表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救世の剣が舞い降りる  作者: μ's
7/59

第六話

第六話 悪食

悪食には特殊能力がある。それはリモートコントロール。悪食は捕食した生物のDNAを記憶し、その生物そっくりの人形を生み出すことが出来る。何度でも何体でも生産可能だ。ちなみに悪食自身の人形も生産可能だ。アルムの倒した悪食はこれである。悪食は知能犯。策を巡らせ獲物を狩る。悪食はこれを愉しんでいる。自分の策に獲物が狼狽する姿を見て喜悦の笑みを浮かべる。醜く歪んだ嗤いは性格の悪さの証左だ。池に水を汲みに行った3人が悪食に捕食された。その絡繰りはこうだ。

3人は水の補給を完了しアルムたちの元へ戻ろうとした時、悪食に遭遇した。3人は一斉に攻撃するも傷一つ付けられず。窮し遁走を図る。その際1人が時間稼ぎに魔術を乱射。その間に残る2人が逃げて行った。1人と2人の距離が空いたところで悪食は人形を使い、後ろから時間稼ぎ役の心臓を貫き殺害。すぐさま捕食。この時既に悪食は蜘蛛の巣を展開済み。この冒険者の人形を2体生み出し、1体を逃げる2人に合流させた。2人に追いつくことが出来たのは足を強化させたからだ。一方、もう一体は首無しだ。何故首無しの人形を作ったのか?勿論遊びだ。2人の狼狽する姿を見たいがため、この様な策を講じるのだ。悪食の性格の悪さが光る。この首無し人形を蜘蛛の巣の所へ別の人形に運ばせた。舞台は整った。醜い笑みを浮かべ、悪食は潜行した。その後は予定通り。2人は蜘蛛の巣に貼り付けられた仲間の死体に驚愕し、困惑し、悪食の姿を認め恐慌状態に陥る。これに悪食は満足気に嗤い、

2人を捕食した。

アルムは考える。あの一幕に生じた違和感。悪食は死んだ。ファイアランスに沈めた。悪食はもう居ない。なのにこの形容し難い、言い様の無い違和感は何だ?班員は皆警戒心など無く、悪食を討伐したアルムの雄姿に興奮する者、悪食が討伐され安堵の息を零す者。皆三者三様に浮かれている。まあ、実際に悪食が倒された瞬間を目撃した訳だ。浮かれるなと言う方が難しい。何せ後はハガルの班の到着を待つだけ。そしてそのまま帰還する。皆の頭にはそのビジョンが浮かんでいる。いや、そのビジョンしか浮かばない。アルム以外は。アルムは1人黙考する。本当にあれは悪食だったのか?悪食は外に居るのではないのか?そんな考えが脳内を交錯する。この考えは極めて正しい。というか正解だ。だが、アルムはそんなはずは無いとも心の片隅で思う。悪食が2体?まさか。確かに擬態としてそっくりの身体を作り出す能力を持つ魔物は居る。だがそれは飽くまで擬態。生命体では無い。だがあれは生きていた。歴とした生命体だった。だからもう悪食は居ない。そう片付け

「悪食は俺が討伐した。後はハガルさんたちを待って合流次第帰還する。」

「おおおおおっ!」

皆が歓喜に湧く。脅威は去った。誰一人欠けること無く、やり遂げた。悪食を、キメラを死者無しで討伐。奇跡だ。普通キメラ討伐には良くて討伐隊の3割、酷い時には過半数の犠牲者を出しながら、討伐に成功するものだ。だから浮かれる。浮かれてしまう。そんな時、そこへ水を汲みに行った3人が戻って来た。

「漸く戻ったか、遅いぞ。」

アルムは3人を注意する。半ば笑顔で。

「おいおい、お前ら良いとこ見逃したな。」

「アルムさんがよお、やったんだ。」

「悪食を一撃で倒しやがったんだよ。」

皆口々にアルムの武勇伝を語る。そこで3人は徐ろにアルムの所へ行き、

「「「ファイアアロー!」」」

アルムへ向けて魔術を放った。

「ぐああっ!」

三本の炎矢がアルムを襲う。だが流石はアルム。咄嗟の攻撃に魔力運用で急所をカバー。だが完全には防げず少し肉を焼かれた。致命傷ではないため3人に向き直り、毅然と言い放つ。

「貴様ら、何のつもりだ?裏切るってんなら容赦しないぞ。」

これに3人は

「「「ぶっ殺す!」」」

そう言って魔力を練る。これを見て班員たちも魔力を練り

「裏切り者だ。」

「やっちまえ。」

一斉に魔術を放った。その時だった。何体もの悪食が森の中から躍り出て来た。

「キシャアアアッ!」

「悪食だとっ!」

アルムが驚愕に目を剥く。3人に魔術を放ち無防備になった班員たちを悪食たちが襲撃する。

「うわああああっ!!」

「やめろっ!があっ。」

「ぐああっ!」

アルムはすぐさま反応。多数の悪食たちに魔術を放つ。

「火炎弾。」

高練度の火炎弾を射出。狙い誤たず悪食たちを焼く。

「おのれ悪食めっ!」

仲間が全員やられた。その事に憤怒する。恐らく自分を襲った3人はダミーだろう。となると本物の3人は既にやられた。そう判断し拳を強く握る。血が出る程に強く。そこへ悪食が現れる。愉快に嗤いながら。その嗤いを見てアルムはキレた。

