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救世の剣が舞い降りる  作者: μ's
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第十四話

第十四話 霊剣の声

カブリ男爵家の粛正によって、オセイ・ルモワール・カブリ男爵とその息子のリオット・ルモワール・カブリが死んだ。これによってカブリ領を統治する者が居なくなった。そこでルモワールの唯一の伯爵アスキン・ルモワール・マーシャンの治める所となった。マーシャン伯爵領はリアの家やルモワール冒険者ギルドのある領地だ。これにカブリ領が加わり、マーシャン伯爵領はルモワール一大きい領地となったのだった。

「ふっ、はっ、はあっ!」

「甘いよ。水弾。」

「ファイアランス。」

リアの水弾と剣人のファイアランスが激突。辺りを白い煙が覆い尽くす。

「おわっ!」

「そこまでです。」

リアが白煙に紛れて放った水蛇が剣人に絡み付いた。そこで現在リアの家の執事をしているビルスが模擬戦を止めた。

「あー。負けた。」

剣人が苦々しく零す。

「狙いがちょっと甘いかな。読まれちゃうよ。」

「はあー。俺早く魔術剣士になりたいんだけど。」

「そんな早くなれる訳ないでしょ。魔術剣士に憧れて魔術剣士を目指している人はいっぱい居るけど、世界にたった5人しか居ないんだよ。どれだけ狭い門か、分かるでしょ?」

「うう、それを言われると。」

反論出来ない。魔術剣士とはそもそも、なろうと思えば誰でもなれるものではない。どれだけ剣術を極めた者でも到達出来るとは限らない。魔術剣士に到達するカギは想いの力なのだ。有り体に言えば何処までも貪欲で傲慢な、最高のエゴイズム。自分さえ強くなれればそれでいい。その力を獲得出来るなら、友達だろうが、家族だろうが、全てを捨ててでも欲しい。まあ、これは極端な話だが、そういう気持ちが必要なのだ。今の剣人にはまだそんな気持ちは芽生えていない。これでは到底無理だ。そんなことも露知らず、剣人は今日も早朝特訓に精を出すのであった。

