悪役令嬢少女・ダイジェスト
あらすじ必見。
まともな婚約破棄ものを期待すると、思いっきり期待外れとなる作品?です。 ご注意下さいませ。
「はぁ……」
ここは貴族の子女が通う、貴族学園。
そこの中庭に設置されている西洋東屋で、キツい目付きでドリルがまぶしい金髪の、上級貴族令嬢がため息をついていた。
彼女はマリカ。 両親の薫陶を受け、立場が違おうとも決して見下さず、とても清廉に育ったご令嬢。
見たもの全てがため息を吐く、絶世のパーフェクトプロポーションを備える、最強の美人。
見た目から勘違いされやすいが、くちさがない者達から「悪巧みをいつもしていそう」と言われやすいが、それでもめげない強いご令嬢だ。
現在の季節は春であり、時季に合わせた美しい花々が咲き乱れ、それを背景にしてついたマリカのため息で新しく花が咲いたのでは? と思わせるほど綺麗に見える。
なぜため息をついていたのかと訊かれれば、まあ理由は単純明白である。
「婚約者を……殿下をどうお救いすれば」
平民から下級貴族の養女になった少女と冬頃知り合ってから、殿下の様子がどうにもおかしいのだ。
養女の容姿は明らかに発育不良。 チンチクリンでお子さま体型。
「以前より短慮になり、粗暴になり、自尊心ばかりが肥大して。 なにをどうすれば良いのか」
もしあんな少女へ入れあげているのならば、殿下はもしかしたらペd……いやいや、そんな性癖ではないと願う。 そう邪念がよぎる事もある。
お付きのメードに席を外してもらい、ひとりで思い悩む姿はまるで、可愛く健気なヒロインをどう排除してやろうかと策を巡らせる、悪役令嬢そのものであった。
だがそこへ、よく分からない生き物が飛び込んできた所から、物語が始まる。
「話は聞かせてもらったポル! ポルが力を貸すポル!」
この世界には存在しない“こけし”と呼ばれる工芸品を、まるまるふくふくさせて、小さな一対の白い翼を背負わせた様な奇妙な生き物から。
~~~~~~
時は流れて、はやくも卒業式。
変な“こけし”のポルと知り合ってから、既に1年近くが経っている。
「もうこんな時期。 私はなにも出来ませんでしたわ……」
学園の寮で、並々ならぬ覚悟を持った顔つきで、マリカが気炎を吐いていた。
その間の事を細かく語るには時間が足りない。
なにせ殿下と接触しようとすれば、謎の魔物騒ぎだの魔人とか言う者の襲来だの取り巻きが洗脳されただのと、てんやわんやの大騒ぎ。
印象深かったトラブルは、取り巻き達と出かけて、ひと夏のアバンチュールで酷い目に遭いかけた事。 もちろん元凶は撃退した。
他にも秋の紅葉狩りキャンプにて取り巻き達と共に狂暴な怪人と遭遇したり、冬の雪山で謎の殺人事件に取り巻き達ともども巻き込まれた。
果ては取り巻きが誰かに恋したから応援して欲しいだの、取り巻きのお家騒動に巻き込まれるだの、取り巻きの実家から学園に隠された宝の地図が発見されただの。
マリカの周りでちょこちょこトラブルに見舞われて、殿下どころでは無かったのだ。
それらのトラブルは大抵、持ち前の莫大な魔力に物を言わせ、力業で全てをねじ伏せて解決していった。
ポルはついぞ何もしてくれず、解決してからよく分からない言葉ばかり言い残して消えていくのが、もはやお約束。
そのトラブルには、何故か細かいところで殿下と元平民少女がセットになって出てきて、黒っぽい格好で謎の行動をチラチラ見せて来てうざったい。
だってその細かく出てきた時に、貴族の令嬢ならば絶対にしない、しょうもないイタズラをマリカの所為として擦り付けてくるのだ。
なにかを隠されただの壊されただの盗まれただの、移動教室の教え間違いだの池へ叩き落としただの、水着をズタズタに裂かれただの。
「貴族なら取り乱さず、すぐ揃えなおせる物や些細な事故。
しっかりした証拠や証人すら見つからない、自作自演の可能性が消えない被害報告。
何がしたいのか、全然分かりませんわよ」
実際、元平民少女がエグエグ泣きながら、マリカのしていない事をベラベラと並べ立てて、それに烈火のごとく怒る殿下の姿は生徒から困惑とドン引きばかり得ていた。
「今日こそ、私と殿下が卒業してしまう今日こそ、殿下の異変を問いただす最後のチャンスですわ!」
「そうポル! さんざん振り回された魔人達との、最終決戦ポル! マリカ、気合い入れて行くポルよっ!!」
いつの間にか現れて、良く分からない言葉を放り投げては消えていく。
ポルは今日も言いたいことだけ言って消え去った。
~~~~~~
「マリカ! 貴様にはほとほと愛想が尽きた!! 俺の愛する少女への行為、もう見過ごせん! 婚約は破棄だっ!!」
卒業式が済み、そのままパーティーへと移行し、そろそろダンスの時間となった頃合い。
暴言をきっかけとした殿下の暴走は、あっさりマリカによって鎮圧された後、意外な展開へと突き進む。
「貴女はワタシの計画に邪魔な存在! “魔神”たるワタシが世界征服の橋頭堡とするべく選んだ、この国を乗っ取る計画を散々邪魔してくれちゃって!!
