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大先生、雷撃す。   作者: 蓑火子
永禄年間(〜1570)
83/505

第82衝 訪問の鑑連

 筑前国御笠郡は岩屋城。


 隊を率いて宗像方面から門司へ向かう道すがら、鑑連は筑後を統括している高橋鑑種を訪問する。会談の場には入らないが、二人の会話が聞こえる位置に控える備中。


「良い場所に城を築いたな」

「宝満山城は立派な拠点ですが、山深く、いざ動こうとする時に手間取ります。それに比べると、ここは街道にも近く、山も険しくないのです」

「なるほどな。筑後の具合はいかがかね」

「小康状態ですが、混乱の火種はそこかしこに残っています。これらが暴発しないよう気を配るのは、些かくたびれます」

「誰かに代わらせたければ遠慮なく言ってくれ」

「ハハハ、そうしたいのは山々なれど、私以外には困難でしょう」

「確かにもう幾年も貴公が筑後を抑えている。なかなか大したものだ。その上、筑前、肥前にも目配りせねばならん。誰にでもできるものでないとは、ワシも思う」

「ハハハ、吉岡様に次ぐ地位の御老中衆である戸次様のご苦労ほどではございません」

「おお、ワシの苦労がワカかるのかね」

「無論ですとも」

「そうか、ならいいんだ」

「はい」

「……」

「……」

「秋月勢の様子は?」

「やる気満々ですよ」

「今の当主はまだまだ若造。優秀な貴公ならあれを処分するのは容易だろうか。器量はいかほどかね」

「左様、もし国家大友家の中にあれば、老中の地位は固いですな。それほどの逸材です」

「それが事実なら、貴公には少々荷が重いのでは?」

「私も今や外様です。兄の事件がなければ、私も老中の一員として、戸次様と共に門司を攻めることができたでしょうに」

「クックックッ、運命とはままならないものだ」

「ハハハ、そのようですね」

「しかし貴公に一つ言っておかねばならん。老中の地位は実力だけでは務まらん。賤しい者共を黙らせる権威ある家柄が大切なのだ」

「はい」

「であれば、秋月の小僧には永久に手が届かぬということだ。そこがワシや貴公とは違う」

「はい」

「貴公はどうか。老中として国政を担う名誉ある仕事を引き受けて見たくはないかね。幸い、今は席が一つ空いている」

「ハハハ、そのためまずは働きを見せねばいけません」

「ワシは十分だろうと考えている」

「そうですな。義鎮公の……もとい宗麟様のお許しがあれば」

「まあ、覚えておいてほしい。お許しはなんとでもなるだろう」

「はい」

「ではそろそろ失礼する」

「戸次様、筑後衆をお連れになりますか」

「有難い申し出だが控えておく。今回の主力は豊前方面軍だ。ワシが目立ってしまってはいかんからな」

「ハハハ、戸次様、十分に目立っていますよ」

「クックックッ、やはりそうかね!クックックッ!」

「ええ、ええ!ハハハ、武勲をこの城から見物させて頂きます」

「うむ、貴公も励むようにな」



「備中」

「はっ」

「話は聞いていたな」

「はい」

「高橋とは面識があったか」

「吉岡様の屋敷近くで遠目に拝見したことがある程度で、直接お目にかかったことはありません。立ち姿が麗しい気品溢れる方でした」

「今度会うときはお前も同席しろ」

「はっ?はっ!ははっ」

「誰よりも上手く他国を運営している。名声も高い。ワシの与党にするにはもってこいだ」

「は、はあ……」

「貴様は他家の当主どもに媚を売るのが上手いからな。今日聴いた話を研究して、せいぜい好かれるように振る舞え」

「め、めっそうも……」

「フン、笑えよ備中。そのうち、尊敬する立花様、にお目にかかれるぞ」

「博多の町に入りますか」

「目立つことはせん、と言ったろうが」

「ははっ、失礼いたしました」



 筑前国糟屋郡は立花山城。


「おう立花殿。顔色は相変わらずだがお元気そうだな」

「戸次殿、お久しぶりです」

