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大先生、雷撃す。   作者: 蓑火子
天文年間(〜1555)
20/505

第19衝 遊走の鑑連

「さあ者共、引越しだ!気合い入れろ!」


 焼け野原が広がった府内の町。先代の邸宅とその周辺は完全に灰となった。戸次邸は幸運にも燃えずに済んだが、その周辺は火をかぶってしまったため、これを機に義鎮邸の近くに越す事が決まった。


 こんな時は事務方が強いのだとばかり、森下備中も腕を振るう。だが、内田がちっとも手伝ってくれない。


「内田、なんで私ばかり雑務をやらねばならないんだろう。ねえ」


 これに内田は得意顔で言い放つ。


「備中……私も先の内乱で功績を挙げてから、殿からの御下命多くてな。そんな時、お前ならどうする。ん?備中。多忙の上司を支えるのは部下の義務だろ。ま、頼んだよ」


 軽快に去っていく内田。が、戻りて憎々し気な備中に曰く、


「それから備中。私は近習筆頭に任じられたのだから。口調は改めないとな。ん?」


 心の中で舌を連打しつつ、


「……はい、内田殿」

「いま何か聞こえたぞ」

「えっ?舌打ちが聞こえちゃった?」

「この……やっぱり腹では舌打ちしていやがったか。心を入れ替えろ、ワカったな」

「はいはい、内田殿」

「はいを続けて言うとはなんだ無礼者。全くなっとらんな。これからは私が厳しく指導してやるぞ」


 ああ、もう出奔してしまおうか、と本気で悩む備中に、


「出奔と言ったって、あなたに宛があるのですか?ないでしょ。周防山口も戦火で燃えた今、ここ府内がどこよりもマシですよ。大人しく新居に行くのが一番でしょ、はっはっは!」


 唇を読んだ石宗が庭から偉そうに言ってのける。


「丁度良かった。人手が足らないんだ。あんたも手伝ってくれ」

「何のでございますか?」

「そりゃ引越しの」

「ははっ、備中殿。実はそれがし、義鎮公のお側近くで天命をお伝えする役目を頂きました。故に、そっちの仕事があるため、備中殿のお手伝いはいたしかねるのです」


 愕然とする備中に輝く笑顔を返す石宗。


「ホントの事にございますよ、ははっ」

「ど、どうしてそうなった」

「戸次様と吉岡様の御推挙で」

「……」

「つまりあれですな。それがしは義鎮公の家臣となった訳で。で、あなたは大友家家臣の戸次様のご家来、陪臣というヤツですな……だから以後口の利き方には気をつけろよ、ははっ、はっはっは!」


 ご先代非業の死から嵐のような日々だった。戦に次ぐ戦、内乱の果てにある内乱。それを多少は共にくぐり抜けてきた内田は昇進し、石宗は取り立てられているのに、自分は相変わらずだ。さらに双方とも、口の利き方には気を付けろと言う。


「うーん、義鎮公のお近くに行って、良い事があるだろうか」


 そこに主人の雷が飛ぶ。


「備中!支度は出来たか!」

「はっ、あらかた」

「では皆を集めろ」

「御意」


 ぼにゃーりしながらも、手足は自然と動くから不思議だ。指示通り、広間に全員を集めると、そこで鑑連は引越しに必要な心構えを述べる。


「此度の内乱で、義鎮公のお気持ちは深く傷ついている。当然だ。裏切り者達は、ご先代に重用され、次代を頼むとご遺言されたのに暴挙に出たのだからな」


 遺言の下りが真っ赤な嘘であることを知るのは、この広間には自分しかいない、と考える備中。いっそこのネタで、主人を脅してやろうか。


「ワシは入田、菊池の殿、一万田兄弟、服部と義鎮公の敵を討ち果たした忠臣の鏡、仰ぐべき武者となった。つまりはご信任を深く得ているということだ。者共新居にあってもこの自覚を持って、心身ともに引き締めて、忠節を尽くすように……引越隊は内田が指揮する。今からなら、遅くとも夜には着くはずだ。では道中心してゆけ」


 内田が嬉しそうに寄ってくる。


「引越隊の責任者は私だな!お前も遅れるなよ」

「はーい……チッ」


 しかし、舌打ちの響きも聞こえない程に舞い上がった同僚の姿を見ながらも、この引越しが戸次党に幸運をもたらしてくれるかはワカらない。明確な答えがあるのではないが、なにやら不吉な予感を覚える森下備中。その徴を指差す事はできない。なぜなら、


「殿自身が凶の化身なら……うん、指差したら殺されるかも」


 だんだんと、心荒み始めた備中であった。

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