クールな彼女と三時のおやつ時に駄弁ってるだけの話
先に、シリーズ「鈍感とクールな幼馴染の話」を読むと、より楽しく読めるかもしれません。読まなくとも、問題はありません。
タイトルの上にある「鈍感とクールな幼馴染の話」からお読みいただけます。私が設定ミスってなければ……
「クッキー焼いたんだけど、食べない?」
日曜日の午後三時、斜め向かいの家に住む幼馴染の福井かなから誘われ、俺――深山幸太――は彼女の部屋へ招かれた。
「……なんで、かなの部屋なんだ?」
「悪い?」
俺の問い対するかなの答えは、あまりにも答えになっていないが、これ以上答える気は無さそうなので俺は、……さらにつつく。
「高校生にもなって、男を簡単に部屋へあげるのは、あまりよろしくないぜ」
ふざけながら言った俺の言葉に、かなは顔の表情筋を一切活用しないまま、口を開いた。
「幸以外、簡単にあげないわよ」
ともすれば、勘違いしそうになるその言葉に、俺は一瞬だけ狼狽え、すぐさま気を引き締める。
「だな、幼馴染の称号は伊達じゃないもんな」
そう言いつつ俺は、ベッドに腰掛けているかなの対面、クッキーの置かれた小さなテーブルを挟んだ場所に座った。
「横でも、良かったのに」
「はあっ?」
俺は驚いて、かなの顔を見る。
「この部屋、クッション置いてないから」
なおも表情筋にストライキを起こされたかのようなかなの顔を見て、すぐに心を落ち着かせる。
「ああ、良いよ。テーブルに近い方が、手に取りやすいし」
テーブルに置かれた、クッキーに手を伸ばしながら、答える。
「ふーん」
テーブルが移動した。かなの方に。
「……えっ……と?」
テーブルの端を掴んでいるかなの顔を見るが、相も変わらず、表情筋は絶賛休業中。
「…………」
「…………」
座っている位置を変えずに、テーブルの上に手を伸ばすと、クッキーを乗せた皿が移動した。かなの方に。
「…………」
「…………」
クッキーを乗せた皿の端を掴むかなは、常と変わらない顔に、ほんの少しの朱を差し、俺を見つめる。何この生き物、超かわいいんだけど。
「分かったから。そっちに座れば良いんだろ」
「ん」
揺れる感情を隠し、ベッドの方へ移動しつつかなの顔を見る。いつもの表情でテーブルと皿を元の位置に戻しているその顔に、先程までの感情を察する事は出来そうにない。
「なんで、急に菓子作り?」
かなの隣、ベッドに腰掛けつつ俺は、無難だと思う質問をした。
「悪い?」
真っ直ぐに、クッキーを見つながらかなは答える。駄目だ、会話が続かねぇ。
「悪かねぇけど……」
俺の言葉を最後に、部屋のなかは、沈黙に満たされる。いや、沈黙に満たされるって何だよ、部屋のなかはずっと、なんか良いにおいで満たされてるわ。
「なんか変な事考えてない?」
「……まさか、そんなわけないだろ」
かなが俺の顔を見つめてきたため、テーブルの方へ、視線を向ける。
「…………」
視線を感じる……これが第六感か!
「……クッキー食べても良いよ」
「ん、おお、じゃ遠慮なく」
バカな思考に切り替えたのが功をそうしたのか、未だ横からの視線を感じるものの、クッキーを食す許可が下りたので、俺はテーブルの上に手を伸ばす。
「…………」
「うまい」
「そう」
横目で見たかなは、嬉しそうに少しだけ笑っていた。
******
かなと適当に駄弁った後、家に戻り、リビングのソファーで寝転がってスマホを見つめる姉貴に、声をかける。
「これ、戦利品」
透明な袋に包まれたクッキーをスマホの前にかざす。ブルーライトは目に毒だぜ、的な意思を込めて。
「何と戦ってきたんだ」
笑いながら袋を手に取る姉貴に、すかさず答える。
「あれは強敵だった……」
お前限定だけどな、なんて意味の分からない返しをしつつ、クッキーを食べ始める姉貴。
「かなが急に菓子作りなんてな。理由とか知ってる?」
かなと個人的にスマホで連絡しあっている姉貴に、何となく聞いてみる。
「ん、多分昨日テレビでやってた美人すぎるパティシエを見ながら、菓子作りが出来る彼女とか最高だよな、なんて言ってる奴がうちにいるって、私がかなちゃんに教えたからだろうな」
……なるほどな。通りで微妙に不機嫌な気がしてたんだよ。