第二話
第二話 異世界―カルディアル―とギルファンゼールス帝国
気がつくと剣人は人気のない砂利道の上に倒れていた。大型トラック2台がすれ違える広さの砂利道。南方には塔が見える。街だ。剣人はその街に向かって歩き出す。道が舗装されていない当たり地球との文明差を感じる。剣人が思索に耽っていると
ガサガサッ。
「何だ?」
「グルァァァ!」
「おわああっ。」
道の右側の森から頭に角がひとつある青い狼が剣人目掛けて牙を剥き襲い掛かる。
「ぐあああっ」
咄嗟の出来事だったため角狼の攻撃を避けきれず右太腿を抉られる。肉が裂け血が流れ出る。傷が浅いのが僥倖だ。剣人は体勢を立て直し角狼に向き直る。そして思う。速い、と。地球の狼とはスピードが段違いだ。
「まさか魔物?」
「グルァァァ!」
「おっと。」
角狼の飛び掛かりを右に跳んで今度は躱す。
「まずいな。攻撃手段がない。」
カルディアルに転移する時荷物は転移出来なかったのだ。
「魔術はまだ使えねーし。やばいな。詰んだか。」
傷口からは絶賛流血中。満足に走れない。
「くそ、使えない転移だ。」
最早悪態をつくのがやっとな状態。しかし角狼の攻撃が緩むことは無く。
「ぐっ、ああっ。」
今度は左腕を抉られる。鋭い爪撃だったため今度のは深い。血が溢れ出る。意識が遠のく。留めと言わんばかりに猛烈な突進を仕掛けてくる角狼。
「俺死ぬのかよ。世界を救えと言われて異世界に来て、早々に魔物に食われて死ぬのかよ。くそおおおっ!」
角狼が剣人に迫る。そして角狼の角が剣人の胸を貫く。はずだった。人間一人貫通するには十分な突進。だが角狼の角は剣人を護るように剣人の前方に展開された堅固な壁に止められていた。その壁の正体は魔術障壁。魔力を集中させて壁を作る、防御魔術。これを剣人は無意識のうちにやってのけたのだ。生存本能の為せる業といったところか。剣人は角狼の突進を防いでみせたのだ。
「っ、はあ。これ俺がやったのか?」
信じられないとばかりに目を見張る剣人。だがそれは一度きりの防御に過ぎず。
「グルァァァ!」
尚も角狼は突進する。これを受けて剣人は
「よし、もう一度だ。」
もう一度先のバリアを張るべく力を入れるが…
「あれ?出来ないぞ。」
何も起こらない。いざ自力でとなると上手く出来ない。角狼が目前まで迫り
「うわあああっ。」
今度こそ死ぬ。そう思った直後、
「ファイアアロー」
と、女性の声がし、炎の矢が角狼の頭に刺さり、角狼は断末魔の叫びも無く絶命した。
「なっ!」
剣人は驚愕し唖然とする。角狼を仕留めた技は魔術だろう。そしてその魔術の使い手が剣人の前に姿を現した。少女だ。風体から見るに剣人と同い年ぐらいだろう。茶髪のショートヘアに碧の瞳。身長は160センチくらい。焦げ茶のローブに黒のショートパンツといった格好だ。
「大丈夫?」
「ああ、はい。助かりました。ありがとうございました。」
「お礼はいいよ。魔物に襲われて死にそうになっている人を助けるのは冒険者として当然だからね。」
彼女はそう言ってにっこりと笑う。可愛い冒険者も居たものだ。そんなことを思っていると
「早く手当をしないと。」
そう言って彼女は剣人の傷口に手を当て
「ヒール」
と、詠唱すると、みるみるうちに右太腿の傷が治っていく。
「おお!」
剣人は感嘆した。こんな便利な術まであるのか、と剣人は魔術の凄さを実感した。
「腕の傷が酷い。ごめんなさい、私の治癒魔術じゃ治せないの。」
彼女は申し訳なさそうに苦しげに告げる。
「でも止血はしたから大丈夫。」
「そうか。ありがとうな。お陰で大分楽になった。」
「私の家に来て。怪我を治せる薬があるから。」
そう言って彼女は手を差し伸べる。これを剣人は彼女の手を取り応える。
「ああ、頼む。」
「じゃあ、行こっか。私はリア。貴方は?」
「俺は剣人。」
こうして剣人はリアと一緒に街へ向かうことになった。
砂利道を数分歩いて街の検問所に着いたリアと剣人。リアが身分証を見せ通行許可を貰い剣人の番になった。ここに来てまたも剣人はピンチに陥る。自分の身分を証明する物がないのだ。
