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大先生、雷撃す。   作者: 蓑火子
永禄年間(〜1570)
195/505

第194衝 騎虎の鑑連

 軍議の後、諸将は持ち場に戻った。霧が立ち込める多々良川の辺り。安芸勢との激突再開し、が一層激しくなる。


「申し上げます!敵の勢い激しく、臼杵隊徐々に押されています!」

「臼杵から救援要請はあるか?」

「ございません!」

「では田原隊を近くまで前進させるだけでよい」



「拙者、志賀隊伝令です!我ら、川を越えました!」

「よくやった!安房守の働き、ワシがしかと見ていると戻って伝えるべし!」

「ありがとうございます!では!」



「伝令!正面の敵の勢い激しく、我が橋爪隊、朽網隊、押されています!」

「隣の吉弘隊はどうした」

「はっ!前進を続けているようです!」

「ならばお前たちは持ち場死守だ!かじりついても死守せよ、と伝えてこい!」

「はい!」

「無様な真似をしたら、そのザマを大友家督へ必ず伝えるともな」

「は、ははっ!」

「備中」

「はっ!」

「このまま行けば吉弘は川を越える」

「おお!」

「その分の負担が橋爪、朽網に向かうだろう」

「ええ!」


 シュッ。


「あいた!」

「貴様は黙って話を聞けばいいんだ。筑後勢に吉弘隊のいた場所を埋めろと伝えてこい」

「そ、それでは吉弘隊の退路が」

「吉弘隊に退路など必要ない」

「……」

「なんだその顔は」

「い、いえ。なんでもありません」

「ぼさっとするな!さっさと行け!」

「はっ、ははっ!」



「戻りました!斎藤様、承知した、とのことで……」

「申し上げます!我が吉弘隊、川を押さえこれを越えました!」

「よくやった……と言いたいが、吉弘長男の尚武、まだ見えん。川の先に大物がいるだろうが。そう伝えてこい」

「ははっ……」

「……」

「なんだ」

「い、いえ」

「あれは叩かれて伸びる男だ。こう言った方がいいんだ」

「な、なるほど」

「殿。由布様より準備完了とのご連絡です」

「そうか。承知したと伝えろ」

「はい」



「田原隊、申し上げます!隣接する臼杵隊、さらに押されている様子です!」

「ほう」

「戸次様には十分なご用心をお願いします!では!」

「備中」

「はっ」

「田原民部ですらワシに伝令を寄越すのにな」

「如法寺様は元々田原常陸様ご配下だったためでしょうか」

「それもあるだろうが、民部が戦場ではワシに協力せよと言い含めているのだろう。それに引き換え臼杵めは!」

「はっ!」

「フン、敵はさぞワシの左から攻撃したかろう。あいつの苦戦は当然だな」

「そ、それに臼杵様、先の立花山でも押され気味でした。敵に狙われやすいのでは」

「ほう、貴様にしてはワカっているな。まあそういうことだ。だからこそ、そろそろ救援要請があるかとも思ったのだが」

「……」

「何意地を張っていやがる」

「ま、まずは田原隊を後詰に差し向けられては」

「不要だ」

「それはつまり、よ、要請が無い以上、余計な行為は臼杵様の足を引っ張ることにもなると……」

「知らん」

「……はっ」



「申し上げます!我が志賀隊、川を越えた先で敵の猛攻を受けています!」

「おい備中、ワシの言った通りだろ」

「はい」

「で、肥後侍どもは持つかね」

「長くは無理とのこと!我が主もすでに前進を止めています!」

「承知した。采配は安心して安房守に任せている、と伝えられよ」

「はっ!」

「と、殿!志賀隊が引けば、敵が流れ込んできます!そ、そうなればこの本陣は左右から敵に攻められることになりはし、しませんか」

「黙れ」

「ぃっく……」



「橋爪隊申し上げます!敵を押し返し、朽網隊ともに体勢を立て直しました!」

「川を越えられるか?」

「川向こうの敵の数多く、困難です!」

「最前線で鬼神の働きの志賀隊がこれより引いてくる。向かって右からの敵も出てくるだろうから持ち場にて油断するなと伝えろ」

「はっ!」



「申し上げます!臼杵隊、後退を始めました!」

「敵が川を越えたか!」

「はい!その数、余りに多く数えることできない位です」

「え、ええ援軍要請は!?」

「ありません!」

「う、臼杵様は一体何を!」

「田原の鉄砲隊を投入だ」

「……と、殿。ついに」

