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第99話 俺だけが


「やっと見つけたぞ、賞金首」


 俺の前に突如として現れ、トリトンとロジーを一瞬にして蹴散らしたローブの男の正体は、他でもない俺の父——ラルドだった。


「父さん……」


「久しぶりだな。

 もう前みたいに『父様』って呼ばねぇんだな。

 ……まあ、気持ち悪いからいいけどな。呼ばなくて」


 銀色の髪、金色の瞳、病的な程の白い肌、そしてこの仏頂面と素っ気ない態度。

 それは俺の知るラルドそのものだった。

 

「どうしてここに……」


 でもおかしい。だってこの森は結界に隠されてるし、転移やらなんやらでガイド無しには入れないはずなんだ。

 ていうかそもそも、ここはアスガルズの南西部。ミーミルにいるはずのラルドが何故ここにいる?


「今言ったろ。お前は賞金首だって」


 ラルドの言葉に思わずゴクリと唾を飲む。

 俺の質問の答えになっていない。それになんなんだこの殺気は……

 まさかとは思うが、この人は本当に俺を殺すつもりでここに現れたのか? 

 だとしたらなぜ……いや、そもそもこの人は本物のラルドなのか?


「ほら、とっとと帰るぞ」


 座ったまま身構えていた俺を、ラルドがそう言ってひょいと引っ張り上げた。


「???」


「母さんがひどく心配してるぞ」


「え、あれ? 僕を殺すんじゃ……?」


「?……

 何言ってんだ?」


「だって賞金首だって……」


「お前が商会の賞金首になってたから、依頼を受けたんだよ」


「ふえ???」


「奴隷刻印を持ってる奴を連れてるから、この変な魔道具で追跡できるらしかったからな」


 ラルドはそう言って、懐中時計の様なものを取り出して見せた。


「……じゃあ、僕を探しに来てくれたんですか?」


「さっきからそう言ってるだろ」

 

「あ、はい……」


「よし、じゃあ帰るぞ」


「あ……ちょっ、いや……ちょっと! 待ってってば!」


 間髪入れずあまりにグイグイと引っ張るものだから、思わずラルドの手を全力で振り払ってしまった。


「!…… なんのつもりだ」


「どうしてロジーさん達を攻撃したんですか!!!」


 俺がそう言うと、ラルドが自分の足元にのさばっている2人を見て、何か合点が言ったような顔をした。


「ん、話の邪魔だから」


「ッ……

 あといきなり帰るなんて無理ですよ!」


「なんで」


「なんでって……そりゃ——」


「クロハとかいう女がいるからか」


「!!!」


「アインからラトーナに乗り換えたと思えば、今度はそいつか」


「いや、違っ——」


「何が違うんだよ」


 違う。

 俺は元々アインが好きだったわけじゃない。だから乗り換えてなんかいない。それに、クロハだってそういうのじゃない。


「僕は助けたんですよ!?

 街の外れで酷い扱いを受けていた奴隷の子を!!!

 それのどこが『乗り換え』なんですか!?」


「無責任なことに変わりはないだろう」


 は?   

 こいつ今なんて言った?


「無責任……?

 それは父さんの方では?」


「あ?」


「セリさんが言ってましたよ!

 父さんは俺に剣術をちゃんと教えていないって……」


「セリだと?……」


「本当なんですか!?

 俺に出鱈目な剣術を教えたってのは!!」


「……」


 ラルドが口籠った。図星というわけか。

 ああ、頭に血が昇っていくのを抑えられない。


「言ったじゃないですか!!!

 ちゃんと教えてくれるって!!!」


「……魔術師が剣を持つ必要はない」


「だっ……まだそんなこと言って!!

 ずっと後ろで傍観していられる戦場なんかあるわけないでしょ!!!!

 父さんが1番わかってるはずだ!!!」


「そうならないように立ち回るのものだ」


 頑固な親父にも腹が立つ。

 だが、それよりも——


「何度死にかけたと思ってんだ!!!

