ、あります……」


 通りで皆んな俺にだけぎこちない態度をとっていたわけか。

 ……あれ? でもリオンはそんな反応示さなかったな。なんか特別な理由でもあるのか。

 ——まあ、今はどうでもいいか。嫌われてるよりマシだし。


「彼らは決して貴方に敵意は抱いていません。

 言うなればこれは魂の底に刻まれた記憶、貴方自身にかけられた呪いです……

 どうか貴方自身のせいではないということを——」


「あーいえいえ!!

 理由が分かっただけで充分ですから!! 何もそんなドリュアスさんが頭を下げることは……」


「そしてお許しください」


 彼女は頭を下げたまま、話を続けた。


「……はい?」


「本来ならばこんな酷い話、子供にしてはいけないはずなのに……

 貴方の賢さに甘えて私は……」


 顔を上げた彼女の目元は、少し腫れていた。


「いえ、わざわざこんな辛い話思い出したくなかったでしょうに、ちゃんと話してくれて助かりました。

 改めて、ありがとうございます」


 正直迷っている。

 俺はヴィヴィアンという人間と少なからず関わりがある。

 先日、谷底で殺されかけた時に起きたの白昼夢の様な出来事の中で、俺に語りかけてきた人物は確かにヴィヴィアンと名乗っていた。

 この事を話すべきか迷っている……


「そんなっ……

 困ります、何か私に埋め合わせを……」


 そんな中、彼女は今にも泣きそうな顔で俺の手を握った。よっぽどあの事に罪の意識を感じているらしい。

 

「いや、別に埋め合わせなんて……」


 埋め合わせをさせろと言われても、別に欲しいものも無いし、ていうかえっちな内容しか思いつかない。埋められるのではなく、その巨乳に埋まりたいのだ。

 だが自制せねば。俺はラトーナ一筋だとラルドに宣言したばかりだし。

 そもそもこんな大物に貸しを作れたんだ。この好機を逃すわけには行かない。


「あ、そういえばムスペルの王様と知り合いみたいな話を昨日していませんでしたっけ」


 そんなわけで、咄嗟に思いついた事を口した。


「はい、ここ数百年は会っていませんが、懇意にさせていただいてますよ」


 数百年て……

 そういえばラルドがその王様をジジイとか言ってたな。

 まあ、目の前に千歳超えの人がいる時点で今更驚きはしない。


「僕達の目的地はムスペル王国だったんですけど、仲間と逸れちゃって入国の方が……」


「なるほど。

 確かに、ここ数年でムスペルの警備は厳しくなったと聞きます……

 ——わかりました。私が一筆取らせていただきましょう」


「本当ですか!? 

 ありがとうございます!!!」

 

 一か八かで頼んでみたが、思わぬ収穫だった。

 これでいちいち金の事を考えずに目的地に向かうことが出来る。

 

「いえ、これがせめてもの償いです。

 流石に国境に転送する事は不可能ですので、ムスペル王国までの食糧と馬車をこちらで用意致しましょう」


「ありがとうございます!!!

 本当なんてお礼を言ったらいいか……」


「お礼は結構ですよ。

 ——でもそうですね、強いて言うならば今後とも仲良くしていただけると嬉しいです」


「はい!! 是非とも!!!」


「では私も早速準備に取り掛かります。

 早くても二日程かかるでしょうから、それまでどうぞごゆっくり」


 ドリュアスはそう言って立ち上がり、目を閉じた。転送の準備をしているのだろう。


 さて、2日ほど滞在期間があるわけだが何をしよう……

 本来ならこの人に魔術を教わりたかったが、絶対安静と言われてしまっては手持ち無沙汰だ。


「——そういえば、一つ話し忘れていた事がありました」


 そんな事を考えながらボーッとしていると、体に転移魔術の光を帯び出していたドリュアスが、突然目を開けて口を開いた。


「どうかしましたか?」


「これはまた別の話なのですが、貴方が連れていた魔族の少女についてです」


「あ、クロハのことですか」


 唐突だな。特になんの接点も無さそうな2人だが……

 ひょっとしてクロハが何か失礼をしたのか?


「はい、宜しければあの子を——……」


ソロモンの魔剣


 妖精族は外的な要因がない限り、その命を絶やすことは無い。 

 かの魔剣が1000年前からその形を保ち続けているのはこれ故に。


 傷つき、貶められ、囚われ、孤独となった妖精は悲しみの詩を歌い、周囲の精霊を呼び寄せる。

 詩に呼び寄せられた精霊は剣の表面に幾重にも重なり、特殊な魔力の膜となる。

 如何なる理由でも魔剣を破壊することができないのはこれ故に。


 時と共に魂は摩耗し、悲しみだけがその剣に残る。空となった魂の器には持ち主のそれが注がれ、精霊と混ざり合い、新たな個として鍛生する。

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