「こんな時のために、田原隊を温存していたのだ。備中、貴様が隊長へ伝えてこい。右手から向かってくる者は躊躇せずに撃て、とな」

「か、かしこまりました」



「如法寺様」

「備中殿、さては遂に我らの出番かね」

「そ、その通りです。主人鑑連は臼杵隊方面への迎撃を命じています」

「承知した!戸次様に我が主人常陸介の教えの何たるかを示してご覧にいれる。備中殿、死ぬなよ」

「あ、あなた様もぜひ」



「も、戻りました」

「おい、鉄砲隊にもっと速く連射しろと伝えてこい」

「れ、連射ですか」

「そうだよ」

「こ、困難では。火薬弾丸は詰めるのに時間がかかりま……」

「マヌケ、頭を使え。一から十までその場でやるから遅いんだろうが。あらかじめ九割は整えておけば、後は引き金を引くだけだろうが」

「しかし、も、もう敵と戦闘状態に入っていますが」

「敵中にいるわけではない」

「……て、提案してきます」

「提案だと?」

「や、やらせます。やらせてみます」



「……ということなんだけれど」

「そんな。あれを見ろよ。もう発砲中だ」

「そう……ですよね」

「ここで今すぐには、いくらなんでも」

「で、ですよね」

「……。ああ、でも。南蛮人が使っている物が少しある」

「えっ、凄い」

「これだ。弾と火薬を詰めてあるから込めが速い」

「こ、これいいじゃないですか!」

「しかし数が少ない。一回か二回か、数十人で断続的に撃つ事ができるくらいだ」

「この場で作ることは……」

「無理だ。正しい作り方がワカらん」

「……」

「まあやってみるから。戸次様への弁解は考えてくれ」

「べ、弁解……」



「も、戻りました」

「上手くいったようだな」

「ダ、ダメです」

「ダメだと?さっきから、鉄砲の音が速く鳴り響いているではないか」

「何度も続けて撃つと銃身が熱くなり、持てなくなります」

「湿った藁でも巻いて、撃たせればいいだろうが。頭を使え!」

「は、ははっ!」

「もう一度行って来い!」

「は、はい!」

「備中、ワシらはこの川を絶対に突破せねばならん!川の向こうに橋頭堡を作らなければ、いずれこの川、敵に突破されるぞ!そうすれば、貴様の首は確実に打たれるのだ!」

「は、はいぃ!」



「はっはっはっ、また何か言われたな?」

「それがその……」

「ふんふん。うーん、戸次様の人使いの荒さは噂以上だな」

「申し訳な……」

「だが橋頭堡を作るということだが、幸か不幸か敵は臼杵隊に集中している。正面は手薄だよ」

「……」

「……」

「すぐに報告してきます!」

「頼んだよ」



「ということです」

「なるほど。で、貴様はワシにどうせよと?」

「……あの、あああの」

「許してやるから言ってみろ」

「ととと、殿おんおん、御みず自ら」

「ほほう、ワシに前線を突破しろと」

「……は、は、はっ」

「備中。この戦、勝つためには長期戦に陥ることは避けねばならん。それを防ぐためにも渡河せねばならん」

「は、はい」

「この場合の困難はなんだ」

「……渡りきるには彼我の差が……」

「ワシの直営部隊が行けば勢いがつく。反面」

「諸将に妬まれます」

「クックックッ!その通りだよ備中!だがワシはここの大将だ。やるぞ。由布へ連絡だ」

「さ、最初からそのおつもりで」

「申し上げます!内田隊、戻りました」

「左衛門」

「ご苦労。海からの敵は迎撃したろうな」

「はっ!敵勢、引き上げて行きました。志摩郡の謀反勢と合流する気配もありません。それと、博多の街は相変わらず堀深くし門を閉じておりますが、安芸勢は不在は確実!この戦いを静観するつもりのようです」

「今はそれでいい。隊の損害は」

「大丈夫です、まだ戦えます!」

「備中貴様は本隊を前線へ動かすと田原隊へ伝えて来い」

「はっ」



 怒涛の刻からやや身を外した備中、同僚に近づいていく。嬉しそうな顔をしているのが自分でもワカる。


「さ、左衛門、任務成功おめでとう」

「おう」

「泥だらけだね」

「湿地の戦いなんてこんなもんだよ。それよりちゃんと伝令してこいよ」

「は、はい」


 友情を糧に心を落ち着かせる備中の目論見は上手くいかなかった。忙しない心を抱えたまま、再び怒涛に身を投じるのであった。

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