 あんたがちゃんとした剣を教えてくれてれば!……」


 ちゃんと剣を教えてくれてれば、社交会でもっと上手く立ち回れたかもしれない。クロハを助け出す時も苦戦しなかった。いや、むしろクロハと出会うこともなかったかもしれない。

 

「死にかけたのは相手の力量を測れないお前が悪い。

 あと話をすり替えるな。言い訳してないで言う事を聞——」


「なんだよ急に父親面して!!!

 あんた俺のこと気味悪がってたろ!!!

 俺なんかほっといて母さんとイチャついてりゃ良いだろ!!」


 そう吐き捨てると、ラルドは仏頂面のまま、俺の胸ぐらを掴み上げた。


「言わせておけば随分な態度だな」


 ラルドが拳を振り上げ、俺は反射的に体をこわばらせて目を閉じる。


「もういい。このまま無理やり連れか——」


「おいおい、テメェのガキすら宥められねぇのか? ラルドよぉ〜」


 そんな時、暗闇から突如聞こえてきた声によって、ラルドが動きを止めた。

 俺もそれに合わせて恐る恐る目を開ける。


「……セリか」


 ラルドが苦い表情をしながら声のする方に顔を向け、俺を掴み上げる手を離した。


「うっ……ゲホッ、ゴホッ、ゴホッッ……」


 急に手を離されたせいで尻餅をついた。

 咽込みながらも、慌てて俺はセリの声がする方に目をやった。


「お、大丈夫か兄ちゃん?」


「な゛ん゛と゛か゛……」


「久しぶりだなセリ。社交会ではやってくれたな」


 ラルドがそう言うのと同時に、いつのまにか剣を握っていた。

 鞘から刀身を抜く動作すらなかった。俺が見切れなかったのか、それとも彼の魔剣の権能か……?


「おっと、気づいてたのか」


 両手を上げたセリが苦笑する。


「当たり前だ。多少駒の配置を変えても、戦場の動かし方はお前特有のものだった。こそ狡い手だ」


「へへ、そういう時だけ賢いのは相変わらずだな」


「雑談はいい。何の用だ」


「雑談はお前が始めたんだろ……

 ——まあその……なんだ? 俺は気持ちよく酒が飲みてぇからな。離れた所にまでバカみたいな殺気飛ばしてくる奴を、ちょっくら注意しに来たんだよ」


「そうか、邪魔したな。じゃあ俺達は帰る」


 ラルドがセリに背を向け、再び俺の手を掴む。


「おい待て! そのまま受け取る奴がいるかよ!!」


「なんだ。もう謝っただろ」


「済んでねぇんだわな〜これが。おいそれと兄ちゃんを行かせる訳にはいかねぇ」


 気怠そうに再び顔を向けたラルドを前に、セリがガラガラと剣を抜く。


「力尽くで止めるつもりか。無理だやめておけ」


 ラルドは動じず、鬱血させる気なんじゃないかって程の力で俺の手を握り続けたまま、セリに剣を向けた。

 ラルドの魔剣の青白い刀身が、月光に照らされて不気味に光る。なんだか嫌な感覚だ。胸騒ぎがする。


「俺1人なら無理かもな〜なあ? トリトンの旦那」


 そう言ってセリが視線を横に逸らすとその先には、ラルドに気絶させられた筈のトリトンが構えていた。


「本気で殴ったつもりだったんだがな」


「剣士でないからと言って、守りに入ったフィノースを甘く見ないことだな……」


「そうか、覚えておく。じゃあ帰る」


 ピリつく空気を意に返さず、ラルドが軽やかに片手で俺を担ぎ上げる。


「さ〜て、いけるか旦那?」


 セリが苦々しい笑みを浮かべながらトリトンに語りかける。

 対するトリトンは無言。やはり2人だけではラルドを止めるのは厳しいか。

 

