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獣人奴隷の番は、王太子の婚約者

作者: 金田のん

この世界には、獣人・エルフ・ドワーフ・人族・・・・そして・・・・・奴隷がいる。

物心ついたオレが思ったのは、「ああ・・・・オレは今世では奴隷なんだな」ってこと。


奴隷になっている種族は偏りがあった。


まれにさらわれたり、借金で奴隷になる者もいるけれど、大体が敗戦国の捕虜や難民が奴隷落ちするからだ。国力の弱い国・種族の者が奴隷になる。


だから奴隷の比率は、4種族の中でも圧倒的に獣人が多かった。獣人は、人族のような器用さもないし、エルフのように圧倒的な魔力もない、ドワーフのように技術力もないから・・・・。


オレも例にもれず、獣人だった。顔は他の種族と変わらない。頭にケモ耳・尻にしっぽが生えている。


オレはよく猫の獣人と間違えられるけど・・・・そこは、間違えないでほしい。ユキヒョウの獣人だ。


雪のように真っ白な体毛にうっすらと花が散ったような模様が浮かんでいる・・・・・つまり猫にはない、ユキヒョウならではの特徴を持っているのである。

ちなみに獣化といって、完全なユキヒョウ姿になることもできるが、その姿は自分で言うのもなんだが・・・やはり猫には真似できない何とも言えないカッコよさがある・・・・・・・・と自負している。



「ニャー、こんなところに隠れてたの?」



オレが庭先で蟻の行列を真剣に眺めていたら、オレを猫の名前のような呼称で呼ぶ、いつものあいつが現れた。


可愛らしいエメラルドグリーンのふりふりしたドレスに、きっちり編み込んだ金色の髪。整った顔立ちの5歳の少女がオレに呼びかける。


・・・・・・オレはユキヒョウである。猫ではないし、今は忙しい。そのまま視線を元の(あり)に戻す。

そうすると、少女の隣にたたずんでいた護衛の男が怒鳴り声をあげた。



「貴様!奴隷の分際で、主人のエレオノーラ様を無視する気か・・・!!」



ユキヒョウは耳が良い。近くで大声を上げた彼を不快に思い、思わず眉間にしわが入ってしまう。


でも・・・・・視線は蟻の行列のままである。


オレは、前世でも今世でも・・・・本能に抗うつもりもないのである。

オレの中のユキヒョウの血が、この蟻たちを眺めたいと騒いでいるのである。奴隷でも、本能以外に従う気などない。


まぁ、普通の奴隷だったら、そんなことは許されないだろう・・・・・・・だが。



「ガレオス、いいの! わたくしがニャーと一緒に居たいだけだから」



そう言って、蟻を眺めているオレの隣にそのまま少女は腰かけた。オレの主人は変わり者だから・・・・問題ない。



「エレオノーラ様!! ドレスが汚れてしまいます!」


「大丈夫よ、ちゃんとハンカチを敷いているわ」



少女をチラリとみる。何が楽しいのか、オレを見ながらニコニコ笑っている。

前世のオレは550歳まで生きたエルフとドワーフのハーフだった。


・・・・がいまのオレはこの少女とあまり変わらない・・・5歳である。少女から香る甘い匂いがオレの鼻腔をくすぐる。


その匂いを嗅いだ瞬間、オレの本能が蟻を見ることよりも<この少女に頭を擦りつけろ>と呟くのが聞こえた。


オレは前世も今世も本能に忠実な男である。

蟻を見るのをやめ、隣に座った少女に頭を擦りつけた。



「ふふふっ、ニャーったら。くすぐったいわ」



「ふふふっ」という耳心地のいい声を聞きながら、熱心に頭を擦りつけたオレは、少女の甘い匂いにオレの匂いが混ざったことを確かめ、満足げに喉を鳴らす。


「グルルルル」


「あら、もう終わり?」



オレは本能に忠実な男なのである。なんだか心が満たされたので、もう頭を擦りつけるのをやめる。また目線を蟻に戻す。そうしてその日は一日、少女と一緒に夕方になるまで、蟻を眺め続けた。


