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美少女転校生は宇宙人だそうです

私は人外物が大好きですが、一番好きなのは雪女です。これだけはハッキリと真実を伝えたかった。

 

  美少女転校生、その言葉は実に魅力的だ。恋愛小説の中では屋上に呼び出されて告白される。話の題材としてはよくあるが、実際には起こり得ないシチュエーションだ。


  俺の名前は白野(はくの) (たける)。実に平凡でロマンをひたすらに求める一般的な男子高校生。何か壮大な夢を掲げられたらと思いにふけるが、そんな勇気は微塵もありはしない。


  このまま何事もなく普通に一生を過ごしていくんだろうな。とかなんとか思っていたら、今日この日、壮大なイベントが俺を待ち受けていた。


  現在は屋上、下駄箱に入れてあった手紙の内容を半信半疑ながら信じた結果、俺の目の前には一人の美少女が待ちぼうけている。


  綺麗なオレンジをした艶のある綺麗な髪が夕日に照らされ、美しくも儚げな姿に見とれてしまう。


  「タケル君、私と付き合ってくれないか」


  一陣の風がふわりと彼女のスカートをたなびかせる。さながら恋愛小説のワンシーンにいるかのようだった。


  だがその事実を俺は素直に喜べずにいた。ある思いが俺を躊躇させている。


  告白の返事を言う前に、このほとばしるパトスを全身全霊で彼女に伝えなければならなかった。


  「俺はなあ!! 転校初日に私は宇宙人だとか言う電波女は好きじゃねえんだよ!! 」


  「じ、事実なんだから仕方ないだろう。私のリサーチによれば人間は正直に物事を答えられる個体が好まれるはずなのに」


  「言って良いことと悪いことの区別をつけろよ! 」


  夕日に照らされた二人きりの屋上、そんな魅力的なシチュエーションは跡形もなく消え去った。


  俺は、ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返し息絶え絶えだ。


  「くっ、私のリサーチ不足のようだったな。だが私には最強の殺し文句がある。これならばタケルも私にメロメロになるはずだ」


  自称宇宙人は自信ありげに、まな板のような胸を必死に張っている。どんな言葉をかけられようが、残念ながら俺に対する好感度はマイナス273.15の絶対零度だ。


  何度か咳払いをして、それを告げる。


  「タケル君、君の瞳に恋してる」


  「古いわ! お前のリサーチへなちょこすぎんだろ!! ていうかそれ女性に向けて言うもんだろ!! 」


  自称宇宙人の情報収集力は皆無と言っても過言ではない。


  「なぜ分かってくれないんだ。こんなにも私は君のことが好きだというのに」


  「俺とお前じゃ価値観が違いすぎんだよ。ていうかだいたいなんで俺なんだよ」


  「それはその・・・君のコスモパワーは私と同調できるくらい近い波長だから、一目惚れしちゃったんだ」


  「なんだよそのコスモパワーって! しかも同調とか物騒な言葉使うなよ怖えよ!!」


  普通なら美少女転校生に言い寄られたら手放しで喜ぶべきところだが、なぜだろう全然嬉しくない。


  「むむむ、なら禁じ手を使うほかないか」


  おもむろに近づいてきていた自称宇宙人は、腕に胸を押し付けるようにして抱きついてきた。


  「肉体的接触をするのは私としても気が引けるが、これでタケルの気を引けるのなら本望だ。えーとそうだなこういった場合の言葉はだな・・・・ご主人様、私をめちゃくちゃにして」


