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救世の剣が舞い降りる  作者: μ's
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第一章 序章

第一章 序章

目覚まし時計が鳴る。うるさい。窓からはカーテン越しに陽光が差し込み、小鳥の囀りが嫌でも朝が来たことを告げる。まだ寝ていたい。アラームを止め、また布団の中に潜る。すると、

「剣人、遅刻するわよ。早く起きなさい。」

母のコールだ。無視したいところだが、遅刻するとあっては仕方ない。起きよう。

そんなどこにでもいる普通の高校一年生神崎剣人は着替えを済ませ、朝食を摂る。

そして支度を終えて、

「行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」

こうして剣人の一日が始まる。

剣人は剣道部に入っている。父親の影響で小さい頃から竹刀を握り、今では全国レベルにまで上達した。名前の漢字も父親が付けた。剣道の才能があって良かった。じゃなきゃ恥ずかしい。名前負けは恥ずかしいのだ。そんなわけで毎日部活に打ち込んでいるため帰宅はちょっと遅くなる。家から高校まで近いのが幸いだ。徒歩10分弱なので疲れていてもいつもは問題なく家に着く。そう、いつもは。

今日も剣人は普段通り帰路に着いていた。そこの角を右に曲がれば5軒目が俺の家だ。剣人は角を右に曲がった。が、そこは生まれてこの方初めて見る光景だった。

「おいおい何の冗談だこれ。道間違えたってレベルじゃねーぞ。俺夢見てんのか?」

剣人は驚き訝しむ。そりゃそうだ。何せいつもはそこは剣人の生家のある住宅街だ。だが今日は?今剣人が立つそこは何と世界遺産もかくやというほどの古く寂れた、それでいてどこか厳かな、人智を超えた力を感じる祭壇へと続く道だ。剣人は大した動揺もなく冷静に道を引き返す。しかしいつまで戻れどあの角は一向に訪れない。剣人は走る。走る。走る。走る。だがやはり元の場所に至ることはない。

「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

剣人は発狂した。泣いて喚いて絶望した。

「っざけんな!俺が何したってんだ。誰だよ俺をはめたやつはよォ!」

一頻り叫んで剣人は天を仰いだ。

「俺これからどうなるんだ?死ぬのか?こんなとこで。まさか俺の最期が野垂れ死にとはな。ははっ ははは」

剣人が諦めかけたその時、不意に女声が剣人の耳朶を打った。

「生きることを諦めてはいけませんよ、神崎剣人様。」

「んあ?誰だ、お前?」

剣人は声の主に誰何する。

「申し訳ございません。今は正体を明かせません。」

声の主は本当に申し訳なさそうに応答する。

「そうか。お前の仕業だなこれは。俺を元の場所に戻せ。」

すると声の主はとんでもないことを言ってのける。

「出来ません!むしろ貴方を帰してはいけません!」

「…は?」

何故か剣人を家に帰してはいけないと言う。しかも強く。

「意味がわからないんだが。」

「そうですね。言っても分からなそうなので実際に視て頂きましょう。」

声の主がそう言うと直後、周囲が白光に包まれ剣人の視界が晴れると眼前に映ったのは剣人が普段通り家に着いた光景。

「何だこれ」

いつものように着替え晩ご飯の食卓に着く剣人。父親も帰宅し家族揃って食卓を囲む。家族団欒和気藹々。そんな微笑ましいいつもの時間が映っている。

「これは?」

剣人が問うと

「未来視です。」

声の主はそう答えた。

「これが本物だとして、何で俺が家に帰るとまずいんだ?」

剣人は更に問う。

「まあ続きをご覧頂ければ…」

妙に歯切れが悪い。更に未来視は続いていき剣人がベッドに入ろうかと言う時事件が起こる。

パーン!キャーっ!パーン!

銃声。両親の寝室から。

「「なっ!」」

現在の剣人と未来視の中の剣人の驚愕が重なる。

「一体何が?母さん、父さん!」

未来視の剣人が寝室を飛び出す。そして次の瞬間剣人は右手に拳銃を持った目出し帽の男(推測)に出会す。

「うわっ」

パーン!…

剣人は、神崎一家は銃殺された。

「何だよこれ。こんなの、こんなの、嘘だ、よな?」

剣人は縋るように声の主に問う。何故か分かってしまうのだ。この未来視が真実だということが。

「真にお気の毒ですが、今ご覧になったものは全て真実。それが未来視です。」

声の主は衝撃的なことを告げる。

「なら尚更俺を家に帰らせろ。そしたらこのことを母さんと父さんに話して警察を呼んで警備に付ける。だから」

「無理です。」

声の主は剣人の主張を遮る。

「確定事項なんです。貴方たち一家の死は。どんなに立ち回っても必ず死ぬんです。」

「そんな… じゃあ俺はここで死ぬんだな。」

「いいえ。貴方は死にません。死なないようにここに引きずり込んだのです。」

「何でまた。」

「貴方にはやって頂きたいことがあります。」

「俺にやって欲しいこと?何だそれは?」

「詳しい話は向こうで。」

そして祭壇が光り輝き

「なるほどな」

そう零して剣人は憑き物が取れたような足取りで祭壇へと向かうのであった。

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