肉を喰らう巨虫 第27話
風魔撃城バルファラク、メイ曰く元々龍だったものが城へと形を変えたものらしいが…ただの城にしか見えない。
城のてっぺんに龍の頭みたいなオブジェがあるけど…それ以外はただの城にしか見えないな。
「見えた?ソラ」
「あ、見えました、アレ…本当に龍なんですか」
俺はそう言いながら双眼鏡をメイに返す、今回の依頼の調査はあらかた終わり、ちょっとした休憩時間に入っていた。
今のところこの森に異常はなかった、虫が凄い多かったが…それがこの森では普通らしい。
なんか興醒めというかなんと言うか、別に危険な目に会いたいわけじゃないけど……なんかな。
「そう…らしいね、私動いてる所見たことないから言えないけど、動いて飛んでたらしいよ
もっと近くで見てみる」
「遠慮しときます、と言うか遠い、行くのにも時間がかかります」
「大体…1時間ぐらいかな」
「普通に遠い、だったらやめときますよ、仕事でもないし…それより花子さん、何やってんの」
【ビビビビビビ!!】
「え?何が」
そう言う花子さんの手には、5匹にもなる蝉のような虫が握られていた、そしてその蝉は逃げ出そうと、音を鳴らしジタバタ暴れている。
「いや、何がじゃなくて、なんで焚き火焚いてるんだ」
「少し調理しようかなって」
「調理って今からするの」
「はい、外でやる料理研究もいいかなぁと」
そう言いながら花子さんはバッグから調理器具を取り出し始めた、フライパンや包丁などの調理器具を取り出した。
そして鼻歌を歌いながらたこ焼きピックを取り出し、そのピックに蝉を突き刺す。
【ビ!ビ!ビ!ビィィ!!!】
「容赦ないな」
「料理に容赦とか求めたらダメですよ、料理とは殺すこと、そこに戸惑いを感じたら何も食べれませんよ」
「そりゃそうだな」
「さて、これに胡椒をまぶして…」
花子さんはウキウキに蝉らしい物の料理を進める、最初に聞こえていた虫の魂の雄叫びはもうなく、完全に息を引き取っていた。
そしてそんな蝉を小麦粉のような物をまぶし、油が引かれた小鍋に打ち込む、さらに虫カゴから小学生の憧れのカブトムシを取り出し
そのカブトムシの頭を引きちぎり、カブトムシに下拵えをこなしていく。
「慣れてるな、一応異世界の虫だろ」
「何度も研究しましたからね、どの調理方法が1番美味しく食べれるか、虫の内部構造とか、生息場所とか
それらが味にどう関係してくるのか、色々調べいるんですよ」
「凄い努力ね…」
「美味しく食べるためなら努力はやめませんよ」
「うん…まぁ頑張れ、ところでメイさんこの街にも虫料理ってあるんですか」
「え?あるにはあるよ」
あるんだ、と言うことは花子さんが朝食べてた料理は…この世界の料理なのか、花子さんオリジナル料理だと思ってた。
「前王様がハナちゃんみたいに虫料理が好きだったんだって、それが影響して昔は虫料理が多く作られたんだけど…
今じゃそこまで作られてないね、やっぱり虫の捕獲依頼は少ないし、見た目のインパクトが…ね」
「なるほど」
「よし、できた!」
「え!?もうできたのか」
「簡単な物ですから、時間はそこまでかかりませんよ、それにしても…小道先輩はいいものを作りましたね」
そんな雑談をしながら出来上がった虫をピックについた状態で食べ始めた。
パリパリ、とポテトチップスを食べるような音が聞こえ、それを食べた花子さんは満面の笑みを浮かべ蝉を貪る。
「…美味しいのそれ」
「はい、2人も食べます」
「俺はいい」
「じゃ1匹いただこうかな」
「え!?」
「はいどうぞ」
ピックから1匹の焼き蝉をが外され、メイに手渡しされる、メイは少し熱いと声に出しながら、その蝉を口の中に入れる。
「あ!!凄い美味しいこれ」
「でしょ」
ブゥゥゥウ!!
「あんな短時間で作ったのに、ここまで美味しく出来上がるなんて」
「当然ですよ、プロですから、先輩も食べません」
ビビビビ
「いや、遠慮するよ、美味しいとは言えそのビジュアルは…ちょっと」
「美味しいのにもったいない」
そう言いながら虫を貪る、とても美味しそうな匂いはするんだけど…虫はちょっと、食べる気が無くなる、もう少し…もう少しビジュアルどうにかならなかったのか。
ブゥゥゥン!!
