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大先生、雷撃す。   作者: 蓑火子
天文年間(〜1555)
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第17衝 二律の鑑連

 通りに展開し始めた兵が火を放ち、瞬く間にるつぼと化した府内の町。この熱源から数限りない疑心、裏切、命乞い、人斬りの愉悦、怨念が生まれ出る。


 備中と内田は主人鑑連と合流し当座の安心を得るため、町を走る。腕はからっきしの備中に対して、内田の剣術はそれなりのものだ。


「戸次隊がき、来ているのなら、ごご合流しよう!」

「備中。動き難いから離れてくれ、刀が当たっても知らないよ……先生も少し、こうちょっと、離れて下さいませんか」

「はっはっは!ほら向こう、屋敷が燃えてますな」


 内田の背に隠れながら目を閉じた備中は耳をすませて、合理的かつ必要な情報収集に集中する。逃げ惑う町人の声が乱舞する。


「謀反討伐だ!」

「誰が謀反を?」

「一万田ご兄弟だと」

「鑑相様と鑑久様がなんで?」

「知るか!戸次の兵が突入している。今の内に逃げよう」


 煙の上がる方角を見上げ、つま先立ちになる備中。


「あのお屋敷の主は一万田様か」

「なら、殿が襲っているのはご老中ではなく、前のご老中のお屋敷か……ふぅ」


 安心した様子の内田。


「どうしたの?」

「なら、殿の謀反ではないからな。義鎮公から密命があって、それで動いているのでは?」

「おそらく、内田殿の仰る通りでしょう」

「おお、先生もそうお考えですか」


 一同、逆徒の側にいないというだけで、安心を深めてホッと一息である。


「勝鬨の音も聞こえます。どうやら一万田邸では速くも全てが終わったようですね」

「全てが終わった?」

「一万田様が首を打たれたか、腹を召されたか……」

「うわっ、これでは内乱ではないか」

「ははっ。これだけでは終わらんでしょう。一万田家は大族です。次は一万田様の分家のご家族か、仲の良い同僚が狙われるはずです」


 石宗の言葉を前に、少し考え込んだ内田。若々しい気を発して二人に言う。


「よし。稼ぐぞ!」

「稼ぐ?」

「勝者の側に参加して、名声を稼ぐのだ!一万田様の分家の家族なら、宗像様が次の標的だろう。戦いに参加して武勲を立てよう!備中!」


 内田は備中を励ますが、同僚の腰は引けている。これでは足手まといになるのは間違いない。


「いいよ。私一人でも行く。じゃあ後でな!」


 刀を振り回しながら走り去って行く内田を見ながら、石宗は言葉を続ける。


「……ですが、吉岡様がこの襲撃に関わっているかまでは不明です……あーあ、天道に触れるには、ここまで話を聞くことが大切でしたが、ははっ」


 皮肉な笑いを浮かべた石宗は備中に向き直り、


「備中殿。見ての通り戸次様は兵を動かしました。あれほど権勢欲の強い戸次様なのですから、義鎮公の指示による事は確実でしょう」


 語気を強める石宗。


「今回、あなた方ご近習には主からの指示が無い状態。つまり、自由に動ける。内田殿は己の武勲を求めて戸次様と合流するようですが、腕も度胸も無いあなたはどうなさるので?」


 随分酷いことを言われているが、確かにその通り、と納得の森下備中。


「今更私が戦場に加わっても重宝はされない……が、行かねば臆病者の謗りを免れない」

「そうです。ならば、別の働きをしてみること、肝要です」

「例えばこの異変の詳細を、いち早くご老中にお伝えする、とか」

「ほう」

「なんのためか……老中でない殿と、老中衆の間に道を作り、関係を良いものとするため?」

「それがしなら加えて、その道で通行税を取って大いに力を付ける事も加えますが、戦場での武勲などよりずっと価値が在るものでしょう」

「……」

「……」

「ワカった。私は吉岡邸に向かう」

「ふふ、天道はあなたを祝福するでしょう、ふふふふ」



 吉岡邸からは戦火も覗ける。面会を許してくれたのはこれまでの面識故だろうか、と感謝する森下備中は、怒気を見せずに怒ってみせる悠揚豊かな長増に、恐縮することしきり。


「鑑連め。やりやがった」

「はっ」

「儂、知らんもんね」

「……」

「備中、お前は仲介の為に動けと言うのだろ?」

「……はっ。義鎮公お望みのご成敗であれば、それが一番かと」

「この闇討ち。家臣どもは不安に思うだろなあ」

「……」

「備中」

「はっ」

「よく知らせてくれた。休んで行くと良い」


 長増はそう言って、備中を客間に放置したままいずこかへ消えた。どこへ行ったか、気付けば石宗もいない。まんじりともせず、そわそわ待ち続ける備中は、煙が昇る方角を見やる。


 灰に還る府内の中心を、備中はぼにゃりと見つめるのみだ。


 備中は戸次家、そしてその主家たる大友家にさして思い入れがあるわけではない。果たしてこれからもこの家は大丈夫かな、周防山口にでも行ってそこで士官しようかな、等と考える始末であった。

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