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大先生、雷撃す。   作者: 蓑火子
天文年間(〜1555)
12/505

第11衝 誓約の鑑連

 主人鑑連の鬼そのものの表情をみて、思わず腰を抜かす備中。


「と! と、と、殿……いかがなさいましたか」


 もはや鬼の形相を直そうとも隠そうともしない戸次鑑連は怒り狂った顔のまま。しかし優しげに、備中へ語りかける。


「おう、備中。小原遠江殿が義鎮公の書状を先程公表したぞ」


 顔と口調が一致していない。変わらずの鬼瓦を見て、ああ、外したか、と痛恨の思いで額を叩きたくなる備中。が、踏み込んだ以上、聞かざるを得ない。


「そ、それで殿。府内からの書状にはなんと……」

「大将の交代を命じるものだ」

「な、なんと。佐伯紀伊守様が……」

「佐伯紀伊守に代えて……」

「……ゴクリ」


 緊張が走る。


「小原遠江殿が次なる大将だ」

「……」

「……」

「……え? あー、それはなんだか」

「なんだか、なんだ?」


 ドスの利いた声だ。心臓が早鐘のようになる。言葉を誤ることはできない。


「……い、いまひとつの人事で」

「貴様!若殿もとい義鎮公の人事に異論を挟むか!生意気な!」

「ひっ! ひっ! いいえ、私はてっきり殿が次なる大将になると思っていたので!」

「……なんだと?」

「あ、あの、入田丹後守様の首を府内へ送ったのも殿ではありませんか。府内で起こった混乱を鎮めたのも、と、殿です。ま、まあ、佐伯紀伊守様もですが。功績の順番から行くと、どう考えても殿の番です」

「……」

「そ、それに戸次家は家柄も良いのに。義鎮公も御無体な……」


 鬼面相を続けながら、鑑連は近寄ってくる。恐ろしい事だ。


「……そこかもしれぬ」

「えっ?」

「ワシが滅ぼした入田も家柄は良かった。佐伯、小原等とは比較にならん。そこで家柄実績双方兼ね揃えたワシが台頭してみろ。義鎮公にとっては愉快ではなく、脅威に映るのかもしれん」

「な、なるほど……」

「……」


 鬼瓦の表情にひびが入ったかのような歪みが起きた。怒っているのか、笑っているのか、それすらワカらない歪みっぷり。


「と、殿」

「おのれ……おのれ……おのれ!! 若造が、恩を仇で返す気か!」

「殿、お鎮まりください!」

「ははっ」


 突如、同席していた石宗の笑いが響く。こんな有事の大笑い、馬鹿じゃないのか。


「はっはっは! 戸次様、どうやら条件が揃ったようですな」

「何を言っている。殿にお鎮め頂くよう、お願いするのだ」

「おのれおのれ!わしを何だと思っているのか!くそーっ!」


「戸次様……小原遠江殿が憎いですか」

「おのれ!小原め……邪魔なやつだ」

「戸次様……佐伯紀伊守が目障りではありませんか」

「家柄も低い他紋の奴らめ……」

「そうです!戸次様に比べて佐伯も小原も家柄が低い。つまりは天の恵みを得ていないのです」

「……」

「大友家は源頼朝公からの流れを汲む名門。この血筋に連なると言うことは、神仏天道のご加護があるということと同意です。後は意欲だけ……」

「ふぅふぅ……意欲とな」

「左様!それは山頂から流れ出た雪解け水が艱難辛苦の末に大海へ辿り着くということ。今回佐伯は大海に辿り着く前に湖沼と成り果てました。小原も同様です。なぜなら彼らは貴種ではない!」

「……」

「戸次家は伯耆守鑑連様に至って遂に天の恵みを得るに至った、と私は考えます。その証拠は、今の義鎮公を擁立した張本人が戸次様であるということ。いずれ、義鎮公もあらゆる事象を戸次様へ相談せねばいられなくなります。その時が至るまで、ぜひ力を蓄えなさい」

「なるほど……」

「……」

「かつて大友親治公もこの肥後で力を蓄え、大海に辿り着いたと言えるだろう。ワカった。ワシも大海へたどり着いてみせるぞ」

「ご英断、お見事です」


 主人と石宗の会話、というより説諭を横で聞いていた備中、このペテン師は結構ヤバイな、と危ういものを感じざるをえない。


 だが、鑑連はやる気だ。今、森下備中は自分の無力を痛感したりはしない。ただ面倒なことにならなければよいのにと、願い続けるだけである。

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