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大先生、雷撃す。   作者: 蓑火子
永禄年間(〜1570)
62/505

第61衝 燕返の鑑連

 行く、と心に決めた備中。南無八幡大菩薩と唱えながら軍影に近づくと、案の定、安芸勢であった。西国と鎮西では方言が違うのである。安芸勢は村を占拠して民を縛り、英気を養っている様子だ。急ぎ門司の陣へ戻りこれを鑑連に報告するや、幹部連はみな備中の連絡将校としての働きを賞賛してくれた。安東、十時、由布、戸次叔父、戸次弟の順に、


「備中よくやった!これで我が方の行動の自由も確保できた」

「そんな場所に敵がいるとすれば、松山城の裏切りは明白でしょう。見えぬはずがないのだから」

「……お前の判断は正しかったな」

「殿、備中の数えた通りの数であれば、別働隊を編成して奇襲をかける事も可能です。勝てます」

「兄上、そのお役目、ぜひこの鑑方にお命じください!」


 照れ照れ頭を下げる備中を内田は一人グッと睨む。さらに毒のない安東が内田へツッコむ。


「おい内田。別働隊指揮に手を挙げないのか?はは、らしくない。その内、備中に功績で抜かれてしまうぞ」


 この一言で陣内は大爆笑に包まれる。悔しげな内田を一人残して、鑑連が話し始める。


「敵を見つけたのは結構な事だが、無事に撃破できるまで、備中を褒めるのはお預けと言った所だな」


 顔にパアッと光が射した内田は激しく同調し、諸将を呆れさせる。


「道案内として備中が同行するのは必須だ……今回は、ワシが別働隊を率いる。この機会に是非一戦し勝利し、士気を上げねばならないからな。この戸次の陣は由布、安東、十時に任せる。叔父上は吉岡へ話を伝えてくだされ。鑑方、内田は直ちに精鋭を五百名抜き出すのだ。夕暮れには出陣し、夜には襲いかかる。発見した以上は迅速に終わらせる!行くぞ!」

「はっ!」


 幹部連がみな士気高い返事を返した事からも、この作戦は上手く行く、と備中は確信を得た。その予測の通り、別働隊を率いて風の如く出陣した戸次分隊五百は、備中案内の下、高蔵山の麓に至り安芸勢を見つけると、これを徹底的に攻撃した。特に愛刀千鳥を手に仁王立ちする鑑連が、


「一兵足りとも逃すな!」

「功績を立てろ!豊前に領地が欲しくはないか!」

「安芸勢に逃げる道は無い!殺してしまえ!」


と立て続けに号令すると、兵士たちの士気もぐんぐん上昇して行く。鑑連の余りの積極性に引きずられまいと戸次弟と内田が


「さ、侍大将は捕らえろ!話を聞き出す!」


と言わなければ本当に皆殺しにしてしまっていたかもしれない。その捕虜曰く、自分たちは蓑島山を抑えた安芸勢の分隊で門司を囲む大友方の退路を塞ぐつもりで展開していた、と吐いた。さらに、豊前松山城の支援があればこそ出来たこと、とも。


「やはり、豊前松山城は裏切っていたか!」

「殿、人質の首、直ちに刎ねましょう」


 そう進言する戸次弟、内田だが、鑑連は、


「備中、そなたはどう思うか」


と質問してくる。門司の戦役が始まって以来、同僚の目には備中の厚遇が目立つようで、二人とも不満を隠して備中を見る。ややたじろいだ備中、鑑連へ向き直り、


「う、裏切っているのかもしれませんが、確証はまだありませんし、とりあえず保留で良いのでは無いでしょうか」

「裏切りを放置するのか」

「それでは示しがつかんぞ」

「た、確かに今は裏切っている可能性もあります。しかし、我らが門司で勝利を収めれば、裏切りの道を棄てて帰ってくる事もあるのではないでしょうか……」


 その自信まではなかったから、戸次弟と内田の迫力に声が消え入りそうになるが、鑑連は、


「ではそうするか。ただし、裏切っていた場合はお前の手で人質の首を刎ねるのだ」


と実に厳しい事を通達してきた。キツイ役目に心臓が止まりそうな備中に対して、戸次弟はプイと別の方向を向き、同僚内田は内田で、へへ……ご苦労さん、とその顔に書いてあり、その境遇を慰めてくれる者はこの場にはいない。文系武士の備中は未だ人を殺めたことは無かったのだ。


 安芸勢・蓑島山分隊を殲滅した鑑連は、予定よりも早く門司の包囲陣へ戻ってきた。そして、吉弘の陣へ向かって行った。

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