第三話
第三話 冒険者になろう
剣人はカルディアルに来て一番、魔物の襲撃を受けた。防戦一方になる剣人を冒険者の少女、リアが助けた。剣人の怪我が酷いので彼女の家で治療することになり、剣人はリアの家に行って治療を受けたのだが。家なし文無し仕事無しの剣人を見兼ねたリアの家族のご厚意によってリアの家に住まわせてもらうことになった。
「というのが俺の現状なわけだ。だからまず兎に角仕事が欲しい。」
まあ最大の仕事は既に内定済みだが。
「あの時防御魔術使えてたから冒険者になることも出来ると思うけど、どう。」
「俺魔術使えないし。あれは奇跡だったし。」
「なら私が魔術を使えるように指導するよ。」
「ホントか!俺でも使えるようになるか。」
「勿論、あんなしっかりした障壁張れたんだから、大丈夫。」
リアにお墨付きを貰った。何故か自信が出る。それは彼女が実力者であると剣人が思っているからだ。実際高ランク冒険者だが。
「じゃあ早速レッスンだよ。中庭に来て。」
リアに促され剣人は中庭に出る。
「早速行くよ。但し教えるのは基本だけだからね。魔術は基本の応用だから。というわけでレッスンその1 魔力運用。」
「魔力運用って何?」
「魔力を自在に効率良く運用することだよ。身体能力を上げて戦闘で優位に立ち回ったり、全身に魔力を流して効率良く魔術を撃ったりする技術。これが出来なきゃ始まらない、必須技術なの。」
「どうやるんだ?」
「まず魔力を感じて。」
「ああ、感じてる。」
「その魔力を身体に纏わせるの。最初は一部分でいいよ。いきなり全身に纏わせるのは難しいからね。感覚としては魔力を押し出す感じ。」
「魔力を押し出す。ふんっ。」
剣人は力んだ。すると、
ブワッ!
「おおっ!」
魔力が溢れ出た。
「凄い、凄い。後は徐々に調節するだけ。で、その感覚を覚えるの。」
笑顔で剣人を褒めるリア。その様子からだと剣人は出来る部類らしい。
「うーん、こんなもんか。」
「そうだね、うん。バッチリだね。ケントって意外と天才?」
これも女神のお陰だな。魔術の無い世界から来たんだから、俺に才能があるわけない。素質があると女神は言っていたが。
「魔力運用は緊急の防御手段にもなるからね。戦闘では魔術に使う魔力と防御に残しておく魔力との量の兼ね合いが大切だから、それは追追自分で身につけてね。戦闘スタイルによって人それぞれだから。」
「なるほど。勉強になります。」
「じゃあ、次行くよ。レッスンその2 身体強化魔術。」
「おお、ついに魔術か。でも身体強化なら魔力運用でやったはずだが。」
「身体強化魔術はその名の通り身体能力を強化する魔術。先のとの違いは魔力運用による身体強化は常に魔力が垂れ流しになるけど、身体強化魔術による身体強化は消費する魔力の量がその魔術に必要な魔力分だけっていう点。それでいて強化度は段違い。その代わり制限時間があるけどね。」
「じゃあ、先のは一体。魔力運用による強化より身体強化魔術による強化の方がいいってことだよな。」
「まあそうだね。でも身体強化魔術にだけ頼りすぎるのも良くないね。」
「何でだ。」
時間制限があるといっても魔力の消費が抑えられるのと強化度が段違いなのはもう上位互換と言えなくもないんじゃないか。剣人がそう思っているとリアはこう答えた。
「身体強化魔術ってね、ピンポで強化出来ないの。戦闘ではピンポイントで強化したいことが間々あるの。ピンポイント強化も大事だから覚えておいてね。ま、どっちも出来るようになればいいの。」
「なるほどな。で身体強化魔術はどうやるんだ。」
「そうだね。今回教えるのはボディアップっていう魔術。魔術はイメージの具現。といってもこういう魔術のイメージって難しいんだよね。」
「うーん、ふっ。はっ。はーっ。」
