表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救世の剣が舞い降りる  作者: μ's
11/59

第十話

第十話 ミレーナの仇

剣人は日が昇ると共に目を覚まし、中庭に出て日課の早朝修練を始める。魔力運用は完璧に熟せるようになったので、多様な魔術を身に付ける練習をしている。剣人の適性属性は炎属性、土属性、雷属性の3つだ。厳密に言えば不明という謎の適性属性も出たので全部で4つだ。ちなみに今日練習している魔術は炎属性上級魔術、フレアゲイザーだ。指定した座標位置から間欠泉の様に火柱を上げる魔術。座標指定魔術は難易度が高い。その代わり威力は抜群だ。上級魔術は幾つかあるがどれも魔力を食う。しかし剣人にはそんな事は余り関係無く、上級魔術を何連発と出来る。それも魔力値18万の恩恵だ。異常とも言えるほどの大量の魔力値のお陰で魔力枯渇とは無縁の存在。それを羨む者は数知れず。まさか自分が冒険者たちの羨望の的だとは露ほども知らない剣人なのだった。

「よし、いいぞ。後もう少しで完璧だな。」

剣人が練習の成果を噛み締めていると、リアが起きて来て

「おはよ、ケント。」

「ああ、おはよう。」

「朝食作るね。」

「朝ぐらい俺がやろうか。」

「出来るの。」

「気の利いた物は作れないけどな。」

「ありがとう。」

剣人はキッチンへと向かう。母が風邪で寝込んでいた時に自分で朝食を作ったことがあった。だから偶にはこうして自分で作ろうと、この家に来てからずっと思っていた事だ。

「お待たせ。出来たよ。」

「美味しそう。」

メニューはバタートースト、サラダ、目玉焼き、コーンスープ。ベタなやつだ。

「うん、美味しいよ。」

「ホントか、良かった。」

不味いと言われたらどうしようと思っていた。だからリアが美味しいと言ってくれて安堵した。朝食を食べ終え、2人は今日もギルドへ向かう。仲良く手を繋いで。

「どうした。今日は集まる日じゃ無いだろ。」

「あんたに伝える事があってな。」

ここは旭日興国団のアジト。そのまた奥。リーダーのクリストフは今朝ここに帰って来た。実はここはクリストフの家でもある。集会は木曜日。普通今日は誰もここには居ないはずだ。しかし今日はガドロが居た。伝える事とは何だ。クリストフは先を促す。

「新入りが2人来てな。と言うよりかはハガルに頼まれ俺が連れて来たんだがな。」

「そうか。それだけか。」

「1人は女でハガルの弟子。リアと言う。ランクはB。そしてもう1人の方は男でランクはD。」

「Dランクか。大丈夫なのか。」

「ランクだけで見るなら確かに頼り無い。だが俺たちは見抜いた。男、ケントには特殊な力があると。」

「ほう、それは一体どんな力だ。」

「まだ眠っていて分からん。分からんがきっと凄い力に違い無い。俺はそう確信している。旭日興国団の力になるはずだ。」

「それは興味深いな。木曜が楽しみだ。」

クリストフは口の端を吊り上げ、愉快気に酒を呷るのだった。

剣人とリアがギルドに入ると中は騒然としていた。何かあったのだろうか。疑問に思い剣人は手近な冒険者に尋ねようとして

「あの、やけに騒がしいですが、何があったんですか。」

「ああ、実はっておっ、おいあんたケントだな。リアちゃんも居るじゃねえか。」

剣人と分かりリアの姿を認めるとその冒険者は丁度いい、と言い2人を受付に連れて行く。

「あの、本当に何があったんですか。」

「そうです。いきなり受付に連れて行かれても。」

「俺たちが本人にでも勝手に話すことは出来ないんだよ。」

勝手に話せない内容とは一体何なのか。しかも今リアの顔を見て本人と言った。リアの事で何か問題が起こったのか。剣人とリアは冒険者に連れられ受付までやって来た。

「リアさん連れて来ました。」

「あの、私に何か。」

「それがですねリアさん。大変なんです。貴女に殺害予告が届いています。」

「えっ、それはどういう事ですか。一体誰から。」

「分かりません。黒のフードを目深に被った男がただこの紙をここへ置いて去って行きました。」

「追わなかったんですか。」

リアが尋ねる。これに受付嬢は出来なかったと答えた。

「出来なかったとは?」

「私も直ぐに後を追ったのですが、男の姿が闇の中に消えていったんです。」

「闇の中に消える。闇属性魔術かもしれないね。」

「そんな魔術があるのか。」

「闇属性魔術は使い手が最も少ない魔術。修得難易度も高い。だからその男は中々の手練ね。」

「兎に角まずはその殺人予告だ。詳しくは何て書いてあるんですか。」

剣人が詳細を訊くと受付嬢は予告紙を見せた。内容はこうだ。

リア、お前を殺す。来週の今日お前の家を訪れる。殺されたくなければお前の元父親であるダリス・ウェネーシア・ファーブルの所有するアーティファクトを俺に渡せ。出来なかったら殺す。

