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大先生、雷撃す。   作者: 蓑火子
天文年間(〜1555)
17/505

第16衝 後背の鑑連

対 好餌

「殿のご機嫌優れて何より、最近!」


と内田が口にすれば、


「はっはっは!備中殿が良い標的になってくれたのでしょう!ははっ」


と返す石宗。そんな二人を珍しく小馬鹿にし、放言してみせる森下備中。


「乱が来るぞ」

「乱?」

「そう。大きな騒動が起こる」

「それは何故?」

「私にはワカらない。だがそんな予感がする」


 本当は予感というよりも、確信に近い。備中を馬鹿にしきっている内田は、軽い調子で挑み乗る。


「それはどんな騒動ですか。また、他国との戦ですか、備中殿」

「ワカらない」

「ワカらないのに戦いの予感がするというのですか……で、何故だ?」

「殿の背中を見ていると、そんな気がしてならなくて」


 軽い笑いを繰り返す内田に深刻な表情を崩さない備中。では咒師たる角隈石宗はどちらを重視するかというと、この場合は備中の予感の側に立っている気がする。内田と備中を見比べており、二人の会話から、天道の徴を感じ取っているのだろうか。


「どこで見た、殿の背中だ?」

「吉岡邸での」

「ほう……吉岡様の。あのお方は事実上の義鎮公の重臣第一位だな」

「そうだね。殿は吉岡様と言うし」

「そうかな、妖怪ジジイとしてる事のが多いぜ」


 爆笑する内田と石宗、備中もくすりとしてしまう。


「様付けで呼ぶ。それは身分に従ってのことだ」

「そうなのか? 他にも偉い方は田北様、臼杵様、小原様、志賀様、雄城様とかいるけど、ウチの殿はこの方々に様などつけないぞ」

「吉岡様は義鎮公の知恵袋だというし、別格なのだろう。年長者でもある」


 悪事にも加担しているからな、などとはとても言えない。


「それより身分や家柄を鼻にかける殿のお振る舞いが気がかりだ。佐伯紀伊守は戸次様と口にしているというのに」

「備中、石宗殿が笑っているぞ。お前は佐伯紀伊守を高く評価するんだね」

「良い方だ。まともだし」

「それだけではないかな」


 大爆笑する内田と石宗に対し、話を曲げられ憮然とする備中。しかもクソ坊主が修正を邪魔する。


「はっはっは!まあ、あれですな」

「そうとも。つまり、義鎮公を除けば吉岡様が一番偉い」

「小原様よりも?」

「そりゃそうだ。吉岡家は高貴なお家柄だ」

「ありふれた名字のようにも聞こえるがね」

「この国ではご老中衆が全てを取り仕切る訳ではない。その筆頭者が取り仕切るのだ」

「そうだったっけ?」

「革命前は入田殿が筆頭者であったではないか。殿が始末したのだから、殿が筆頭者でも良かったのだろうが……お考えがあるのだろう」

「ご老中衆は今はどうなっているのですか」

「私が記しましょう。こう変わったのです……左の列は革命直前、右は革命直後。


 田北鑑生→田北鑑生

×入田親誠→吉岡長増

 臼杵鑑続→臼杵鑑続

×斎藤長実→雄木治景

一万田常泰→志賀親守

 小原鑑元→小原鑑元


殺された人は×印を付けています」

「これは序列順かね」

「無論」

「面子が変わっているのですね。一万田家から、志賀家に」

「義鎮様支持を一早く掲げた功績が、志賀家にはあります。それに、一万田様は凄まじい老人だ。引退の良い頃合いだったのでしょう」

「筆頭の田北様は、内紛には我関せず、ということなのでしょうか」

「そういう訳ではあるまいが、どちらにも関与出来ていたわけではあるまい、老中筆頭であったとしてもな。そこを行くと、真の実力者はやはり吉岡様だな」

「……それはつまり?」

「……さて。備中に聞いた方が早いでしょうな。そうだろ」

「やめろ、私に押し付けるな」

「はっはっはっ!聞かぬが花ですな。しかし、ここに我らが戸次鑑連様の名が無いのは仕方のない事なのでしょうか」

「殿がお働きを示すまで、戸次家は家柄ではともかく、武威張った家風はありませんでしたから」

「なのに戦場で功を立てようと奔走している……それは伝統に反する事なのかもしれない」

「……」

「……」

「お二方、戸次家の名が高まるのはこれからですぞ!はっはっはっ!」

「で、何の話だったかな」


 いまさら振られ、横を向いて答えない備中。


 そこに家人が飛び込んできた。


「大変です!殿の兵がご老中のお屋敷を急に攻め始めました」


 呆然とする三人。もう一度言え、と問い直す内田。


「御一門や由布殿がご老中のお屋敷を攻め、足軽衆が火など放っています!」


 顔を見合わせる三人。一斉に喚き出す備中と内田。


「謀反か!」

「誰がだ!」

「我らが殿がか!」

「戸次家実働隊が謀反したとなれば、我らも討伐されるかもしれん!」

「ほらみろ、私の予感の通りだ!うは、うはははは!」

「笑っている場合か!」


 片や狼狽あるいは笑呆という見苦しい振る舞いに及ぶ戸次の近習を見つめながら、石宗はじっくりとっくりと思考をしている。それは考えの幅を広げ、大いなる天道の徴を確かに感じ取ろうと、己の意思と運命に挑んでいるかのようであった。

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