 せめてもの抵抗にとジタバタしてみるも、俺を抱えるラルドの腕はびくともしない。信じられない腕力だ。


 ラルドが右手に持つ剣を投擲する構えを取った。


 まずい。剣を投げた先にワープして空中移動する気だ。この方法なら上空から森を抜けられる。

 このままじゃ本当に連れ帰ら——


「お待ちなさい、龍族の人」


 ラルドが今にも剣を投げようと力んだ時、彼の前に1人の妖精族が降り立った。


「ラトーナ……じゃないな。誰だお前」


「おや、人に名を尋ねる時は、まず自分から名乗るものでは?

 そちらの少年はそうしておりましたが」


「ラルドだ。こいつの親だ」


「この集落の長のドリュアスでございます。どうぞよろしく」


「ああ、勝手に入って悪かったな。すぐに出ていく」


 目の前に宙に浮いてる人間がいるにも関わらず、ラルドはそれに一切反応せずにただペコリと軽く頭を下げて、再び投擲の構えを取ろうとする。


 しかし、ドリュアスがそれを許すはずもなく、ラルドの足元には、彼女の魔力によって作られた矢が数本突き立てられた。


「まあまあ、そう先を急がずに……どうぞお茶でもいか——」


「喉は乾いてない。邪魔をするなら強引に押し通るぞ」


「そうもいきません。その子は貴方の息子かもしれませんが、ここでは私の客人です」


 そう言ってドリュアスが指を鳴らすと、ラルドを中心としてその周りに、魔力製の青白く光る檻が一瞬で形成された。


「こんな鳥籠で足止めのつもりか」


 ラルドが剣を一振りすると、ドリュアスの檻はたちまちに砕けてしまった。

 が、しかし——


「壊されようと、それを上回る再生速度があれば問題ありません。

 まあ所詮はムスペルの魔術王の真似事ですが」


 壊れるのとほぼ同時に再構成された檻が、再びラルドを阻む。

 

「あの爺さんの結界か」


「おや、あの方をご存じでしたか。

 ——とにかく、今は息子さんとじっくり話し合ってください」


 ドリュアスがそう言うと、ラルドはため息を吐いたのちに、俺を地面に降ろした。


「母さんはお前を心配し過ぎて寝込んじまったぞ」


「……今帰ったら、責任を果たせません」


 俺がそう言うと、ラルドはセリの方に目線をやり、対するセリは小さく頷いた。

 よっぽど俺の言ってることが信じられないらしい。ムカつく。


「そうか。じゃあ、ラトーナがどうなっても文句を言うなよ」


「えっ」


 ラトーナがどうなっても……?

 どういう意味だ? 彼女に何かあったのか?


「それはどうい——……」


 反射的に顔を上げてラルドにそう尋ねたが、その時にはもう遅かった。

 俺の視界には、粉々に砕けた魔力の檻の破片が花弁の様に散っているだけで、ラルドの姿はどこにもなかった。


「行っちまったか……相変わらずせっかちな奴だなぁ〜」


 突然に訪れた静寂の中で、セリがため息を吐きながら尻餅をついた。


「いえ、素直に引いていただいて助かりました。

 あのまま戦闘になっていれば、我々は間違いなく全滅していたので……」


「同感だ。おいローレンス、貴公も寝てないで起きろ」


 全員が安堵の息を漏らす中で、俺だけがただ茫然とその場に立ち尽くしていた。


ディン•オードとかいう、作中一のヒロイン。


①少し人間離れしつつも、中性的な容姿。

②気配りができ、周囲から好印象。

③家事全般(料理、掃除、風呂の用意)を率先してこなせる。

④自覚してないが割と異性からモテている。

⑤武芸に秀でている。

⑥イケメン(リディ、ラルド、アイン、ロジー、トリトン、セコウ)によく助けられる。

⑦イケメンの間で取り合いになる(NEW)

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