妨害工作も上手くいかず、実力行使も失敗。 貴女の仲間を攻める搦め手さえ跳ね返されてぇ!!」
なんと、今までのアレコレを全て暴露してくれる、殿下が作らせた特注ドレスを着た元平民少女……いや、自称・魔神。
彼女自身は色々開陳していたら、どうにも腹が立って仕方がない様子。
ダンダダンと地団駄を踏み鳴らしたと思ったら、赤い謎のオーラを背負いだした。
「……ああもう、折角の計画が本当にボロボロ。 こうなったらワタシ自ら、貴女を葬らないと気がおさまらないわ!!」
そろそろ少女の怒りが有頂t……いや、怒髪天を突くかと目されるタイミングに、ヤツが現れた!
「マリカ、あの魔人の力は強大ポル! 今こそポルの全力をマリカへ貸すポル!!」
「きゃあっ……!!」
謎の“こけし”が眼前へしゃしゃり出てきて、強烈な発光!
それを直接見せられたマリカの網膜へ、かなりのダメージ!!
「クソ! あの女に、天使が力を貸していたなんて!!」
自称・魔神も、マリカを凝視していた為、巻き添えで網膜へ強いダメージ!!
この光と混乱に乗じ、野次馬以外はマリカの取り巻き達の避難誘導に従い、まとめて逃げ出した!!
「これは……なんでしょうか?」
光が止み、自前の回復魔法で網膜を治したマリカは現状の確認を行っていたが、そこで自身の変化に気付いた。
卒業パーティーで着てきたドレスが変わっていたのだ。
「まるで結婚式で着るような、純白のドレス。 それとレース増量、リボンも微増。 こんな可愛らしいドレス、私には合いませんわ」
困惑していても言葉遣いは乱れない、流石清く正しいご令嬢。
他にも変化が有るのでは無いかと、セルフチェックをしていたら、もう一つ違いに気付いた。
「私の象徴、ロールが倍に増えてますわね?」
そう、マリカのドリルヘアーがマシマシになっていて、物凄い事になっていた。
これは生半可なドリルでは無い。 その勇姿たるや、まさに天すら突けるドリルが如し。
全てを1本へまとめたら、どれ程のドリルとなるだろうか。 想像すると身が震えてくる。
「クソ女、まさかその姿は……!? 天使の中でも最上級の者のみ纏える、聖衣をなぜ!!?」
自称・魔神も視力を回復させて、それから見た物にうろたえている。
「それを纏った者は、神に匹敵する力を得るとか……!! ふざけるなぁ!! 神がなぜここまで、地上へ干渉するぅぅ!!!」
色々と御大層な言葉を並べているが、そんなのを放っておいて、マリカは絶賛混乱中だ。
なぜなら。
「これがポルの全力支援ポル!! これならあの魔人を倒せるポル!! やっちまえポルゥ!!!」
マリカを置いて、なんか盛り上がっているのだ。
もちろん盛り上がっている、の中には野次馬達も含まれる。 いくらマリカの取り巻きが避難誘導しようとも、まったく応じないその精神に恐れ入る。
具体的には、マリカが花嫁然とした姿へ変わり、その艶姿を見てワーキャーワーキャー盛り上がっていた。
「これを着せられても私の力が増した感じはしませんし、いつの間にか殿下は灰となって風に散っていますし。 一体全体、これはなんですの?」
マリカ、完全に置いてけぼり。
だがそれでも、ひとつだけ分かることが有る。
それは……。
「とりあえず、騒ぎの原因となっている少女を捕縛して、事態の収拾を致しませんと」
最終決戦はこうして、最終局面を迎えた。
~~~~~~
「クソ! クソッ! どけ、このクソ女ァ!!」
「まったく。 貴族の令嬢たるもの、そんな品性の無い喋り方ではいけませんよ?」
最終局面終了。
勝者はもちろん、マリカ。
ん? バトルパートはどこだ?