「早く見せろ。」
そんな事言われても無いものは無いのだ。剣人が困窮したその時
「あの、彼身分証を失くしてしまったんです。」
リアが救いの手を伸べた。
「なら貴様は代わりにこいつの身分を証明できるのか。」
「はい、彼は私の相方です。」
「名前は?」
「ケントです。」
「ランクは?」
「Bランクです。」
「なら仕方ない。通行を許可する。」
「ありがとうございます。」
剣人は礼を言って検問所を無事通過した。
「危なかった。」
「ねえ、ケント。何でケントは身分証を持ってないの?」
まずい。何と答えたらいいものか。
「失くしたんだ。」
そう答えた。
「見たこと無い服着てるし… それにあの魔術障壁。もしかしてケント異世界人?」
この女鋭いぞ。剣人は驚愕した。もうバレた?まあ、いつまでも隠し通せるわけがないが、流石に早い。これが冒険者の洞察力といったところか。剣人はリアの洞察力に感心しつつも観念して
「ああ、そうだ。俺は地球ってどこから来た神崎剣人だ。だがよく分かったな。」
「偶に居るんだ、異世界から来る人。こっちから目的を持って召喚されるケース、事故で召喚されるケース、使命があって神様から召喚されるケース。原因はこの3つ。最後のは伝説でしか聞いたことないけど。」
まさかその3つ目とは言えないな。伝説だぞ、伝説。流石に自分で言うのは恥ずかしい。
「多分その事故だ。」
「そっか。そんな感じだね。でもびっくりだよ。ケントが異世界人だったなんて。」
「俺分からないことだらけなんだ。」
「分かった。私がこの世界のこと教えてあげる。」
「ホントか!ありがとう。」
「任せて。」
えっへんと胸を張るリア。そうして剣人とリアは街へ入るのだった。
街に入った剣人とリア。剣人は街並みに息を飲んだ。そこは中世ヨーロッパの様で活気に満ちている。都会だ。
「ここはギルファンゼールス帝国の大都市ルモワールよ。帝都ウェネーシアに次ぐ大きさよ。名物はルモワール牛。ブランド肉よ。」
「へえ、牛肉か。食べ物は地球とさして変わらないか。」
剣人は安堵する。地球に居た頃でも外国の食べ物が合わないなんて事はざらにあった。それが異世界ともなれば尚更。カルディアルの人達の食文化が地球と乖離してないのは僥倖だ。
「街巡りはまた後で。まずは腕の手当だよ。私の家はこっち。付いて来て。」
彼女は家まで案内する。路地を抜け通りを歩くこと数分。
「着いた。ここが私の家。入って。」
煉瓦造りの水色を基調とした家。庭もよく手入れされていて綺麗だ。
「ただいま。お客さん連れてきた。でも怪我してるから先に手当するね。さ、上がって。」
「お邪魔します。」
「あらあら大変。」
すると奥から1人の女性がやって来る。リアのお母さんだろう。茶髪で碧眼だ。こちらもまた美しい。
「初めまして。剣人と言います。」
「初めまして。リアの母のミレーナです。早く上がって、薬を飲ませてあげるわ。」
「お世話になります。」
リアの家に上がり薬を飲んだ。すると間もなく怪我が治っていく。
「凄い!」
「家の秘伝の薬よ。」
「そんな薬をくれるなんて。何とお礼をしたら。」
「だからお礼はいいって言ったでしょ。当たり前のことをしただけなんだから。」
「でも。」
「それにケントは異世界人だから生活基盤が無いでしょ。」
「ああ、問題はそこなんだ。一文無しだから早速就職しないと。」
「そこで私から提案。私の家に住まない?」
「いやいや何もそこまでしてくれなくても。」
そう言いつつも剣人は考える。これはチャンスだ。家をゲット出来る。その間に仕事を探す。完璧なプランだ。
「ホントにいいのか。」
恐縮も捨て去り食い付いた。
「お母さんも許してくれたし。」
「家がない人を何もせず追い出すのはよくありませんし。」
ミレーナさんもそう言った。
「この御恩は一生忘れません。仕事に就いてお金を得たら出ていきますので。」
こうして剣人はカルディアルで家を得たのであった。