「何だこの風」
体が吹き飛ばれそうなほどの強風が突然吹き始め、それと同時にさまざまな虫が森を抜け出し空を飛び出した。
「凄い風ですね、それに虫がいっぱい、あ!あの虫見たことない、後で捕まえに行きましょう」
「まだ調理する気かよ」
「それにしても何か変ね、まるで何かから逃げてるよう」
「何かから?」
「少し聞いてみますか」
メイは耳につけた耳栓を外した、メイは耳が4つあり2つは人の耳、もう2つは頭についている猫の耳、この合計4つある。
4つあるからとても耳が良く、逆に聞こえすぎて大変らしい、余計な音も聞こえるため、普段は猫の耳に耳栓をしているらしい。
耳が良すぎることも大変なんだな。
「…何この音」
「どうしたんですか」
「何か近づいてくる、これはギドル・アルス」
「アルスってあの森にいるアルケミックだよな、それが近づいてきているのか」
まさか俺達の存在に気づいたのか、いやでもここにいるアルスは虫を食べるんだよな、だったら人間を食べないはずだ
それなのに何故俺達に近づいてくるんだ、もしかして逃げている、何かから…
「な、何この音… ギラファにも似た羽ばたき音、だけどサイズが大きすぎる…5mいや6mはある」
「6m!!そんなデカい虫がいるんですか」
「いや先輩、確か依頼書に書いてありませんでしたか『巨大な昆虫型魔獣いる可能性がある』ってもしかして、その虫が来ているんじゃ…」
「その可能性は大いにあるわね」
「ま、マジかよ」
「2人とも気をつけて、もうすぐ出てくるよ」
俺は鈍器を構えて、指輪を装着する、虫の音は徐々に近づいてくる、そして…草むらからアルケミックに似た小型サイズの魔物が飛び出した。
【ギララァ!!】
「ギドル・アルス」
「こいつがアルス…」
「来るよ2人とも!!」
ブゥゥゥヴヴン!!
虫の巨大な羽ばたき音が聞こえ、それと同時に草むらから巨大な緑色のカブトムシに似た昆虫型魔物が現れた。
そして、巨大なツノで逃げてきたギドル・アルスの体を貫いた。
「な!?」
「で、デカい」
メイが言ったように7mほどの大きさの虫はギドル・アルスを貫いた状態で空を飛び、ギドル・アルスを地面に叩きつけた。
ドン!!
【ギ…ギ……ギガァァ!!】
貫かれ叩きつけられたギドル・アルスはボロボロになりながらも、叫び空飛ぶ虫を睨みつける、すると砂が動き始め、砂は虫を攻撃し始める。
だが、虫は巨大な体を回転させ、その砂の中を突っ切り、ギドル・アルスを貫いた。
【ガ…ガガ……】
貫かれたギドル・アルスはゆっくりと地面に倒れ、目を閉じた、そんなギドル・アルスに巨大な虫は近づき、ギドル・アルスの体を食べ始めた。
「う、うそ昆虫型の魔物が肉を食べてる」
「そんな馬鹿な虫だぞ」
「いや虫にも肉を食べる種類の虫はいます、埋葬虫の名を持つシデムシ」
「じゃあこの虫はその一種ってこと」
「多分違います、確かにカブトムシの中にはコカブトムシ、と言う肉を食う種類がいますが
このカブトムシはそれと特徴に合わない、それにツノや足まで緑色のカブトムシは見たことない、おそらく新種」
「なるほど、で、どうする逃げる?」
「あのアルスの時速はどれぐらいですか…」
「えーっと大体150km」
「うん、逃げれないね、すぐ追いつかれるね」
「ここで倒しましょう、あんなデカい虫…調理してみたい」
「それかよ」
「それしかありませんよ」
「新種の魔物を狩れたら…それなりに追加報酬はでるね、新種…しかも巨大となると……どれだけ出るか…グフフフ」
この2人ヤル気満々だ、まぁ逃げても追いつかれるなら、ここでやるしかないよな。
「カブトムシ…巨大で肉を食う、肉を食う巨虫、ミート、ジャイアント、ビートル……【ミート・ジャイトラル】…いやミートはいらないかな
【ジャイトラル】でどうですか」
「名前決めてる場合かよ」
「ジャイトラル、一旦それで呼びましょう、ソラ、ハナちゃん、気をつけて戦いましょう」
「はい」