無いよ。 白熱のシーソーゲームも、灰になった殿下が正気を取り戻して少女へまとわりついて邪魔するイベントとかも。
なんでって? 姿が変わるだけの謎支援をしたポルは置いといて、普通に自称・魔神の力負け。
転移魔法によってすぐさま背後とられて、身体強化魔法マシマシになった力で腕を極められ押し倒されて、トドメに魔法で全身を痺れさせられて、はい御用。
清く正しく美しい令嬢は、護身用体術を応用した捕縛術だってお手の物。
魔神と名乗っといて魔法は使わず純粋な肉体のみで戦うパワーファイターでは、ドラゴンもドリルで穿つと言われたマリカ様には、普通に勝てませんでした。
「大人しくして下さいまし。 まだ抵抗するなら、こうせねばなりませんのよ?」
冷淡な口振りで通告する「こうせねば」とはなんなのか?
少し興味にかられた自称・魔神が身動ぎしてみると、首筋に押し付けられている物以外のドリルが動いた。
それは目にも止まらぬ動作で自称・魔神のうつ伏せになっている顔をかすめ、すさまじい音をたてながら会場の床を堀り抜く。
「ひぃっ……!! 分かった、分かったから!! 抵抗はしない、降参するっ!」
その髪の毛とは思えない威力を目にしてしまい、自称・魔神は心底怯え、屈服した。
「良くやったポル、マリカ! この魔人はポルが処置するポル!! 今までポルの手伝いをしてくれて、ありがとうポルッ!!」
今日は“こけし”が良く現れる。
「少し待ちなさいな! 結局あなたは何だったのかしら?」
呼び止めようとするマリカに耳を貸さず、マリカと自称・魔神の頭をぽん、と“こけし”が叩いた。
すると、マリカの纏っていた純白ドレスが元の豪華なドレスへと戻り、捕縛したはずの自称・魔神が沢山の光の球となって天へと昇って行くではないか。
それに落胆する声をあげた野次馬達。
そんなのを無視し、慌てているマリカ。
「ダメですわ!! 学園……ひいては国を騒がせた重要参考人を連れていくのは、認めませんわ!!」
マリカは徹頭徹尾、貴族の令嬢である。
国のため、国民のため、愛する家族と領民達のため、平和を脅かしそうな事態を見過ごせないのがマリカである。
「あなた達!! 結局なんだったのか、全てを明かさず消えるのは、私が認めませんわーーーっ!!!」
殿下がおかしくなった原因すら解明出来ていないのだ。
騒動の被害者であるマリカを置いて勝手に進む状況に、何もかも理解できない展開。
マリカが放つ魂の叫びは、騒ぐだけ騒いで消えていった者達へ届くのだろうか?
Q.恋愛要素どこ?
A.取り巻きが誰かに恋したから応援して欲しい 本文でそう書いたから、恋愛要素はありまぁすっ!
更に殿下は自称・魔神の少女へ“真実の愛”を抱いていたので、そこも恋愛要素だからセェェェフ!!(暴論)
Q.メード?
A.調べると、メイドよりもメードの方が正しいとか、英語の発音に近いとか、そんなのが書いてあったので。
Q.ポルってなにもの?
A.謎生物です。 天使とか自称・魔神が言っていましたが、その世界へ行って確認した訳でなし、確証はなにもありませんので。
Q.ポルは力を貸していた?
A.最後の衣装チェンジ・ドリル増量以外は未確認です。 なお、ポルによりマリカの力が増幅された事は1度も無かったのは、ここに明記しておきます。
補足として、ドリル髪を意思のまま動かせたのは、マリカが使っている魔法によるものです。 ポルは戦闘能力に何ひとつ貢献しておりません。
Q.ポル曰く魔人、少女が自称する魔神。 どっちが正しいの?
A.どちらが正しいか、それは分かりません。 ポル基準では魔人。 少女は魔神と自称している。 判別できる基準も条件も知らないのですから、それぞれがそう呼んだ。 わかるのはそれだけ。
Q.ダイジェスト? だったら連載版とかあるの?
A.有りません! 書きません! これ以上話を膨らませられないの、許して!!