それから毎日、オレは少女に会うたびに頭をこすりつけることにした。

少女は、この国の公爵令嬢だからか、庶民はしない<入浴>を毎日するのだ。そのせいで、毎日オレの匂いが薄れるので、仕方がない。


そんな毎日の中、少女は8歳になった。ある日、屋敷の庭にいたオレを見つけて、こう声をかけた。



「今日からわたくし、本格的な王太子妃教育を受けることになったの。お父様が・・・・・わたくしとこの国の第一王子のアントン様との婚約を決められたから。だから、ニャーとはもうそんなに会えなくなるわ」



寂しそうな表情を浮かべて、そう語り掛けてきた。今世、奴隷のオレは<婚約>という言葉を知らないが、550歳まで生きた前世オレはもちろん<婚約>という言葉を知っている。


鈍器で殴られたような衝撃を受けたが、少女の匂いからは特にオレ以外の匂いは混じっていなかった。本能が<大丈夫だ>と告げる。ならオレは・・・・・本能に従うまでである。


こくりと頷くオレに、少女は一瞬、目を見開き、うつむいた後・・・・・足早に屋敷の方に去っていった。

少女が6歳になってから、一緒に行動するようになった人族の<侍女>とかいう女性が彼女を追いかける。


オレは少女が何ですぐいなくなったか分からず、首をかしげる。


すると頭上から、声が降ってきた。30歳になった、小さい頃からいつもいる少女の護衛騎士・ガレオスである。

茶色い髪を揺らしながら、オレを呆れたように見下ろした。



「ニャー・・・・お前なぁ・・・・・・なんというか・・・はぁぁあああああ」



よく分からないが、錯乱(さくらん)しているらしい。

どうでもいいが、オレはユキヒョウなので少女以外は<ニャー>と呼ばないでほしい。まぁ・・・・でも、それは・・・いまはどうでもいい。


いまは・・・・そう、もっと大事なことがあると本能が告げている。



「なぁ、ガレオス。あんたは、あの子と毎日いるために・・・・オレがなにをすればいいか知っているか?」



まだ8歳のオレは190cm近い身長の騎士を見上げながら、そうつぶやいた。

ガレオスが目を見開いて、また大きな声で叫び声をあげる。


思わず、眉間にしわが寄る。



「・・・!!!??・・・おま・・っっお前、喋れたのか・・・・!!!!!」



その言葉に、そう言えば今世では特に必要がなかったから、今の今まで一言も言葉を喋っていなかったな・・・と思いかえす。


前世の記憶があるせいで赤ん坊から記憶があるオレは、今世の両親のことも覚えている。

今世の両親は・・・・この国ハーランドに滅ぼされた獣人の集落の部族長の一家だった。

両親はその時死んだが、オレは幼児ということで、奴隷紋をつけられ、奴隷に落とされ・・・・そうして2歳の時にやってきたのが、この公爵家である。


乳幼児がすらすら喋るのはおかしいだろうと思い、不都合もなかったので、集落にいたときは、あえて喋らなかった。


だが、ここに来てからも・・・・・特に不都合はなかったから、喋るという行為をしていなかったなと・・・・・・思い至る。


前世では、エルフとドワーフのハーフだった。

オレはその本能に従い(・・・・・・・)、魔法と錬金術を合わせる研究をしていた。だから、弟子や同僚と話す必要があり、言葉を使っていたし、かなり快活に喋っていたように思う。


この歳になるまでオレはまったく喋らなかったが、会話をしようと思えば、前世の知識で問題なく出来そうである。


つまりは・・・・・・いままで喋らなかったけど、特に問題はないということだ。



「ガレオス、うるさい。オレの質問に答えろ」



ガレオスの大声はユキヒョウという種族のオレには、ちょっと大きすぎる。眉間にしわをこしらえたまま、睨みつける。



「はあぁ・・・・・・お前は喋っても・・・・そうだな、そういうヤツだよな」



呆れたようにガレオスが溜息を吐く。



「奴隷のお前が、公爵令嬢で未来の王太子妃と一緒にいる方法か・・・・。まぁ、奴隷は奴隷紋のおかげで主人を裏切れない(・・・・・・・・)からな。エレオノーラ様を守れるくらい強くて、一緒にいても問題ないふるまいが出来るのなら・・・・・・・従者として、公爵様に推薦してやってもいい」