午後。昼食を済ませた剣人とリアは冒険者ギルドにあった依頼を受け、件の場所に向かっていた。

その場所とはトートル山。麓に魔物の群れが押し寄せて来たらしい。それを駆逐して欲しいとの依頼。数は150。長期戦になるであろうことが窺える。

「まさかトートル山に依頼で行くことになるとはな。」

「ホント。最近ここばっか来てるもんね。」

「さっさと片付けて帰ろう。」

「そんな早く終わらないよ。」

「終わらせるんだよ。」

「どうやって?」

「俺の火炎旋風で。」

「調子に乗らないの。剣人の悪い癖だよ。」

「分かってるよ。でもあの技なら一度に沢山狩れるかもしれないだろ。」

「そうね。でもあれから出せてないじゃん。」

剣人は昨日カブリ男爵邸で新たな魔術を編み出し、リオットを倒した。しかしあの魔術は早朝特訓で発動することが出来なかった。剣人は昨夜以来あの魔術を使えていないのだ。

「まあ何とかなるだろ。俺ピンチに強いみたいだからな。」

「はいはい。もう着いたよ。」

仲良く他愛も無い会話に花を咲かせながら、剣人とリアはトートル山に到着した。ここの麓に魔物の大群が居るらしいが。

「随分静かね。」

静寂を訝しむリア。

「入ってみよう。」

剣人は早速足を踏み入れる。トートル山の麓は青々と木々が生い茂っていて薄暗い。魔物が居そうと言えば居そうだが。

「居ないな。気配が無い。」

「そうね。依頼内容は山麓付近の魔物の群れの駆逐。間違ってるってことは無いと思うけど。」

トートル山の麓に来たが、魔物が全然居ない。不思議に思いつつ、剣人は先へ進むことにした。

「結構歩いたけど、もう中腹よ。」

「あの依頼嘘だったんじゃないだろうな。」

剣人とリアは歩いた。警戒しながら只ひたすらに歩いた。そして思えばもう中腹に差し掛かっている。おかしい。ここまで魔物が殆ど居なかった。

居たには居たが、精々10体程度。明らかに少ない。

「もうすぐアジトのある所だぜ。一旦戻るか?」

剣人がそんな事を提案した時

「待って。居るわ。魔物の群れが上から来る。」

「何っ!ホントだ。」

リアが逸早く察知し、後れて剣人も察知した。魔力を練り、エンカウントに備える2人。互いに目配せをして

「「ファイアランス。」」

同時にファイアランスを十数発射した。20本以上のファイアランスが迫り来る魔物の群れの中に落ちた。

「グアアオォォッ!」

高熱の槍の集中砲火に悲鳴を上げる魔物たち。そこへ

「サンダー。」

剣人のサンダーが炸裂。逃げ惑う魔物たちに追撃の雷撃が容赦無く落とされる。

「タイダルストーム。」

リアの駄目押しの激流の竜巻が留めを刺した。これで魔物の大群の3分の1が死滅した。

「小型の魔物はこういう攻撃で殲滅出来るからいいよな。」

「楽よね。次はそうは行かないみたい。」

「オーク、オーガだな。」

大型の魔物、オークやオーガはちょっと強敵だ。

オークが30体。オーガが20体。そして

「何だ、あの見たことない熊みたいなのは?」

剣人が指差した魔物を見てリアは言葉を失った。

「リア?」

「嘘でしょ。何でタイタンベアが?」

「タイタンベアって何だよ?」

「あれは討伐ランクAの魔物よ。私たちには荷が重いわ。」

「じゃあ退くか?」

「オーク、オーガは倒したいわね。」

「じゃあまずそっちからだ。」

「そうね。水蛇。」

迫り来るオークたちに水蛇が纏わり付く。

「サンダー。」

サンダーが直撃。オークが3分の1絶命。残りが怒り攻め立てる。が、リアはこれを狙っていた。群れの連携が乱れた。そこへ

「コールドレイン。」

あの時よりも更に増量した氷針がオークたちを一網打尽にする。数体のオーガにも命中。オーガが棍棒を振りかぶり、駆け出した。

「ファイアランス。」

剣人のファイアランスがオーガたちの足を止める。そこへ透かさずリアが氷属性魔術を放つ。

「オゴアアァァッ。」

急激な温度差によるダメージに藻掻き苦しむオーガたち。だが、難を逃れた個体が技後硬直で動けないリアに棍棒を振りかぶる。

「しまった!きゃーっ!」

叩き殺される。そう思い、リアは目を閉じた。が、その瞬間はやって来なかった。

「嘘、何で?」

リアは命が助かった喜びより、命が助かった不思議に目を瞬かせた。あの状況では剣人の援護射撃も、今の剣人の力量では間に合わないはずだった。だが助けてくれたのは他でもない剣人。何故?理由は簡単。プラズマレイを撃ったのだ。雷属性中級魔術、プラズマレイ。超電の雷光線を超速で撃ち出す。

「ケント、プラズマレイ使えたの?」

「ああ、今なんか出来た。」

何となく出来ちゃった。そんな事を宣う剣人にリアは苦笑いを浮べる。

「もう、ケントったら。」

「天才じゃね。」

「自分で言うな。」

そう言いつつも何処かでそれを認めているリア。悔しいから言っただけだ。

「何か最近ケントに助けられてばっかだな、私。」

「ピンチだったら助けるに決まってるだろ。」

さらっと事も無げに言ってのける剣人に、リアは少し頬が赤くなったのを感じて顔を背けた。そんな和やかな時間もすぐに終わり、2人はまた戦いに身を投じた。

「ファイアランス。」

「アクアレイピア。」

炎の槍と水の西洋剣がオーガたちを強襲する。更に残りの小型の魔物を討ち滅ぼし、残すはタイタンベア1体のみとなった。

「リア、あいつどうする?」

「大分魔力使ったし、足りないかも。」

「じゃあ退こう。」

「うん。」

剣人とリアは前方のタイタンベアを警戒しながら撤退を図った。しかし、

ゴゴゴゴゴッ。

「何?」

「地滑りだ。逃げろっ!」

突然の轟音。その正体は地滑り。先の戦闘で随分暴れ回った。それによって山の斜面にも魔術が飛び火したためか、土砂崩れが発生した。これには討伐ランクAのタイタンベアも山の上方に退散した。