なかなか出来ない。難しい。イメージが湧かない。力んだらなんか出来た魔力運用と違って剣人が行き詰まっているとリアがアドバイスをくれた。
「身体を強化したい状況を思い浮かべてみるとか、どう。」
「強化したい状況?」
「ピンチとか。」
「ピンチ…あっ。」
思い浮かべるは角狼に襲われた時のこと。攻め手がなく一方的に攻撃され、深手を負って窮地に陥ったあの時。死の危機に瀕した状況を思い浮かべると遂に、
「ボディアップ!」
剣人は強く、半ば叫び気味に詠唱?した。そして結果は
「んおっ、この感覚はっ。」
「おっ、出来てる出来てる。」
成功だ。遂に身体強化魔術―ボディアップ―を使えるようになった。
「やった、やったぞ!初めて魔術をちゃんと発動出来たぞ!」
「うんうん。みんなそうやって修得を喜ぶんだよ。最初のうちほどね。」
昔の自分を思い出した様に感慨に耽けるリア。剣人も何度も試し完璧に発動したのを見たところで、ぐー、とお腹が鳴った。
「休憩にしよっか。お茶とお菓子出すね。」
「お菓子か。やっぱそれなりに裕福なのか?」
「冒険者やってると強い魔物倒したり、難事件を解決したりするとでっかい報酬貰えるんだよね。」
「冒険者って意外と高給取りなんだな。」
「命懸けだけどね。」
「でも功績を挙げれば報酬もいいんだろ。死ななきゃ最高の職業だな。」
「その死なないって言うのが一番の難題なんだけどね。冒険者に死は付き物。低ランク魔物相手でも油断したらあの世行きだよ。因みにケントが戦った魔物はフェンウルフって奴。必殺技は角に電気を纏わせて突撃する技。」
「あの時は使わなかったな。」
「使われる前に私が助けたのよ。確かにあの時のケント相手には必要なかっただろうけど。」
「まあ確かに、あの時俺は魔術使えなかったからな。舐められて当然か。」
「むしろ舐められたからこそ助かったんだよ。」
「皮肉だな。」
と、他愛も無い話をしていると
「お待たせ、2人とも。紅茶とマフィンよ。」
リアの母ミレーナさんが紅茶とお菓子を持って来てくれた。お菓子はマフィン。ひとつ食べてみても地球のマフィンと変わらない。あの女神気が利くじゃないか。紅茶もスッキリしてて美味い。和やかな休憩時間も終わりを迎え、魔術のレッスンを再開する。
「いよいよ攻撃魔術を教えるよ。レッスンその3 基本四属性魔術。」
「基本四属性ってあれか。火とか水とか。」
「そう。炎属性、水属性、風属性、土属性、それら4つは纏めて基本四属性って呼ばれてるの。」
「その4つが基本ってことは他にも属性があるんだな。」
「うん。雷属性は修得するのが難しくてね。それが使えるか使えないかで優秀性が決まるの。」
「そうなのか。リアは使えるのか。」
「うん。使えるよ。」
「ってことはリアは優秀なんだな。いい師匠を持ったな、俺は。」
感慨深げにリアを褒める剣人。
「そんなことないよ。ケントの飲み込みが早いだけだよ。」
これにリアは照れ臭そうに返す。
「私はBランク冒険者だけどその中でも中の下ぐらいだよ。だからもっと優秀な人は沢山いるよ。」
「でも教え方上手いじゃん。」
「そうかな?…そうなの?」
「まあ、俺としては分かりやすい。」
「そっか。じゃあ早速行くよ。まずは炎属性初級魔術、ファイアアロー。」
「ファイアアローってことは炎の矢か。」
「そうだね。先のよりイメージしやすいかも。」
「ファイアアロー。」
剣人は炎の矢をイメージする。すると小さくて細いが炎の矢が庭の木の幹を焼き貫いた。
「おっ、できたぞ。」
「上々だね。次行くよ。お次は水属性初級魔術、水弾。水の弾を作って撃ち出すイメージ。」
「水の弾。」
剣人はイメージする。水を固め弾を形作る。そしてそれを撃ち出す。
ポンッ!