なるほど、ガレオスは少女の父親に進言できるだけの信頼があるらしい。オレはそのまま頷こうとして・・・・やめる。


そうして、代わりに左手を胸元に置き、軽く右足を引いてそのまま軽く頭をさげた。



「かしこまりました、ガレオス様。これより私はエレオノーラ様の従者になるべく努力いたしますので、ご指導のほどよろしくお願いします」



オレの今世の始まりは、前世で死んでからちょうど一年後に始まった。だから、この世界の従者の仕草は前世のオレの知識と同じだ。


前世の自分の執事の仕草を真似て、オレは・・・・そうガレオスに言った。



「・・・・・・・・・」



しばらく経っても、なんの反応もないので、頭をあげると、ガレオスが顔を真っ赤にしながら、口をパクパクしていた。


思わず首をかしげる。



「おま・・・・お前・・・・・・・・・・・いままでぇええええ!!!」



どうやら、オレの今までの態度との違いに驚愕したらしい。ひとしきり怒鳴った後、オレにきちんと従者としての指導をすることを約束してくれたのは、生真面目な彼らしかった。


オレは、満足気にうなずく。


そうして、前世の知識とユキヒョウという・・・・獣人の中でも屈指の身体能力を活かし、オレは約一か月後、少女・・・・いや、エレオノーラ様の従者になることに成功した。



「まさかこんな早く、従者になるなんて思わなかった・・・・」



遠い目をして、ガレオスがそう小さく呟いていたのをオレの耳が拾った。だけど、オレの本能はその情報は特に大切ではないと告げたので、放っておく。


夜にも関わらず、そのまま挨拶にとガレオスに連れられ、公爵家のエレオノーラ様の私室に行くことになる。

可愛らしい淡いピンクの部屋の真ん中で、もう寝る前だからだろう。ネグリジェにガーディガンを羽織ったエレオノーラ様がいた。


久しぶりに嗅ぐ部屋いっぱいの甘い匂いに、オレの本能が「幸せ」だと告げる。

オレ以外の匂いのついていない、混じりけのない匂いに、心の底から安堵して、思わず口角があがる。



「まぁ・・・ニャー・・・・!?」



エレオノーラ様のブルーダイヤの様な瞳が大きく見開かれた。ガレオスがオレを紹介する。



「本日付でエレオノーラ様の従者になりました、ニャー・・・いや、ニコライ(・・・・)です」


「従者・・・・?」


「お久しぶりでございます。明日から、このニコライがお嬢様の手足となりますので、何なりとお申し付けください」


<ニコライ>とは、奴隷になった時に取り上げられたオレの今世の両親がオレに贈ってくれた名前である。

従者なのに、「ニャー」ではおかしいからとガレオスが取り合ってくれたらしい。


もう大きくはならないと思われた、エレオノーラ様の瞳がさらに大きく見開かれる。



「ニャー・・・あなた・・・・・喋れたの!?」



その質問に答えるように、オレは笑みを深める。



「それに、笑って・・・・・」


「そこか・・・そうだよなぁ・・・・」



ガレオスが人族には聞こえないような声で小さく呟くのを、オレの耳がひろう。オレの顔を見ながら、口をパクパク開くエレオノーラ様。


その顔を見つめていると、オレの本能が<エレオノーラ様に匂いをつけろ>と呟く。


ノック音が部屋に響く。



「ガレオス様、少しよろしいでしょうか?」



エレオノーラ様がよく引き連れている<侍女>が外から声を掛ける。



「なんだ?・・・・エレオノーラ様、お久しぶりだと思いますので、ニコライを置いていきますが、よろしいでしょうか?」


「ええ、分かったわ」



エレオノーラ様がこくんと頷く。


前世の知識によると従者と言えども、貴族令嬢と男を普通、二人きりになどしない。

だが、奴隷は主人を裏切れないから、特に問題ないと、ガレオスはそのままにしたのだろう。

ガレオスと侍女、二人の足音が部屋から遠ざかるのが聞こえる。



「ニャー・・・・いえ、ニコライ・・・また一緒に過ごせるのね」



胸元に手を置きながら、潤んだ瞳でエレオノーラ様がオレに笑いかける。



「エレオノーラ様だけは、ニャーでいいです」



オレは猫ではなく、ユキヒョウだが、エレオノーラ様が「ニャー」と呼びたいのなら、それでいい。本能に従い、久しぶりにオレは、エレオノーラ様に頭を擦りつける。