  抱きついてくる自称宇宙人を直視してしまう。外面だけは綺麗なため、女子に対して免疫がないため少し顔が熱い。


  が、ムードもなにもない状況で理性が吹き飛ぶ分けてはない。


  「いい加減にしろー!! 」


  「あう!? 」


  俺はなんら迷うことなく自称宇宙人に拳骨を喰らわし、怯んだ隙を見て屋上から走り去った。



 ――――――――――



  「なんなんだよあの自称宇宙人。まあいいさすがに家までは着いてこれないだろう」


  くたくたになりつつも、自宅にたどり着き扉を開く。


  「あ、お兄ちゃん。帰ってきたの」


  玄関で俺を出迎えたのは、目に入れても痛くないほど可愛い妹だった。今日は髪を纏めてポニーテールにしている。


  「ああ、なんとかな」


  予想以上に精神が疲れていたのか、最低限の言葉しか思い浮かばない。


  「大丈夫、お兄ちゃん。なんか凄く元気なさそうだけど」


  「あーいや、大丈夫だ。少し体力を使っただけだし、これくらいでへこたれてないよ」


  妹に余計な心配をかけたくないし、自称宇宙人と出会ったなんて言えるわけでもないしな。


  靴を履き替え、リビングに向かう。リビングに着いたが広い部屋に俺と妹の二人きり。


  俺の両親は二人とも仕事の関係で海外赴任。そのため親からの仕送りを頼りに俺と妹の二人で生活している。


  「たはー」


  ソファーにのしかかるように座ってしまい変な声が出てしまう。あれもこれも全部自称宇宙人のせいだ。


  「お兄ちゃん、今日の料理どうする」


  「それなら昨日買った豆腐と冷凍してある牛肉をメインで・・・・」


  “ピンホーン”


  インターホンが鳴り響く。ブラックキャット運輸経由で母さんからのお土産かな、と考え玄関まで向かうことにした。


  タイミングが悪いな、今から二人で料理を作るとこなのに。俺は考えなしに玄関の扉を開けた。


  「タケル君・・・・」


  目の前には自称宇宙人が堂々と待ち構えていた。


  俺はがちゃりと扉を閉め、鍵をかけた。何事もなく戻ろうとした矢先、運悪く様子を見に来た妹にすべてを目撃されてしまった。


  まずい、まずいぞ。あんな自称宇宙人を名乗る電波女にうちの妹を会わせるわけにはいかない。妹にあんな電波が移ってしまったら、明日から生きていける希望が打ち砕かれてしまう。


  「お兄ちゃん、玄関の扉閉めてもいいの。知り合いみたいだったけど」

 

  「いや、いいんだ。怪しい不審者かもしれないから急いで閉めたんだよ。最近の世の中は物騒だからな、はっはっは」


  ぎこちない笑顔になってしまっているが、妹にばれさえしなければ問題ない。さすがの自称宇宙人でも、不法侵入という大罪は犯そうとはしないだろう。


  「ひどい、私のことなんて遊びだったのね!! 私とあんなことやこんなことまでさせたくせに!!」


  ああもうやだ、この自称宇宙人。変な語録を使って泣き叫びやがって、お願いだから近所迷惑という言葉を知ってくれ。


  「お兄ちゃん・・・・」


  妹からの疑惑を晴らすために、俺は仕方なしに玄関の鍵を開けた。



 ―――――――――


 

  「ありがとうタケル君、ある程度地球の常識を学んでいる以上、不法侵入までは出来ないからね」


  リビングにあるソファーに俺と不本意なことに自称宇宙人が隣り合わせで座っている。妹は状況が呑み込めないのか、ただ俺達を見て呆然としていた。

 

  常識あるんなら玄関前で叫ぶの止めろよ。とか言いたいが無駄だと思うし妹の疑惑を晴らしたらとっとと追い出そう。


  「あの、もしかしてお兄ちゃんの彼女さんですか」


  「彼女、いやそれは少し違うな」


  変なホラを妹に吹き込まれず、内心ホッとした。こんなビジュアル全振りの電波女と付き合ってもあれだしな。


  「婚約者だ。というわけでこの家に住まわせてほしい」


  俺は盛大に吹き出してしまった。妹の様子を見ると複雑そうな表情を浮かべている。


  「おい、嘘吐くのやめろよ。それにお前今日転校してきたばかりだろうが」


  「愛に年日など些細なことではないか。さあ私と輝かしい新婚生活をしよう、タケル」


  「ふざけんな、とっとと帰れ!!この電波女」


  抱きつこうとしてくる自称宇宙人に必死に抵抗していると、妹は素朴な疑問を投げ掛けた。

 

  「そういえば、名前何て言うんですか」


  待ってましたと言わんばかりに、自称宇宙人は目を輝かせた。


  「ふっふっふ、ならば再び自己紹介といこうじゃないか。私の名前はイリア!タケルの婚約者であり、この地球(ほし)を偵察に来たものだ!!」


  小さなテーブルに片足を乗せ、遠い遠い空を見上げ豪語していた。


 

 



ブクマ100以上でモチベーションがハッスルしてなんやかんやで続く。

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