「やった、のか?」
「威力はイマイチだけど、まあ。」
「うーん。何か言い訳みたいだが、何となく向いてないかも。」
「人により適性があるからね。」
「適性か。俺の適性は何だ。」
「ギルドで冒険者登録した時に調べられるよ。」
「そうか。多分俺は魔術剣士だな。」
「へえ、何で?」
「俺地球で剣道やってたんだ。」
「剣道?」
「竹刀っていう竹でできた刀を使って打ち合うんだ。」
「魔術剣士か。レアだね。剣を使う冒険者はいっぱいいるけど、それは魔術剣士とは言わないよ。」
「違うのか?」
「魔術剣士は魔術剣っていう特殊な剣を使うの。」
「魔術剣って剣に魔術を食っ付けるんじゃないのか?」
「違うよ。魔術剣っていうのは魔力でできた剣のことだよ。」
何だって。魔力でできた剣だと。剣人はとんでもない思い違いをしていた。剣と魔術を合体させるものだと思っていたが違った。
「でも魔術はイメージなんだろ。だったらそんな身近で具体的な物なら簡単なんじゃないか。」
「ちっちっち。それは素人目だよ。魔力で具体物を具現化する。それがどれだけ難しい事か。」
「確かにレアとか言ってたな。」
「でも、魔力運用の修行次第だから、この先も修練を怠らないように。何かケントなら出来る気がする。」
「そっか。ありがとな。」
リアと居ると不安が失くなる。カルディアルに来て最初の出逢い。それは剣人にとってとてもいいものであった。
この後も剣人は風属性初級魔術、ウィンドカッター、土属性初級魔術、ストーンボールのレッスンを受け、無事修得した。その頃には既に日が沈み、月が顔を出し星が瞬いていた。さあ夕食だ。夕食の席でのこと。
剣人はリアの家に来てからずっと違和感があった。それは家族構成。父親が居ないのだ。仕事に出ているのかと思っていたが、夕食の時間になってもまだ帰って来ない。気になったので訊いてみた。
「なあ、リア。」
「何?」
「お父さんは何時帰って来るんだ?」
少しの逡巡の後
「今の私にお父さんは居ないよ。」
そう答えた。
「そう、なんだ。」
これは訊いてはいけないやつだ。病気か事故で亡くなったんだろう。典型的な例だ。そう思った剣人だったが次の瞬間、剣人の予想を軽く裏切る回答がリアの母ミレーナからされる。
「私たちは夫に捨てられました。」
「何だって。」
捨てられた?離婚か。そう思ったが真相はもっと酷いものであった。
「私たちは元は貴族階級でした。」
なるほど、道理で立派な綺麗な家に住んでいるわけだ。
「私は平民でしたが元夫、ダレスに見初められ生涯を共にすることになりました。」
「旦那から惚れておいて何でその旦那の方から見限るんだ?」
半ば憤慨気味に問う。するとリアが言った。
「私の所為なの。」
「何でだ?」
「私が冒険者になりたいって言ったから。」
「お父さんは冒険者は嫌いなのか?」
「はしたないって。」
貴族の体裁ってか。なかなかどうして度し難い。貴族は好きになれないな。
「貴族の令嬢が冒険者になるなんて有り得ない。それが貴族階級の常識。それでも私はリアの夢を応援したかった。だからリアが冒険者になると言ったことに賛成しました。」
「そしたら旦那が怒って離婚。全くなんて奴だ。」
「私たちの境遇に共感して頂けるのはありがたい事ですが、あまりダリスを悪く言わないで下さい。貴族階級ではカーストを何より一番に気にします。子供が冒険者などという危険で野蛮な職に就いたとなれば家の評判がガタ落ちしてしまいます。だから仕方ないとも言えなくもないのです。」
何とも可哀想な話だ。リアも目を伏せがちになっている。貴族階級の闇を垣間見た剣人であった。
翌日。剣人はリアのレッスンを修了したため、遂に冒険者登録すべく冒険者ギルドにリアと2人で向かった。ギルドに入ると様々な冒険者たちが居た。剣を持つ者、槍を持つ者、弓を持つ者、見たところ何も得物を持たない者、等等。実に十人十色。この中に魔術剣士は居るかな。そう思っていると
「ケントこっち。受付で登録するよ。」
リアが俺を案内する。すると何故だかギルド内の冒険者たちが皆、俺に視線を集中させる。視線の感じは様々。驚いたような視線を送る者、俺を見定めるような視線の者、何故か嫉妬の視線を寄越す者。これもまた十人十色。みんな違ってみんな良い。なんて思える物じゃない。
「なあ、リア。何か皆の視線が痛いんだが。」
「気にしない気にしない。まずは登録。」
「いや気になるぞ普通に。」
リアは慣れっ子なのかな。てかギルド内ってどこもこうなのか。そう思いながらも受付に着く。
「いらっしゃいませ。見ない顔ですね。新規登録ですか。」
受付の女性が声を掛ける。
「はい。冒険者登録をしに来ました。」
「分かりました。ではテストをします。」
「は、テスト?」
「はい。冒険者登録出来るかどうか、それを確かめる簡単な検査です。」
冒険者になれるかどうか。条件があるだと。聞いてないぞ。一気に不安になる剣人。リアに視線で問う。すると
「大丈夫。余裕でクリア出来るよ。」
リアが大丈夫と言ってくれた。ならきっと問題ないだろう。すると一度奥に引っ込んだ受付の女性が幾つか機械を持って戻って来た。
「お待たせしました。ではまず魔力値測定をします。これに手を乗せて下さい。」
剣人はその機械に右手を乗せる。すぐに結果が出た。結果は
「18万か。リア、これってどうなんだ。」
そう剣人がリアに訊いた瞬間、ギルド内が騒然とした。