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大先生、雷撃す。   作者: 蓑火子
弘治年間(〜1558)
35/505

第34衝 哀惜の鑑連

 大友方の攻勢を前に呆気なく陥落した筑前朝倉は古処山城。本丸に、秋月家当主とその嫡男の切腹し果てた姿が残されていた、と備中は聞いた。


 国家大友は、肥後に続き筑前でも圧倒的勝利によって、謀反を鎮圧する事が出来た。今回標的の秋月家は確かにその傘下にあったが、元来大内家中で評判の名家。この勝利は実質他国に対するものであり、大将戸次鑑連の見事な指揮は武士どもに褒めそやされた。世上の声を備中も耳にする。


「壮年の武者の素晴らしい指揮っぷり」

「戸次家は大友家の血を分けた名門だというぞ」

「内乱ばかりだった豊後がついに外へ出てきたか!それも名将に率いられているとなれば、これは容易ならざりし事」


 一連の評価は、当然鑑連の歓喜を惹起する。


「クックックッ!」


 大喜びの鑑連に、その様を仰ぎ見る忠実な幹部連。だが、隊長の一人である小野の唐突かつ悲惨な最期を目前にして、備中の心は暗い。


「殿、此度の勝利お見事でございます」

「クックックッ!」

「兄上!ようございました!」

「クックックッ!」

「殿!」

「クックックッ!」


 心、暗ければ顔つきもまた。戦場だから当然人は死ぬ。が、死者はこうも容易く忘れ去られるものなのか。むなしさよ嗚呼、と哀しみの悦に浸る森下備中。


 笑いが止まらぬ鑑連。暗い備中を睨み、


「備中、存念があれば述べよ」


一切の魔を入れずに容赦ない。


「……はっ」


 返事は出来る。だが、続かない。舌も喉も渇いてしまう。何に?


 哀悼の思いに、だ。だが、無言の備中を眺める鑑連の目元が険しくなってくる。魔め。言葉が出ないものは仕方がないではないか。


 ここに由布が口を挟んだ。常は寡黙な男だが、


「……殿、備中は目前で小野が倒されたことで、少々気を病んでいるようです」


 それを聞いた鑑連、呆れた様に手を払った。だが情け無いとは言わず、むしろ肩を怒らせて、


「備中、戦場には常に死が転がっていることを忘れるな」


 たった、それだけか。主人鑑連への怒りが湧いてきて止まらない。そんな備中に気がついたのか、備中へ向き直った由布は、生来硬いはずの口から言葉を発した。


「……森下備中、死を嫌うな。そうすればきっと、死も恐ろしいものとはならないはずだ。小野の事は残念だったが、戦場に出る者は皆、それを覚悟している。だからしっかりいたせ」


 備中は目に熱いものを感じた。寡黙な由布が自分に配慮を示してくれているからではない。小野を弔う気持ちを持つ者がいてくれて、それだけで嬉しかったのである。素直に平伏した備中。それを見る鑑連は腕を組んで、ウンウンと頷いている様子であった。が、備中そちらへの本心は、えーいクソ、何がウンウンだ。反骨精神が育って来た。



「さて皆の衆」


 もういいだろ、と感動を破るが如く、主人鑑連がやや強めの声を発した。


「この筑前朝倉の陣には、多くの兵が結集している。そしてどの隊も、大きな損害が無い」


 鑑連が何を言っているのか、幹部たちは理解できていない様子である。自身の統率力を自賛しているのか。


「国家大友に謀反する裏切者の情報が、また入ったぞ」


 驚いて顔を見合わせる幹部連だが、すぐに姿勢を正す。思いやりを示してくれた由布もすでに鑑連からの指示を待つ心境のように、備中には見えた。


 ああ、小野殿の死が忘れ去られていく……。

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