「博多の衆とは、仲良くやっとるようだね。なんせ相変わらずの、そのど派手ないでたちだからな」

「博多の衆が見立ててくれたものでして。気に入っています」

「ああ、まるで似合っておらんがね。特に表情と合っていない。見立てた者には感性が欠如しているな」

「……」

「そんなことよりも、宗像郡の具合はいかがかね」

「今の所は国家大友に従うようですが、今の大宮司は容易な相手ではありません」

「何を頼りないことを。あれはまだ若造も若造ではないか」

「優れた腹心が付いており、密に連携しているようなのでね。以前、亀山城で我々を釘付けにした時の侍大将ですよ」

「ほう……誓った恭順を破る気配は」

「もちろんありますが、戸次殿が宗像郡を通る、という話が聞こえてきてからは、大人しくしています」

「立花殿、ナメられてはいかん。あっさりと旗色を変えるようでは、信頼できん」

「左様ですな」

「ワシらが門司城を攻撃している間、背後の安全は立花殿にかかっている……大丈夫かね?なんならワシの配下を貸そうか」

「背後の安全は保証いたします」

「例えば、ウチの森下備中などはどうかね」

「は……」

「……」

「……」

「冗談だよ」

「ああ……なるほど」

「エヘン!あー、事前に伝達した件について。宗像郡を通過する時に大宮司に会おうかと思っている件だ。斡旋の程は?」

「一つの条件を出してきました」

「要求は?」

「宗像鎮氏と接触しない確約」

「鎮氏の行方は?」

「大宮司の刺客に狙われているようで、この筑前領内を逃げ回っているようです」

「なぜ立花殿の下に逃げて来ないのだろうか」

「私が大宮司と通じていると思っているのでしょう。だから怖がって来ない」

「……」

「……」

「よしワカった。その要求は飲もう」

「はい」

「ではこれより出発する。先に使者を出しておいてもらいたい」

「はい」

「ご手配、痛み入る」

「滅相も」

「では失礼する」

「はい。勝報をお待ちしております」



「備中」

「はっ」

「話は聞いていたな」

「はい」

「あれをどう思う?」

「はっ。篤実なお方だと……」

「……」

「……」

「今回、ワシもそう思った」

「はい」

「糞真面目で面白みの欠片もないが、あれは信頼できるな。我が与党にしたいものだ」

「さ、左様でございますか」

「悪口が聞こえていないのかな……」

「ご自身に後ろめたい事が無いから、気になさらないのかもしれません」

「それも感じた。馬鹿正直な者は使えるのだ。お前も覚えておくように」

「は、はい」



 筑前国宗像郡は許斐城。


「備中、留守番役は残念だろう」

「そんな事はありませんよ、ここなら宗像勢相手に殺される事はありませんし」

「ははは。ま、今回は大丈夫だ。連中も、我らと安芸勢の戦いの結末を見極める必要があるからな。物資の供出にも応じているし」

「立花様のお話ですと、今の宗像大宮司の腹心はかなりの切れ者だそうです。仮に我らが門司でしくじれば……」

「すぐに暴発するかもな」

「そう言えば、前に安東様仰ってましたね。亀山城の侍大将。件の人物はその人のようですね」

「ああ……我が方に与すれば栄光も思いのままだと思うが、とことん安芸勢へ行ってしまったなあ」

「きっと安芸勢の味方をしても、それは同じなのでしょうね。それに宗像家では重用されているのでしょう」

「そうだな……お、殿が戻ってきたぞ。取り敢えず宗像勢との話はついたのだろうな」

「これで門司城までのこちらの道は安全ですね」

「そういう事だな。備中、各隊へ行動開始の連絡を頼む」

「はい。安東様」



 戸次隊は筑前を無事に通過し、豊前門司城へ進む。昨年の敗北により影響力を喪失したはずの筑前だが、鑑連の進軍行により、体裁だけは大友方へ復帰した。


 この配慮は、門司を攻めるに重要な要素になる、と備中は確信を深めていた。

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