「なあ、リア。」

「何。」

「アーティファクトって何だ?」

殺害予告の内容にあったアーティファクトの単語について気になった剣人はリアに訊いた。

「古代魔術の魔道具のこと。古代魔術は今では失われた魔術で魔法とも呼ばれてるの。」

古代魔術に魔法。またまた新たな単語が出て来た。

「魔法って魔術とは違うんだよな。」

「うん。魔法もとい古代魔術は魔術である事に違いは無い。でも威力は桁違い。戦略級魔術に迫ろうかと言った具合に。」

「まじか、とんでもないな。」

「それに古代魔術には時空属性っていう属性があったの。時空属性魔術には時空干渉系魔術と因果干渉系魔術に大別されていたの。時空干渉系には異世界転移の魔術とかがあって、因果干渉系にはよく分からないけど、絶対勝つとかいう反則級の魔術もあったとか。だから魔法って呼ばれてるのよ。でも今はもう存在しない。」

「へえ、凄すぎんだろ古代人。でもその力で出来た魔道具、アーティファクトが今でもあるんだろ。」

「うん。全部で7つのアーティファクトが現存してるみたい。まさかうちにあるなんてびっくりだよ。まあ、もう疾っくに縁は切れてるけどね。」

「全部で7つあるのか。その内の1つを持ってるなんてリアのお父さんは凄いんだな。」

感心する剣人。だがリアは

「でも私知らなかったし。教えてくれても良かったのにな。勝手に持ち出したりしないし。」

リスが餌を口の中いっぱいに含んだように頬を膨らませて剥れる。その剥れっ面が可愛いな。剣人はついそう思ってしまった。そんなほっこりムードに水を差す声がした。

「それでリアさん、どうされますか?」

思案気にリアの顔色を窺う受付嬢。ギルド内に居る冒険者たちもリアを見ている。

「リア。」

「うん。私父の所に行きます。」

「そうですか。大丈夫ですか。確か離婚なされたと。」

「大丈夫です。父は私に手紙を送ってくれていました。私は今でも気に掛けてくれてはいると思います。だから大丈夫です。」

「そっか。じゃあ行こう。お父さんの所へ。」

「うん。久し振りに話とかしたいし。兎に角心配は要りません。」

そして剣人とリアはギルドを出た。食堂で早い昼食を食べ、出立の準備を整えた。父親の屋敷は帝都ウェネーシアにある。ここルモワールから帝都まで馬車で3時間ほど掛かる。馬車に乗るため馬車やに行くとそこに黒のフードを目深に被った男が剣人たちを待ち伏せているかの様に佇んでいた。

「黒のフードの男。まさか。」

「うん。多分彼だね。強いよ。」

2人に怖気が走る。その男は2人を見てにやりと笑い

「受け取れ。」

リアに紙を差し出した。

「貴方ですね。私に殺害予告を送り付けたのは。」

「そうだ。取り敢えず受け取れ。」

男は紙をリアに叩き付け去っていった。リアは紙を開き内容を検める。果たしてそこに書かれていたのは

お前の母親を殺した奴はダリス・ウェネーシア・ファーブルだ。

という衝撃的なものだった。

「これって。」

「嘘。嘘よ。嘘に決まってる、絶対。」

これを読んだリアが取り乱す。

「落ち着け、リア。何かの間違いだ。罠だ、きっと。」

剣人の言葉に落ち着きを取り戻すリア。

「取り敢えず帝都に行こう。お父さんの所に行って事の真偽を確かめよう。」

「そうだね、ごめん。会って確かめれば良いもんね。」

気丈に微笑んでリアは馬車を借りた。剣人とリアは馬車に乗り帝都ウェネーシアに向かう。道中、馬車屋で男がリアに突き付けてきた紙に書かれた文言が2人の脳内を支配していた。

帝都ウェネーシア。ファーブル邸。

「居るか、ビルス。」

「ここに御座います。して御用件は。」

「リアという娘を覚えているか。」

「はい。離縁なされた奥様に付いて行かれた。」

「近いうちに会うやもしれん。宴の準備をしておいてくれ。」

「かしこまりました。」

ビルスと呼ばれた執事は恭しく一礼しダリスの執務室を出て行った。

「待っているぞ、リア。お前が必要か否か。それを宴で見定めようではないか。」

ダリス・ウェネーシア・ファーブルの独り言が執務室の中で響いた。


















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