「うおおおおっ!」

裂帛の雄叫びと共に放たれる10数もの火炎弾。これを悪食は

「キシャアアアッ!」

高速の爪撃で火炎弾を捌く。捌き切れなかったものは紙一重で躱す。速い。偽物とは大違いだ。アルムは確信する。こいつが本物の悪食だと。敵の身体から感じる魔力が違うのだ。キメラは固有魔核という物をそれぞれ有している。普通の魔物と違い固有魔核を破壊しないと死なない。そこから魔力を感じる。先のからは感じなかった。

「こいつが本物の悪食。みんなを殺した張本人。俺を騙してまで何故そんな事をする。死んで行った仲間の命の尊厳を蹂躙するようなお前は絶対許さない。殺す!」

そう言って駆ける。洞穴の前の広い野を魔力を練りながら疾駆する。

「ファイアランス。」

「キアアッ!」

炎槍と爪撃が激突。炎槍は叩き落とされる。しかしそれは想定内。炎槍が叩き落とされた瞬間、新たに撃った炎槍が崩れた体勢の悪食に肉薄する。

これを悪食は横に跳んで躱す。そして悪食は凶悪な口から糸を吐く。吐き出された糸は近くの木に張り付く。

「何のマネだ。」

アルムは訝しむ。糸を張る。逃げ場を失くすためか?思考を巡らせるが答えは出ず。

「くっ、アクアカッター。」

水属性中級魔術を連射。高圧の水刃が悪食を切り刻まんと飛来する。またも鉤爪で捌こうとするが

「喰らえ、ファイアランス。」

アクアカッターはダミー。本命はこちらのファイアランス。躱そうにもアクアカッターの射線に入ってしまうため躱せない。アルムは態と時間差でアクアカッターを左右に発射。逃げ場を失くした。

「キシャアア!」

これには流石の悪食も攻撃を喰らわざるを得なく、横に跳んでアクアカッターを被弾する。しかしダメージは薄い。腕で身体を覆い隠しダメージを最小限に抑えた。そしてそんな時も口から糸を吐く。

「何か狙いがあるはずだ。兎に角次糸を吐いたら迎撃して潰そう。」

意志を口に出しアルムは次の手を打つ。

「サンダー。」

アルムは悪食の腕目掛けてサンダーを放つ。悪食は横に跳んで躱す。そこへ迫る炎槍。数は10数本。跳んで躱すのは不可能。悪食は爪で弾く。が、全て弾くのは不可能。数激見舞う。

「キシャアアアッ!」

怒りの声。悪食はアルムに向けて糸を射出する。「む、火炎弾。」

火炎弾で焼き尽くす。更に迫る糸。これもまた先同様火炎弾で焼き尽くす。そして視界が晴れるとそこには

「っ!」

「キシャッ。」

張り巡らされた糸の上に陣取った悪食が気味の悪い笑みを浮かべていた。

「何だこの形は?」

張り巡らされた糸。よく見ると六芒星が形作られている。

「何だか知らんが殺す!仲間の仇だ。アクアカッター。」

飛来する15を超える水刃。これを悪食は爪で弾く。が、やはり全ては弾けない。被弾する。しかし先よりダメージが小さいように見える。

「ん?まあいい。次だ。」

アルムは走り出す。走りながら

「ファイアランス。」

炎槍を10本悪食目掛け射出。今度は悪食これを何もせず真面に喰らう。訝しむアルム。煙が晴れ悪食の姿が露わになると

「なっ!」

ほぼ無傷で何事も無かったかの如く鎮座在す悪食。これにはアルムも目を見張る。

「ははっ、何だこれは。」

乾いた笑いが零れる。これは悪食のもう1つの能力。アビスウェブ。六芒星形の巨大な蜘蛛の巣。この中に居ると少しずつ魔力が弱体化するのだ。だからアルムの攻撃が余り効かなかったのだ。そして更に戦闘は続き

「うがあああっ。」

遂にアルムの首が宙を舞った。

アルムが首を取られた。その瞬間をハガルたちは目撃した。勿論剣人も。

「何だよ、今の。」

「あれが悪食。思った以上に凶悪だな。」

ハガルは冷静に分析する。

「行きましょう、ハガルさん。全員で掛かりましょう。」

リアの具申をハガルはこう言って退けた。

「悪いが却下だ。俺一人でやる。」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