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大先生、雷撃す。   作者: 蓑火子
天文年間(〜1555)
9/505

第8衝 竹迫の鑑連

対 肥後隈本城

「城攻めだ!」


 立野口を抜けて肥後の平野部にでると、鑑連の士気がどんどん高まる。


「いいか、城攻めだぞ!」

「門壊がかったるいですなあ」


 阿蘇家が友好の印につけてくれた甲斐親直の調略でほとんど戦闘らしき衝突も無く進軍していた戸次隊が、最初に乗り越えねばならない相手が定まった。


「竹迫城(現合志市)から我が方の使者が追い出されました。城主合志の殿は、聞けば隈本城を守るため籠城を決め、兵糧や兵を整えているといいます」


 お前の調略はここで終わりか、と一転、あらくれ武者を蔑むような目で見下す鑑連。殿の気遣いもここまでか、とため息をついた備中に、石宗が話しかけてくる。


「森下備中殿。我らはあの城を攻めるのですか」


 ここまで来て何を言っているのか、とちょっと小馬鹿にしたように備中は口を開く。


「まあ、殿があの様子ではそうなるかと、ほら」


「城攻めだ!城攻めだぞ!」


「はあ、なるほど」

「ここまでかなりの強行軍で来ましたから物資の補給と休息を得るためにも、空城が欲しいですねえ、そのためにも城の一つぐらいは攻め落とさねばなりますまい」

「うーむ」


 角隈石宗、城と周囲と空を交互にみやりながら、


「ふんふん結構、ちょっと戸次様の所へ一緒に行きませんか」

「ええ?」


 胡散臭い坊主と一緒にはなるべくいたくない備中。


「一人で行ってくださいよ。私は忙しいんですから」

「またまた、あなたの仕事は右筆業とおもちゃになる事でしょう。ぴったりですよ」


 核心をついてしまった石宗の発言に気を悪くする備中、押し切られると弱いため、仕方なく鑑連の陣屋へ案内をする。


「城攻めだー!城攻めだッ!」


 そう壊人のように繰り返し、杖を振り回す鑑連をみて、森下備中はたじろぐが、石宗は気にせず語りかける。


「殿、この面倒な城は他人に任せて、戸次隊は進軍を続けませんか」


 とたんにギロリと怒りの籠もった眼力に貫かれる石宗と備中。それだけで胃が痛くなる備中だが、石宗は余り気にしていない様子。


「殿。この戦い最大の獲物は、入田殿と共に先代義鑑公殺害に加担した菊池の殿です。この城を攻め落としても誰も褒めてはくれません。余力を持ったまま、先行して隈本城に走り、肥後を取り戻しましょう。敵は隈本にありです」


 鑑連の目が血走ってくる。危機感を覚えた備中が、石宗に反論してみる。


「竹迫城を放置して万が一撤退することがあれば、我々は後背に敵を抱える事になり、分断されてしまいますぞ。危険すぎるのでは」

「それぐらい、佐伯紀伊守がなんとかするでしょう」

「で、ですが、竹迫城での戦いは最初の大規模な戦いになります。それを見て後続の部隊はそこに集結する。するとどうなりますか。この戦いの総司令官は佐伯紀伊守ということになりはしませんか」


「そんなもの、誰にでもくれてやればよろしい。備中殿。大切なことは、誰が功一等を得るか、という事です。それに、この城は力では落ちんでしょう」

「何故」

「何故って……ともかくそう簡単には落ちんはずです……ですよね、殿」


 石宗に見つめられた鑑連は、憤怒の視線を徐々に収めつつも、


「しくじれば、貴様を許さぬ。ワシには失敗は許されんのだ」

「大丈夫。天道を見るより明らかな事です。佐伯隊は堅固で頑固な竹迫城を攻め落とすこと能わず。降伏させるのが関の山。それに対して、殿は肥後の解放者になるのです。悪辣なる反逆者からの解放!素晴らしいではありませんか」

「解放……」

「解放か!」


 うんうん、と頷き返す石宗。それを見る備中の目には、主人が尋常では無いようにも思える。


「解放だ!解放だ!」


 そしてまた、同じ単語を繰り返し発し、指揮杖を振り回し続けるのだ。

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