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過去を知る その2

 「セラフィーナ、お前の事は嫌いじゃないが、もっと好きな人が出来たんだ。お前との婚約は解消する。いいな」

「な、何を言っているのですか? 婚礼の儀は一ヶ月後に迫っているのですよ? それを今、無かった事にしろと? 今のこの状況で、あなたは私に、本気で?」


 初めて愛し合ったベッドの上で、婚約者のルークはとんでもない事を言い出した。結婚するのだから良いだろうと、連日迫られ根負けして受け入れたのが昨夜のことだ。そして朝まで何度も愛し合い、小鳥のさえずりが聞こえ始めた今、もう気が済んだとばかりに婚約解消を言い出した。


「ルーク様、私達は政略結婚ですが、私はあなたの事をお慕いしています。ルーク様だって、私を愛していると……」

「ふん、お前の体がどんな感じか、試したかっただけだ。シャルロッテは俺を楽しませてくれた。お前はただ横になって俺を受け入れるだけではないか。もっと俺を気持ち良くしようとは思わないのか? こんなつまらん女、一晩で十分だ。同じ家から嫁がせるのだ、問題無いだろう」

「まさか、シャルロッテが相手ですか? 私の双子の姉ですよ? 私達の婚礼の為にこの城に滞在していますが、この短期間に二人は関係を持ったというのですか? 何故その様な事に……」

「お前、こんなに喋る女だったか? シャルロッテは前から俺を好きだったと言って、城に来てから俺の寝室に毎日やってきた。彼女は俺を喜ばせるために何でもしてくれたぞ」


 信じられない言葉の連続で、セラフィーナは気を失った。実の姉の裏切りと、愛した人からの非道な行為に、心が耐えられなかった。

 ルークは舌打ちしてベッドを降り、生々しい行為の跡をそのままに、シーツを掛けてやりもせず部屋を出て行った。待機していた侍女と数名のメイドは王子の退室を確認すると、主の世話をするために寝室へ入った。

 全員、あまりの光景に絶句する。連日口説かれて、侍女やメイド達にどうするべきか、恥ずかしがりながらも相談していたのだ。昨夜とうとう受け入れる事にしたと、それは幸せそうに報告してくれた主の姿を思い出す。しかし今目の前に横たわる彼女はまるで強姦された後のようだった。


「お嬢様を綺麗にして差し上げなさい。目を覚まされてからが大変ですよ。私達がしっかり支えて差し上げなければなりません」





 ベルカストロ王国、二代目国王の長子ルークは、この国で魔女と呼ばれるほどに魔力の強いセラフィーナ・ナヴァロ侯爵令嬢と婚約した。それはまだルークが12歳、セラフィーナが8歳の時だった。

 周辺の国は資源豊富なこの国を欲しがり、攻め込む姿勢を見せ初めていた頃で、魔女の力は他国にとっても脅威であり、彼女との婚約を発表することは戦争回避に役立っていた。

 婚礼の時期はセラフィーナが16歳になるのを待って、結婚後はルークに王位を譲ると決められていた。

 年に数回、セラフィーナは父に連れられルークに会いに来ていた。大人しいセラフィーナと活発なルークは、意外にも気が合い二人の関係は順調だと誰もが思った。


 そして16歳の誕生日を迎えたその日、初めて結ばれた二人はルークの一方的な婚約解消で終わりを告げた。翌日セラフィーナは兄に連れられ侯爵家に戻り、双子の姉シャルロッテは一ヵ月後の婚礼の儀にセラフィーナのために用意されたドレスや宝石を身に着けて、勝ち誇った顔で王子の隣に立っていたが、ナヴァロ家の者は父の他は誰も参加しなかった。


 ルークとシャルロッテの婚礼の話は周辺国家にまで知れ渡り、脅威となっていた魔女の庇護を無くしたベルカストロは他国に攻め込む隙を与えてしまった。ルークの戴冠式が済んだ半年後、とうとう戦争が勃発し、それから4年もの間戦争は続いた。国庫は戦争とシャルロッテの贅沢三昧の生活で底を突きかけ、戦争資金の無いこの国は敗戦の色を濃くしていた。

 その間、セラフィーナが何をしていたかと言えば、あの晩授かった子供を兄夫婦の子として届出て、乳母として子育てをしていた。そんなある日、ルーク王自らが出向き、セラフィーナの魔力で敵国を蹴散らして欲しいと言って来た。この国の存続のために頼むと頭を下げ、希望を一つ叶えてやると約束した。


「セラフィーナ、誰かと結婚したいなら俺が口添えしてやる。何でも聞いてやるから、希望を言え」


 どこまでも上から目線で自分の立場をわかっていないこの元婚約者を困らせてやろうと、思いついた言葉を口に出す。


「では、私を正妃として迎え入れて下さい。それが手を貸す条件です。出来ますか?」


 ルーク王は苦い顔をしたが、頷いた。


「わかった。戦争が終わればお前を正妃として迎える。それで良いのだな?」

「シャルロッテはどうなさる御つもりですか? 子も生さず贅沢三昧だとか。離縁するのですか?」

「ああ、お前がそれを望むなら、そうしよう。だから頼む。この国を救ってくれ」

「書面に残して下さい」

「何だと?」

「あなたを信じたいけれど、もう無理なのです。確かな物を残して下さい」


 用意した紙に契約の内容を書き込み、ルークにサインを入れてもらった。


「では、一週間待って下さい。それまでに終わらせます」


 宣言通り、セラフィーナは一周間以内に敵国を蹴散らした。戦の最前線に降り立ち、無数の石つぶてを高速で飛ばして相手国の兵を一瞬のうちに蜂の巣にして、戦闘不能の壊滅状態にしたのだ。冷酷な魔女の噂は各国を飛び回り、どの国もベルカストロに手出しするのを諦めた。


 終戦宣言をしたその日、セラフィーナは玉座の間に呼び出された。

「ルーク様、約束通り私を正妃に……」

「ご苦労だったな、ゆっくり休め。お前のための特別な場所を用意した」

「お気遣いありがとうございます。しかし、約束をきちんと守って頂かなくては。この先大変な事になりますよ」

「連れて行け」


 セラフィーナは湖の畔の塔に幽閉された。戦争で無理をして魔力が枯渇しかけた彼女は体力も落ち、抵抗することが出来なかった。ルーク王と顔を合わせたのはそれが最後となり、二度と互いの顔を見ることは無かった。

 それから一年の間に何度もナヴァロ家からセラフィーナへの面会申請が来たが、すべて跳ね除け会わせなかった。塔に閉じ込めていると知れればナヴァロ家からの資金援助は切られてしまうだろう。


 一方、シャルロッテは結婚後、一度も懐妊しないことに苛立っていた。セラフィーナからルークを奪ったばちが当たったとか、魔女の呪いだとか陰口を言われ、妹が生きてるのが悪いんだという考えにとらわれてしまった。


「陛下、セラフィーナを消してください。あの子が私に呪いをかけているせいで子供が出来ないのです。それに、戦争が終わってしまえば妹の魔力はこの国にも脅威となりますよ。魔力が戻ってしまったら私達を怨んで今度はこの国を滅ぼしかねないわ。だからお願い、早くあの子を殺して下さい」


 后の訴えを聞き、セラフィーナの兄の名前で毒入りの菓子を差し入れる。セラフィーナは疑う事無くそれを口にして、数日苦しんだ後、塔で亡くなった。

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