「ふふふっ、ニャーはそれ・・好きよね」



グリグリしたおかげで、大分オレの匂いがエレオノーラ様の匂いに混じったが、まだ足りないと本能が呟く。


なにが足りないのだろう。思わず、エレオノーラ様の顔を見下ろしながら、首をかしげる。

オレと視線が合ったエレオノーラ様もオレの真似をするかのように、首をかしげた。



「ニャー、どうしたの?」



その口元を見て、オレの本能は<そこに匂いをつけろ>と呟いた。

前世、研究に明け暮れていたせいで、縁はなかったが・・・・それは恋人にしか許されない行為だと知識では知っている。


それで、オレは唐突に理解した。


本能が・・・エレオノーラ様に<頭を擦りつけろ><匂いをつけろ>と呟くのは・・・・・・オレが彼女に恋をしていて・・・・獣人であるオレの・・・・・唯一の(つがい)だと認識したからだと。


久しぶりにオレは、頭を回転させる。この国の第一王子の婚約者である彼女を・・・自分の番にするということは、本能に従うだけでは解決できないと悟ったのだ。



「明日は、大賢者ルスランさまが亡くなって9年の慰霊祭があるの。ニャーも一緒に行ってくれるのよね?」


「ええ・・・もちろんです。お嬢様」



そう言って、オレが居住まいを正し、従者然とふるまうとエレオノーラ様は「ふふふっ。ニャーったら、本当に従者になったのね」と可愛らしい声をあげた。



(そうか。明日はオレの8歳の誕生日だもんな。前世のオレがちょうど死んでちょうど9年か)



大賢者ルスラン・・・・今世で生まれ変わってからも、よく聞く自分の前世の名前。


エルフとドワーフの本能に従い、研究に邁進していたが・・・・・知らないうちに他国であるこの国で、慰霊祭が開かれるくらい有名になっていたようだ。


そうして翌日の慰霊祭、そこで再会した弟子からオレは人脈を広げることにした。

前世の知識と人脈、財産、そして今世の能力をフル活用して、この初恋を実らせることに成功したのは・・・・・オレが彼女を番だと認識してから、ちょうど10年後のことだった。


その時には、この国をどうにかしたり、奴隷制をどうにかしたり、大変な騒ぎになったがそれは別の話。


10年我慢して、やっと本能の赴くまま、オレはエレオノーラにキスをして<匂いをつける>。



「ニャー・・・」



エレオノーラはオレを呼びながら、潤んだ瞳で見上げる。


オレはユキヒョウだけど、彼女の前ならもう猫でも何でもいい気分になった。

なぜならオレは・・・・・



(ああ・・・・最高に幸せだな・・・・)



彼女に出会ってから、ずっとそう思っているから。

読んでいただき、ありがとうございました。

時間があったら、ヒロイン視点や最後の曖昧な部分を追加を書ければと思います。

よろしければ、下の☆☆☆☆☆から評価やブクマで応援をよろしくお願いします!


また興味があったら連載中の「悪役令嬢は男装して、魔法騎士として生きる。」やもう一つの短編「聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい」も読んでいただけると嬉しいです。


https://ncode.syosetu.com/n4897fe/


<あらすじ>

VRMMOのアクションゲームで<剣聖>の異名を持ち、一部で有名だった理奈。

彼女はあろうことか、アクションゲームではなく、乙女ゲームの必ず死亡する悪役公爵令嬢・レティシアに転生してしまう。

剣と魔法のある世界で、そのキャラクターと同じ動作ができることを確認した理奈は、

ゲーム開始前に同じく死亡する兄を助ける。・・・・が、なぜか男装して兄の代わりに魔法騎士団に入団することになってしまい・・・・・?


※何でも許せる人向けの小説です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ニャーくんとエレオノーラちゃんがお互いを想いやっているところが良かったです。後、ニャーくんが大賢者ルスランの生まれ変わりだったのが意外でした。
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