「くそっ、リアっ!」

「ケント、早く!」

リアは逸早く難を逃れたが、剣人は少し逃げ遅れた。その刹那の差が致命打となった。全力で走るも雪崩てくる土砂の方がスピードが速く、剣人は逃げ切ることが出来なかった。

「ケントーッ!」

剣人は土石流に呑まれた。

気が付くと剣人は暗い闇の中に居た。何も無い只々暗いだけの場所。

「俺は死んだのか?」

結局この世界でも何も出来ないまま人生を終えた。つくづく恵まれない人生だった。折角女神に救われたというのに、約束を果たせず終い。しかも死因は自分たちが招いた自然災害。なんと言う体たらく。ここはきっと地獄か何かだろう。暗く寂しい暗黒の世界。自分にはぴったりじゃないか。そう思い掛け、剣人の心の中に、唐突に真逆の感情が湧き上がった。こんな事で死ぬ。冗談じゃない。何の為にこの世界に来た?この世界を救う為だろ。平民を道具のように扱い虐げる。そんな帝国を変えるんだろ。みんなの、リアの笑顔を守るんだろ。軈て訪れる災厄からみんなを救うんだろ。なのにこんな所で眠っていていいのか?こんな所で終わっていいのか?否、断じて否だ。こんな所に居るべきじゃない。俺が居るべき場所はカルディアル。ギルファンゼールス帝国。ルモワール。こんな暗闇なんかじゃ無い。俺はまだやれる。生きる。生きるんだ。

そう思った。諦め掛けていた弱い心を生への執念が塗り潰した。その時だった。あの声が聞こえたのは。

「やっと芽生えたか。強い気持ちが。生に対する執念が。」

「その声は!」

「我は魂滅剣サナトゥス。魂魄を滅せし霊剣。」

「霊剣って喋れるのか?」

「霊剣は創造主の魂を宿す剣。故に正確に言えば我は創造主その人だ。」

「…は?マジで?マジで言ってる?」

「貴様無礼な。」

「すみません、でもその、信じられなくて。俺死んだんですよね?」

「いや、死んではいない。生死の境目に居る、と言った所か。」

「そうなのか。良かった。」

「貴様言ったな。生きたいと。世界を救いたいと。」

「ああ、言ったよ。その想いは揺るがない。」

剣人は霊剣の声のする方を真っ直ぐ、決意に満ちた双眸で見据える。

「その瞳や良し。その心意気や良し。」

霊剣の声がそう言った刹那、その剣本体が剣人の前に顕現した。

「おおっ。」

心で、いや、魂で感嘆した。神秘的で荘厳で、神々しくて畏れを覚える。その姿に魂が震えた。確かに魂が滅ぼされそうだ。そんな剣。特別な魔術剣。剣人は霊剣、魂滅剣サナトゥスを手に執った。

「汝我に汝の魂を捧げここに契約せよ。」

魂滅剣サナトゥスが誓文を述べる。これに剣人は

「我汝に我の魂を捧ぐ。以て我に汝の力を与えよ。」

誓文を述べ、霊剣と契約を交わした。直後、剣人の身体に力が漲る。女神に魔力を与えられた時の比では無い。身体の奥底に魔力とは異なる新たな力を感じる。魔力を得た時と違って苦痛は一切無い。そしてそれは身体中を巡り、更に魂にまで力を巡らす。軈て漲る力は終息した。

「何か新しく生まれ変わった気分だな。やっぱ俺死んでたんじゃないの?ま、それは今となっては過去の事。関係ねー。はあっ!」

裂帛の気合いで土砂を吹き飛ばした剣人。彼は遂に魔術剣士に、いや、霊剣士になった。今日異世界カルディアルに救世の剣が舞い降りた。





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