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大先生、雷撃す。   作者: 蓑火子
永禄年間(〜1570)
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第40衝 閑却の鑑連

 亀山城を包囲して幾日後、豊前方面から進軍している田北隊から報告が入ると、攻撃側の陣に不穏な空気が漂った。


「老中田北より、蔦ヶ嶽城に敵の姿なく陽動に注意せよ、という知らせだ。どう思うか」


 このような時、自身も老中の主人が質問する相手は、寡黙な実力隊長由布と饒舌な太鼓持ち内田である。


「……田北様のご指摘、特にご注意が必要だと愚考します」

「といって、宗像郡は広く、全ての宗像勢幹部がこの亀山城に集結しているとは考えにくい。さして規模の大きな平城ではありません」

「つ、つまり?」


 不安そうな声で、戸次叔父が内田を問い質す。


「各地に兵を配して、断続的な襲撃を行うつもりではないでしょうか。これは降伏の意思無しですね」

「秋月家の末路が教訓になっていないようだな」


 と、隊長十時も同調する。不信気に戸次弟が言う。


「僅か十四の小僧に、こんな判断が可能だろうか。良い参謀が付いているのではないか」


 そこに立花殿入営する。相変わらず派手な装いとは対照的に覇気のない様子の武将だが、戸次家幹部連はみな片膝ついて迎える。一人座ったままの鑑連、笑顔を作り、両者は挨拶を交わす。


「立花殿。よく来られた」

「戸次殿」


 呼びかけは殿と殿、か。備中の目線からは、鑑連は反りの合わなさそうなこの人物と同格である事も、不愉快な様子であった。だが、鑑連自らが呼んだのだ。田北隊からの情報を伝え、その解釈を訊ねる主人鑑連。なにせ宗像勢は同じ筑前衆。傾聴する価値はあるはずだ。それによると、


「この西郷の地は宗像への入口。これより先は身を隠す山地も多く、一見して敵を発見し難い土地です。周囲には山が並び、下手に深入りすれば思わぬ攻撃があるかもしれませんな」


 主人鑑連、そんな事知っているわい、というの表情に。あ、これはまずいかも、と不安になる森下備中。鑑連の不機嫌は、しっかり立花殿にも伝わったようで、やや焦って、有用な言葉を探している様子の立花殿。どうやらさほど人は悪くないようだ、と感じる備中。


「宗像勢はその宗旨から海上での活動に長けています。それがここ、亀山城で籠城戦を企んでいる。これは不自然です。氏貞はこの城はもちろん、この先の地にもいないのではないでしょうか」


 この大胆な解釈に驚く戸次家幹部連。


「宗像領東の要衝には兵がいない、ということだ。ならば、この地に分散して籠城しているのではないのか」

「どの山城に潜んでいるかワカらないどころではないと」

「そう、彼らには海もある」


 ふんと鼻を鳴らす鑑連。


「ならば、一つ一つ潰していけば良いのだ。海はそれからだ」

「ははっ」


 士気を維持する家臣達に、頼もしいものを感じている様子である主人鑑連だが、その炎の心に霜を降らせる発言が。


「時間がかかりますな。この西郷のみならず、宗像郡全てが灰になるやも……」


 この発言の主は無論、鑑連を理解していない立花殿のものだ。言葉で注意する鑑連。


「だとしても、それは国家大友に謀反した宗像氏貞の罪。致し方あるまい」


 だが立花殿は、鑑連を嗜めにかかる。


「宗像大宮司家は、筑前の民に尊崇されています。先の大宮司殿も、周防で大内殿を守り戦い抜いた末に斃れており名望高い。やり過ぎると、後の始末が面倒かもしれません」


 鑑連も負けてはいない。畏まり、


「あー、存じておるように義鎮公はこの度、将軍家、そう将軍家よりこの筑前の守護に補任された。つまり我らは守護の軍なのだ。下の者はその権威に従わねばならない。それが困難というのであれば、討伐されても文句は言えないはずでござる」


 守護の軍、という言葉を前面に出した主人鑑連を前に、立花殿はそれ以上反論を控えた。が、陰気な顔がさらに翳を深めたように備中には見えた。この理論で言えば、立花殿も筑前守護の代理人である主人鑑連に従う義務があるが、


「あんな言い方をしてもいいのだろうか。守護になったと言え、つい先ごろの話である事だし」


 備中は懸念を胸に留めて周囲を見渡すと、どうやら不安な顔の幹部達。みな同館の様子。が、誰が恐るべし鑑連に反論できるだろうか。立花殿の不安はしっかりと感染したようだった。



 こうして亀山城攻めは続行される。同時に近隣の村落焼き討ちも敢行され、亀山の陣に食料が運び込まれていく。この光景を前に、備中は不安な表情をしていたのだろうか。隊長安東が声をかけてきた。


「備中どうした。心配事か」

「はっ。氏貞殿が早く見つかれば、我らの危険も去る、と思っておりましたが、どうも容易ではない様子で」

「全くだな。どこに隠れているのやらだ……この城にも居ないのかもしれんし」


 すると、安東は秘密の情報を伝えてくる。


「先ほど偶然ちらと見たのだが、城に河津という武士が居た。あれは大内家の代官だった者で、本来なら宗像家にとっては敵とも味方とも言えない相手のはず」

「殿はその事をご存知なのですか」

「馬鹿言え。恐ろしくて言えないよ。見間違えの恐れもあるし、ほんの僅かに見えただけだからな」

「……」


 沈思黙考して推理を始める森下備中。不審な顔付きの安東を他所に、脳細胞がめくるめく。そこに閃きがあった。


「この事、殿にご報告してもよろしいでしょうか」

「ええっ、秘密の話なのに?」

「提案したいお考えがあるのです。大丈夫、情報元は隠匿しますので、では!」


 安東があっ、と言う間に走り出した森下備中。後の始末が恐ろしいため、安東も後をついて同じく走り出す。そして二人で鑑連の陣幕へ飛び込んでいった。

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